CSエクスパンションイネーブルメント - 営業未経験CSMでも成果を出せる。環境整備とスキル開発の全体設計
カスタマーサクセスがレベニューセンターへと進化していく流れの中で、多くの企業がCSチームにエクスパンションの役割を期待し始めています。ただ「CSメンバーにエクスパンションもお願いしたいんだけど、どうすればいいんだ?」という方も多いのではないでしょうか?
特に「セールス経験のないサポート出身のCSM」や「ジュニアレベルのメンバー」が中心のチームでは、「そもそも何から始めればいいのか」「どんなスキルが必要なのか」が明確になっていないまま、現場に丸投げしてしまっている状態になっていませんか?
今回は、セールス経験のないCSメンバーばかりのCSチームでも、エクスパンションで成果を出すために必要な環境整備とスキル開発の全体像を、実践的な観点でお話いたします。
長文になってしまいましたが、きっと皆様のエクスパンションができる組織構築のお役に立てると思うので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
そもそもイネーブルメントとは?
まず最初に「イネーブルメント= “研修”ではない」ということは前提としてお話しておきたいです。ここではイネーブルメントとは「エクスパンションを組織的・継続的に達成できるようにするための、環境整備と人材のトレーニング」と定義します。
スキル研修を行うだけではエクスパンションできるようになるわけではないですし、いくら優秀なCSMを育てても、戦略が不明確で、データが整備されておらず、運営の仕組みがなければ、継続的に成果は出せません。

また今回は「セールス活動経験がないメンバー(サポート出身でCSMになった層など)」 を想定して議論しました。もちろん、営業経験のあるシニアCSMであれば、より高度なエクスパンション活動が可能ですが、現在の日本のCS市場では営業未経験のメンバーが多い企業が多数派だと思いますので、こちらを前提に最低限準備したいことを考えました。
エクスパンションのための環境整備
トレーニングを始める前に、経営者・CSリーダーが整えるべき環境について解説します。ここが整っていないと、個人の努力に依存した「焼畑農業」的な活動になってしまいます。
環境整備は主に「戦略」「インフラ・データ」「マネジメント・運用」「ナレッジ・コンテンツ」の4つがあります。

環境整備(1) :「戦略」
1. 顧客ステータスの確認
まず対象のお客様がそもそもエクスパンションできる状態なのかを確認しましょう。営業戦略的な考え方で言えば、チェックポイントがたくさんありますが、まずはCSMとして以下2つは押さえておきましょう。
顧客がそもそも導入している現プランである程度成果を出していること
顧客との信頼関係が築けていること
そもそも現契約で成果(アウトカム)が出ていない場合は、まずはそちらにフォーカスしてください。既存契約でアウトカムが出ていない状態は、「自社サービスを利用している意味がない」ということとほぼ同じです。エクスパンションは大切だが、自社プロダクトで成果を出してもらい長く利用していただく土台を作ることは事業成長にとってもっと大切です。
アウトカムの達成はエクスパンションの必須条件ではありませんが、これがないと難易度は大幅に上がりますし、場合によってはただの押し売りになります。カスタマーサクセスとして、顧客にアウトカムを感じてもらうことはエクスパンションよりも重要なことです。
また顧客との信頼関係が築けていない段階で提案すると、これもまた押し売りになります。CSMとして、まずは顧客のパートナーとしての立ち位置を確立することが先決です。自分たちの都合の良いタイミングだけ、顧客の時間を奪って都合のいい提案だけしないように、常日頃からお客様との関係性を築いておきましょう。
2. ターゲット
エクスパンションをするサービスは、どんなインパクトでどんなアウトカムを提供できるのか?そしてそれはどんな顧客が欲しているのかをチーム全体で認識できるようにしておきましょう。
例えば、新規プロダクトであれば、ほとんど場合「どんな困りごとを解決するために作ったのか?」が明確になっているはずです。経営層やプロダクトチームからの案内の際に確認しておくようにしましょう。
もしそういった情報がなく取得が難しい場合は、CSチーム内で議論し、まとめた回答を組織内で共有するようにしておきましょう。
3. エクスパンションプロセス
エクスパンションをする上での大まかなプロセスを定義しておきます。基本的なことですが、営業経験がない方は契約完了までのプロセスが見えていないものです。ざっくりとでもいいので、必ず見える化しておきましょう。
ここでは汎用的に以下のように整理します。
提案機会の創出
本提案
トライアル支援
交渉・契約
また、営業(アカウントマネージャーやカスタマーセールス)とCSMとで、エクスパンションに対するオーナーシップの割り振りも考える必要があります。この点については、このイネーブルメントの議論の前談としてかじさん(@kajisan_cs)が別noteにまとめてくれています。
基本的にはアウトカム創出を追求するCSMが必ずしも、エクスパンションの全てのプロセスを担う必要はなく、アカウントマネージャーやカスタマーセールスなど既存顧客担当の営業と連携し、CSMは自分たちの強みを活かせる領域を担う方が効率的ではないか、そのパターンをざっくりと分けている記事となります。
※ CSQLの考え方
営業とCSでの役割が分かれる場合は、CSQL(Customer Success Qualified Lead)を通じて営業チームにパスすることになると思います。
CSQLを出すタイミングも出すタイミングは、組織体制やリソース状況によって異なります。
SMB顧客の場合: 少しでも興味を持ったり、デモ依頼があったタイミングで作成することが多いです。また役割CSが自分たちで活動を行うにしても、後々のCS活動の分析のためにCSQL管理はしておきましょう。
エンプラ顧客の場合: 興味がありそうな部署の噂やその部署のキーパーソンの当たりがついたタイミングがいいでしょう。エンプラのエクスパンションは、お財布(予算)が異なる別部署への展開などが多く、進めるのに時間がかかります。チャンピオンの特定や、社内稟議のためのプロジェクト素案作りまでCSMが一人でやるのは、リソース的にもスキルの専門性的にもハードルが高く、限られた人しか実現できないと思います。比較的早めにCSQLを作り、そこに注力できるアカウントマネージャーなどに任せるのが一般的だと思います。
CSQLを早く作る or 遅く作るメリットについては、こちらのnoteで別途お話していますので、よろしければ合わせてお読みいただけると嬉しいです。
4. 目標設計
CSチームにエクスパンションを任せる場合は、必ずエクスパンションに関する目標を設定してください。努力目標は絶対にやめましょう。創業期は仕方がない部分はありますが、基本的にはチームメンバーからのボランティアになります。「いい人の搾取」にならないように、ちゃんと定量的に評価するために目標として設定しましょう。
目標指標は、CSリーダーのとしては「NRR(Net Revenue Retention)」を大きな目標とすることが多いですが、メンバーへの指標としては「月次 or 四半期ごとのエクスパンションMRR」のように絞った指標を出してあげる方が組織としてのメッセージが明確かと思います。
CS組織規模が大きかったり成熟している場合は、さらに細かくMRRを分解してもいいですが、まだ勝ちパターンやボトルネックなどが見えていない場合は、一旦エクスパンションMRRだけで進めても問題ないと思います。
環境整備(2) :「インフラ・データ」
1. CRM/CSP
エクスパンションを進める上で、基礎情報がきちんとまとめられていることが大前提です。エクスパンションに限らず、顧客情報をスプレッドシートでマニュアル管理している組織に、事業のスケールは不可能です。
「顧客セグメント」「契約プラン・金額」「関係者・キーマンの情報」「過去のコミュニケーションログ」などが、一元管理されすぐに確認できる状態になっているでしょうか?もし5分以上かかるのであれば、それはうまくまとまっていないと言えるでしょう。
経験上、顧客単位でこういった情報がきちんと紐付けされ検索可能な状態を構築できている企業は少数派です。データの紐付けは今後のAI活用でも必須の条件となります。データの整理ができていない場合は緊急課題として取り組むべきです。
※ アウトカムマネジメント
近年、アウトカムを基準としたカスタマーサクセスが進んできていますが、顧客毎のアウトカムマネジメントについては、実はグローバルでもまだ確立されていません。今後数年でノウハウが出てくると思いますが、今はどこも試行錯誤でやるしかありません。まずはアウトカムを定義し、それに対する定量的要素を抽出する必要があります。ヘルススコアでも、アウトカム部分も丁寧に練り込まれたものを作れている企業はかなり稀です。
ここはカスタマーサクセスに造詣の深い専門家を巻き込んで作っていく方が良いかと思います。
2. エクスパンションパイプライン
エクスパンション用にパイプライン管理は必ずするようにしましょう。基本的には新規獲得のパイプラインに近いレベルで管理する必要があります。
更新案件のパイプラインや、営業が管理しているパイプライン上で管理するかは組織の構造によって変わります。エクスパンションの取引案件が「いつ」「何を」「どれくらいの金額で」クローズするのかをすぐに抽出できるような管理方法にしましょう。
CRMとCSPの区分けや、パイプライン管理方法についてはここでは割愛しますが、ご興味がある方はお気軽にDMなどからお問い合わせください。
4. 自動化・AI活用
戦略で決めた条件(顧客ステータス、ターゲットなど)とプロダクト利用やアウトカムの状況を掛け合わせて、適切なタイミングで適切なアクションを自動的に行えるようにします。
ただし実情は、前述したようにそもそものCRM上でのデータ整理ができていない企業が多く、この領域までたどり着けている企業は稀です。その場合は、CSMの肌感に頼らざるを得なくなります。
「生成AIがあるからデータなんて整理しなくてもいいんじゃないか?」
たまにこのようなご意見をいただくことがあります。残念ながら、答えは「NO」です。きちんとデータを整理する必要はどちらにせよ発生します。AIの進化によりデータ整理作業は大幅に短縮されるようになりますが、それがゴミデータなのか、必要なデータなのかは人間が判断するか、あらかじめ定義してあげないとAIは整理できません。
面倒ですが、データ入力をする前にきちんと定義し可能な限り綺麗にしてからデータ入力することが、結果的に最も小さな労力で、最も素早くスケールできる土台を作ることができます。
環境整備(3) :「マネジメント・オペレーション」
データがある程度管理できるようになったら、次はエクスパンション自体の管理です。
1. ダッシュボード/パイプライン管理
CSQL数
どのタイミングでCSQLにするなどの定義の調整は必要ですが、どちらにせよどれだけチャンスを作ったかのトラックは、エクスパンション管理で必須の項目です。
CSQLのクローズ率
CSQLの作成定義のチューニングのためにもクローズ率はとっておきましょう。クローズ率に正解はないですが、SMB顧客であれば80%を超えるようなCSQLの作成定義だと丁寧に作りすぎだと思います。もう少し早い段階で、営業チームにパスするようにし、全体の数を増やすようにしましょう。
前述のエクスパンション活動に関するnoteも参考に調整してみてください。
受注金額
エクスパンション金額はもちろん管理しておきましょう。担当別、アップセル・クロスセル、プロダクト/サービス、時期などCRMなどで色々な角度から分析できるようにしておきましょう。また月次・年次など時系列に比較できるようにもしておくと長期的な戦略が立てやすくなります。
クローズ期間
プロダクトや顧客タイプによって大きく変わるので正解はないですが、定期的にトラックしておくことをお勧めします。多くの場合、担当別で明確に違いが現れますので、チーム内で情報交換しながらより良いアプローチの仕方を模索し続けるようにしましょう。
また年単位で比較していくと、クローズ期間が伸縮することがあります。顧客や市場の状況が変わったり、マルチプロダクトで複雑性が増しメンバーがついていけていないなど、マクロな問題点も見えてきますのでウォッチしておくのが良いかと思います。
活動量
顧客とのMTG数などもよくトラックされる項目です。営業活動としては、事実として、MTG数と営業成績は相関関係にあり、多いほど高パフォーマンスであります。
ただしカスタマーサクセスの場合は、それよりも既存契約でアウトカムを出しているかの方が重要になるため、はじめからトラックする必要はないと個人的には思っています。
2. チーム内・他部門との連携
勝ちパターンの共有
エクスパンションの数がある程度たまってくるとぼんやりと勝ちパターンが見えてきます。プロダクトAを導入している企業はプロダクトBを購入しやすいなど。
CSマネージャーはこのパターンをできるだけ見つけ出し、チーム内で共有し誰もがエクスパンションしやすいレールを少しずつ構築していきましょう。
またマーケティングや営業チームにも必ず共有すること。GTMチーム全体が、どういったパターンが最もエクスパンションしLTVの成長を助けているのかを知ることは事業成長にとって非常に重要なことです。
顧客事例の共有
パターンだけでなく個々の顧客事例も共有しましょう。顧客がどんなことに悩んでいて、どんなことを期待し契約したのか、可能であればどんな成果をあげたのかを明確にし、事例リストに入れておくとチームでのエクスパンション効率が上がります。
また、マーケティングや営業チームにも共有することで組織全体にもポジティブな影響がでます。新規・既存に関係なく、今でも顧客事例は最強コンテンツの一つです。チーム全体で、業界別、規模別などでどんな事例があるか話せるような環境を作りましょう。
環境整備(4) :「ナレッジ・コンテンツ」
ナレッジのコンテンツ化は、最も億劫になる項目かもしれません。「やった方がいいな」と思いつつできていない企業が多いのではないかと思いますが、やればやるほど活動がラクになる「資産」となりますので、以下のコンテンツ化はぜひ取り組んでいただきたいです。
1. 顧客事例
前述のように、顧客事例は最強のコンテンツの一つです。きちんとまとめられたものがたまるほど、CSだけでなく組織全体に対してレバレッジが大きくなります。コンテンツ作成のリソースが少ない組織も多いかと思いますが、その場合でもこれだけは必ず取り組むようにしてください。
顧客事例は業界別、課題別に整理して、いつでも引き出せるようにしておきましょう。綺麗なPDF資料でなくても構いません。社内Wikiに「課題」「解決策」「得られたアウトカム」が箇条書きでまとまっているだけでも十分です。CSMが提案の場で「御社と同じ業界の○○社では、こういった課題をこう解決しました」とすぐに話せる状態を作ることが重要です。
2. プレイブック(チェックリスト、トークスクリプト)
ある程度エクスパンションの数が増え、「勝ちパターン」が見えてきたら、それを属人化させずに標準化しましょう。
アクションリスト化: 「ヒアリングすべき項目」と「必ず伝えておくべき内容」をリスト化します。 特に重要なのが、過去の失敗(失注やトラブル)から学ぶことです。営業チームでは当たり前にある「契約前に握るべき条件」や「リスク説明」が、CSチームでは個人の裁量に任されていることが多くあります。これらをチェックリストに落とし込み、事故を防ぎましょう。
生成AIでスクリプト作成: 「トークスクリプトを作る時間がない」という言い訳は、もう通用しません。上手くいった商談のミーティングログや録画データの文字起こしを生成AIに読み込ませれば、ジュニアメンバーでも使えるトークスクリプトやメールテンプレートはものの数秒で作成できます。これを社内Wikiに貼っておくだけで、新人の立ち上がりスピードは段違いになります。
3. プロダクト・新機能紹介コンテンツ
「新機能が出たので提案したいが、資料がない」という悩みもよく聞きます。
スライド資料: 綺麗なスライドやホワイトペーパーは、マーケティングや営業チームが予算をかけて作っていることが多いです。CSはそれをベースに使わせてもらいましょう。ゼロから作る必要はありません。
クイックデモ動画: 逆に実際に触ってみたりするのはCSチームの方が多いはずです。正式なものはマーケティングで予算をかけて作る必要がありますが、どう動くか理解してもらうための簡単な動画であればCSMの方ですぐ作れると思います。私がHubSpotにいた時は、Loomというサービスを使って実際の機能を使っている様子や簡単な説明を行った動画を作っていました。Chromeの拡張機能からブラウザの撮影だけですぐできるコンテンツですのでオススメです。慣れれば簡単なデモであれば5分もかからないです。
エクスパンションのための人材トレーニング
ここからが「人」の話です。ここではエクスパンションに必要な「マインドセット」と「スキル」についてお話します。
「顧客の課題に対して提案ができる」「ディスカウントポリシーを理解しながら交渉ができる」などの一般的な営業スキルに関しては、世の中にたくさんノウハウがあるのでそちらに譲ることにします。

人材トレーニング(1) :「 マインドセット」
実際にトレーニングを始める前に、まずはテクニックではなく役割を理解してもらいましょう。「営業がやったらいいじゃん」と思いながら活動しても成果は期待できません。特にサポート出身のCSMにとって、スキルよりも「マインド」の方が大きな壁になるケースがあります。「CS=顧客に奉仕する人」という意識が強く、なんとなく「売ること=顧客からお金を奪うこと」と感じてしまいがちです。
このメンタルブロックを外すために、CSリーダーは必ずエクスパンションを責任範囲に加える際に、「なぜCSMが売る必要があるのか?」を説明するようにしましょう。
顧客との向き合い方
CSMは、顧客の事業成長について相談できるパートナー(相棒的)立ち位置にあります。自社サービスを利用してもらうことで、顧客のビジネス成長に貢献する──これがCSMの一番の役割です。
ここで貢献するとは、直接的・間接的に顧客の売上(収益)アップもしくはコストダウンに寄与することです。エクスパンションとは、顧客に対してこの貢献できる領域自体を拡大する行いとなります。
また根本的な考え方として、事業会社として自社ビジネスを成長させる(売上を伸ばす)ことは、よりたくさんの顧客もしくはより深く顧客に貢献できるような体制を整えることと理解してもらう必要があるでしょう。
経験上、「売ること=良くないこと」と捉える人は、この認識ができていないことが多いです。
CSMがエクスパンションをやる理由
CSMは社内で「最も顧客に近いポジション」で、彼らが何を成しえようとしているのか、日々どんなことを考えているのか、何に悩んでいるのかを理解している数少ない存在です。また日々どのようにプロダクトを利用していただくかを考えているCSMは、プロダクト利用についても精通しています。
「顧客の理解」と「プロダクト活用の理解」を結びつけられるのが、CSMの一番の強みです。
またフレデリック・F・ライクヘルド氏が提唱した「1:5の法則」にあるように、一般的には「新規顧客に販売するコストは、既存顧客へ販売するコストの5倍かかる」とされています。
そのため、最も顧客を知るCSMが、その顧客に適したプロダクトの使い方を提案し売上を上げるということが、事業の成長を考えると最も合理的な選択だと言えます。
「スタンスをとる」大切さ
個人的には、この点が日本の多くのCSMに不足しています。「顧客はどうしたいか」を聞くヒアリング能力は高いのですが、「担当者として、あなたはどうしたいのか?」「この件をどこに着地させたいのか?」という意思(スタンス)が希薄なケースが目立ちます。 「どう思いますか?」「どうしたいですか?」と聞くのではなく、「御社の課題解決のためには、私はこうすべきだと考えます」と言い切る。このスタンスがないと、ただの御用聞きで終わります。
これは社内でも同じで、マネージャーに対して「どうしたらいいですか?」ではなく「こうしたいので、この部分を助けてほしい」と逆に上司を使うような動きができるといいでしょう。
人材トレーニング(2) :「 スキル」
最後に具体的なスキルセットです。前述のエクスパンションのプロセス毎に必要であろうスキルセットのお話をします。
汎用スキル
目標からの逆算
営業担当が当たり前のように持っているけど、CSMが持っていないスキルとして、自分の目標から逆算し「達成するためには何をどれくらいアクションすべきか?」を理解するスキルです。いわゆるパイプライン管理スキルです。
手元にどれだけのパイプラインがあり、どれくらいの確度なのか?
それぞれ確度を上げるためにどんなアクションが必要なのか?
目標を達成するためにどれくらいをクローズさせなければいけないか?
顧客がSMBかエンプラ企業かによってアプローチは異なりますが、上記のような目標達成をベースにアクションを決めていく作業は、営業未経験のCSMとしては意識して取得していかないといけないスキルとなります。
一般的な営業スキルですが、考え方として欠落しているケースが多いので、こちらでも取り上げさせていただきます。
他顧客ユースケースの話ができる
現状、日本では顧客事例は最強コンテンツの一つです。CSMとして様々な顧客の悩みとその解決法は常にアップデートし、すぐに話せるようにしておきましょう。
SMB顧客などは、これを極めるだけでもかなりエクスパンションがラクになります。
プロセス毎の代表的なスキル
1.提案機会の創出
(1) アウトカム、プロダクト提供価値の限界を理解している
契約プランだけではなく、自社サービス全体のアウトカムを理解し、自分の顧客に対してどんな価値を提供できるか常に話せるようにしておく必要があります。今のアウトカムだけでなく、その顧客が得るべき将来のアウトカムの話ができるようにしておかないと、顧客との会話の中で瞬時に提案ができません。
また逆に、自社プロダクトができる限界値を理解しておくことで、顧客から「これって御社でなんとかできないか?」という質問に対しても、むやみに「確認します」や「(当てずっぽうで)できます!」と言わなくて済むようになります。
(2) 「将来」と「現在」のギャップを可視化
「今のプランで困っていませんか?」と聞いても「大丈夫です」と言われるだけです。 そうではなく、「御社が将来成し遂げたいこと(理想)」と「現在のプロダクト活用状況(現実)」を並べ、そのギャップを指摘することからエクスパンションの提案は始まります。
(3) 適切なアプローチタイミングと対象者を理解する
提案をする事前情報を集めるために、「誰」がどんな権限を持ち、その人に「どこ」で「どのように」繋がれるのかをまず知る必要が出てきます。この点がエンプラ顧客かSMB顧客によって一番難易度が変わる部分です。
特に顧客規模が大きく、予算(お財布)が違うチームや部署に提案する場合は、対象者を探しどんなことに悩まれているのかを探し回る必要があります。CSMがアウトカムの実現を支援しながら、これを行うのは至難の業のため、エンプラ顧客のビジネスではアカウントマネージャーやカスタマーセールスと呼ばれるようなポジションを作ることが多いです。
こういった場合は、CSMとしては他部署でも興味を持っている噂を聞いたり、チャンピオンらしき人に繋いでもらうチャンスがある時点で早めに繋いでもらう方がいいです。
SMB顧客は規模が小さいため、比較的すぐに知ることができますが、逆に扱うエクスパンション案件数が多いので、アプローチのしやすさや顧客側の緊急度による優先度付けが必要になります。
またどの規模であっても、目の前の担当を「チャンピオンに育てる」という行為もシニアレベルになればチャレンジしてほしいところです。顧客社内で成果をきちんと報告したり、担当顧客を中心に先方社内で勉強会を開いたりすることが一般的なアプローチとなります。
2.本提案
(1)「エビデンスとストーリー」の提案
機能説明をして終わりという提案はやめましょう。前述の顧客の現状と理想を理解し、データを使いなら現状と理想をつなぐスfトーリーを作りましょう。
例えば、利用データや顧客MTGからの情報で、「過去の取り組み」→「出た成果」→「残された課題」→「解決策としての提案」という流れでまとめるだけでもエビデンスを使ったストーリーになります。成果が出ないCSMほど、いきなり製品の説明をし始めます。
また本提案に入ると、場合によっては詳細な実現プランの話をすることもありますが、その際にできないことはできないときちんと伝えることも重要です。売りたい気持ちが大きすぎると、できないこともできると言ってしまいがちです。これは絶対に避けましょう。結局、後悔するのは自分です。
3.トライアル支援
トライアルの支援をCSで行う場合は、スコープ・スケジュールのハンドリングをする必要があります。
トライアルをする上で最も重要なのが、「トライアルの目的と完了条件の定義」、「トライアル期間」、「完了後の購入同意の獲得」です。この3点を合意しておかないと、いつまで経っても意思決定してもらえずズルズルと長引きます。別の顧客対応やアウトカム創出という別ミッションも抱えるCSMにとっては、トライアルで長期間リソースがとられるという状況は避けなければいけません。
本提案は営業で、トライアル支援はCSという場合は、特にこちらの条件を明確にし、条件を満たせない場合はむやみに協力しないくらいの強固なルールづくりも検討しましょう。
4.交渉・契約
クロージングまでCSが行う場合は、自社サービスのプライシング構造を理解し、どのような条件で契約できるのかを把握しておく必要があります。何をどうすれば金額があがるのか、顧客のやりたいことを実現するためにはどれくらいの機能や量必要なのかを伝えられるようにしましょう。
また、ディスカウントについても自分がどこまで承認なしで値下げできるのか、値下げ幅によってどんな承認が必要なのかも理解しておくと、顧客との交渉が進めやすくなります。
交渉事は「持ち帰らない」が基本中の基本です。持ち帰るほど相手に対する交渉の立場が弱くなります。特にディスカウントなどのお金の交渉時は、相手を待たせれば待たせるほど値下げに対する期待値は高まり「値下げできませんでした。定価で買ってください。」と言えなくなります。
きちんとポリシーを理解し、ディスカウントができないのであれば、即座に期待値をコントロールしながら顧客とコミュニケーションをとりましょう。
まとめ - まず明日から始めること
カスタマーサクセス組織が「攻め」も担うようになり、多くのリーダーが陥りがちなのが、メンバーに対して単に「NRRを上げろ」「もっと提案しろ」と荒い指示だけでメンバーに押し付けてしまうことです。しかし、武器も持たせず、地図もない状態で戦場に送り出すようなマネジメントでは、現場は疲弊し成果も生まれません。
本記事で繰り返しお伝えしてきたように、リーダーが本来なすべき仕事は、数字のプレッシャーを与えることではなく、メンバーが迷わず提案に動けるための「環境」と「具体的な指針」を用意することです。
明日からのやることとして、まずこの記事を改めて読んでいただき、自社のCS組織でできていない項目を整理するToDoを追加しましょう。整理ができれば、何から手をつけるかチームで話し合ってみましょう。きっと今までより建設的にエクスパンションの組織構築について議論ができるはずです。
この記事が、みなさんの組織に何が足りないのか?メンバーにどんなことを学んでもらえばいいのか?を具体的に話せるようになるための一つのガイドとなれば幸いです。
最後に
こちらの記事は前述のエクスパンションの責務についての議論と合わせて以下のカスタマーサクセスの有識者の方々とお話しながらできあがったものです。
非常に有意義な議論ができました。皆様、ありがとうございました!
UPWARD株式会社 CS部 本部長 三原さん @nnaikonn
カスタマーサクセス株式会社 代表取締役CEO 岩熊さん @YutoIwakuma
カスタマーサクセス株式会社 代表取締役COO 梶原さん @kajisan_cs
株式会社RightTouch Customer Growth Partner 増田さん @Massuo_22
長文にも関わらず最後までお読みいただきましてありがとうございました!
参考になったなと思われた方はぜひ、このnoteの「いいね」と「Xでのシェア」をお願いいたします!
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