うつ病の僕が、初めて“歩けた”世界|回生の旅路 #1
序章|なぜこの記録を書くのか
私はいま、大学院博士課程の学生ですが、うつ病で休学しています。
朝起きることも、食事をとることも、人と話すことも、うまくできない日があります。
そんな中で、不思議と「歩けた」世界がひとつだけありました。
現実ではなく、Nintendo Switchのゲーム
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 (通称ブレワイ)の中の話です。
焚き火の音や風の音だけが聞こえる、誰もいない草原。
何もしなくてもいいし、立ち止まっていても、誰にも何も言われません。
その世界では、自分のままでいられた気がします。
このnote「回生の旅路」は、うつ病の闘病と、
『ブレス オブ ザ ワイルド』というもうひとつの現実を通して、
私が少しずつ取り戻してきたことを記録していくものです。
これは「完全に元気になった話」ではありません。
むしろ、「まだ回復の途中で生きている」記録です。
この記事が、今つらい日々を過ごしているどなたかにとって、
ゼルダの世界を少しのぞいてみるきっかけになれば嬉しいです。
※この記事には『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のネタバレは含まれていません。
ゲームを未プレイの方でも安心して読めます。
1. 立ち上がれなかった日
あれは、ある月曜日の朝でした。
目は覚めていたのに、ベッドから出ることができませんでした。
体が重いとか、眠いという感覚ではなく、ただ一歩も動けなかったんです。
カーテンの隙間から差し込む光は、まぶしいというより痛く感じました。
スマホの通知音が鳴り続けているのに、私はそれを無視することしかできませんでした。
研究室からの連絡、未返信のメール、届いたままの宅配便。
世界はいつも通り動いているのに、自分だけがそこから完全に外れているような気がしました。
そこから先のことは、正直あまりよく覚えていません。
いつの間にか母が駆けつけていて、大学と話をしてくれて、休学することになっていました。
気がつくと、私は実家に帰っていたんです。
そして後日、心療内科で「うつ病」と診断されました。
これは、自分で選んだというより、
まるで世界のほうから静かにスイッチを切られたような始まり方でした。
※自己紹介シリーズは別マガジンで連載中です。そちらも是非チェックしてみてください!
2.ブレワイとの出会い
『ブレス オブ ザ ワイルド』は、発売されたときからずっとやってみたいと思っていました。
子どもの頃からゼルダシリーズが好きで、
『時のオカリナ』や『ムジュラの仮面』、『風のタクト』や『トワイライトプリンセス』などもプレイしてきました。
でも、大学院に進んでからはずっと我慢していました。
「研究を優先しなければいけない」「ゲームを始めたら止まらなくなりそうだ」
そんなふうに考えて、自分にブレーキをかけていたんです。
修士課程から博士課程へ進み、研究に取り組む中で、
自分でも気づかないうちに無理が積み重なっていました。
そして、うつ病になり、動けなくなって、休学することになりました。
実家に戻ってからは、何もできない日が続きました。
そんな中で、「せっかく時間があるなら、ブレワイをやってみようか」と思ったんです。
Switchごと購入して、ゲームを始めました。
起動したときは、少しだけ罪悪感もありました。
でもそれ以上に、「ようやくやってもいい」と思えたことが嬉しかったのを覚えています。
実際にプレイしてみると、ブレワイは思っていた以上に静かなゲームでした。
「こうしなさい」と強制されることがなく、
プレイヤーが何をするかを自由に選べる作りになっていました。
頭がぼんやりしている日でも、少しずつ操作して、
景色を眺めたり、素材を集めて料理をしたりすることはできました。
それが、うつで止まっていた自分にとって、ちょうどいい距離感だったのだと思います。
3.静けさの中に、自由があった

『ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイしていて、
うつの自分にとって特に助けられたなと感じた点がいくつかあります。
ここからは、その中でも印象に残った5つのことについて書いていきます。
3.1 何も考えなくていい時間が、そこにあった
『ブレス オブ ザ ワイルド』の世界には、余計な情報がほとんどありません。
音楽もあまり流れず、風の音や焚き火のパチパチといった自然の音だけが聞こえてきます。
うつ病のとき、私はグルグル思考(反芻思考)に悩まされていました。
「どうしてこうなったんだろう」「もっとちゃんとやっておけばよかった」
そんな自分を責める考えが、何度も頭の中をループして、
疲れていても、眠っていても、止められませんでした。
でも、このゲームの中にいるときだけは、
その思考のループがふっと途切れる瞬間がありました。
焚き火を眺めたり、風に揺れる草を見ているだけで、
「何も考えなくていい」と思える時間があったんです。
思考を無理に止めようとするのではなく、
自然と考えごとが遠のいていく感じでした。
それが、当時の私にはとても助けになりました。
3.2 “何もしない”を怒られない世界
『ブレス オブ ザ ワイルド』の世界では、何をするかはプレイヤーに任されています。
ストーリーを進めなくてもいいし、強い敵と戦わなくても大丈夫です。
今日は少し歩いてキノコを拾うだけでもいいし、
素材を集めて料理をするだけの日があってもいい。
小さなミニチャレンジに取り組むのも、やらないのも自由です。
現実の私は、「何か成果を出さなきゃ」といつも焦っていました。
でも、このゲームの中では、そんな気持ちにならなくてよかったんです。
小さな行動にも意味があるように感じられましたし、
休んだり寄り道したりしても、誰にも責められることはありません。
「何もしない」ことが、そのまま受け入れられている。
それが、うつで消耗していた私には本当にありがたかったです。
3.3 2行だけのセリフなら、読めた
うつ病のときは、活字を読むのがとてもつらくなります。
本も読めませんし、ネットの記事も途中で集中が切れてしまいます。
内容が頭に入らないだけでなく、読むだけで疲れてしまうこともありました。
でも『ブレス オブ ザ ワイルド』の会話は、基本的に2行ずつしか表示されません。
文章が短くて、読み飛ばしても問題なく進めるようになっています。
「ちゃんと理解しなきゃ」というプレッシャーがなくて、
そのおかげで無理なく読み続けることができました。
セリフの内容も、やさしくてわかりやすい表現が多く、
込み入った言い回しや長い説明がほとんどありませんでした。
自分のペースで読んで、自分のペースで進められる。
その“無理に理解しなくていい構造”が、ありがたかったです。
3.4 ゴールがあるって、こんなに安心なんだ
『ブレス オブ ザ ワイルド』には、はっきりとした目的があります。
ボスを倒して、ゼルダ姫を救うことです。
もちろん、そこにすぐ向かわなくてもいいですし、
寄り道したり、まったく別のことをしていても問題ありません。
でも、「最終的にはここを目指せばいい」と思える場所があるだけで、すごく安心できました。
うつ病になると、何をすればいいかがまったく分からなくなることがあります。
朝起きる時間、今日食べるもの、ちょっとした予定さえも決められなくなります。
そんな中で、「ここがゴールです」とゲームの中で提示されるだけでも、
少し気が楽になりました。
自由に動ける。でも、行き先がある。
そのバランスが、当時の私にはとても合っていました。
3.5 “最初から強くない”主人公と一緒に
『ブレス オブ ザ ワイルド』のリンクは、最初から強いわけではありません。
武器も防具も持っていない状態から始まり、
体力も少なく、ちょっとした敵にもすぐにやられてしまいます。
崖を登っても、すぐにスタミナが切れて落ちてしまうし、
雨が降れば滑って、どこにも行けなくなることもあります。
それでもリンクは、少しずつ武器を手に入れたり、装備を強化したりして、
できることを一つずつ増やしていきます。
私はその姿に、自分を重ねて見ていました。
うつ病になってから、私は本当に何もできなくなっていました。
食事を作るのも難しく、外に出るのもおっくうで、
スーパーに行くのも一つの大きなハードルでした。
でも、実家で休む中で、ほんの少しずつ、できることが戻ってきました。
ちゃんと寝る、ごはんを食べる、散歩に出てみる――
それだけでも、前よりは前に進めていたと思います。
リンクのように、「いきなり強くなる」わけじゃなく、
少しずつ装備を整えて、少しずつできることを増やしていく。
そのペースでいいんだと思えたことが、当時の私にはすごく大きかったです。
4. まとめ
うつ病になって、動けなくなって、研究も全部止まりました。
そんな中で出会った『ブレス オブ ザ ワイルド』は、
「何もしなくても怒られない世界」でした。
ストーリーを進めなくてもいいし、立ち止まっていてもいい。
それでもリンクはちゃんと生きていて、その姿を見ているだけで少し安心できました。
私にとってこのゲームは、治療ではありませんでしたが、
「無理せず、少しずつ回生していけばいい」と思える場所でした。
もし今、うつの中で何もできない日が続いている方がいたら、
無理にとは言いませんが、
一度あの静かな世界をのぞいてみてほしいなと思います。
ちょうど今、次世代機「Nintendo Switch 2」の発売されて、
『ブレス オブ ザ ワイルド』や『ティアーズ オブ ザ キングダム』も、
グラフィックなどがアップデートされたSwitch 2向けエディションとして登場しました。
これからゼルダを始める方にとっても、ちょうどいいタイミングかもしれません。
※この記事ではストーリーのネタバレは避けて書きました。続きが気になる方はフォローしていただけたら嬉しいです。
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ゼルダの伝説 プラスオブザワイルドのゲームエッセイは全9記事書いています。順番にはなっていないのでお好きなタイトルのものを読んでいただければ嬉しいです!
※本記事内の画像や動画は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(任天堂)の公式素材またはプレイ画面を引用したものです。
(C)Nintendo
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