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すべての経営は「流れ」に通ず、藤本隆宏教授最終講義

生産マネジメントの大家である
藤本隆宏先生の最終講義に参加しました。

約700名の参加者で、
早稲田の大隈講堂が2階席まで埋まる、
かつて見たことない大規模な最終講義でした。

藤本先生の学会と実業界への貢献の大きさを体感しました。

最近の『楠木建の頭の中 リアル集会』で知り合った
お友達と一緒に受講できて、楽しいひと時でした。

講義時間は2時間を超えて、
とても咀嚼しきれない深さと広さ
だったのですが、以下で頭の整理を試みます。

立て看板
集合写真


探求の原則

藤本先生は、

・N=1の現場観察を千数百回
・質問票による独自データ収集(N = 20~200)
・公開データを独自の視点により、新たな意味解釈を提示

を、今も実践されています。

「現場は、飽きない」なぜなら
「現場を観ることで、因果関係がわかり、腹落ちする」
とのこと。

僕自身も、クライアントのオフィスや工場で、個々人がどんな空気や暗黙的ルールのなかで仕事をしているか、そこにある因果関係を観たいです。

また、藤本先生が
同じものを見ても、新たな意味解釈を提示すること」
を強調されていたことに、勇気づけられました。

僕も、意味を再編集することで、人が「やれる」「やりたい」と思えるストーリーをつくることが、組織変革の鍵だと信じています。


設計ベース戦略論

藤本先生は、
ポジショニング派か、
リソースベースビュー派かで言うと後者ですが、
その中でも「設計ベース戦略論」を提唱。

個々のケイパビリティに注目するリソースベースビューに対して、個々が全体でよく「流れ」るような設計思想を持つことが、より重要という見方と理解しました。

「同じ技術を使っても、設計が異なれば、最終的な利益も異なる」ことを、
「設計と技術は違う」
と、端的に表現されていたことも、印象的でした。

これは、
従業員は同じでも、組織の構造や文化が違えば、収益は変わってくる、
組織変革の見方に通じる、と感じました。


付加価値生産性

長期利益を実現するために、短期の売上や利益ではなく、
「付加価値生産性」を高めるべき、と一貫してお話されていた。

不勉強でわからなかったので、後日調べてみたところ、

付加価値生産性 = 付加価値 ÷ 労働投入量

ここで、
付加価値=売上ー外部購入費(原料、部品、外注費、電力等)
※外部購入費に人件費が入っていない

つまり、
一人あたりどれだけ付加価値を生んでいるか
を、測る指標のようです。

要するに、

「何年も付加価値生産性が高い企業」は
・開発力
・現場力
・品質
・改善力
などの能力が、蓄積されている可能性が高い。

ちなみにこの指標は、
従業員1人1人に無理を強いていないか?瞬間最大風速じゃないのか?
は見れません。

藤本先生は、
「本当のDX先進企業は、人の手当てがしっかりしている」
「人間系で勝負している」

ともおっしゃっていました。

人は、
「価値を生んでる実感」もしくは「成長実感」
が無いと、生産性が積みあがらない、と。

そしてそれは、
「職場は明るくなっているか?」
「給料は上がっているか?」

を、観ればわかるそうです。

これは、現場観察を続けてきた、実践知の結晶だと感じました。


野中先生の影響

ちょっとした余談だったと思いますが、
藤本先生は、尊敬する野中先生の「情報処理」から影響を受けて、
ご自身のコンセプト「情報転写」を命名した、という話。
野中先生を尊敬する1人として嬉しかったです。
(野中先生はその後に情報創造、そして知識創造と進化しちゃうけど)

あと、「色々言ってきたけど、コンセプトは1つ覚えてもらえばいい」
という、コンセプトを創ってきた人しか言えない言葉。

これは以前、
楠木先生が、藤本先生の言葉として引用していたけど、
藤本先生も、野中先生の受け売りだったとわかり、
しみじみしました。


進化論

社会システムの進化論は、

発生論(どこから来たか?)

構造論(それは何か?)

機能論(目的は何か?)

の枠組みで整理される。
これは、すこし難しく消化しきれなかったのですが、

藤本先生は「結局、心構え」と締められていました。

これは、
「流れを観察し、制約を受け止め、そこからよりよい流れを設計し直し続ける」
ことと理解しました。


全体を通じて

個々の事象に惑わされず、全体の流れを観て、設計思想をつくれ
というメッセージを感じました。

生産現場に限らず、

事業の競争戦略でも、
個別の尖った強みで勝負するのではなく、全体の戦略ストーリーで勝つ。

組織変革でも、
個別バラバラの施策ではなく、ビジョンに繋がる仕掛けの流れをつくる。

結局、戦略も組織も、
個別の強みではなく「流れ」を設計する仕事なのだと思います。

楠木さんによる、Plan Do Seeの戦略解説を思い出しました。

私見では、PDSの戦略のコンセプトは「気がイイ空間の提供」にある。「気がイイ」と言うと、程度問題のように聞こえるかもしれないが、そうではない。PDSが一義的に追求しているのは、立地の良さでも、メニューの良さでも、料理の良さでも、接客の良さでも、店舗デザインの良さでもない。顧客にとっての空間全体の雰囲気の良さであり、この点で他社と異なる。
(中略)
これに対して、PDSはこうした個別要素レベルでの「尖った差別化」には手を出さない。PDSのホテルやレストランにはどこにも突出した要素はない。万事が普通で、店のどこをとっても、快活で朗らかだけれども落ち着いた穏やかな雰囲気が維持されている。普通にセンスがいい店舗で、普通に構成されたメニューの普通に美味しい料理が、普通に丁寧でフレンドリーな接客で提供される。
(中略)
「気がイイ空間」は自然とできるものではない。コンセプトの実現のために、PDSはさまざまなトレードオフの上で活動を慎重に選択している。「やっていること」よりも「やっていないこと」「やらないと決めていること」に注目しなければ、PDSの戦略は理解できない。

楠木建著『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』 (日本経済新聞出版)
早稲田大学 大隈講堂


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