人と組織が「世界を見る目」を揃える2つの土壌、3つのレンズ
多くの議論が噛み合わないのは、
意見の違いというより、「見ている世界」の違いじゃないか、という気がします。
短期で話している人と、中長期で話している人。
現場で考えている人と、全体最適で考えている人。
このズレを解消しない限り、議論は前に進みません。
だから僕は、「世界を見る目」を揃えるところから始めます。
そのために、よく使うフレームが3つあります。
ただし、その前に必ず立ち返る前提があります。
それは、「何の為に」と「場の重力」です。
土壌① 「何の為に」を揃える
中計づくりでも、プロジェクトでも、会議でも、日々の作業でも、
ほとんどすべての問題は、ここが「何の為に」のズレに起因します。
何の為に、この中計を作っているのか
何の為に、このプロジェクトをしているのか
何の為に、この会議をしているのか
この認識が揃っていないと、
どれだけ正しい分析や立派な資料を作っても、議論は噛み合いません。
逆に言えば、
「何の為に」さえ揃えば、議論の9割は解決します。
ただし、これは単なる目的設定の話ではありません。
同じプロジェクトでも、
誰かにとっては「評価を守るため」
誰かにとっては「事業を変えるため」
といったように、人によって意味づけが異なるため、「何の為に」がズレるし難しい。
いわゆる「適応課題」のようなもので、
だからこそ
正解はなく、
人によって前提や利害が異なり、
答えは発見ではなく、生成される
と思うのです。
土壌② 「場の重力」を把握する
ただし、「なんの為に」が揃っても、人や組織はその通りには動きません。
そこには、
無意識のうちに、思考と行動を引っ張る「重力」があるからです。
(ここで言う重力とは、本人も気づいていない行動の前提のことです)
たとえば、
暗黙の前提
組織の空気
過去の成功体験
こうしたものが、当人の意思とは関係なく、思考と行動を引っ張ります。
よくあるのは、
コンサルを使って戦略を作った。
時流は捉えているし、納得感もある。
なのに、誰も動かない。
という状態です。
このとき問題なのは、「納得していない」ことではなく、
違う方向に、重力が引っ張っていることです。
ここで言う「重力」とは、
その組織は、どんな役割を課されているのか
その中で、何を守ろうとしているのか
誰がキーパーソンで、どんな思惑が交錯しているのか
という、人と組織の行動を、無意識に引っ張る力です。
人は、他者との関係性の中で生きていて、むしろそちらを強く気にしているもいます。
だから、その場の「重力」のようなものを、知る必要があります。
実際に現場でよく起きるのは、
「正しい」と分かっているのに動けない、という状態です。
たとえば、ある組織で中長期の変革方針を議論したときのことです。
方向性としては納得感があり、「やるべきだ」という空気もある。
にもかかわらず、誰も具体的なアクションを起こさなかった。
後になって振り返ると、
その組織では「短期の数字を落とすことは絶対に許されない」という暗黙の前提が強く働いていました。
評価制度や過去の成功体験、上司との関係性などが複雑に絡み合い、
「動かない方が安全」という重力が引っ張っていたのです。
このとき、人は論理ではなく、
「自分の立ち位置」や「失うものの大きさ」によって行動を決めています。
だからこそ、「正しいかどうか」ではなく、
「その場の重力がどこに働いているのか」を見極めることが重要になります。
ここまで述べたように、
人や組織の行動は、「何の為に」と「場の重力」の掛け合わせで決まる
と考えています。
これが揃って初めて、これから紹介する3つのレンズが効いてきます。
レンズ① 世界を分解する「時間」と「空間」
まず、何かの問題解決に取り組むとき、その事象、
言ってみれば「世界」を要素に分解し、繋がりを理解することから始めます。
そのときに役立つのが、「時間」と「空間」のフレームワークです。
たとえば、議論でよく起きるすれ違いとして、
同じ議題でも、
短期の数字を議論している人と、
中長期の目標を議論している人が、
それぞれの目線で話しているケースがあります。
あるいは、
本社視点で全体最適を考えている人と、
現場視点で実行可能性を考えている人が、
同時に議論しているケースもあります。
こうした場合、議論が噛み合わないのは当然でして、
それぞれが見ている「世界」が違うためです。
このときにやるべきことはシンプルで、
・時間軸は、どこを見ているのか(短期/中期/長期など)
・空間軸は、どのレイヤーを見ているのか(顧客/現場/本社/市場全体など)
を揃えることです。
逆に言えば、議論が噛み合わないときは、
時間と空間が混ざっている
ことを疑うと、だいたい紐解けます。
つまり、
世界の見方を揃える第一歩は、「時間」と「空間」で切り分けること
とも言えます。
ここまで「時間」と「空間」のフレームを、
経営や戦略に関わる、ややマクロな使い方をしてきました。
ただ、このフレームの適用範囲は、それだけではありません。
特に「空間」は、ミクロに分解することで、対象の理解を一段深くするのにも役立ちます。
たとえば、ある対象を見たときに、
「それは物理的にどのように構成されているのか?」
と考えてみます。
これは生成AIに聞いても、すぐに答えが返ってきます。
しかし、あえて一度自分の頭で分解してみることで、
手触り感が出る
解像度が上がる
思考の自由度が上がる
ことが多いです。
イメージ的には、『呪術廻戦』宿儺の「世界を断つ斬撃」に近いです。

たとえば、オフィスというものを考えてみます。
普段はひとまとまりの概念ですが、これを「空間」と「時間」でミクロに分解してみます。
まず空間で分けると、
デスク、椅子、会議室、モニター、PC、配線、ネットワーク機器、照明、空調、壁、床、天井…
といった要素に分かれます。
さらに細かく見れば、
・PC → CPU、メモリ、ストレージ
・ネットワーク → ルーター、スイッチ、回線
といった具合に、
やろうと思えば原子と電子のレベルまで、解像度を高く「空間」を理解することができます。
次にオフィスを時間で分けると、
出社する、PCを立ち上げる、会議に参加する、資料を作る、退社する…
といった行動の流れとして捉えられます。
ここで、「空間」と「時間」を重ねると、
誰が、どの空間で、どの時間に、何をしているのか
が見えてきます。
ここまで分解すると、たとえば、
「エレベータが混雑している」という問題に対処するときも、
見え方が変わります。
単純に「エレベータの台数を増やす」という発想だけでなく、
そもそも人は、なぜ同じ時間に移動するのか
どのフロア間の移動が、ボトルネックなのか
物理的に移動する他に、選択肢はないのか
といった問いが立てられるようになります。
さらに、空間を自由に想像していくと、
「では、屋上からヘリで来ればいいのでは?」
「スカイダイビングと組み合わせてレジャー化する?」
といった、現実離れした発想も出てきます。
一見ふざけているようですが、ここに価値があると思っています。
こうした発想を抽象化すると、
人の移動を分散できないか
垂直移動以外の導線は作れないか
移動そのものの意味を変えられないか
といった、現実的な打ち手に戻ってくることができます。
つまり、
空間をミクロに分解し、そこから一度自由に発想を飛ばすことで、現実解の幅が広がるということです。
この視点を持っておくと、
戦略のような抽象的な話と、現場の具体的な話を行き来しながら考えられるようになります。
レンズ② 儲けを分解する「WTP」(Willingness To Pay)
どんな事業でも、儲けの構造は、シンプルに表すことができます。
顧客が「いくらなら払いたいか」と思う金額、つまりWTP(Willingness To Pay)
それを提供するためにかかるコスト
その差分が、利益になります

利益を上げようと思うと、
どうやって品質を高めるか
どうやってコストを下げるか
を議論されがちです。
しかし、重要なのは、顧客が「いくら払いたい」と思うか。
つまり、WTPの高さです。
WTPとは何か
WTPは、単なる価格の話ではありません。
それは、
どれだけ価値を感じるか
どれだけ欲しいと思うか
の総体です。言い換えると、
「その人が感じる意味」 × 「その意味の強さ」
で、最終的に「いくらなら払いたいか」という主観に集約されます。
Profitとは何か
利益とは、単純な売値とコストの差分ではありません。
それは、どれだけ意味を生み出し、届けられたかの結果です。
WTPとコストの差分として表現されますが、
本質的には、意味を価値として成立させた量だと考えています。
Costとは何か
コストは、つくる・届けるためにかかった費用です。
ここは比較的シンプルで、効率化や最適化の対象にされやすい。
ただし、いくらコストを下げても、WTPが低ければ商売は成立しません。
このフレームの使いどころ
ここまでをまとめると、儲けの構造は、
WTP(顧客が感じる価値)
Cost(提供コスト)
Profit(その差分)
で表されます。
そして重要なのは、WTPは「機能」ではなく、「意味の解釈」によって決まるという点です。
同じ商品でも、
ただの道具として見るのか
自分の人生を豊かにするものとして見るのか
で、支払意思は大きく変わります。
つまり、儲けは「売り物」ではなく、「その意味」で決まるということです。
この視点を持つと、
なぜ売れないのか
なぜ価格競争になるのか
なぜ差別化できないのか
といった問いに対して、
「モノの品質」ではなく「意味」の観点で考えられるようになります。
WTPが上がらないのは、
意味が伝わっていないのか、そもそも意味が弱いのか。
こうした問いを立てると、打ち手は大きく変わります。
もう少し踏み込むと、
人が価値を感じるのは、単に機能が優れているからではなく、
「自分の文脈における意味」があるときです。
同じ商品でも、
「ただの道具」として見るのか
「自分の生活や仕事を変えてくれるもの」として見るのか
で、感じる価値は大きく変わります。
言い換えると、
人は客観的な価値にお金を払っているのではなく、
自分なりに解釈した意味に、お金を払っています。
だからこそ、WTPを高めるとは、機能を磨くこと以上に、
「どのような意味として受け取られるか」を設計することだと言えます。
レンズ③ 流れを分解する「IPO」(インプット→プロセス→アウトプット)
人や組織の動きは、
インプット → プロセス→アウトプット
という「流れ」で分解することができます。
このフレームの良いところは、ほぼすべての活動に適用できる点です。
たとえば、
業界全体のサプライチェーン
企業のバリューチェーン
営業活動
戦略づくり
店舗オペレーション
どれをとっても、すべて
インプット → プロセス→ アウトプット
で分解できます。
インプットとは
人材、情報、資源、顧客など、外部・内部から入ってくるもの
プロセスとは
それをどう解釈し、どういう手順を踏んで、何かに変換する過程
アウトプットとは
それによる行動の結果、成果や提供価値など
多くの場合、問題が起きると、
人を変える(インプット)
目標を変える(アウトプット)
といった対応が取られがちです。
問題のほとんどは、プロセスにあります。
どんな前提で考え、
どの情報を重視し、
どう意思決定し、
どのように関係性を築いているのか。
ここが変わらない限り、どれだけ人を入れ替えても、どれだけ目標をいじっても、結果は大きく変わりません。
結局のところ、すべての活動は「流れ」でできていて、問題はその流れのどこにあるかを見極めることに尽きます。
最後に
自分自身の経験を振り返ると、
フレームワークをたくさん覚えるよりも、
厳選したレンズを繰り返し使う方が、思考は深くなると思います。
僕の場合は、
「なんの為に」で方向を揃え、
「重力」を挙動を見極め、
「時空間」で対象を整え、
「IPO」で流れを捉え、
「WTP」で価値を考える。
そのうえで、「この人・組織は、どんな意味を感じているのか?」を問い続けています。
すこし大きく言うと、本当の知識とは、
新しいフレームを覚えることではなく、
世界の見方を豊かにすることじゃないかと思うのです。
■参考文献
・楠木建『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報
・フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー『「価値」こそがすべて!』東洋経済新報社
・中谷一郎『オペレーション科学』柴田書店
・芥見下々『呪術廻戦』集英社
など
