戦略的再起動 ④ 日本人の旅は無理がある:旅を「整い」に再定義する ー内側から見た、5つの再定義ー
第1話では社会の現状、第2話では3つの原則、第3話では4つのレベルの実践編を書いてきました。今回のテーマは、「戦略的再起動」のLv3(泊まり旅)について、いまの日本にある一般的な「旅行」では成立しづらい、という話です。
私は旅行業の登録資格である「国内旅行業務取扱管理者」を取得し、業界の中も少し覗いてきました。観察したあとに感じたのは、「これは整う旅にはならない構造になっている」という違和感でした。旅は、日本人の自己メンテナンスにとって最大の手段でありうる。しかし現状は、その役割を果たしていないと感じています。それをどうすべきかを書いていきます。
■ 1. 「旅行」と呼ばれているものは、本当に旅行なのか
最も典型的なのは、連休の家族旅行です。出発と帰宅の時刻が大体決まっていて、ホテルがあって、観光スポットがホテルから近い順に3つぐらいあって、夕食の場所も決まっています。1日に二万歩くらい歩いて、写真を百枚撮って、お土産を買って、月曜日には全員疲れて帰宅します。
これを「旅行」と呼ぶことに、私は違和感があります。なぜなら、この「旅行」は、平日の労働とほぼ同じ構造を持っているからです。スケジュールがあって、達成目標があって、移動が伴って、最後には疲労が残る。違うのは、「やっていることが仕事ではない」というだけです。労働と同じ構造を持つ余暇に、整いの効果を期待してはいけません。労働に似たものを2日続ければ、人は労働した時と同じくらい疲れる。「旅行に行ったのに、月曜日に疲れている」のは、当然の帰結です。
■ 2. 業界の構造的な歪み
いまの日本の旅行業界は、OTA(オンライン旅行代理店)の価格競争で消耗していると思います。同じホテルが、複数のOTAサイトで、わずかな価格差を打ち合っている。ユーザーは1円でも安いほうを選ぶ。OTAはより低い手数料で出すためにホテルに圧をかける。ホテルはコストを削るために、サービスや設備を削る。このスパイラルの中で、「ユーザーが何のために旅に行くのか」という問いそのものが、業界から消えてしまっているように思います。
残ったのは、「いかに安く、いかに多くの観光地を回るか」というコスパやタイパです。さらに、SNSが追加されました。「いかに映えるか」が加わり、写真映えのする場所が次々に観光地化され、人が殺到し、混雑が悪化し、整いから遠のいていきました。これは個別のサービスや業者の問題ではありません。業界全体が同じ方向に最適化された結果です。だから、業界の中から自浄することは難しい。整う旅は、業界の外側から、別の枠組みで提示する必要がある、と私は考えています。
■ 3. 日本人の旅を、5つに再定義したい
日本人の旅は、次の5つに従って再定義したいと考えています。
① 「目的地に行く旅」から「自分の状態に合う過ごし方の旅」へ。これまでの旅は、「どこに行くか」を最初に決める旅でした。これからの旅は、「いまの自分はどのレベルの再起動が必要か」を最初に決め、そこから過ごし方を選ぶ旅です。行きたい場所があるなら、「この景色が見たい」「推しの聖地に行きたい」、それはそれで動機として尊重されるべきです。ただ、「行きたい場所」と「いまの自分に必要な過ごし方」が一致しているかは必ず確認したほうがよい。一致していなければ、行きたい場所を保留にして、必要な過ごし方を優先する。
② 「混雑日に動く旅」から「空いている日にずらす旅」へ。動かせる範囲で、平日に有給を1日くっつけて空いている日にずらす。連休にどうしても旅したいなら、それはレジャーであって、再起動ではないと割り切る。これを分けて考えるだけで、旅の質は変わります。
③ 「詰め込みの旅」から「何もしないことを積極的に選ぶ旅」へ。旅先で「せっかくだから」と予定を詰めるのは、整いとは真逆の行為です。「何もしない」を能動的に選ぶ。ただし「何もしない」は、漠然と過ごすことではありません。1日のうち、何時に何時間ぼーっとするかをむしろ決めておく。窓辺の席で2時間、コーヒー2杯、本も読まない。これくらい具体的に「何もしない計画」を組むほうが、結果として整います。
④ 「映える旅」から「自分の解像度が上がる旅」へ。旅の効果は、写真の枚数では測れません。戻ってきたあとに、自分の状態についてどれだけ認知し、理解できたか測るべきです。「ああ、自分はこういう景色を見ると、落ち着くのか」「夜の港の匂いが、自分には合うのか合わないのか」。こういう発見の量が、戻ってからの日常を支えます。映えはおまけです。
⑤ 「料金で選ぶ旅」から「自分の状態で選ぶ旅」へ。OTAで料金から選ぶことが悪いわけではありません。ただ、本当に整いたいなら、自分の状態を正しく認知して、その状態に合った目的地を選ぶほうが先です。料金は、選んだあとに最適化すればよい。この順番が逆になっていることが、いまの旅行の最大の不幸だと、私は思っています。
■ 4. 「整い」としての旅が成立する4つの条件
5つの再定義を踏まえて、整いの旅が成立する具体的条件を4つにまとめます。
① 混雑を避けている:時期、時間帯、場所、ルート。混雑に巻き込まれるほど、整いの効果は減ります。
② 目的地が絞られている:目的地や、やることが多すぎるとそれは詰め込みの週末旅、もしくは労働の代替です。
③ 「やらないこと」が最初に決まっている:SNSを開かない、観光地に行かない、買い物しない。やらないことを決めることが、整いの始まりです。
④ 泊まる場所が、家より落ち着く:これが満たされない宿に泊まると、整いの旅は逆効果になります。家のほうが落ち着くなら、その日は日帰りに格下げするほうが整います。
この4条件が揃って初めて、それはLv3の泊まり旅として機能します。
■ 5. Lv0~Lv3を「旅」に当てはめると
最後に、第2話と第3話で書いた4つのレベルを、旅の文脈で並べ直します。
Lv0 ひと息の旅は、家の窓を開けて1分、空を眺める。これも旅の一種と言ってもいいかもしれません。
Lv1 ひと休みの旅は、近所のカフェに移動して1時間、コーヒー1杯。職場と家を結ぶ動線から1ステップ外れたりすることが、最も手軽な旅です。
Lv2 日帰り旅は、日帰りで隣県や郊外の街へ、目的地を一つだけ。
Lv3 泊まり旅は、平日にずらして数日、混雑のない場所に1泊か2泊。家より落ち着く宿を選び、やらないことを最初に決める。
旅という言葉を広い意味で使ってもいいのではないでしょうか。遠くに行くことは、旅の必要条件ではありません。自分の状態を整えるために環境を変えることこそ、旅の本質と捉えるとこのように考えることができます。
■ 第5話に向けて
ここまで、日本人の旅行の現状と、それをどう再定義したいかを書きました。第5話では、5つの再定義と4つの条件を、ひとりひとりの日本人が実践できるアプリ「Tabilo(タビロ)」の物語を書きます。コードを書いたことのない著者が、AIと1,000時間かけてiOS/Androidアプリをリリースするまでの、リアルな1,000時間です。
▶各回の記事へのリンク
第1話:https://note.com/takehiro_sumida/n/nfbd40b77e83d
第2話:https://note.com/takehiro_sumida/n/n9dcb62009e51
第3話:https://note.com/takehiro_sumida/n/nddac5655b890
第5話:https://note.com/takehiro_sumida/n/n271a9476d83a
▶ Tabilo(iOS/Android):https://www.tabilo.jp/lp-01
■ 著者:角田岳大(すみだたけひろ)
飲食業 → 大手通信事業者コールセンター → 宅配クリーニングサービス(CSMgr/PMM)→ 心療内科オンライン診療サービス(PdM)と、業界をまたいで転職。旅行業の登録資格「国内旅行業務取扱管理者」を保有。
2026年3月、コードを書いた経験ゼロからAIと1,000時間で、iOS/Androidアプリ「Tabilo(タビロー)」を副業でリリース。リリース後のPR記事は62メディアに転載。医療業界の内側で「医療では救えない領域で疲弊する人」へのサポートの必要性を感じてきた当事者として、日本人のための新しいセルフケア体系「戦略的再起動」を提唱している。医療と旅行、二つの業界の知見をひとつの体系にまとめている試みは、日本でも例が少ない。
X:@TakehiroSumida
Mail:sumida@tabilo.co.jp
Tabilo(iOS/Android):https://www.tabilo.jp/lp-01
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