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戦略的再起動 ① 日本人は「再起動の仕方」を忘れた ー医療の手前で、自分を整える技術ー

先日、同じ会社に入った後輩が、ある日突然辞めました。LINEには「大丈夫です」とだけ書かれていました。誰よりも早く出社して、誰よりも遅くまで残って、もくもくと努力していた彼が、ある朝から会社に来なくなったのです。
病院に行くほどではない。でも、毎朝起き上がるのがしんどい。 そういう人が、いま日本中で静かに増えています。厚生労働省の調査では、強い不安・悩み・ストレスを感じる労働者は8割を超え、メンタル不調を理由とする休職者は年間数十万人を超えています。
私は心療内科・精神科の医療の現場を内側から見てきました。実感したのは、医療が本気で救えるのは、すでに症状が出ている人たちが中心だということです。倒れる前のグレーゾーンにいる人たちが、自分で自分を立て直すスキルや習慣を持っていない。これが、いま日本でいちばん大きな問題だと考えています。

そのセルフケアを、私は「戦略的再起動」と呼んでいます。
このシリーズでは、戦略的再起動とは何か、なぜ今これが必要なのか、どうやって日々実践するのかを5回に分けて書いていきます。
第1話となる本記事のテーマは1つ。「なぜ私たちは、休めなくなったのか」です。医療では救えない領域で疲弊する、私たちのための話です。

■ 1. 「最近疲れてて」が、挨拶になった
ここ数年、まわりの人と話していて、よく聞く言葉があります。「最近、疲れてて」「ちょっと余裕がなくて」「眠れてないかも」。業種も役職も様々で、まるで天気の話をするように、口を揃えてそう言う。違和感がないくらい、よくある日常の会話になっている気がします。
ただ、よく観察してみると、こういう人たちは、別に病気ではありません。仕事に行けないわけでもない。家事もしている。SNSも見ている。傍から見れば、いつも通りに見える。ただ、内側では何かが擦り切れている。本人もそのことに気づいてはいるけれど、「病院に行くほどでもないし」と思って、放っておいてしまう。これが、いま日本でいちばん多い「疲労」のかたちだと思います。グレーゾーンの疲労です。
私の周りでも、この数年で「グレーゾーンから黒に転じた人」を何人も見ました。一人は、新卒で入社した真面目な性格の女性でした。誰よりも早く出社して、誰よりも遅くまで残って、人に頼るのが苦手で、もくもくと努力していた。それがある日突然、退職しました。もう一人は、同期でした。成果をうまく出せず、誰にも相談できないまま、退社していきました。さらにもう一人の先輩は、仕事量が雪だるま式に増えていき、ある朝会社に来なくなり、そのまま休職に入りました。いずれの人も、病院に行って診断名がつく前に、静かにいなくなっていきました。
このグレーゾーンが本格的に黒に転じた瞬間、人はある日突然、会社に来なくなります。その時にはもう、回復まで数ヶ月単位の話になります。本人のキャリアも、ご家族の生活も、会社の業務も、まるごと止まる。私たちが解くべき問題は、「黒に転じた人をどう救うか」ではありません。黒に転じる前の、巨大なグレーゾーンをどう薄くしていくか。これが大きな問題です。

■ 2. 医療では救えない領域がある
メンタルヘルスの領域は、長らく医療が中心になって支えてきました。心療内科や精神科の先生方が、薬物療法や認知行動療法を駆使して、数えきれない人を救ってきました。これは尊い仕事です。ただ、医療には構造上、得意な領域と苦手な領域があります。得意なのは「治療」。明確な症状が出ている人を、専門知識と科学的根拠で治療する。逆に現状の仕組みにおいて相対的に苦手とされるのが「予防」です。グレーゾーンにいて、症状が薄い人たちに「こういう過ごし方を」と継続的に伴走することは、保険診療の枠組みではほとんど成立しません。つまり、いま日本で最も人数が多いグレーゾーンの人たちは、制度のあいだに落ちている。誰も継続的に手を差し伸べる人がいない。
放っておけばどうなるか。グレーゾーンの一定割合が、毎年、黒に転じます。休職や退職に至り、キャリアが寸断される。完全に戻ってこられる人はその一部です。戻れなかった人たちは、社会保障に長く頼ることになる。これが何百万人単位で起き続けた先に何があるか。日本の労働人口は溶け、生産性は下がり、税収は減り、それでも福祉の支出は増え続け、医療と社会保障の制度設計そのものが立ち行かなくなる。極端な話ではなく、これは静かに、すでに始まっている話ではないでしょうか。
私はこれを医療の責任にするつもりは全くありません。医療はもう十分にやってくれている。問題は、医療の手前にある巨大な空白を、誰が埋めるのかということです。その空白を埋めるスキルや習慣として、私は戦略的再起動という概念を提唱したいです。

■ 3. なぜ、私たちは休めなくなったのか
そもそも、なぜこれほど多くの日本人が、自分のメンテナンスをうまくできなくなったのでしょうか。私の考えは4つあります。

① 判断疲れ。人間は、朝から晩までずっと判断し続けられる生き物ではありません。仕事の判断、家庭の判断、買い物の判断…。1日の終わりには、自分のために何かを選ぶ余力が、ほぼ残っていない。「今夜どうやって自分を回復させるか」を考えるためには、判断のエネルギーが必要です。ところがそのエネルギーが、夜の時点でゼロになっている。だから、なんとなくスマホを見て、なんとなくお酒を飲んで、なんとなく寝落ちする。休んでいる気がしないのは、当然です。回復のための判断をしていないからです。

② 選択肢が多すぎる。SNSを開けば、「最高の休み方」の正解がいくらでも流れてきます。サウナ、温泉、瞑想、断捨離、推し活、ヨガ、ジャーナリング、デジタルデトックス。どれも素晴らしい。ただ、選択肢が多すぎると、人は選べなくなります。「あれもこれもよさそうだ」と検討しているうちに、結局なにもしないまま週末が終わる。情報が増えるほど、私たちは行動しなくなっていく。これは皮肉な話ですが、いまの日本人の日常そのものです。

③ 「いい人」でいなければならない。日本人は、自分に厳しい人がとても多い、と私は感じます。期待を裏切らない人、責任を果たす人、感謝される人、できる人、いい人。そうあろうとする気持ち自体は、社会を支える美徳でもあります。ただ、その水準が高すぎると、自分のメンテナンスは「優先順位の一番下」になります。「自分が休んだら誰かに迷惑がかかる」「もう少し頑張れば乗り切れる」「みんな同じくらい大変だから」。このどれかを言うような人は、ほぼ全員、頑張りすぎています。けれど、その自覚が本人にもない。気づいた時にはもう、グレーゾーンにいます。

④ 旅行が「疲れに行く行為」になっている。最後に、これは私自身の率直な違和感です。日本人の休日の旅行は、ほぼ全員が同じ日に、同じ場所に行こうとする設計になっています。混雑する連休に、混雑する高速道路に乗って、混雑するテーマパークや観光地に行き、混雑するお店で食事をして帰ってくる。これは、整いに行っているのではなく、疲れに行っています。加えて、宿泊先の旅館やホテルは、家よりも音が気になったり、枕が合わなかったりして、寝つけないことが少なくありません。この話は第4話で詳しく書きます。

■ 4. 戦略的再起動という、新しい概念
ここまでの整理を踏まえて、このシリーズの中核となる概念を定義します。戦略的再起動とは、意思や根性ではなく、環境と仕組みによって、自分を整える技術です。3つの言葉に分けて説明します。「戦略的」は、偶然や勢いではなく、自分の状態を観察し、設計して行うこと。「再」は、初期化ではなく起動し直すだけだということ。「起動」は、いまの自分のOSを動かし直すこと。生まれ変わる必要も、別人になる必要もありません。自分のままで、もう一度動けるようにする。

■ 5. 「戦略的再起動」に、私がたどり着くまで
私はもともと飲食業からキャリアをスタートして、その後にカスタマーサポート職、マーケティング職、プロダクトマネージャーなど業界をまたいで4回ほど転職をしてきました。Tabilo(タビロー)というこのアプリは、医療業界で働きながら、副業として立ち上げています。
ここで、本稿の主張に関わる話を1つしておきます。私は心療内科のオンライン診療サービスのプロダクトマネージャーとして、医療の現場を内側から見てきました。そこで実感したのは、医療が本気で向き合えるのは、すでに症状が出ている人たちか、その傾向があると自己認知できた人たちだということです。これは医療の限界ではなく、構造上そうなっている、ということです。保険診療は治療のための制度であって、グレーゾーンにいる人にずっと伴走するための制度ではありません。私はその現場で、医療の手前にある巨大なグレーゾーンに対して、医療以外の誰かが、医療以外の方法で支える仕組みを作らないと、この国はもうもたないかもしれない、と考えるようになりました。それがTabiloというサービスを立ち上げた動機の一つです。
思い返すと、私のキャリアの中でも、同じパターンが繰り返されていました。頑張る。集中する。腰が痛くなる。肩が凝る。続ける。ある時、急にやる気がなくなる。意思や根性で乗り切ろうとして、最後は身体に出る。これを何回もやりました。何回もやって、ようやく気づきました。意思だけでは、自分を維持できない。逆に、調子よく回っていた時期を振り返ると、共通点がありました。例えば合間に近所のカフェに移動して、コーヒーを1杯飲みながら、別の角度から物事を眺めることができていた時期、うまくセルフケアができていた時期です。あるいは、思い切って職場ごと変えてしまった直後のしばらくの期間です。私自身がうまく動けていない状態から良くなるためには、毎回、環境と仕組みのほうを変えていました。意思だけで乗り切れていたわけではなかったのです。

■ 6. 本シリーズについて
いま日本人の多くは、医療には頼れない領域で静かに疲弊している。これまでバラバラに存在していた自分を立て直すためのセルフケアの知恵を、一つの体系として提示するのが戦略的再起動です。
第2話では、戦略的再起動を支える「3つの原則」を提示します。意思や根性に頼らずに、自分というシステムをどう運用するか。寝る前の習慣で、グレーゾーンから抜け出すための具体的な道筋を書きます。
第3話では、その原則を日々実践するための4つのレベルのステップ設計について、第4話では、戦略的再起動の肝となる「旅」が、いまの日本ではなぜ成立しづらいのかと、その再定義。そして第5話では、そのすべてを社会に実装するために作ったTabiloというアプリの話を書きます。
5話を通して読み終える頃には、自分を再起動するスキル・習慣を持つということが、ふわっとしたウェルネス文脈の話ではなく、これからの日本を支える、ひとりひとりが健やかに生きるために必須のセルフケアの話だと感じていただけるはずです。能力や性格の問題ではなく、そのスキルや習慣について真剣に考える機会がこれまでなかっただけだと考えています。第2話から具体的な話を書いていきたいと思います。

▶各回の記事へのリンク
第2話:https://note.com/takehiro_sumida/n/n9dcb62009e51
第3話:https://note.com/takehiro_sumida/n/nddac5655b890
第4話:https://note.com/takehiro_sumida/n/n6779080388d7
第5話:https://note.com/takehiro_sumida/n/n271a9476d83a

▶ Tabilo(iOS/Android):https://www.tabilo.jp/lp-01

■ 著者:角田岳大(すみだたけひろ)
飲食業 → 大手通信事業者コールセンター → 宅配クリーニングサービス(CSMgr/PMM)→ 心療内科オンライン診療サービス(PdM)と、業界をまたいで転職。旅行業の登録資格「国内旅行業務取扱管理者」を保有。
2026年3月、コードを書いた経験ゼロからAIと1,000時間で、iOS/Androidアプリ「Tabilo(タビロー)」を副業でリリース。リリース後のPR記事は62メディアに転載。医療業界の内側で「医療では救えない領域で疲弊する人」へのサポートの必要性を感じてきた当事者として、日本人のための新しいセルフケア体系「戦略的再起動」を提唱している。医療と旅行、二つの業界の知見をひとつの体系にまとめている試みは、日本でも例が少ない。

X:@TakehiroSumida
Mail:sumida@tabilo.co.jp
Tabilo(iOS/Android):https://www.tabilo.jp/lp-01

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