組織の歪みは、なぜミドルマネージャーに集中するのか──ミドルマネジメント不全から考える、成長組織の壁 (2)
組織が成長すると、あるタイミングからミドルマネジメント不全が表面化します。経営の意図が現場に伝わらない。評価への不満が増える。メンバー育成が進まない。部門間の連携が悪くなる。意思決定のスピードが落ちる。
こうした状況を「マネージャー個人の能力不足」とだけ捉えると、問題の本質を見誤ることがあります。マネージャーの課題に見えているものの中に、マネージャーだけでは解決できない課題も含まれているからです。
前稿「組織運営が難しくなったのは社員が増えたからではない」では、組織運営が難しくなる背景を社員数の増加ではなく意思決定機構の変化として考えました。本稿では、その変化がミドルマネジメント不全として表面化する局面に焦点を当て、成長企業の「組織の壁」を掘り下げます。
「関係性の問題」として表面化する
ミドルマネジメント不全が起きるとき、「関係性の問題」として表面化することが多いです。マネージャーとメンバーの関係がうまくいっていない。1on1が機能しない。フィードバックが伝わらない。メンバーが上司に本音を言えていない。評価への納得感が低い。
あるいは、マネージャーとその上司との関係に問題があることもあります。方針の理解やすり合わせが不十分である。期待役割が曖昧なまま降りてきている。相談しても支援が得られず、マネージャーが孤立している。
さらに、人と人の関係だけでなく、組織間の関係性として現れることもあります。責任範囲が曖昧になる。部門間で押し付け合いが起きる。本来は同じ事業目標を追っているはずなのに、見ている景色がずれていく。
こうした問題は現場で分かりやすく表面化します。だからこそ、「あのマネージャーのコミュニケーションが弱い」「部門長同士の連携が足りない」と捉えられやすい。しかし、多くの場合、その症状の奥に、別の課題が重なっています。
組織課題は複合的である
たとえば、最初は「マネージャーとメンバーの関係性が悪い」という問題に見えたとします。しかし、話を聞いていくと、マネージャーの役割が明確でない。評価制度が現場の実態に合っておらず、評価基準も曖昧である。意思決定プロセスが不明瞭で、誰がどこまで決めてよいのか分からない。業務量が過剰で、メンバーもマネージャーも疲弊している。経営への信頼が低下し、現場が方針を前向きに受け止められなくなっている。こうした課題が、同時に存在していることがあります。
私の経験上、多くの組織課題は三つから四つの課題が重なり合って存在しています。関係性の問題に見えて、権限や役割設定の問題がある。コミュニケーションの問題に見えて、意思決定プロセスの問題がある。マネージャーの力量不足に見えて、制度や環境が機能していない。現場の不満に見えて、経営と現場の信頼関係が揺らいでいる。
だから、組織課題の解決は施策から始めてはならないと考えます。まず、その組織で何が起こっているのか。それはなぜ起こっているのか。複数の課題が、どのように重なり合っているのか。マネージャーが向き合うべき問題は何か。経営が解くべき問題は何か。この見立てから始める必要があります。
経営と現場をつなぐ結節点
ミドルマネージャーは、単なる部下管理者ではありません。経営と現場をつなぐ結節点です。
経営や上位組織で決定された戦略や方針を、現場の業務に分解する。それを具体的な目標や役割に落とし込み、メンバーにアサインする。現場で起きている違和感や課題を、上位組織や経営にフィードバックする。組織と組織をつなぎ、部門間の連携を促す。
さらに、チームが進むべきゴールを示し、そこに至る戦略を考える。メンバーの強みや状況を踏まえ、フォーメーションを組む。日々の仕事を通じてメンバーを導き、必要なフィードバックを行う。成果や行動を公正に評価する。
成長企業において、経営者がすべての現場を直接見ることはできません。経営の意図を現場の行動に変え、現場の現実を経営の意思決定に戻すには、ミドルマネジメントが機能している必要があります。ミドルマネジメントは、組織の実行力を支える極めて重要な経営機能です。
組織課題を峻別する
ここで重要なのは、マネージャーが向き合うべき課題と、経営が向き合うべき課題を峻別することです。
もちろん、マネージャー自身が高めるべきスキルはあります。目標設定、業務アサイン、1on1、フィードバック、評価、チームビルディング。これらは経験を積み、学習し、実践を通じて磨いていく必要があります。
一方で、マネージャーだけでは解けない課題もあります。役割定義が曖昧であること。評価制度や評価基準が不明瞭であること。意思決定権限が設計されていないこと。業務量や人員配置が適切でないこと。経営と現場の信頼関係が損なわれていること。
これらは、現場のマネージャーの努力だけでは解決できません。それにもかかわらず、組織はしばしば、マネージャーに解けない問題まで、マネージャーの問題として扱ってしまいます。
「もっとリーダーシップを発揮してほしい」「もっとメンバーと向き合ってほしい」「もっと経営目線を持ってほしい」。その言葉自体は間違っていないかもしれません。しかし、構造課題を放置したまま、マネージャーの努力に依存すれば、組織はさらに歪みます。そして、責任感の強いマネージャーから疲弊していきます。
組織課題を引き起こしている構造を見立てる
私が組織課題に関わるときに大事にしているのは、解決策を先に決めないことです。まず、マネージャー自身を含め、対象組織のメンバーに話を聞く。現場で起きている事象を集める。それらを構造的に整理する。そのうえで、影響度の大きい課題は何か。どこから手を打つべきか。それはマネージャーが扱う課題か、経営が解くべき課題かを考えます。
マネージャーのスキル不足が主因であれば、研修やトレーニングは有効です。評価基準が曖昧なのであれば、制度や期待役割の設計が先かもしれません。意思決定プロセスが不明瞭なのであれば、会議体や権限設計を見直す必要があります。業務量が過剰なのであれば、組織設計やリソース配分の問題です。経営への信頼が低下しているのであれば、経営と現場の対話を再設計する必要があります。
組織課題は、人と人との関係や、組織の仕組みの中で起こります。だからこそ、経営から聞いた話だけで判断しない。マネージャーの言葉だけで判断しない。メンバーの不満だけで判断しない。誰か一人を原因にするのではなく、複数の課題が絡み合った構造として捉える必要があります。
組織課題は経営課題である
ミドルマネジメント不全は、人事課題にとどまりません。放置すれば、事業計画の未達、成長機会の損失、優秀人材の離職、採用力の低下、組織への信頼低下につながります。
戦略は、現場で実行されます。その現場を動かす結節点が、ミドルマネージャーです。だからこそ、ミドルマネジメントを機能させることは、単なるマネージャー育成ではなく、事業成長を支える経営課題です。その不全を、マネージャー個人の問題として片づけてはいけません。
成長企業の組織成長の壁は、多くの場合、ミドルマネジメント不全として表面化します。しかし、その不全をマネージャー個人の問題として片づけてはいけません。本当に、そのマネージャーの力不足なのか。それとも、マネージャーが力を発揮できない構造に置かれているのか。経営や人事が向き合うべきなのは、マネージャーを責めることではなく、組織で何が起きているのかを把握し、構造的に捉え、解くべき課題に手を打つことです。
マネージャーに解けない問題を、マネージャーの問題にしないこと。それが、成長企業が次のステージに進むために、経営と人事が向き合うべき重要な論点だと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。ここまで見てきたように、成長企業で起こる組織の歪みは、マネージャー個人の力量だけで説明できるものではありません。その背景には、事業の成長に伴って変化する組織構造や意思決定の仕組みがあります。
では、そのような組織課題を前にしたとき、経営や人事責任者は何から着手すべきなのでしょうか。研修や評価制度の見直しといった施策を考える前に、まず必要なのは「組織を正しく診ること」です。次回は、「組織課題は、なぜ構造で捉えなければならないのか」と題し、組織課題をどのように構造的に捉え、本質的な課題を見極めるのか、その考え方とプロセスについてお届けします。
成長企業の戦略人事を経営視点で考えるコラム「経営と人事のあいだ」を、今後も継続して発信していきます。
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