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組織課題は、なぜ構造で捉えなければならないのか──組織診断から考える、成長組織の壁 (3)

前稿『組織の歪みは、なぜミドルマネージャーに集中するのか』では、成長企業で起こる組織の歪みは、ミドルマネージャー個人の能力不足ではなく、組織構造の変化によって生じる経営課題であるとお伝えしました。では、その組織課題をどのように見つければよいのでしょう。

組織に問題が起きると、企業はすぐに施策を考えます。しかし、表面に現れた事象(症状)と、本当に解くべき組織課題は一致するとは限りません。症状だけを見て打ち手を選べば、問題の本質を外してしまいます。だからこそ、人事施策を考える前に、まず組織を正しく診る必要があります。

組織で語られる個別の事象をどのように構造化し、組織課題として可視化するのか。本稿では、私が実践する組織診断の考え方を述べます。




組織課題は、最初から組織課題として現れない

組織診断で最初に直面する難しさは、組織課題が分かりやすい形で存在しているわけではないことです。

実際のインタビューで語られるのは、「方針が現場まで伝わっていない」「部署によって評価の厳しさが違うように感じる」「マネージャーがプレイヤー業務で手いっぱいになっている」「隣の部門が何を考えているのか分からない」といった、個別の意見や認識です。

これらをそのまま課題として扱うと、打ち手も表面的になります。方針が伝わっていないから全社説明会を増やす。評価の厳しさが違うから評価基準を統一する。マネージャーが忙しいから管理職を増員する。部門間の連携が弱いから交流の場を設ける。こうした施策は、一見すると、それぞれの困りごとに対応しているように見えます。

しかし、本当に解くべき問題が、そこにあるとは限りません。必要なのは、個別の事象をそのまま受け取ることではなく、複数の事象に共通する背景や構造を読み解くことです。

組織診断とは、現場の声を集めることではありません。個別に語られた事象を構造化し、組織として解くべき課題へ変換することです。


まず、キーマンの認識から組織の全体像を捉える

組織診断を行う際は、最初から大勢の社員を対象にしたサーベイを展開することはありません。まずは、経営者、事業責任者、マネージャーなど、組織の状態を異なる立場から見ているキーマンにインタビューを行います。

経営からは、事業戦略や組織に対する期待が語られます。事業責任者からは、戦略を実行するうえでの組織上の制約が見えてきます。マネージャーからは、経営と現場の間で生じている摩擦や、日々の組織運営の難しさが語られます。同じ事象について聞いていても、立場によって見えている景色は異なります。それぞれの立場から語られた認識の違いそのものが、組織の状態を表します。

よくあるケースですが、経営は「方針を十分に伝えている」と考えていても、現場からは「何を目指しているのか分からない」という意見が出ます。そこには、方針を現場の業務や判断基準へ翻訳する機能が不足している、という構造的な課題が存在する可能性があります。

キーマンインタビューを通して、こうした認識の違いや接続の切れ目を丁寧に捉えていきます。


事象を共通の観点で構造化する

ただインタビューを重ねても、組織の全体像は見えてきません。人によって話すテーマも、使う言葉も、問題意識の粒度も異なるからです。

そこで私は、インタビューで得られたコメントを、そのまま並べることはしません。個々の事象を、互いに比較し、統合できる抽象度まで引き上げたうえで、組織を見るための共通の観点に沿って構造化します。

構造化する観点には、経営方針や事業戦略、業務プロセスや組織構造、人員や予算などのリソース、カルチャーやマネジメントなどのソフト面、オフィスやツールなどのハード面などがあります。異なる言葉や粒度で語られた事象を、こうした共通の観点に置き直すことで、組織全体を同じ地図の上で捉えられるようにします。ここで大切なのは、単に発言を分類することではありません。

例えば、ある人が「マネージャーから方針が示されない」と話し、別の人が「本部長とマネージャーの会話が少ない」と話し、さらに別の人が「マネージャーによって判断がばらつく」と話したとします。これらは、表面上は異なるコメントです。しかし、背景には、ミドルマネジメントが経営方針を理解し、自部門の方針へ翻訳し、現場を導く機能が弱いという共通の構造があるかもしれません。

つまり、構造化とは、課題を増やす作業ではなく、個別の事象を統合し、経営や事業責任者が本当に向き合うべき論点へ絞り込む作業です。この作業を通じて初めて、「ミドルマネジメントのリーダーシップ不全」といった、経営として議論すべき組織課題が見えてきます。私はこれを、事象の構造化と呼んでいます。


「症状」と「組織課題」を混同しない

構造化の過程で、特に注意していることがあります。それは、現場で語られた言葉を、そのまま課題名にしないことです。

例えば、「評価に納得できない」という複数の声があったとします。これをすぐに「評価制度の問題」と結論づけるのは早計です。詳しく見ていくと、期初の目標設定が曖昧である、上司によって目標の難易度が異なる、評価の決定プロセスが不明瞭である、評価結果に対するフィードバックが不足しているといった、異なる事象が含まれているかもしれません。

これらは、いずれも「評価への不満」として表面化します。しかし、その背景には、目標設定や評価基準、運用、マネジメント、さらには会社が社員に期待する役割の定義まで、異なる問題が存在する可能性があります。

組織診断とは、社員の不満を一覧化することではありません。目に見える症状を手がかりに、その背後にある構造を読み解くことです。


重要度と緊急度の二軸で「課題の重み」を捉える

組織診断では、どの課題が何人から語られたかも重要な情報です。ただし、言及した人数だけで優先順位を決めることはできません。多くの人が感じている問題であっても、事業への影響は限定的かもしれません。反対に、少数の人しか認識していなくても、放置すれば事業や組織の存続に大きな影響を与える問題もあります。

そこで、インタビューでは、それぞれの事象について重要度と緊急度も確認します。重要度とは、その問題を解決したときに、事業や組織へどれほど大きなインパクトがあるか。緊急度とは、どれほど早く対応しなければならないかを表します。

この二軸を用いることで、組織課題は四つに整理できます。重要度も緊急度も高いものは、最優先で対応すべき課題です。重要度は低くても緊急度が高いものは、早期に対処すべき課題です。反対に、重要度は高いものの緊急度が低いものは、中長期的に取り組むべき課題となります。ただし、先送りを続けると、より複雑で大きな課題へ発展する可能性があります。そのため、継続的に状態を観察し、実行すべきタイミングを見逃さないことが重要です。そして、重要度も緊急度も低い組織課題は着手を見送るべきです。

もちろん、数値が自動的に正解を示すわけではありません。重要度や緊急度も、インタビュー対象者の認識に基づくものです。それでも、誰がどの問題をどれほど重く捉えているかを可視化することで、感覚だけに頼らず、組織課題の優先順位を検討できるようになります。


組織診断の最終成果物は、「組織課題の地図」

組織診断のアウトプットは、個別に語られた事象を組織課題として一覧化したものです。そこでは、どのような組織課題が存在するのか、どの事象を統合してその課題と捉えたのか、何人がその課題を認識しているのか、重要度と緊急度はどの程度なのか、さらに他の課題とどのような関係があるのかを明らかにします。

重要なのは、課題を並べることではありません。課題同士のつながりを捉えることです。例えば、目標設定の曖昧さは、評価制度だけの問題とは限りません。組織の目指す方向が明確でないことや、経営とマネージャーの対話不足によって生じている可能性もあります。

一つひとつの課題を独立して見るのではなく、その関係を構造として捉える。こうして得られるのが、いわば「組織課題の地図」です。この地図をもとに、どの課題が他の問題を引き起こしているのか、何を優先して解くべきかを検討していきます。


必要に応じて、メンバー調査で仮説を確かめる

キーマンインタビューによって、組織課題に関する一定の仮説は見えてきます。しかし、キーマンが見ている組織と、メンバーが経験している組織が一致しているとは限りません。そのため、組織の規模や課題の性質に応じて、メンバーインタビューやサーベイを行い、仮説を検証します。

例えば、キーマンの間では「評価制度への不満」が大きな課題として認識されていても、メンバー調査では、評価制度そのものよりも、日常的なフィードバック不足の方が強く表れるかもしれません。

また、経営やマネージャーは「方針を伝えている」と考えていても、メンバーの多くは、自分の仕事と会社の戦略がどうつながっているかを理解できていないかもしれません。

キーマンインタビューで課題仮説を立て、必要に応じてメンバーの声や定量データで確かめる。最初から広く浅く情報を集めるのではなく、仮説を持って診断の解像度を高めていくことが重要です。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。組織診断によって可視化されるのは、組織にどのような課題があり、それらがどうつながっているかです。ただし、診断結果から自動的に「正しい施策」が導かれるわけではありません。何を最優先で解くべきかは、事業状況や組織フェーズによって変わります。

だからこそ、診断結果を経営や事業責任者と共有し、課題認識の妥当性や因果関係、事業戦略の実現を最も阻んでいるボトルネックを対話によって見極める必要があります。組織診断とは、経営に正解を渡すためのものではありません。組織で起きていることを構造として可視化し、経営と人事が同じ景色を見ながら意思決定するための共通言語をつくるものです。

そして、組織課題が見えただけでは、組織は変わりません。次回は、診断によって可視化した組織課題に対して、人事施策をデザインする方法について掘り下げて考察します。

成長企業の戦略人事を経営視点で考えるコラム「経営と人事のあいだ」を、今後も継続して発信していきます。

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※ ヘッダー画像とタイトルはAIを用いて作成しました。

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