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論文紹介 意思決定のスタイルは戦術的な勝敗を分ける要因となるのか?

戦場では迅速かつ正確な判断が、戦闘の勝敗を左右する要因となることは、歴史を通じて繰り返し示されてきました。スウェーデン国防大学の研究者ラース・ヘンオーカー(Lars Henåker)は、戦術的意思決定のスタイルが戦闘の勝敗に与える影響を検証する研究を行っており、ウォーゲームを用いた実験を行っています。

Henåker, L. (2022). Decision-making style and victory in battle—Is there a relation?. Comparative Strategy, 41(4), 415-436. https://doi.org/10.1080/01495933.2022.2087436

意思決定スタイル

まず、心理学において、意思決定のスタイルは個人が特定の状況で意思決定を行う際に見せる「習慣的な反応パターン」を意味します。これはパーソナリティ特性と区別される特性であり、特定の状況で繰り返し現れる行動の特性です。1995年に心理学者のScottとBruceが提案した一般的意思決定スタイル(General Decision-Making Style)検査は、個人の意思決定スタイルを5つのカテゴリーに分類しています。

  1. 合理型(Rational):合理型の人々は、情報を体系的に収集し、論理的に選択肢を評価します。問題解決を好み、時間をかけて慎重に判断を下す傾向があります。ただし、創造性、革新性に欠ける場合があり、計画を実行に移行させる能力が低いことがあります。このスタイルは、礼儀正しさや誠実さ、感情の安定性と関連しています。

  2. 直観型(Intuitive):直観型の人々は、情報の処理において細部に注目しつつも、体系的ではない方法で意思決定を行います。直観を信頼しており、創造性や革新性に優れています。問題解決を好み、楽観的で開放的な性格と関連しています。

  3. 依存型(Dependent):依存型の人々は、他者からの助言や指導を求める傾向があります。重要な意思決定を行う前に、他人に相談することを好みます。このスタイルは、創造性や革新性に欠ける場合があり、自己信頼感が低い傾向があります。社会的にオープンで建設的な性格を持つ一方、受動的で不安を感じやすい人もこのスタイルに該当します。

  4. 回避型(Avoidant):回避型の人々は、可能な限り意思決定を避ける傾向があります。意思決定者としての自信が不足しており、問題解決よりも問題を回避することを好みます。このスタイルは、積極性や計画性の欠如と関連しており、ストレスが高い環境では特に不利になる可能性があります。

  5. 自発型(Spontaneous):自発型の人々は、迅速に意思決定を行うことを好み、時間をかけずに判断を下します。このスタイルは直観型と類似しており、迅速な行動が求められる状況で有利に働くことがあります。ただし、衝動的な判断がリスクを伴う場合もあります。

検査では、25項目の質問から構成されたアンケートを通じて、回答者の意思決定スタイルを評価します。各質問に対して「全く当てはまらない(1点)」から「完全に当てはまる(5点)」までの5段階で回答し、その結果を集計して評価します。

戦術の理想的モデル

意思決定スタイルと現代の戦闘における戦術行動は関連していると考えられています。例えば、現代の戦場では次のような戦術行動を「理想モデル(Ideal Model)」としており、指揮官はその実践が求められています。

  1. バランスの取れた諸職種連合部隊(well-balanced combined force):多様な部隊を組み合わせ、機動的な攻撃や防御を可能にする配置を行います。敵の突破を防ぎつつ、奇襲攻撃を行うための準備を整えます。

  2. 積極的な偵察(aggressive reconnaissance):敵の動静を把握し、味方の活動を隠すため、積極的な偵察を行います。敵の偵察部隊を妨害し、情報収集を混乱させることが目的です。

  3. 機動(maneuver):敵と味方の強み・弱みを理解し、より迅速かつ効果的に行動します。機動戦は、数的に劣る部隊が優位な敵を倒すための鍵となります。

  4. 突破(breakthrough):敵陣地の縦深に侵入し、柔軟に計画を調整しながら戦機を活用します。

  5. テンポと奇襲(tempo and surprise):迅速な攻撃で敵の準備が整っていない部隊を攻撃し、予想外の方向から仕掛けます。特に、反応が遅い部隊や重要機能を持つ部隊(砲兵部隊や後方支援部隊など)と交戦します。

  6. 衝撃効果(shock):心理的・組織的な混乱を引き起こし、敵の抵抗を分断・抑制します。

  7. 組織的崩壊(organizational collapse):敵の組織全体を崩壊させ、戦闘力を完全に奪います。

このような理想的モデルを戦闘で適用するには、部隊を運用する指揮官が状況の推移に応じて頻繁に意思決定を実施する必要があります。そのため、強い時間制約やストレスがかかる環境では、指揮官の意思決定スタイルの種類によっては、こうした戦術行動を効果的に選択できなくなる場合があります。著者は意思決定を回避あるいは、他者に依存する意思決定スタイルを持つ人物であるほど、戦術能力が低下するという仮説を立てて研究を実施しました。

ウォーゲームの手法とその結果

著者は意思決定スタイルと戦術能力の関連をウォーゲームで調べています。このウォーゲームでは、104人の参加者(99人の将校と5人の研究者)を対象に、スウェーデン国防大学とスコーデ駐屯地で2時間にわたって実施しました。参加者の平均年齢は40歳で、軍隊で勤務した平均期間は18年でした。陸軍の軍人が中心ですが、空軍や海軍の士官も含まれており、階級別でみると少尉から大佐まで広く参加しています。

この研究では準実験的な研究デザインを採用しており、独立変数として意思決定スタイル、従属変数としてウォーゲームの勝利・敗北の程度を測定しました。回帰分析によって意思決定スタイルと勝敗の関係を分析しています。統制する交絡変数として戦術家としての自己評価、戦術家としての自己能力に対する態度、シナリオの現実性の評価、軍隊での勤務期間、参加者自身による勝利・敗北の評価以下の要素を考慮しています。

ウォーゲームのシナリオでは現代の地上戦を模擬し、味方の青軍(Blueland)と敵対する赤軍(Redland)の2つの仮想勢力が交戦しました。青軍は機械化歩兵大隊、偵察中隊、砲兵大隊で構成されており、敵の進攻を6時間以上遅らせ、敵に損失を与える任務を与えられています。赤軍は攻勢を遂行するため、より自由度が高くなっていますが、可能な限り多くの部隊を撃破し、目標を奪取することを目指します。

実施方法としては、コンピューター上でリアルタイムで進行する戦場環境を見ながら操作することで意思決定を測定しました。参加者の操作量(マウスクリック)は150回から250回に及んでおり、時間内で頻繁な意思決定が要求されました。ゲーム終了後、参加者は自身の勝利・敗北の程度とシナリオの現実性を評価しています。

研究の結果、意思決定スタイルが依存型であると、ウォーゲームにおける敗北する確率が有意に高まることが確認できました。多くの参加者が複数の意思決定スタイルを持っていましたが、戦術能力に意味のある影響を与えていたのは依存型のスコアの程度だけだったのです。著者は依存型と回避型の二つの特性が戦術能力の低さと関連すると予測していましたが、これは部分的にしか裏付けられませんでした。つまり、回避型は敗北と有意な関連を示さなかったのです。

依存型は現代の戦闘で不利に立たされやすい

なぜ回避型の参加者は敗北を回避できたのでしょうか。著者は依存型の個人は自分に対する信頼感が不足しているので、追いつめられても意思決定が下せないという傾向を示すが、回避型は時間上の制約に直面すると、回避的意思決定を制限できる可能性があると述べています。このことは、リーダーシップ開発において、依存型の人材に単独で意思決定を行う訓練を行う必要があることを示唆しています。こうした人材は指揮官ではなく、幕僚として任務を遂行するように補職すべきである可能性があるでしょう。

この研究は意思決定スタイルに注目したものですが、ノーマン・ディクソン(Norman Dixon)は軍隊から無能な指揮官が現れる制度的な原因として、権威主義的パーソナリティ特性を持つ軍人が平時の軍隊勤務では評価される傾向にあると主張したことがあります(指揮官の無能さを心理的に分析する『軍事的無能の心理学』(1976)の紹介)。権威主義的パーソナリティは、権威に対する従順性、服従性が強く、見慣れない状況で主体的に行動する際に困難を感じやすいとディクソンは考えていましたが、これはその人物の意思決定スタイルが依存型である場合に限定されるのかもしれません。

参考文献

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