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manatsunosaru
小説・自己中恋愛ラプソディ⑦
改めていわれて思い出した。別れて以降、どんどんふたりで会うことはなくなっていたのが、卒業式の式典が終わるとエリは雅史を呼び出した。
いわれるがままに付き合い、街をふたりでふらふら歩いた後、カフェに行って何を話すでもなく過ごした。けっこう長い時間一緒にいた割には内容などまるで覚えていないくらい、どうでもいい話をしたりしなかったりだった。
カフェを出てふたりが別れる場所まであと少し。これがふたりの最後の時間となることをエリは知っていた。
雅史の方はエリの思いなど知る由もない。引っ越しはもう少し先なので、今日が最後とも特に思っていなかった。ただかつてのように、「ついてこい」と言わんばかりにどんどん前へと歩くエリの少し後ろを追いかける。こうやってエリの横顔と後ろ姿を心ゆくまで見つめるのが好きだった。
いつもとひとつだけ違っていたのは、今日は卒業式のためレトロな矢絣の袴を着ていたこと。エリによく似合っている。ヒラヒラとはためく袖が蝶々のようだ。久しぶりにふたりきりのゆったりとした時間を味わうのが心地よく、永遠のように感じた。
すると突然エリが立ち止まって振り返った。ぶつかりそうになって立ち止まり驚く雅史の目をまっすぐエリは見つめたかと思うと、斜め下を向いて小さな口をきゅっと結んだ。
何かあった? と雅史が聞こうとする前に、エリは雅史のネクタイをつかんで引き寄せるとキスをした。
何の脈略もない上に乱暴で短いキス。
ただ唇を当てただけの不意打ちの事故のようなもので、ムードもなにもない。しかしエリが自分から雅史に対して好意を示した最初で最後の行為だった。キスの後も理由をいわないエリの気持ちが分からず喜んでいいのか分からないが、ほんのり甘い思い出だけがその後もずっと雅史の胸に残った。
