小説・ココイロ談義⑤
「ヒロくん、『なんかしんどい』だって。で、そのまま別れ話になって。色の話をしただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう──」
「恋はピンクって」海月は鼻先で笑った。
「普通でしょ」むっとする晴子。
「ピンクって、甘い感じ?」
海月が本を置き勢いよく立ちあがって背伸びをすると、艶やかな髪に太陽の光が反射する。
「そうだね……ずっと憧れてた人がオッケーしてくれたでしょ。もうそれだけで超幸せじゃん。毎日、会うのもラインするのも楽しみすぎるし。私は毎日、甘い気持ちだったかな」
「でもそれが藤木にとって変な緑やったんやろ? かみ合ってないやん」
「そういうことなのかな。でも意味わかんない」
また気持ちが沈みかけたが、思い直したかのように顔を上げると、目元は悲しげなまま、やや眉を少し吊り上げた。「言ってくれたらいいと思わない? 緑になる前に」
「振られるまで気づかなかったわけ?」
海月は見透かすような目でちらりと晴子を見た。
晴子はたじろいた。
「何も感じてないことはなかった、かな……」心当たりがなくはなかったのだ。
「本当は分かってたんでしょ、藤木の心が離れていってるの。気づかないフリしてピンクに浸ってたんじゃない」
「そんなこと……」反論するが弱弱しい。
海月は黙ったまま、地面に落ちている細い木の枝を取ると、よく分からない模様を地面に描いて遊びだした。
「ううん、海月のいう通り。すごく怖かった。私と同じようにヒロくんは私といることを楽しんでいないこと、分かってたの。聞きたかったけど聞けなかった。その瞬間に全てが終わりそうで。ここ最近、ヒロくんは別れを切り出すタイミングを計ってた。ごまかしながらヒロくんの気持ちを取り戻そうと思って必死だったんだ。だから『ついに来た』って本当は思った」
晴子もまた、海月の手元をぼんやり見ていた。
「そう」
「海月はどう思う?ヒロくん」
「藤木? どうも何も……次探したら?」絵を描きながら返事をした。
「ヒロくんさ、海月の事が好きだったんじゃないのかなって」
海月の手にしていた細い枝がポキリと折れた。
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