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「地獄に堕ちた勇者ども」(原題:La caduta degli dei(神々の没落)、英題:The Damned(呪われた者たち))/ ルキノ・ヴィスコンティ監督作品(1969)

僕がこの映画を観た”記憶“は2度。子供の時、テレビで。そして、日本でヴィスコンティが話題だった70年代後半頃。
2度目の時は、イギリスでパンク、ニューウェーブが全盛で、ピストルズのシド・ヴィシャスやクラッシュの前身バンドがロンドンSS(=ナチス親衛隊)がナチスの制服やハーゲンクロイツ(鉤十字)を過激さのモチーフとして、ファッションとしてまとっていたり、イギリスの音楽の流れが、波及したドイツではノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ドイツの新しい波)という動きの中から、ディ・クルップス(鉄を叩いて(メタル・パーカッション)演奏するバンドで、クルップ家=ナチスに加担したドイツの鉄鋼財閥のことでこの映画のエッセンベルク家はここからきている)というバンド出てきました。加えてパンク、ニュー・ウェーブは、政治や社会への不満や不安から出てきたという背景もあり、同じ理由でヨーロッパでは、ネオ・ナチが台頭していました。もちろんイギリスのパンクバンド ダムド(The Damned)のデビューアルバムの邦題「地獄に落ちら野郎ども」は、この映画から取られていることはよく知られています。そんな戦争を知らない世代が、ナチスの暴力的かつファッションとして“発見”された時代でした。

シド・ヴィシャス
ディ・クルップス “Steelworks Symphony”


ダムドのデビュー・アルバム国内盤


しかしながら、ヘルムート・バーガーの女装による「嘆きの天使」、イングリット・チューリンの蒼白の化粧やSAの乱痴気騒ぎなど印象的な映像とナチスが政権を奪取し、戦争へ向かう中、その大きな影に吞み込まれいく鉄鋼財閥一家の没落というストーリーの大枠はわかるものの、登場人物も多く~一族の話で誰かの姪とか甥の息子とか複雑かつそれぞれに象徴的かつ時代背景を含めたキャラクターが与えられ、エッセンベック家とSS(親衛隊)のアッシェンバッハなどドイツ名なので憶えにくい~、自分の中では消化不良でした。

ヘルムート・バーガー
「嘆きの天使」マレーネ・デートリッヒ


イングリット・チューリン、ダーク・ボガード


そこで今回は、観る前に二つの予習をすることにしました。
一つ目は、ナチスが台頭してきた時代背景とナチスの変遷。
冒頭、ニュースとして伝わる国会議事堂焼き討ち事件(1993年2月)は、共産主義者が放火したと伝えられていますが、ワイマール共和国末期、第一次世界大戦後の経済不安、失業、インフレにより共産党はナチスに次ぐ勢力であり、ソ連の影響力も強まり共産主義への期待が高まりとともに、それは資本家たちにとっては恐怖だったこと。そんな背景をナチスは政治利用し、共産党の廃絶と基本的人権を停止する大統領令を発令し、言論・集会の自由を制限し、ナチス一党独裁へ向かく契機となった事件で、ナチスの自作自演という説もある。
また、1933年5月ベルリン・オペラ広場やドイツ全土の大学都市でジークムント・フロイト(精神分析学).ハインリヒ・マン(民主主義的作家),エーリッヒ・ケストナー(児童文学作家),カール・マルクス(共産主義思想),ヘレン・ケラー(人道主義者)らの名前を唱えて、本が燃やされるわけですが、ナチスの思想に反する「非ドイツ的」な書籍を排除し、文化の純化を図る目的で、ユダヤ人作家や左翼思想家の著作を炎に投じられた。マルティン・ルターの宗教改革を意識した演出で儀式的に行われた。
そして、湖畔でのSA(ナチス突撃隊)乱痴気騒ぎ後の未明に、SS(ナチス親衛隊)が急襲する「長いナイフの夜」(1934年6月)。褐色のシャツを着用し、元々集会の警備などを行っていたSA(突撃隊)が勢力を拡大、国軍にとって代わろうとしていた野望があり、その急進性を警戒した軍部・保守層・財界の意を汲みヒトラーが彼個人の護衛部隊であった忠誠者たちで、黒のシャツを着用したヒムラー率いるSS(ナチス親衛隊)を使い粛清させた事件で、その後、SSは、ゲシュタポ(秘密警察)や強制収容所の運営などを担い、国家の暴力装置となる。
そんな度重なる事件が、ナチスの影がより濃くエッセンベルク家の人たちの精神や行動にも影響が及ぼすことが描かれていることが今回よくわかりました。

SA(突撃隊)の乱痴気騒ぎ
左 SS(親衛隊)、右 SA(突撃隊)


もう一つの予習は、エッセンベック家の人たちの家族の中での関係、ヴィスコンティが各々のキャラクターに与えた役割、そして、役者との符合つけ、そしてドイツ名を覚えること。
SS側、SA側だけではなく、自由主義者 そして純粋に芸術を愛する者もいれば、未亡人と家族外からのし上がった雇われ幹部との愛情、母から十分な愛情を得られなかった息子の倒錯など時代や政治に飲み込まれながら、家族関係のねじれが精神に影響を及ぼすものなど二つの軸が複雑に絡み合いナチスの巨大な力の中、一家が悲劇への進む壮大なストーリーを追うためには重要でした。

エッセンベック家当主の誕生パーティ


裏切り、陰謀、乱痴気騒ぎに 近親相関、同性愛、幼女強姦、大量虐殺という人間の持つ“背徳”のオンパレードが“甘美”な映像な映像で描かれるすごい映画ですが、やはり、オープニングの出演者のクレジットに中で「家族の肖像」同様、ヘルムート・バーガーだけは、“Introducing “(新しいスターを皆さんにご紹介します)と扱われるわけですが、「嘆きの天使」を女装での女装、家族の晩餐での印象的な眉の化粧、ダブルのヨーロピアンスーツの着こなし、「近親相関」「幼女強姦」を行い、母親に毒薬を飲ませ、SS(親衛隊)の制服を完璧に着こなし、敬礼をする(演じさせた)彼に、”甘美な陶酔“を感じていたのは、ヴィスコンティ本人ではないかと思いました。



ヘルムート・バーガーとルキノ・ビスコンティ


また、SSの制服を着るもの結婚式の後、自死に追い込まれる役を演じたダーク・ボガートと強制収容所に送られ、亡くなった自由主義者の妻を演じたシャーロット・ランプリングが、リリアーナ・カバーニ監督の「愛の嵐」でナチスの将校役と収容所に送られたユダヤ人少女役として死に至る禁断の愛を演じることになるわけです。

またこの映画のシナリオや演出には、シェイクスピア「マクベス」、トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」やドストエフスキー「悪霊」などの文学やワグナーのオペラからの引用があるといわれているので、次回見る前にはこの辺も予習して臨もうと思います。


ポスター
パンフレット
サウンド・トラック


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