カラスと星屑の指輪💍
小学三年生の結人は、人見知りでなかなか友達ができず、いつも公園で絵を描いていた。
公園では子どもたちがサッカーをしたり、カードゲームをしたりして遊んでいる。
けれど結人は輪に入れない。
子どもたちは絵ばかり描いている結人を「変わり者」と呼んだ。
そんな様子を、一羽のカラスが公園の木の上からじっと見ていた。
ある朝、学校へ向かう途中の歩道に、そのカラスが立っていた。
ただそこにいるだけなのに、人々は「不気味だ」と顔をしかめ、邪魔者のように追い払う。
結人は思った。
カラスも、僕と同じなんだ。
その時、誰かが石を投げた。
驚いたカラスは鋭く鳴きながら飛び去り、一枚の黒い羽だけが結人の足元に落ちた。
結人はそれを手提げ鞄にしまった。
いつものように公園で絵を描いていると、カラスがやって来た。
怖くはなかった。
結人は静かに鉛筆を走らせ、カラスの絵を描き始めた。
カラスもまた、動かずに結人のそばへ立っていた。
その日から結人は、カラスの絵ばかり描くようになった。
周りの子どもたちは、ますます結人を気味悪がった。
八月のある夜。
結人は両親と祖父母の墓参りへ出かけた。
小高い丘の上にある墓地は、毎年ペルセウス座流星群を見る特別な場所だった。
結人は祖母の好きだった白いトルコ桔梗と水羊羹を供える。
父は少し長めの線香に火をつけた。
金木犀の香りが夜風に溶けていく。
母はハンドバッグから小さな赤い巾着袋を取り出した。
その中には、祖母から三代に渡って受け継がれてきた指輪が入っている。
母が右手の薬指にはめると、流星群の光を映したように指輪がきらめいた。
夜空いっぱいに星が流れ、まるで天の川が砕け散って降ってくるようだった。
その光景を、墓地近くの木で一羽のカラスが見ていた。
そしてもう一人。
墓地に忍び込んでいた男も。
借金まみれで、その日暮らしをしていた男は、お供え物を盗みに来ていた。
墓石の陰に隠れた男は、母の指輪の輝きを見て息を呑む。
あれを売れば、しばらく食べていける。
男は結人たちの後を追った。
しかし車には追いつけない。
それでも諦めきれなかった男は墓前へ戻り、そこに置かれていた結人の手紙を見つけた。
差出人には、住所と名前。
男は笑った。
数日後。
男は留守を狙って家に忍び込み、仏壇から赤い巾着袋を盗み出した。
だが中に入っていた指輪を見て顔を歪める。
宝石はついていない。
傷だらけの古い指輪だった。
あんなに輝いて見えたのに。
男は怒りのまま、地面へ叩きつけようとした。
その瞬間だった。
頭上から黒い影が舞い降りる。
カラスだ。
ギャアッ、と鋭く鳴きながら男の頭へ止まる。
驚いた男は尻もちをついた。
そこへ、買い物帰りの結人と母が通りかかった。
カラスは男の手から赤い巾着袋をくちばしで奪うと、結人の足元へ落とした。
結人は震える手で袋を開く。
中には、あの指輪が入っていた。
母は思わず泣き崩れた。
その時だった。
夕暮れの薄闇の中で、傷だらけのはずの指輪が、ふっと星屑みたいに輝いた。
結人は空を見上げる。
電線の上に、カラスがいた。
黒い瞳は静かで、どこか誇らしげだった。
「ありがとう」
結人が小さく呟くと、カラスは一度だけ鳴き、夜空へ飛び立った。
その羽は、流れ星の消えたあとをなぞるみたいに、静かな夏の空へ溶けていった。
この物語はベンのテーマをモチーフに、『つなぐ。』、『星の指輪』の続編。
