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なりすまし屋 駅前交番の名無しさん#1

1.「観察者」の視点:疑惑と真相

駅前の交番といえば、いつも「ただいま巡回中」の札が虚しく揺れている場所だった。急ぎの方は備え付けの電話で連絡を、という事務的な案内が日常で、そこは実体を持たない「交番という名の公共の記号」に過ぎなかったのだ。

異変に気づいたのは、先週の火曜日あたりからだ。  
交番の前に、一人の若い警察官が立っている。五月晴れの空よりもさらに抜けるような、爽やかな笑顔を浮かべて。

彼は驚くほど職務に熱心だった。重い荷物を持つ老婆がいれば駆け寄り、道に迷った風の観光客には地図を広げて丁寧に場所を説明する。子供が通りかかれば、優しく手を振る。その立ち居振る舞いは、テレビドラマの中の「理想のお巡りさん」をそのまま現実へ持ってきたかのようだった。

だが、そのあまりの「完成度」に、私は言いようのないうさん臭さを感じていた。  

本物の警察官なら、もう少しこう、組織特有の疲れや、事務的な冷ややかさが滲み出るものではないか。彼の制服はあまりに皺ひとつなく、敬礼の角度はあまりに美しすぎると感じた。

ある日、私はあえて落とし物を届けに(という体で)交番へ入ってみた。
「こんにちは。良いお天気ですね」  
彼は私の顔を見て、絶妙な間隔で微笑んだ。その接客(あえてそう呼びたい)は、ホテルのコンシェルジュのように完璧で、それでいて警察官としての威厳も損なわない、極めて高度なバランスの上に成り立っていた。

「……お疲れ様です。最近、よく立たれていますね」  
私が探るように言うと、彼は「ええ、街の安心が一番ですから」と短く、だが深く響く声で答えた。その瞳の奥に、私は見た。それは正義感というよりは、自分の「配役」を完璧にこなしているプロフェッショナルの、静かな自負のような光だった。

つづく 次回は「なりすまし屋」の視点


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