4-#01 なぜ正論を言う経営者ほど、組織が壊れていくのか
最近、経営者の方と話していて、妙だなと感じる違和感が増えました。
今回から、新しい連載を始めます。
前の連載では、転職で人生が変わる人と変わらない人の違いを書きました。
今度のテーマは「AI時代のリーダーシップ」です。
最近、経営者の方と話していて、妙だなと感じる違和感が増えました。
言っていることは正しいのに、人が辞めていく
その経営者は、本当によく勉強されています。
最新の情報を掴んでいるし、業界の構造も、テクノロジーの流れも、組織論の最近の話も、ちゃんと押さえている。
話していて「なるほど」と唸ることが、何度もあります。
"いいこと"を、言うんです。
ところが、その方の組織を見ると、様子が違う。
人が辞めていく。
幹部との間がぎくしゃくしている。
会議で誰も本音を言わない。
任せたはずの人が動かないので、結局また自分がその仕事を引き取って仕上げている。
そしてご本人は「うちの社員は指示待ちで」とこぼす。
言っていることは、どこまでも正しいんです。
正しいまま、組織が壊れていく。
これ、一人二人の話じゃないんです。
ここ最近、経営者の方と会うたびに、同じ感触に出くわします。
「知らないから失敗する」ではなくなった
不思議ですよね。だって、知っているんですから。
心理的安全性が大事だということも、傾聴が大事だということも、その方はちゃんと知っています。
言葉として説明もできるし、本も読んでいる。
なんなら、僕より詳しいこともあります。
昔はこうじゃなかったと思うんです。
うまくいかない理由は、たいてい知らないことでした。
やり方を知らない、事例を知らない、だから間違える。
わかりやすい構造でした。
だからその頃のリーダーの価値は、知っていることにありました。
答えを持っている人が、強かったわけです。
でも、今はどうでしょう。
わからないことがあれば、その場で調べられます。
AIに聞けば、整理された答えが数秒で返ってくる。しかも、そこそこ賢い答えが。
組織の打ち手も、1on1の進め方も、聞けば出てきます。
つまり、「いいことを言う」のは、驚くほど簡単になりました。
だから、知っている人と、それを体現できる人が、どんどん別の人になっていく。

僕もチームを壊しました
偉そうに書いていますが、これは他人の話じゃありません。
僕もチームを壊した経験があります。
MBAで知識を学び、意気揚々と仕事をしている中でチームは崩れました。
メンバーとの関係性が壊れて、機能しなくなった。
そして、「お前のせいだ」と言われました。
当時の僕も、知らなかったわけじゃないんです。
組織論の本は読んでいたし、1on1もやっていた。
でも、崩れた。
いま振り返ると、僕に足りなかったのは知識じゃありませんでした。
言葉は正しかったんです。
でも、その言葉を何のために言っているのかを、相手に一度も渡していなかった。
コンテンツとコンテキスト
ここで、この連載を通して扱いたい言葉を出しておきます。
コンテンツと、コンテキストです。
コンテンツは、内容や手段のこと。
何を言うか、何をやるか。打ち手、やり方、スキル、情報。
コンテキストは、文脈や枠組みのこと。
その言葉が何のために言われていて、どこまでやっていい話で、言う側と言われる側がどんな関係の中にいるのか。

僕が現場で何度も確かめてきたのは、この順番です。
コンテキストが機能して、初めてコンテンツが機能する。
だから、同じ「もっと考えてから持ってきて」が、期待ではなく否定として着地します。同じ「任せた」が、部下には信頼ではなく放置として届く。
言葉は一字一句正しいのに、です。

いいことを言うのに組織が壊れていく経営者は、コンテンツがすごく豊かなんです。ただ、その言葉を何のために言っているのかを、相手に渡していない。どこまでやっていい話なのかも、渡していない。
能力の問題でも、人柄の問題でもないんじゃないかなと思っています。
ついでに言うと、部下が見ているのは、その人が何を知っているかではありません。心理的安全性を「知っている」ことと、その人の前で本音が言えることは、別物ですよね。知っていることと、やれていることの間に溝がある、という話でもあるんです。
そして、ここがこの連載でいちばん言いたいことなんですが。
コンテンツは、これからAIがどんどん出してくれます。
何を言うべきかも、何をやるべきかも、聞けば出てくる。
じゃあ、リーダーに残る仕事は何なのか。
枠のほう、つまりコンテキストなんじゃないかと思います。
もし今、組織がうまくいっていないとしても、それはあなたが間違ったことを言っているからじゃない。
正しいことを、何のためかを渡さないまま置いているだけなのかもしれない。
だとしたら、足すべきものは、もう一つ正しい知識ではない。
直すのは、言葉じゃない。言葉が置かれている場所(コンテキスト)のほうです。
そしてそこは、AIが代わりにやってくれない場所でもあります。
▼この連載のはじめに(#00)
