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#6自分を捨てて騎士になる男と、理解できない相手の話―ラクリマ・ディアの連結子―

◻️あらすじ

港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。

人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。

“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。

救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。


◻️救いの代償――炎上の報せ

宿に戻り一夜が明け、そして僕はいつもの習慣で昼近くに目が覚めた。

窓から外を見ると、雨は少し小降りになっていた。

朝食兼昼食を調達しようと宿から出ると、なんとなく辺りがいつもより騒々しい。

買い物がてら、目についた店の人に声をかける。

「何だか騒がしいですけど、何かあったんですか?」

「ああ。なんでも、マレディア港が火事で全焼したらしい。店も、民家も、全部だそうだ」

「ええ!?」

「建物に油が撒かれていたみたいでな……一気に燃え広がってどうにもならなかったと聞いた。しかも、ちょうど騎士団に招集がかかっていてほとんど残っていなかったらしい。……かなりの人が死んだって。ひどい話だよ」


渡された商品を黙って受け取る。

頭が真っ白で、何も考えられない。

(火事で全焼……?油を撒かれてた……?でも、だって……あそこには……)


一旦宿に戻ったものの、何もする気が起きなかった。

食べる気も、全く湧いてこない。

ただただ、手の冷たさと、自分の心臓の音ばかりが大きく響いていた。


ふと、机の上に置かれた《連結子》が目に入る。

(……カライス君は無事なのか?……火事があったこと、知ってるのか?)

そう考えながら手に取り、いや、やっぱりそれは違うと机の上に戻す。


先ほど聞いた話を、頭の中で反芻する。

一気に燃え広がり、かなりの数が死んだと言っていた。

でも、もしかしたらまだ生きている人が、僕の力で助けられる人が、いるかもしれないじゃないか。

ここでウジウジ考えているくらいなら、何か自分にできることをしよう。


そう結論づけた僕は、散らかっていた荷物を鞄に詰め込み、引っ掴むと外に飛び出した。


雨は、まだ止む気配がない。






雨でぬかるんだ道を一刻ほど歩き、僕はマレディアに到着した。

実際の光景を目にすると、静かな絶望感が胸に広がった。


焦げて焼け落ちた家々と街並み。

これだけ雨が降っていても燻り続ける火と煙。

辺りに立ちこめる匂い。

生き残った人々の、啜り泣く声、嘆きの声が聞こえてくる。


そんな中、僕の足は吸い寄せられるようにカライス君の家が"あった場所"へ向かう。


そこは完全に焼け落ち、あの静かで暖かな家は、この世から完全に失われていた。




「あれ、あんた……よくカライスと一緒にいた人か?」

男の声に振り返ると、市場で何度か会ったことのある男性だった。

長い髭が少し焦げている。

「……隣町に宿をとっていて……火事があったと……知らせを聞いて駆けつけたんですが……」

「そうか……。建物の中は、これだけ焼けてしまってはもう無理だろうなぁ」

「……そう、ですね」

「……あっちの石造りの倉庫に、怪我人が集められているんだ。繋ぎ手様もこの火事でいなくなってしまって、我々では、どうすることもできん。……あんた、魔導士なんだろ?なんとか助けてやってくれないか。……頼む」

「……わかりました。僕にできる限り、やってみます」

僕はその場を離れ、倉庫へ向かった。




倉庫の中はひどい状況だった。

本当に怪我人を集めただけで、手当てが何もされていない。

でも当然だ。

全て燃えてしまって、手当の手段が残されていないのだから。

(……手持ちの薬にも限りがある。助かりそうな人から助けなければ……)

並べられた人たちの体を跨いで歩きながら、一人ずつ様子を確認していく。

ひどい火傷で、すでに亡くなっている人も多かった。

僕は薬作りが専門で、回復魔法はほとんど使えない。

できないことはないが、これだけの人を回復魔法で治療したら、きっと自分が倒れてしまう。

僕は自分の中で方針を決めると、助けられそうな人から順に薬による治療を施していった。

薬がなくなっても、手持ちの材料をその場で調合し、治療を続けた。

治療した怪我人からは感謝の言葉がかけられるが、僕にはその言葉を聞く余裕もなかった。





「魔導士様!」

呼び声にハッと顔を上げると、出入り口から、鎧を身につけた人たちが数人入ってきた。街の騎士団員たちだ。

「街の人から聞きました。怪我人の治療をしていただいていたと。……本当にありがとうございます」

「いえ……僕は……」

「後は我々が引き受けます。……お顔が真っ青です。どうか、一旦休憩なさってください」


騎士団員たちに促され外に出ると、すっかり日が暮れていた。

まだ建物の残骸には火が燻っているが、来た時よりはかなり収まったように見える。


……騎士団が来たということは、招集されていた人員が戻ってきたということだ。

(じゃあ、カライス君ももしかしたら……)

そう考えたが、体はもう限界を迎えていた。

躓いて、地面に膝をついてしまい、もう立ち上がれない。

気づけば、手もガクガクと震えている。

(魔力切れ……か……)

「魔導士様!大丈夫ですか!?」

呼びかけに応えることはできなかった。

そのまま、意識が途切れた。









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