#1 自分を捨てて騎士になる男と、理解できない相手の話―ラクリマ・ディアの連結子―
守るために距離を選び続ける男と、
その意味を知らないまま受け取り続ける相手。
伝わらないことが、壊れない理由になっている関係の記録。
◻️あらすじ
港町でトラブルに巻き込まれた魔導士ハルモンは、“獣哭のカライス”と呼ばれる騎士に助けられる。
この出会いが、
二人の奇妙な関係の始まりだった。
――それが、すべての始まりだった。
◻️必然の出会い―「通行の邪魔だ」
俺の人生は、この男に壊される。
相手は、未来を外さない魔導士だった。
……もっとも、その頃の俺には、ただの危なっかしい変人にしか見えていなかったが。
——それでも、なぜか離れられなかった。
アストラ王国は、大陸の半島に位置する国だ。
その東に位置する港町——マレディア。
僕は、薬作りに使える珍しい材料を求めて、数日かけてこの街へやってきた。
住宅が立ち並ぶ区画を通り抜けて港に向かうと、立派な帆のついた船が見えてきた。
思わず近づいて、その形や造りを観察する。
普段住んでいる王都も海に接しているので、時々船を目にすることはある。
でも、こんなに近くで見たのは初めてだった。
(すごいな、これで海を渡るのか)
しばらく眺めていたら、少し離れた位置で数人の人が立ち止まり、ヒソヒソと話し出す。
皆、こちらを見ていた。
(……これは、あまりぼんやりはしていられないかも)
僕は視線を下げると、その場からそそくさと立ち去った。
港に接した市場は、たくさんの人でごった返していた。
人の間を縫うようにして歩き、並べられた商品を確認していく。
(あ)
香草を置いている店を見つけ、歩み寄る。
並べられた品々は、王都の店では見られない珍しいものばかりで、ちょっと興奮した。
(もっと大きい鞄を持ってくればよかったな……)
僕は並べられた品々の中からいくつか手に取り、視線を上げた。
「こんにちは。これでいくらになりますか?」
商品を手に、店主に尋ねる。
しかし、目が合っているのに返事が来ず、沈黙が流れた。
(……あれ、聞こえてない?)
「あのー」
もう一度声をかけてみる。
すると店主は慌てた様子で「は、はい!?すみません、何か言いました?」と返事をした。
「ええと……」
もう一度口を開くと、後ろを通りがかった人たちが立ち止まり、ヒソヒソと話し出す。
「きれい……」「女の人?」などと話す内容が聞こえてくる。
(……まずいかも)
一旦その場を立ち去ろうかと思ったその時、小さな悲鳴が聞こえた。
何かが地面に落ちるような物音がして、空気がざわつく。
とっさにそちらを向くと、数人の男たちが近づいてきた。
粗暴な雰囲気で、僕の顔や首元をジロジロと見てくる。
商品を置いて立ち去ろうとしたが、取り囲まれて逃げ道を塞がれた。
「あんた……ちょっとこっちに来いよ」
そう言って、腕を掴まれる。
(……まずい。どうする?)
声を上げるべきか迷ったが、かえって事を大きくする気がして、口を閉ざした。
僕が抵抗を試みようとしたそのとき。
「おい、通行の邪魔だ」
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