#3 自分を捨てて騎士になる男と、理解できない相手の話―ラクリマ・ディアの連結子―
守るために距離を選び続ける男と、
その意味を知らないまま受け取り続ける相手。
伝わらないことが、壊れない理由になっている関係の記録。
◻️あらすじ
港町でトラブルに巻き込まれた魔導士ハルモンは、“獣哭のカライス”と呼ばれる騎士に助けられる。
この出会いが、
二人の奇妙な関係の始まりだった。
――それが、すべての始まりだった。
◻️必然の出会い―絵になる二人
そのまさかだった。
ついさっき、海賊に絡まれていた“女のような顔をした男”が、今度は街の女たちに取り囲まれている。
「……おい。お前たちいい加減にしろ」
低い声で睨みをきかせると、人だかりはすぐに消えた。
まるで、蜘蛛の子を散らすかのようだ。
真ん中にいた男は、先ほどよりも服が乱れており、後ろで纏められた金髪も、ゆるんでほどけかけていた。
近づいて、声をかける。
「……おい。行くぞ」
男はきょとんとして動かない。
俺は男の腕を掴み、そのまま商店街を通り過ぎて街の出口の方へ向かう。
「あの….…どこへ……?」
「人目のないところへ行く。……少し黙ってろ」
先ほど助けてくれた大柄の男にまた助けられ、腕を引かれていく。
そのまま街を出て、森の中へ連れて行かれた。
力が強く、全く振り解けない。
(どこに連れていかれるんだろう……)
僕の不安とは裏腹に、連れてこられたのは、見晴らしの良い丘の上だった。
その場所からは、街と港、そして海を一望することができた。
心地の良い風が吹いて、胸のつかえが解けていく。
「……あの、また助けてくれてありがとう」
「別に。ただの習慣だ」
習慣。
そうなのかもしれない。
だけど、僕はその言葉の中に、彼の優しさを感じずにはいられなかった。
「……あのさ」
海を見ていた彼が、ちらりとこちらに目を向けてくる。
「僕、顔が目立つんだよね。だからいつも絡まれて大変なんだ。……ここへは、買い物しにきただけなんだけどね」
彼は、僕のことを他の人達みたいにジロジロ見てこなかった。
だからなのか、つい気が緩んでそんなことを言ってしまった。
言ってから少し不安になって、彼の顔を覗き見る。
でも、彼は表情一つ変えない。
「それは災難だったな」
それだけ。
ほっとして、つい笑顔になってしまう。
「……君が一緒にいてくれたらはかどりそうなんだけどな。今日だけ護衛してくれない?」
なんて冗談ーーと言いかけたところで、彼からの返答は予想外のものだった。
「別に構わん。今日は非番で、用も済んだところだ」
「ほ、ほんとに!?」
「……このままお前を放置したら、またあちこちで騒ぎが起こるのは目に見えている」
彼は、「さっさと済ますぞ」と言い、丘を下っていく。
僕は慌ててその後ろ姿を追いかけた。
「へぇ、やっぱり君は騎士なんだね。さっき初めて会った時、強そうだなって思ったんだ」
「……別に大したことじゃない。たまたま、他のことより剣が得意だっただけだ」
お互いのことを話題に、雑談しつつ港の市場を見て回っていた。
……この男、見た目は大人しそうな風貌なのだが、口を開くとよく喋る。
「……あ! これ探してたんだ! 今作ってる『集中力が散る煙』にも使えそう」
「集中力が散る……? 何に使うんだ」
「思考が横道に逸れるようになるから、逆の薬を作る前段階になるかと思って。まだ使い道は決めてないけど」
俺は、何て返していいか分からず黙った。
今日、ここまで同行したことで、この『女のような顔をした金髪のとても目立つ男』はハルモンという名であること。
そして、薬作りや呪いを生業とするいわゆる『魔導士』で、王都から薬の材料を求めてこの街を訪れていたことが分かった。
あと、真面目な顔でよく分からないことを考えている奴だということも、分かった。
しばらく連れ回され、ようやく買い物が終わったらしい。
こちらへ向くと、ハルモンはにっこり微笑んだ。
「今日は本当に助かったよ! …はい。これ今日の護衛の報酬」
そう言うと、皮の巾着袋から銀貨を取り出し、こちらの手に押し付けてきた。
「報酬?後ろに立ってただけだぞ」
「それでも助かったから受け取って。……ねえ、この街に来た時は、またお願いしてもいい?」
その言葉に、少し黙った。
でも、断る理由も思いつかなかった。
「ああ……非番の時ならな」
「ありがとう! ……あ、あとよかったらこれもいる?『声が一音だけ低くなる薬』なんだけど」
「……なぜ」
「君が、今よりもさらにカッコ良くなるかと思ってさ!でもまあ、効果は一時間くらいしか保たないんだけどね」
「俺の声で遊ぼうとするな」
この出会いの後、街ではこんな噂が聞かれるようになった。
「この前、市場であの『獣哭のカライス』がものすごい美人を連れて歩いてたって話、聞いた?」
「ずいぶん絵になる組み合わせだったらしいよ」
俺は、すべてを聞こえなかったことにした。
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