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#30自分を捨てて騎士になる男と、理解できない相手の話―ラクリマ・ディアの連結子―

◻️あらすじ

王都での日常は、静かに続いていた。

変わらない距離。
変わらない関係。
それでも、確かに重なっていく時間。

だがその均衡は、外からの要請によって揺らぎ始める。

役目と、適性と、合理。
それぞれの理由が積み重なり、
二人の立つ場所は、少しずつずれていく。

止めることはできる。
けれど、止めないことを選ぶ。

関係は変わらないまま、
これまで通りではいられなくなる。


◻️錯誤の継続――理由にならない理由

昼食を食堂で並んで食べた。

その後、ハルモンの部屋に戻り、テーブルで二人でお茶を飲んでいた。

大量の薬瓶は、お茶を運んできたアグネスがどこかに片付けてくれた。

……助かった。

「あ! そういえば、この間作ったあれ試してみよう」

ハルモンは突然そう言うと立ち上がり、作業台へ向かう。

小瓶をひとつ手に取ると、迷いなく口に運んだ。

「……何だそれは」

「『飲み物の温度が主観語で出る薬』だよ」

「……は?」

ハルモンはテーブルに戻ってくると、目の前の茶を一口飲む。

少しだけ間。

「……ぬるい寄りの、熱い」

沈黙。

「……それは、どういう意味だ」

「分からない」

即答だった。

ハルモンは小さく首を傾げる。

「基準が曖昧だね。失敗かな」

「……最初から、分かっていた気もするがな」

ハルモンは気にした様子もなく、さらりと言う。

「でも面白いでしょ」

「……そうか」

(分からん)

二人で黙って茶を飲む。

まだ物は多い。

だが、崩れそうな危うさはなくなったから、落ち着く。

ぼんやりと向かいの窓を眺めていたら、ふと気になっていたことを思い出した。

「……ハルモン、家の裏にあるのは……温室、か?」

「あー、薬の材料とか育ててるんだよ」

「そうなのか」

ハルモンはお茶を一口飲んで、テーブルに置いた。

「休憩終わったら、一緒に行ってみる?」









温室は、入ってみるとなかなかの広さだった。

奥には少し開けた空間があり、テーブルと椅子が置かれている。

……全体的に、鬱蒼としている。

「昔はたまにここでお茶したりしてたんだけどさー」

ハルモンはしゃがみ込み、生えた草をむしりながら言う。

「つい、色々な薬草を植えすぎちゃって。女中が触れなくなっちゃったんだよね」

むしった草を、そのまま籠に入れた。

「……その辺に生えてるやつ、葉っぱだけ取って籠に入れてくれる?」

「…………どれだ」

色々な種類があるようだが、区別がつかない。

しゃがみ込んで、手近なところにある草に触れようとした。

「あ! それはダメ! そのまま触ると手がかぶれるよ」

「…………区別がつかん。手伝わせるなら、ちゃんと教えろ」










ハルモンの指示に従い、草をむしり続け、気づけば夕方になっていた。

部屋に戻って休憩していると、夕食に呼ばれる。

食堂へ行き、ハルモンと並んで食事をした。

食事の後は部屋に戻り、それぞれ過ごす。


机で本を読んでいたハルモンは、いつもより早めに切り上げることにしたようだ。

ランプを持ち、ベッドに向かう。

「……今日は早いな」

「うん。今日で十分体も休まったし、明日からは仕事に行かなきゃね」

「仕事……」

ハルモンが仕事をしているところを、想像したことがなかった。

いや、王都に住んでいる魔導士なのは知っていたが。

……当然か。

王都に住まい、これだけの家で、女中を複数人働かせているのだ。

仕事をしていない方が不自然だ。

「……どうしたの?」

「いや……。お前が仕事に行っている間、何をしようかと」

「え、一緒に来てくれないの?」

「……は?」

「だってライ君、僕の護衛でしょ」

「……護衛が必要な仕事、なのか……?」

「いや? でもほら、一緒にいたいし」

軽い。

それだけで、理由として成立しているらしい。

「もう寝よ」

そう言って、ランプの灯りを落とした。

「おやすみ」

「……おやすみ」

しばらく、眠れなかった。












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