①変えられないこと、変えられること。「定数と変数」は立場で変わる
先日、私が「師匠」と呼ぶ、うえすぎ先輩と鳥貴族でご飯を食べていた。
師匠は、前職のコンサルティング会社時代から、仕事について多くを教えてくれている先輩だ。
焼き鳥をつまみながら、いつものように仕事の話をする。
私は途中で、好物の「鳥たれかつ丼」も頼んだ。
焼き鳥も食べる。丼も食べる。
ここについては、選択と集中ができていない(笑)。
その日は、結果を出す上で何を大切にしているか、という話になった。
そこで、営業をしていた頃のことを思い出した。
①「商品が、環境が、相場が」
あの頃は、結果が出ないときほど、頭の中にいろいろ出てきた。
「商品が……」
「環境が……」
「相場が……」
厄介なのは、全部が間違っているわけではないことだ。
本当に商品の条件が弱いこともある。
価格が高いこともある。
景気が悪いこともある。
実際、営業の現場でも、
「こんな高い商材は売れない」
「この商品だと厳しい」
という話はあった。
でも、同じ商品、同じ条件でも売ってくる営業マンはいる。
もちろん、商品や価格、景気が関係ないと言いたいわけではない。
関係はある。
ただ、私が常々意識してきたのは、その先だ。
その悩みで、数字は変わるのか。
相場について30分悩んだら、アポイントが1件増えるのか。
商品の条件に不満を持ち続けたら、契約が1件増えるのか。
増えない。
だったら、まず電話しよう。
訪問しよう。
もう一人、お客様に会おう。
提案を変えよう。
考えるなら、自分が変えられるところを考える。
コロナ禍でも、リーマンショックのような大きな環境変化でも、その環境そのものを一人の営業マンが変えることはできない。
でも、その中で自分が何をするかは変えられる。
ちなみに、今でも常にできているわけではない(笑)。
うまくいかないと、「環境がなあ」と普通に頭をよぎる。
だからこそ、気づいたら何度でも、自分が変えられることへ戻るようにしている。
②採用でも、「給料が低いから」で終わらせない
これは採用でも同じだと思っている。
「うちは給料が低いから採れない」
「中小企業だから採れない」
「大手ほどの知名度がないから難しい」
給与水準も、会社規模も、知名度も採用には影響する。
そこは否定しない。
でも、そこで原因分析を終わらせてしまえば、改善もそこで止まる。
本当に、それだけが理由なのか。
もし会社規模や給与水準だけで採用が決まるなら、中小企業や給与水準の高くない会社は、ほとんど人を採れないことになる。
でも、実際にはそうではない。
求人票は伝わっているか。
スカウトの内容は合っているか。
応募後の連絡は遅くないか。
面接で、候補者が知りたいことを伝えられているか。
給与を決める権限がない採用担当者なら、給与水準は変えられない。
でも、求人票やスカウト、選考スピード、面接のやり方は変えられる。
だったら、まずそこを変える。
原因分析は、「だから仕方ない」と納得するためではない。
結果を変える次の打ち手を見つけるためにやるものだ。
③「定数」と「変数」を分けて考える
ここで、今回の記事でいう「定数」と「変数」を整理したい。
定数は、自分の権限や行動では変えられないもの。
変数は、自分の権限や行動で変えられるもの。
営業担当者なら、今日の天気や景気そのものは定数。
電話する件数や提案の仕方は変数だ。
これは仕事に限った話ではない。
スポーツでも、勉強でも、日常生活でも同じだと思う。
自分では変えられないことがある。
その中でも、自分に変えられることがある。
定数は、どれだけ考えても変わらない。
だったら、自分が変えられる変数に時間とエネルギーを使う。
これは精神論ではなく、限られた時間をどこに使うかという話だ。
そして、もう一つ大事なことがある。
定数と変数の線引きは、全員同じではない。
同じものでも、その人の立場や権限によって、定数にも変数にもなる。
組織で考えるときは、この「誰にとっての定数なのか」が重要になる。
さらに、変数を見つければ終わりでもない。
変えられるものは、いくつもある。
営業なら、電話件数も、訪問数も、提案方法も変えられる。
採用なら、求人票も、スカウトも、面接も変えられる。
変数だからといって、全部に手を出すわけではない。
その変数を変えたら、目標の数字にどれだけ影響するのか。
まず、定数と変数を切り分ける。
考える対象を変数に絞る。
その上で、結果への影響が大きい変数に時間を使う。

④コンサルティング会社に入る前、森岡毅さんの話を聞いた
この考え方は、最近知ったものではない。
営業の現場で結果を追っていた頃から、自分なりに意識してきた。
コンサルティング会社に入るより、もっと前の話だ。
東京で参加したセミナーで、森岡毅さんの話を直接聞いたことがある。
そのとき、私は森岡さんのファンになった。
今でも、とても尊敬している。
森岡さんは2022年の『日曜日の初耳学』でも、キャリアにおいて自分でコントロールできる「3つの変数」を挙げている。
自分の特徴を理解する。
働く環境を選ぶ。
特徴を武器に変えて磨く。
つまり、コントロールできないことではなく、自分で動かせることに集中する。
自分が営業の現場で考えてきたことも、「定数と変数」という言葉で整理すると分かりやすい。
⑤「山しかない」ではなく、「山がある」
森岡さんが関わったネスタリゾート神戸の事例も、この考え方を理解しやすい。
山そのものを消すことはできない。
「山しかない」と見るのか。
「山がある」と捉えて、大自然だからこそできる体験をつくるのか。
変えられないのは、山があること。
変えられるのは、その山をどう価値に変えるか。
もちろん、言葉を言い換えれば事業がうまくいく、という話ではない。
商品づくりも、マーケティングも、現場の実行も必要になる。
ここで見たいのは、変えられない条件を見続けるのではなく、その条件の中で変えられるものを見つけたことだ。
⑥でも、その「定数」は本当に定数ですか?
ここまでなら、話はシンプルだ。
変えられない定数に悩み続けず、変えられる変数に集中する。
でも、管理職や経営者になると、もう一つ考えなければいけない。
森岡さんは2025年、入山章栄さんとの対談で、一見すると定数に思えるものを変数に変える、という趣旨の話をしている。
これを組織に置き換えると、話が変わってくる。
社員にとっての定数が、経営者にとっても定数とは限らない。
採用担当者に給与を決める権限がなければ、給与制度はその担当者にとって定数だ。
でも、給与制度を決める権限を持つ経営者にとっては変数だ。
営業担当者に価格決定権がなければ、商品価格は定数。
でも、価格を決める権限を持つ経営者にとっては変数だ。
社員にとって評価制度は定数でも、その制度を決める経営側にとっては変数だ。
だから、組織をつくる側には、もう一つ問いが必要になる。
変えられる権限があるのに、「仕方ない」で定数扱いしていないか。
社員に「変えられないことに悩むな」と言うだけでは足りない。
その社員には変えられなくても、自分には変えられることがあるかもしれない。
立場が変われば、定数と変数も変わる。

⑦本人の変数は本人が。経営の変数は経営が。
組織構築を支援するとき、私はまず、
「これは誰が変えられる問題なのか」
を分けて考える。
本人の行動で変えられるのか。
上司の権限で変えられるのか。
会社の仕組みを変える必要があるのか。
たとえば評価制度でもそうだ。
同じ「売上1000万円」という目標でも、条件が同じとは限らない。
担当エリア、既存顧客の数、会社から渡されるリード数が違えば、本人が変えられる範囲も違う。
だから評価制度をつくる側は、結果だけではなく、その結果を生む条件も見る。
その結果を左右する要素のうち、本人が変えられるものは何か。
上司が変えられるものは何か。
会社が変えるべきものは何か。
そこを理解した上で、制度を設計する。
本人には変えられない仕組みを置いたまま、「もっと頑張って」と言っても解決しない。
逆に、本人が変えられる行動まで「会社が悪い」で終わらせても、結果は変わらない。
本人の変数は本人が動かす。
上司の変数は上司が動かす。
経営の変数は経営が動かす。
重要なのは、誰が悪いかを決めることではない。
誰に変える権限があるのかを明確にすることだ。
マネジメントは、努力を求めることだけではない。
その努力が成果につながるように、仕組みを整えることも仕事だ。
⑧最後に、自分にも聞いてみる
鳥貴族で師匠と話していたのは、結果を出す上で何を大切にするか、という話だった。
でも考えていくと、営業にも、採用にも、組織づくりにもつながっていた。
私自身、今でも変えられないことに頭を持っていかれることはある。
だから、そんなときは一度戻る。
その悩みで、数字は変わるのか。
変わらないなら、結果を変えるために、自分が注力すべき変数は何か。
そして、管理職や経営者なら、もう一つ。
社員には変えられなくても、自分には変えられるものを「定数」にしていないか。
もし今、悩んでいることが一つあるなら、
一度だけ、
「これは定数か、変数か」
と分けてみる。
そして、自分にとって定数なら、
「これは誰の変数なのか」
まで考えてみる。
それだけでも、次に打つ手はかなり変わると思う。
鳥たれかつ丼を食べながらする話としては、少し重かった(笑)。
でも、最後にもう一度。
その「定数」、本当に定数ですか?
次回作 自責と他責はこちら⬇️
師匠のうえすぎ先輩のノートはこちら⬇️
出典
MBS『日曜日の初耳学』復習編「“現代最強マーケター”森岡毅が明かす キャリアを成功に導く“3つの変数”」(2022年6月1日)
MBS『日曜日の初耳学』復習編「USJも立て直した“現代最強のマーケター”森岡毅の極意」(2021年11月18日)
ダイヤモンド・オンライン「森岡毅×入山章栄対談(2)」(2025年4月28日)
