碧空戦士アマガサ 第2章(4)
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(承前)
- 1.相棒(4) -
それから、5分ほどして。
痺れを切らした晴香は、紙袋に挿さっていた突っ張り棒を手に自販機コーナーへと歩いて行った。
そこには手持ち無沙汰な様子のタキと、地面に伏せた湊斗がいる。晴香はタキをひと睨みした。
「お前少しは手伝えよ……」
「いやあ、俺じゃ腕太くて……」
そんな二人の会話に気付いたのか、伏せていた湊斗が顔を上げる。
「あ。晴香さん」
「湊斗、これ使え。さっき買った突っ張り棒」
晴香は、立ち上がった湊斗に棒を差し出す。ポンポンと埃を払った彼は、右手でそれを受け取った。左手にはカラカサを携えたままだ。
「カラカサ、持っておこうか?」
晴香の何気ない問いかけに、湊斗の手元のカラカサがピクンと跳ねた。
『えっ。い、いや、いいよ!』
「なんでお前が答えるんだよ」
『いや、その……』
カラカサと晴香のやり取りを見ていた湊斗は、両者を交互に見て微笑んだ。
「……うん、お願い、晴香さん」
『み、湊斗!?』
驚きの声をあげたカラカサを、湊斗は晴香へと差し出す。
「大丈夫。晴香さんはいいひとだよ」
『え、えー!?』
「あン?」
晴香は首を傾げつつも、喚くカラカサを受け取った。湊斗は突っ張り棒を手に再び自販機前に突っ伏す。
『湊斗ー! 早くー!』
「暴れるな、おい」
──飼い猫が他人に抱えられたみたいだな。
そんなことを考えながら、晴香はもがくカラカサを手に中庭へと下がる。
そして──その場で、跳躍した。
ゴアッッ!
刹那、晴香がそれまで立っていた地面に"なにか"が着弾、炸裂した!
「うおあっ!?」『わっ!?』
声をあげたのは、タキとカラカサのようだった。
タキは衝撃で吹っ飛び、自販機に叩きつけられた。湊斗は即座に身体を起こし、自販機を背にして棒を構える。
晴香はカラカサを抱えたまま中庭に着地すると、空を見上げた。
「……天気雨……!」
青空から、確かに雨が降り注いでいた。"殴り合いの街"のような土砂降りの雨ではない。霧雨といった様相だ。
「タキさん、大丈夫ですか?」
「痛ってて……大丈夫、生きてる」
タキと湊斗の会話を聞きながら、晴香は周囲の状況を確認する。
まず降っている雨。今自分が正気だということは、精神汚染系のものではないらしい。脅威度は低いはず。
次に周囲の客だが……中庭にいた人々は突然の爆発に驚き、遠巻きにこちらを見つめている。天気雨に気づいて軒下に駆けるものもいるが、スマホなどを手に野次馬に興じる者が多い。
とはいえ、天気雨のせいでカメラは使えないだろう。怪人が現れたら逃げるはず。
などと思案していると、晴香の手元でカラカサが跳ねた。
『ちょ、ちょっと!』
「おっと」
その番傘は、傘とは思えない柔軟性を発揮して先ほどよりもより激しく身を捩り、暴れる。
『オイラ湊斗のとこ行かなきゃ!』
「わかってる……危ねぇっ!?」
言葉の途中で、晴香はカラカサを抱えて横に跳んだ。
再びの襲撃──今度は、晴香の目にも見えた。
晴香を襲ったのは、巨大な水の塊だった。それは砲弾のような勢いで自販機コーナーのガラスに直撃する。視界の片隅で、湊斗がタキを抱えて伏せるのが見えた。
凄まじい破砕音とともに、窓ガラスが砕け散る。
次いでジリリリリと警報が鳴り出す。二度の爆発、警報、使えない携帯電話……野次馬たちの不安が最大になったとき──狙ったかのように、そいつらは出現した。
「ちっ……余裕かましやがって」
晴香は呟き、中庭の中央付近を睨む。風景が滲み──群青色の着物を纏った雨狐と、数体の黒水の人型・アマヤドリが出現した。
「う、うわ!?」
「なんだこれ!?」
「怪物!?」
突如現れた異形の者たちに、人々がパニックに陥る。晴香はカラカサと周囲の人々を見比べ、状況判断した。
「投げるぞ、カラカサ!」
『オッケー!』
振り返る勢いを乗せて、晴香はカラカサを背後に──湊斗の居るほうに放り、言葉を続ける。
「湊斗、こいつらはお前に任せる! 私は客を避難──」
晴香が言い終わるより、少しだけ早く。
ガラガラガラ……ガシャン。
カラカサの眼前で、防犯シャッターが一気に閉まった。
『えっ……へぶっ!?』
カラカサがそれに激突し、悲鳴とともに虚しく落下する。
「………………あ?」
「か、カラカサー!?」「姐さーん!」
シャッターの内側から二人の声がする。
晴香は冷や汗とともに、呟いた。
「…………やべーなおい。分断された」
(つづく)
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