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「小説 組織風土改革推進委員会」第5話:俺たちと、新しい上司

 

第5話:俺たちと、新しい上司

 組織風土改革推進委員会へ、4月1日付けで異動してくる、今年度の新しい上司が判明した。噂では、”営業の若手”と聞いていたのだが、彼はどうも内示を蹴ったようである。つまり退職するということだ。営業マネジメント変革を得意とするコンサルファームに伝手がもともとあり、そこへ行くようだ。内示を蹴って、会社を辞めるとか、管理職ではあまり聞いたことのない話であった。そして、何かこの異動の責任をとらされたのか、急転直下で人事本部長の加藤さんが兼任することで上司となった。もちろん、自分から申し入れしたようである。

「加藤さんってどんな人だろ?」
みんな名前は知っていても、加藤さんのことをあまりよくわかっていないようだった。組織風土改革推進委員会あてに届いた社員からの投書コメントや、アンケート回答にすごく関心を持っていた方、現場の意見などに耳を傾けていた方であることしか、俺にはわからなかったが、そういう意味では俺は加藤さんに興味を感じた。上司に関心はなかったのだが、加藤さんには好意を抱いていた。

 青山が
「私が入社した当時、同じ事業本部の営業戦略室にいたはずだけど、加藤さんは本当のエリートコースだったんで、交わったことないんですよね。実際重なったのは三か月程度でほとんど話をした記憶はないんですよ。全然、話はそれるけど、なんか、うちの馬場社長とも懇意らしいことは聞いたことがあります。どんな関係があるんでしょうね、一体?」
と、社長と懇意ということについて少し語気が強く感じた。少し皮肉っぽく話していた。
「確か人事の前は経営企画でしたよね。今時、財務資本も人的資本もおさえている人は、なかなかいませんよね」
と香取が言った。

 「香取はそのあたり、よく知っているな」と感じた。彼自身、経営の中枢を担っていきたい野望があり、この時から、加藤さんをロールモデルにしているようでもあった。 「事業本部の営業戦略、本社の経営企画。それに人事か・・・・・・」、なかなかのエリート感は十分伝わってきた。

 そして3月20日、この日は出社してみると、俺たちの席に朝から加藤さんがやってきていた。組織風土改革推進委員会は、人事と同じフロアではあったが、パーテーションで区切られたような感じであった。また、加藤さんは人事のフロアのとなりに個別作業のための別室をもっており、最近は、そこにこもっていることが多いようで、確かに、社内であまり見かけることが少なかった。

 少し、手招きを交えながら、
「朝から申し訳ないが、ちょっと挨拶の時間もらえるかな?」
と加藤さんがみんなに伝えた。 前任の角さんは、既に引き継ぎ資料を渡して、執行役員で管轄する次の職場の引き継ぎをこなしていて、ここにはいなかった。心ここにあらず的な感じであった。
「皆さんご承知のとおり、今度こちらへお邪魔することとなった加藤秀利です。急な人事で、人事本部と兼務ということとなりましたが、皆さんの働き、活動は、会社の基盤づくりを成すもので、将来の我が社を支えるものと言えます。組織風土を変革するといったことに対して、何をしているんだかという冷ややかな視線もあったと思います。でも、皆さんは、本当に会社のこと、社員一人ひとりのことを思って活動しているのだと私は思っています。今まで人事本部長という立場にありながら、皆さんとこういった対話もできずに申し訳なかった。またフォローできていなかったことを、まずは許していただきたい」
と加藤さんは頭を下げた。
「そんな加藤さん・・・」
みんな逆に申し訳なく感じた。こういう挨拶というか、お詫びから入る上司とか見たことはなかった。また、加藤さんが謝るような理由もない。それは俺以外の四人にも伝わっていたと思う。

 八木沢と荻野が少しヒソヒソと話をして、みんなに言った。
「歓迎会には早いかもですが、よかったら今日、加藤さんを囲む会をしませんか?」
「いいな、それ」
と青山が言った
「もちろん」
と香取も、私も言った。なにか新しいスタートという雰囲気があった。加藤さんの言葉には、本当に俺たちに共感しているんだという雰囲気があった。一緒にやっていこうというような意志も感じられた。そんなことは全く言っていないのだが、なぜか前のめりの自分がいた。

 加藤さんは
「なんか、正式に異動していないのにいいかな。まあ、今日は割り勘で行こうな」
と笑顔が浮かんでいた。その日は、中野の居酒屋に入って、みんなで三時間粘った後に、カラオケコースとなった。カラオケに行くのはみんな久しぶりだと言っていた。自分も2年ぶりであった。6人が休むことなく選曲してデンモクに曲を入れていく。常に五曲くらいたまっているが、みんな入れ続けた。組織風土改革推進委員会に来て、こんなにみんなで飲んで歌ったのは初めてかもしれない。いま思えば、たぶん、この加藤さんがその場を演出していた感じがする。また、この時、加藤さんが、この組織で何をやろうとしているのか誰も考えていなかった。ただ、その時は、昭和のヒットメドレーが、松田聖子が、中森明菜が、チェッカーズが頭の中をグルグルとまわっていた。

「おはようございます!」
「おはよう!」
「昨日はお疲れさまでした」
昨日は24時過ぎまで飲んでいたのだが、みんなスッキリした感じで会社に来た。みんなこんな元気に挨拶していたっけ。なんかトーンが違うような気がした。今までと何か違う感じを覚えた。香取が言った。
「これから月に一度は昨日みたいな場、どうですか」
「おう、いいよな」
と青山が。
「やりましょうよ」
荻野が賛成した。
「今度の加藤さんが入ったミーティングで日にちも決めちゃいましょう」
と八木沢が。
「じゃ、幹事は香取だ」
と俺から指名した。
「みなさん、和・洋・中、どうしますか?ちょっとおすすめの中華があるんでそこでいいです?」
と香取はすでに幹事として動いていた。

 すぐに3月末における前期の成果と、4月以降の来期の計画について、加藤さんに説明しなければならないということを、みんなわかっており、いったんまとめ上げていた資料をもう一度見直してみようというミーティングを行うこととした。特に、来期の計画については三つ柱がある。

 一つ目が、各職場のボトム活動と、エンゲージメントサーベイを結びつけて、4月から開始するサーベイで浮き彫りになった課題などを職場で解決していくながれにしていこうと考えている。主に香取と青山が主管で動く予定である。説明資料も香取は仕上げていた。労働組合にもこういうサーベイを行うからという話を終えていた。彼らも、組織風土を可視化することは非常によいのではないかという感じであった。

 二つ目は、連動した形だが、ボトムアップ活動については定性的なものと、サーベイでの定量的なスコアの数値を参考に、アワードを行っていこうと。トランスフォーメーションの意味と、何かに変容していくという意味を持たせた「Xアワード」を行う予定である。好事例を集めて、みんなで審査をし、そのよいところを、発表の場をつくり、全社で共有し、横展開していこうという流れを考えている。これは、八木沢、荻野、私の三人で行う予定だ。実際は本年度の活動、つまり来年の3月までの活動を、翌年度表彰するという流れである。

 三つ目に組織風土研修が4月で終了予定であるが、来年度以降に、どこかほかの企業と一緒になって、この組織風土研修を組織風土改革研修としてアップデート、新たな視点で推し進めて、組織カルチャーを変えるための事業展開、サービス展開を図ろうというものである。少し、いや、かなり妄想気味ではあったが、何かを成し遂げたいという思いが各人にあり、これは全員であたる予定であった。今後、想定している企業を各自ノミネートしていくこととなっていた。また、社内でPoCとしてやるためにも、現場で数名、アンバサダー役を人選していこうということとなっている。我々自体が主体者でもあり、そこに参画したい人を3名~5名くらい、手挙げで公募しようと考えていた。単なる組織風土改革だけではなく、自分たちの生み出したものをブラッシュアップして他社へ売り込んでいく、一緒に変革していくというものである。どちらかというと当初サービス展開していく数社には最初はテスト導入してもらうようなイメージでテスト導入をこの1年で行おうという考えであった。

 みんなそこにはワクワクするものがあった。今年の1月からみんなが本務となり、なにかをやり遂げたいという感覚をみんな持っていた。


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