「小説 組織風土改革推進委員会」第6話:最初のミーティング (序)
第6話:最初のミーティング (序)
最初の加藤さんとのミーティングは4月1日10時から始めると連絡が来た。どんな方針をだすのか、俺たちが考えた今年の取り組みについてどう思うのか、どんなフィードバックが来るのか楽しみであった。それは俺だけではなかった。八木沢も
「加藤さんは経営企画も人事も経験してきて、さらに秘書室にも以前いたみたいだから、戦略的な話が聞けるのかな」
と期待感を顔にも出していた。
「へー、秘書室にもいたんだ。知らなかったなー。八木沢さん、どこで知ったの?」
まさに加藤さんをロールモデルとして慕おうとしている香取は、八木沢の秘書室という言葉に敏感に反応した。営業戦略、経営企画、秘書室、それに人事とさらに本当のエリートであった。
「うん。同期が一人秘書室にいて、加藤さんもここにいたんだって教えてくれてさ」
「八木沢の情報網もすごいね、やはりプロパーは同期がいるから強いなー。じゃあ、オレは八木沢を大事にしなきゃな、いや、八木沢先輩!」
十数分前に、5階の会議室に向かった。俺たちの会社は、東中野の山手通り沿いにある。自社ビルで、十年しか経っていないが、東中野エリアから外れると、近くで言えば中野や西新宿といった、まわりの新しいビルが快適でいいな、と見えてしまう。ビルは外から眺めると外壁は重厚なグレーの壁で、なんとなく新しく感じるビルのつくりであるが、中に入るとオフィスコンセプトは古いままのものであった。なぜなのかという感じはみんなが持っている。
後から聞いた話では、ビルの設計していた頃、ファシリティ部門の責任者が、かなりコクヨさん、オカムラさん、イトーキさんといったオフィス什器メーカーさんの見積もりをかなり低めに絞ったらしい。そう、当時はコスト重視で、外部のオフィス空間企業などの提案内容が全く活かされなかったと聞いた。今なら社員のためのリラックスできる場、ミーティングスペース、対話のスペース、1on1ミーティングの程よいスペースなどが施されるはずなのに。組織風土的にも、このオフィスは難点だった。「こういうところも何とかしなきゃならないな」と、委員会のメンバーは思っていた。働く環境は特に若い社員にとって大きな影響を与えてしまう。
また、もともとは、電気通信に関わる商社だったが、現在はその名残のインフラ事業、IT周りのソリューション事業、コンサルティング事業がメインとなっている。稼ぎ頭がインフラという、なかなかこれも古い事業のままであった。各事業本部の中で「新事業を」と叫んでも、誰もが、事業創造の経験が足りなかった。今の役員もそうであり、俺もその一員だ。外部のメンターを入れてイノベーションプログラムなどを企画したこともあったが、上手くいった事業はなかったと記憶している。そうこう考えているうちに、加藤さんが部屋に入ってきた。何の工夫もされてない無機質な会議室。オンライン会議を行うためのモニターもやっと昨年度、すべての会議室に設置できたところである。
グレーのスーツに派手にも見えるブルーのレジメンタルのネクタイ、少し白髪混じりではあるがきっちりとしたナチュラルなショートカットの加藤さんの姿は、まだ50過ぎには見えなかった。多分、俺より二つほど年上だから、今年、57歳だったかと。今日、加藤さんは何を語るのかだろうか、みんな、にこりともせず、手の動き、後ろを向いた姿。ホワイトボード用のペンを持つ彼を小刻みに追った。
