「小説 組織風土改革推進委員会」第7話:ミーティング 荻野の話
第7話:ミーティング 荻野の話
「では、みんな、今期一年間、自分はこれをやるんだという思いを、一言でいいから語ってくれないか?ちょっとホワイトボードにも書いていこうと思う」
加藤さんの言葉は、緊張感をもって臨んでいた俺たちには、少し拍子抜けの感もしたのだが、一年の思いを自由に語らせるっていうのは、面白いなという印象だった。明るい陽ざしが舞い込んできたようで、なにか自由な香りがする、そんな感じがした。でも、みんなでやること、組織風土改革推進員会でやることは決めていたが、個人においてやりたいことは、その二つのことは重なる内容なのか、結びつく内容なのか、ちょっと考えつつ、すぐには思い浮かばないような顔色がみんなにうかがえた。
そんな中で、荻野は、大きな声で
「はい!一番にいいですか?」
「おっ、いいね!一番。いま、一番という言葉がでましたね。聞いてもいいですか、荻野さんは一番というものを大切にしているんですか?」
「そうですね、すぐさま、なにか話したいというのが本心かもです」
「なぜ、すぐに話したいのですかね」
「昔からのようです」
「いつごろだろ?」
「きっと、中学あたりからかな。格好つける感じではなく、なんか一番に手を挙げること、発表することが、もう自分のルーティーンになっているようで。例えば、外部のセミナーでも一番に手を挙げて質問している自分がいます」
と、もともと筋肉質ではあったが、返答もスポーツマンスタイルで、はきはきと荻野は返していた。
「一番の質問は勇気がいりますよね。その荻野さんの一番はどこからきているんでしょうね」
「うーん、格好つける感じではないのですが・・・でも、どこかで目立ちたいのかな。あいつ、一番だって」
「一番だって、承認されたいのですかね」
「承認・・・・・・そうですね、どこかで認められたいのかも」
「承認された、認められた荻野さんはどんな気分でしょう」
「なにかポジティブな気分で次の話題や会話にスムースにはいれます。みんなと壁とか柵がないような感じです。ハードルが下がったということとか、笑顔でいられるとか」
「よいイメージができていますね。どんな風景でしょう」
「うーーん、グリーン、草原、公園?なんだろ、緑の広大な広場でしょうか。みんなにこやかです」
荻野は想像を膨らませているのか、絞り出しているのかわからないが、楽しそうに話していた。加藤さんは続けて質問した。
「かなり横道にそれましたね。それでは、今年の思いといきましょうか」
「ありがとうございます。かなりポジティブになっていますので、その勢いで話しますね。私はこの一年で組織風土改革推進委員会を社内一の組織とします。そのために精進します」
「会社で、一番ですね」
「社内一になった荻野さんは何を手に入れていますか?」
「手に入れる? うーん、社内のみんなからの称賛でしょうか。社長からもですかね」
先ほどよりも、言葉を選びながら、荻野は答えていた。加藤さんは続けた。
「それって、どういう意味がある?」
「意味?称賛されることって、日ごろないんですよね。称賛されたりすれば・・・・・・ちょっと、称賛は望んでいない気がしてきました。どんな言葉が合致しますかねー」
「・・・・・・」
しばらく荻野は無言であったが、思い出したように、
「あっ、貢献という言葉が、もっと、しっくりきました。自分自身が貢献したんだという意識をもつことかと思いました。貢献感を得られると、いい感じです」
荻野の声のトーンに力強さを感じていた。彼は貢献という言葉を大切にしたいんだな、心の奥底ではそういうものを意識しているんだなということが伝わってきた。「加藤さん、すごいな・・・・・・」とあらためて思った。
加藤さんは、さらに、
「それで、荻野さんは、この一年は何をやっていきたい?思いを教えてもらっていいかな?」
「はい、社員の一人ひとりに組織風土改革ということをやっていくことで貢献したいです。結果、そのことが、売上などの成果につながったり、組織がワンチームになったりしていけばと、よりよい貢献ができたと思うでしょう」
荻野の声はさらに張りが強くなっていた。
