「小説 組織風土改革推進委員会」第9話:ミーティング 八木沢の話
第9話:ミーティング 八木沢の話
八木沢の番だった。
「ちょっと話してもらう前にいいかな。八木沢さんは、先ほどの荻野さん、青山さんの話を聞いて何か思ったことありますか?」
早速話そうとする仕草を見せていた八木沢を遮ったわけではないのだろうが、加藤さんから先に質問が飛んだ。これは俺に対しても「問い」を投げかけられている感じがした。
八木沢はしばらく考え込んでいた。いま、目の前で起こったことは不思議な感覚であった。
「ちょっと言葉として適切かどうかはわかりませんが、荻野くんは何かスッキリしたイメージになりましたよね。今も何だか、ねぇ」
といって、八木沢は荻野を見た。荻野も満更ではない感じだった。
「また、青山さんは、何だか自己開示された内容に少し驚きました。急にそういう展開になったので、まあ。どう表現してよいか」
ここで加藤さんが
「しっかり二人を捉えてましたね。八木沢さんはどう感じたのかな?」
「これも上手く言えないけど、加藤さんが何かスポーツ選手に寄り添うメンタルコーチに見えたり、そうそうテニスの個人コーチや、ラグビーチームに寄り添うような。僕に向けられたらっていうのが、いま、浮かびました。どうなるんですかね?私は」
「スポーツ選手に寄り添うか、まあ、そういうコーチは当人の思いや感情を引き出して、よい結果を、イメージさせてるんだね。今日はそこまではいかないので、八木沢さん、楽にね。では、八木沢さんの今年の思いを聞かせてもらっていいですか?」
「はい、僕はまだ皆さんと比べたら、組織風土をどうしていけばよいのかなどの知識が弱いんですよね。例えば、あるチームから、僕に対して相談があったとしても、どうアクションのアドバイスをしていけばよいのかがわからないケースがあります。何かしらスキルの習得をしていかないといけないと」
加藤さんはじっと八木沢を見ながらうなずいていた。
八木沢は言葉を選びながらゆっくりと答えた。
「この一年はまずは学びなのかなと」
加藤さんは少し間を置いて、
「八木沢さんは学びの意識が旺盛なのですね。少し意地悪な問いかけですが、自分に知識があれば解決できる問題がたくさんあるという認識なのかな」
八木沢は
「たくさんかどうかはわかりませんが、知識があれば、色んな問題に対処出来ていけるかと。自分に余裕も出てくるかと。そして、みんな相談に来て欲しいなというのもあります」
加藤さんは言った。
「どんな八木沢さんなら、みんな相談に来るだろう?」
八木沢は
「知識があって、アドバイスが的確ならば信用されるかと」
「知識のほかには?」
加藤さんは質問した。
「相手の状況を知ることですか」
「ほかには?」
「よく話を聴くことですか」
「ほかには」
加藤さんは、八木沢を包み込むような話し方をしていた。実に丁寧な言い方であった。
「うーん、頼りにしたい。いや、違うかも。さっきみたいに、どんな組織にしたいかを一緒に考えてくれるとか」
八木沢は、考えて考えて出てきた言葉を、うん、うん、と噛み締めて、ノートにメモしていた。
「八木沢さん、なんかメモしたけど、どうしました?」
八木沢は、あっというような顔をして、
「加藤さんとの対話で、なんか気づきがありました。一緒に考えて伴走してくれる人とかいいかなーって。相手にとってどんな人がよいかと。だから、いま、思い浮かんだのですが、本当に必要なものは、実際は、知識ではないのかなと思いました」
加藤さんはあらためてたずねた。
「今年、八木沢さんは何をやろうと考えてますか?ちょっと、もう一度聞かせてくれますか?」
八木沢はちょっと右上に視線を送りながら、頭の中を整理していたように見えていた。
「今年は、社員のみんなからこの組織の中で、この会社の中で、一番相談を受けて貢献している自分になりたいです。それと、みんなが笑顔になるように一緒に伴走する人になっていたいです」
「もっと、もっと、出てきそうですね、八木沢さん。でも最初は知識と言ってましたが、八木沢さんがのぞむ姿とか価値観とかに触れられて良かったです。みんなも八木沢さんの想いがしっかりと伝わったかもですね」
大柄の八木沢とは対照的なスタイルの荻野が
「はい、伝わりました。一番相談を受けて貢献していたいと。しかし、僕も負けませんとだけ伝えます」
と笑いながら言ったら、みんなからも笑いがおき、香取が
「えっ、そこんとこ、八木沢が一番なのねー、じゃあ俺は何を狙おうかなー。相談はお前に任せて、違うこと考えるよ」
みんなにそれぞれ、強みがある、個性がある、それを活かしていければよいと思った。加藤さんはそういうのを引き出すのがうまい方だとあらためて思った。みんなの話し方にワクワク感がでてきたように感じた。つい、一か月前は、上司がまた変わるのか、ということですごくネガティブな感情が出ていた自分が情けなくなっていた。
一人ひとりの強みが発揮出来たら、この組織風土改革推進委員会は本当に強い組織になるのではないかと思っていた。俺たちが会社を引っ張っていけるかなとも感じていた。
