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週刊アンチ・ドーピング通信 #8|「ロキソニンはドーピングにならない」を詳しく解説!


はじめに

こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。

前号の第7号では禁止表の基本ルール(毎年改定・1月1日発効など)を解説しました。

今回はその禁止表の中身に踏み込みます。きっかけは第3号でも紹介した、レクリエーション競技者からよくいただく質問です。

「ロキソニン(ロキソプロフェン)を飲んでレースに出ても大丈夫ですか?」

それに対して私は、アンチ・ドーピングの観点では「競技会(時)・競技会外ともに使用可」とお答えしています。

このとき「競技会(時)」「競技会外」という言葉が出てきましたが、それぞれが何を指すのか、第3号では詳しく説明していませんでした。今週はその伏線を回収します。

禁止表に記載されている禁止物質・禁止方法は、実は大きく3つに分類されています。この分類を理解すると、「競技会(時)・競技会外ともに使用可」という回答の意味がはっきりと分かるようになります。


トピック① 禁止物質・禁止方法の3分類

禁止表に記載された物質や方法は、以下の3つに分類されます。

1. 常に禁止される(物質:S0~S5、方法:M1~M3)

競技会の内外を問わず、いつでもどこでも禁止されるものです。練習中もオフシーズンも、海外遠征中も例外はありません。たとえば蛋白同化薬(S1)やEPO(S2)、血液および血液成分の操作(M1)などがこれに該当します。

2. 競技会(時)に禁止される(物質:S6~S9)

競技会期間中のみ禁止されるものです。競技会外での使用は原則として問題ありません。たとえば興奮薬(S6)、麻薬(S7)、カンナビノイド(S8)、糖質コルチコイド(S9)などです。

3. 特定競技において禁止される(物質:P1)

特定の競技においてのみ禁止されるものです。現在のP1はベータ遮断薬のみで、アーチェリーや射撃など精密な動作が求められる競技で禁止されています。

この3分類を踏まえると、非ステロイド性抗炎症薬であるロキソニン(ロキソプロフェン)がなぜ「競技会(時)・競技会外ともに使用可」なのかが分かります。非ステロイド性抗炎症薬が3分類のどれにも当てはまらない物質だからです。

ただし注意したいのは、自分で「リストに載ってないから OK」と判断しないこと。薬がアンチ・ドーピング上で使えるかどうかは、GlobalDRO(医薬品の禁止状況検索データベース/JADA・WADAなどが共同運営)で確認するのが基本 です。日本語で薬剤名を入力すると、「使用可」「使用不可」がその場で分かります。

ロキソプロフェンも、GlobalDRO で「使用可」が確認できる薬です。

💊 薬剤師ポイント:「使用可」はあくまで「アンチ・ドーピング規則上、禁止されていない」という意味です。第3号でも解説しましたが、脱水状態でのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)服用には腎機能障害のリスクがあります。禁止されていないことと、安全に使えることは別の問題 です。

(第3号 詳細:https://note.com/techkeep_pharma/n/n7d8c1e0b67bf


トピック② 「競技会(時)」とはいつからいつまでか

「競技会(時)に禁止される」という分類を理解する上で、「競技会(時)」がいつから始まるのかを正確に知っておく必要があります。

WADAの定義では、「競技会(時)(In-Competition)」は原則として競技予定日の前日23時59分から始まります。そして、その競技とそれに関連する検体採取が完了するまでが「競技会(時)」です。

つまり、レース当日の朝だけではなく、前日の深夜から「競技会(時)」のルールが適用されるということです。前日の夜に風邪薬を飲んでしまった場合でも、その薬にS6(興奮薬)に該当する成分が含まれていれば、翌日の競技会(時)検査で検出される可能性があります。

ただし、オリンピックや世界選手権などの大規模大会では、主催者が独自の「競技会(時)」を設定する場合があります。たとえば大会期間全体(開会式の数日前から閉会式まで)を「競技会(時)」とすることもあります。出場する大会のルールを事前に確認しておくことが大切です。

薬剤師ポイント:薬の成分が体内に残っている時間(半減期)を考慮することも重要です。「前日の23時59分以降に飲まなければ大丈夫」ではなく、それ以前に服用した薬でも体内に残留していれば検出される可能性があります。薬を使用する前にスポーツファーマシストに相談しましょう。


トピック③ 競技会外検査と居場所情報義務

ここまでの話は主に「競技会(時)」のルールでしたが、アンチ・ドーピングの検査は競技会だけで行われるわけではありません。「競技会外検査」も重要な仕組みです。

競技会外検査とは、練習中やオフシーズンなど、競技会以外の時間に抜き打ちで行われるドーピング検査のことです。常に禁止される物質(S0~S5)や常に禁止される方法(M1~M3)は、この競技会外検査でも対象になります。

トップアスリートには「居場所情報」の提出義務があります。これはWADAの検査登録リスト(RTP)や国内検査対象者リスト(NTP)に登録された競技者が対象で、毎日の居場所(1日1時間の「60分枠」と呼ばれる時間帯を含む)をADAMS(WADAの管理システム)に登録しなければなりません。

居場所情報の不提出や虚偽報告は「居場所情報関連義務違反」として、12ヶ月以内に3回の不履行で制裁の対象になります。つまり、検査で陽性にならなくても、居場所情報の管理だけで違反になる可能性があるのです。

この仕組みがどれだけ厳しいかを想像してみてください。トップアスリートは毎日、翌日の居場所を正確に登録し、急な予定変更があればすぐにシステムを更新しなければなりません。旅行中も、合宿中も、休暇中も例外はありません。アンチ・ドーピングとの向き合いは、トップアスリートにとって競技そのものと同じくらい日常的な義務なのです。

アスリートへのヒント:居場所情報義務は主にトップレベルの競技者に適用されるものですが、アンチ・ドーピングの厳格さを知ることは、すべてのスポーツ関係者にとって意味があります。「クリーンスポーツ」を支える仕組みの裏には、こうした競技者の日々の努力があることを心に留めておきましょう。


まとめ

今週のポイントをまとめます。

  • 禁止物質・禁止方法は3つに分類される:常に禁止される(S0~S5、M1~M3)、競技会(時)に禁止される(S6~S9)、特定競技において禁止される(P1)

  • ロキソニンが「競技会(時)・競技会外ともに使用可」なのは、禁止表のどの分類にも記載されていないから

  • 「競技会(時)」は原則として競技予定日の前日23時59分から開始。大規模大会では独自の設定がある場合も

  • トップアスリートには居場所情報の提出義務があり、不履行は制裁の対象になる

  • 薬を使用する前にGlobalDROで確認し、不安があればスポーツファーマシストに相談を

次回の第9号では、常に禁止される物質(S0~S5)と常に禁止される方法(M1~M3)の各クラスについて、具体的にどんな物質・方法が禁止されているのかを解説します。


著者プロフィール

TechKeep_pharma
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma


ご利用にあたって

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