「美人が淹れる珈琲は美味しい」を信じていた頃の話|元外銀女の独り言①
外銀で働いていた20代、私はエストネーションで買ったワンピースを着て、ルブタンのピンヒールで脚を強調して出社していた。
顔のたるみが気になり始め、ハイフまで打ち始めていた。
男上司はよく言った。
「社内の空気が華やかになるね」
「綺麗な人に出してもらうと、珈琲も美味しくなるからお客さんに出して」
当時の私は、それを本気で褒め言葉だと思っていた。
期待されるのが嬉しかった。
名前を呼ばれるのが嬉しかった。
会議室に入ると空気が少し変わる感じも、嫌いじゃなかった。
だから私は、よりその役割へ自分を“最適化”していった。
脚が綺麗に見えるヒール。
身体のラインが出るワンピース。
明るい髪色に、派手なネイル。
エステ、そしてプチ整形。
綺麗になればなるほど、評価される気がした。
実際、表面上は評価されていたと思う。
でも今になって思う。
あの評価は、本当に「私自身」に向けられていたんだろうか。
私が次のワンピースを探し、美容に時間とお金を注ぎ込んでいる間、同期の男の子たちは何をやっていたか。
彼らは資格の勉強をし、男上司たちとの飲み会に付き合い、ゴルフに行っていた。
いわゆる「ボーイズクラブ」の空気を学び、着実に昇進を早めていた。
男上司が、男の同期に珈琲出しを頼むことは絶対になかった。
当時の私は、その違和感に気づけなかった。
いや、気づいていたけれど、見ないふりをしていたのかもしれない。
だって、その華やかなゲームの中では、私は“勝っている側”だと思い込んでいたから。
30歳を過ぎた頃、新しい美女新人が入ってきた。
若くて、愛想がよくて、仕事もそつがない。上司受けも抜群だった。
彼女が入ってきてから、私に向けられていた視線や空気は、潮が引くように少しずつ彼女へ移っていった。
若く、愛想がよく、感じがいい。
数年後、彼女は寿退社した。
完璧だった。
空気を柔らかくして、男たちを気分よく働かせる。
そして適切なタイミングで去っていく。
私はたぶん、その期間限定のポジションに必死にしがみつこうとしていたのだ。
会社の太い幹にはなれないと無意識に悟り、せめて綺麗な「花」でいようとしていた。
でも、花には残酷なほど短い賞味期限がある。
そしてそのゲームは、次の若い花が来た瞬間に、あっけなく終わる。
今ならわかる。
職場において女は、無意識のうちに膨大な「CAPEX(資本的支出)」を強いられているのだ。
美容代、化粧品代、髪のトリートメント代、洋服代、鞄代、アクセサリー代、ネイル代。
もちろん、使うのは楽しい。
新しいものを身につけるだけで、自分がアップグレードした気になれる。
けれど、その努力が評価やボーナスに結びついた頃には、自分は確実に1歳、歳を取っている。
そして「来期」には、現状維持のためにさらに高額なアンチエイジング費用が必要になる。
今のAIバブルを見ていると、時々あの頃の自分を思い出す。
巨大テックは莫大なCAPEXを続けている。
市場を勝ち抜くために、さらに投資し、さらに拡大する。
投資を止めた瞬間、競争から落ちるからだ。
女の美容も、少し似ている。
もっと綺麗に。
もっと若く。
もっと感じよく。
終わりがない。
でも企業には、回収フェーズがある。
じゃあ、私の美容費は。
あの膨大な自己投資は笑。
一体、どこで回収されたんだろう。
「君に払いたいんだ」そう言って600万円払った人の話。元外銀女の独り言シリーズ②👇️
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