「コスパの谷」を越えられる人が強い。AI時代に改めて考えたいGRITという力
最近、「タイパ」「コスパ」という言葉をよく聞く。
できるだけ短い時間で成果を出したい。
できるだけ少ない労力で結果を得たい。
これは当然のことだと思う。
無駄な作業を減らすことは悪くないし、AIを使えば、これまで何時間もかかっていた仕事を数分で終わらせることもできる。
ただ、ここには一つ危険な罠がある。
「すぐに成果が出ないもの=コスパが悪い」と判断してしまうことだ。
仕事でも勉強でも、新しいことを始めた直後は楽しい。
少し触っただけで新しいことが分かる。
成長も実感しやすい。
ところが、ある程度進むと突然うまくいかなくなる。
覚えることが増える。
結果が出なくなる。
周囲への説明が必要になる。
他部署を巻き込まなければならなくなる。
ここで一気に、
「割に合わない」
と感じ始める。
でも、本当の差がつくのは、実はここからなのかもしれない。
必ずやってくる「コスパの谷」
何か新しいことを始めると、最初は比較的コスパがいい。
例えば生成AI。
初めてChatGPTを使ったとき、
「こんなことまでできるのか」
と驚く。
文章を書く。
要約する。
アイデアを出してもらう。
少し触っただけでも、それなりの成果が出る。
ここは楽しい。
しかし、その先へ行こうとすると話が変わる。
業務に本格導入する。
自分専用の仕組みを作る。
精度を上げる。
組織で使える状態にする。
既存システムと組み合わせる。
こうなってくると急に面倒になる。
試行錯誤も増える。
失敗もする。
時間もかかる。
すると、
「ここまでやる必要ある?」
という瞬間が来る。
これが、「コスパの谷」だ。
キャリアも同じだと思う。
新しい部署へ行った。
最初は新鮮で面白い。
でも半年、一年と経つと、表面的な仕事だけでは済まなくなる。
サービスを深く理解する必要がある。
顧客を理解する必要がある。
人間関係も構築しなければならない。
すぐには成果が出ない時期もある。
そこで辞める人と、
「まあ、ここはそういう時期だろう」
と越えていく人がいる。
そして、その谷を越えた先で初めて、
経験がつながり、能力が蓄積し、他の人が簡単には追いつけない領域に入る。
GRITとは「やり抜く力」
この「コスパの谷」を越えるために重要になるのが、
GRIT(グリット)
という考え方だ。
日本語ではよく、
「やり抜く力」
と訳される。
ただし、単純な我慢強さではない。
GRITには大きく二つの要素がある。
一つは、努力の粘り強さ。
困難が起きた。
成果が出ない。
周囲から反対された。
それでも簡単には投げ出さない。
もう一つが、
興味の一貫性。
昨日はこれ。
今日は別のこと。
明日はまた違うこと。
と次々に対象を変えるのではなく、
あるテーマや目的を長期間追い続ける。
この二つが組み合わさったものがGRITだ。
「すぐやめる人」と「やり抜く人」
仕事をしていると、
「絶対やります」
と勢いよく言う人がいる。
最初の熱量も高い。
資料も作る。
会議でも発言する。
ところが少し難しくなると、
急に動かなくなる。
社内から反対された。
説明が面倒になった。
関係者が増えた。
思ったほど評価されなかった。
すると、
「あれはちょっと難しいですね」
となる。
一方で、
最初はそれほど派手ではなくても、淡々と続ける人がいる。
一つダメなら別の方法を試す。
この人がダメなら別の人に相談する。
資料が通らなければ作り直す。
結果として、最後には何とか形にしてしまう。
長い目で見ると、この差はかなり大きい。
GRITは「同じ方法を続けること」ではない
ここは誤解しやすい。
やり抜く力というと、
「一度決めた方法を最後まで貫く」
と思ってしまう。
でも、それは違う。
目的には執着する。
手段には執着しない。
例えば、
「このプロジェクトを成功させたい」
という目的がある。
当初は、
「全社を最初から巻き込もう」
と考えた。
でも、うまくいかなかった。
そこで、
「じゃあ無理だ」
と諦めるのではない。
まず一部署だけで始める。
理解のある役員を一人巻き込む。
小さな成功事例を作る。
その結果を持って、もう一度全社へ広げる。
方法を変えればいい。
つまりGRITとは、
同じ壁に頭をぶつけ続けることではない。
目的を諦めず、壁の横を通る道を探し続けることなのだと思う。
AI時代ほど「やり抜く力」が差になる
これは個人的にもかなり重要だと思う。
AIによって、
文章を書く。
情報を整理する。
アイデアを出す。
プログラムを書く。
データを分析する。
こうした知的作業のハードルは急激に下がった。
以前なら、
「自分には知識がない」
「プログラムを書けない」
「論理的に整理するのが苦手」
というところで止まっていた人でも、AIを使えばかなり補える。
すると逆に、
何をやりたいのか。
そして、
そこまでAIや人やツールを使い切れるのか。
の重要性が高くなる。
AIに一回質問して、
「なるほど」
で終わる人。
一方で、
「ちょっと違う」
「だったらこれは?」
「この方法なら?」
「もう一段深くできないか?」
と何十回もやり取りする人。
同じAIを使っていても、最終的な成果はかなり違ってくる。
道具が強力になるほど、
道具を最後まで使い倒す人間側の執念
が差になる。
「一度やり抜いた経験」は資産になる
GRITの面白いところは、
一度の成功で終わらないことだ。
一度、難しい仕事を最後までやり抜いた。
すると、
「最初は無理だと思ったけど、何とかなった」
という経験が残る。
次にまた難しい仕事が来る。
以前なら、
「これは無理だ」
と思っていたところで、
「まあ、前も何とかなったし」
と思える。
そしてまた最後までやる。
すると、
さらに自信がつく。
つまり、
やり抜く
↓
成功経験ができる
↓
自分なら何とかできると思える
↓
次もやり抜く
という循環が生まれる。
これはかなり強い。
逆に「うやむやにする」ことも習慣になる
怖いのは逆だ。
面倒になった。
一度やめる。
プロジェクトをうやむやにする。
次に難しい仕事が来る。
「まあ、前も途中で終わったし」
となる。
また諦める。
すると、
やり抜かないことが普通になる。
これは個人だけの問題ではない。
組織でも起きる。
新しい施策を始める。
途中で反対される。
説明が面倒になる。
結局、当たり障りのないところだけやって終了する。
これを繰り返していると、
社員も、
「どうせ今回も途中で終わるだろう」
と思い始める。
次のプロジェクトでは、最初から本気で参加しなくなる。
そうするとさらに失敗しやすくなる。
つまり、やり抜く文化も、やり抜かない文化も自己強化していく。
組織にもGRITがある
GRITというと個人の能力だと思われがちだ。
でも、組織にも「やり抜く力」がある。
何か問題が起きたとき、
「どうせ無理だ」
と言う会社。
「どうすればできる?」
と考える会社。
同じ問題でも反応が違う。
そして、この差は組織文化として蓄積していく。
やり抜く組織を作るうえで重要なのは、まずリーダーだ。
リーダーが、
「最後までやろう」と言いながら、
自分はすぐ諦める。
これでは誰もついてこない。
まずリーダー自身が、最も高い熱量でやり抜く。
ここから始まる。
ただし「やり抜け」と言うだけでは危険
一方で、
「とにかく最後までやれ」
だけでは危険だと思う。
場合によっては、
根性論になる。
できない人を責める文化にもなる。
だから大切なのは、
「やり抜け」ではなく「一緒にやり抜こう」
という姿勢だ。
難しい。
じゃあどうするか一緒に考える。
別の方法を探す。
困っているなら助ける。
必要なら戦略を変える。
それでも目的は諦めない。
この形なら、GRITは単なる精神論ではなくなる。
GRITは「顧客のため」に使う
さらに重要なのは、
何のためにやり抜くのか
ということだと思う。
「俺たちは諦めない会社だ」
という自己満足だけでは意味がない。
誰も欲しがっていないサービスを、
根性だけで作り続けても仕方がない。
顧客が喜ぶからやる。
この事業が良くなるからやる。
社会に価値があるからやる。
つまり、
目的の方向が外側を向いていること
が重要になる。
GRITとは、
意味のないことを耐え続ける能力ではない。
価値のある目的を、方法を変えながら追い続ける力
なのだと思う。
GRITを鍛えるには
では、やり抜く力はどうすれば鍛えられるのか。
一つは、「自分はどういう人間でありたいか」を決めること。
仕事を頼まれたら最後までやる人でいたい。
信頼してくれた顧客を裏切らない人でいたい。
途中で投げ出すのは格好悪いと思える自分でいたい。
こういう自己認識は意外と重要だ。
もう一つは、失敗したとき、
「自分には才能がない」
と考えないこと。
例えば営業がうまくいかなかった。
「自分は営業に向いていない」
ではなく、
「このやり方ではダメだった」
と考える。
資料が通らなかった。
「自分には能力がない」
ではなく、
「説明方法を変えよう」
と考える。
目的を残して、手段を変える。
これを繰り返す。
コスパを考えるなら「谷の先」まで見る
コスパを考えること自体は悪くない。
むしろ重要だ。
ただ、
評価する時間軸が短すぎる
のが問題なのだと思う。
1週間で成果が出ない。
だからやめる。
1カ月で数字が出ない。
だからやめる。
でも本当に見るべきなのは、
その谷を越えた先で何が得られるのか
ではないだろうか。
新しいスキル。
経験。
人脈。
業界理解。
信用。
仕組み。
これらは最初から効率よく手に入るものではない。
一度、「一時的にコスパが悪くなる期間」を通過する。
その先で初めて、他の人が簡単には真似できないものになる。
最後に
AIによって、できることはどんどん増えている。
知識へのアクセスも簡単になった。
文章もコードもAIが作ってくれる。
だからこそ、これから価値が上がるのは、
単純に「知っている人」ではなく、
目的を持って、最後まで使い切れる人
なのかもしれない。
最初は面白い。
その後、必ず面倒になる。
結果が出ない時期も来る。
そこで、
「コスパ悪いな」
と帰るのか。
それとも、
「はいはい、ここがコスパの谷ね」
と思って進むのか。
この差は、数日では見えない。
でも数年後には、かなり大きな差になる。
だから何かを始めたとき、成果が出なくなった瞬間に一度考えてみたい。「これは本当にやめるべきなのか。それとも、今ちょうど『コスパの谷』にいるだけなのか」
その判断ができるだけでも、仕事やキャリアの見え方はかなり変わる気がする。
