「ターンオーバーでお願いします。」屋久島のホテルで知った目玉焼きの文化の違い
朝食で聞き慣れない一言
屋久島のホテルで働いていた頃、私は朝食作りを担当することがありました。朝6時には出社して、鶏舎の仕事をして、野菜の収穫をします。
それから朝食の準備を始めます。
宿泊されるお客様の多くは海外からの旅行者です。注文を受けながら、一つひとつ目玉焼きを焼いていたある日、お客様からこんな言葉を掛けられました。
「Can I have two eggs over easy, please?」キッチンを覗いたお客さんがそう言いました。
私は思わず手を止めました。英語で言われたので何か分かりませんでした。すぐにスマホで調べて”目玉焼きの両面焼き”ということが分かりました。
「ターンオーバー……?」
日本で育った私にとって、目玉焼きといえば黄身が上を向いたサニーサイドアップが当たり前です。これまで特別に焼き方を指定された経験もなく、その言葉の意味が分かりませんでした。
海外では定番の焼き方
先輩に教えてもらうと、ターンオーバーとは目玉焼きをひっくり返し、両面を焼く調理法のことでした。

実際に焼いてみると、日本で見慣れた目玉焼きとは少し違います。
黄身の表面にも火が入り、白い膜で覆われた仕上がりになります。
ホテルでは、この焼き方を希望される海外のお客様が少なくありませんでした。
もちろん好みは人それぞれですが、日本では半熟の黄身をご飯に絡めて楽しむ人が多い一方で、生っぽく見える黄身を好まない方もいるのだと知りました。
同じ目玉焼きでも、国が違えば「おいしい」と感じる焼き方も違う。そのことがとても新鮮でした。
祖母が教えてくれた「びっくり水」
その出来事をきっかけに思い出したのが、子どもの頃に祖母から教わった目玉焼きの焼き方です。

祖母はそれを「びっくり水」と呼んでいました。
熱したフライパンに卵を割り入れたら、水をほんの少し入れてすぐに蓋をします。
すると蒸気で白身がふんわりと火が通り、黄身は半熟のまま仕上がります。
今では水の代わりに氷を一個入れることもあります。
氷がゆっくり溶けて蒸気になるので、水の量を気にしなくても手軽に蒸し焼きができます。
子どもの頃は「これが普通の目玉焼き」だと思っていましたが、大人になってから、それも一つの家庭の知恵だったのだと気付きました。
目玉焼きにも文化がある
屋久島のホテルでは海外のお客様からターンオーバーを学び、家では祖母からびっくり水を教わりました。
目玉焼きはとても身近な料理ですが、焼き方には国ごとの文化や家庭ごとの工夫があります。
日本ではサニーサイドアップ、海外ではターンオーバー、そして私の実家では「びっくり水」

たった一つの卵でも、焼き方が違えば食卓の風景も変わります。
屋久島でのホテル勤務を通して、私はそんな小さな食文化の違いを知ることができました。
今でもフライパンに卵を割り入れるたび、海外のお客様から初めて聞いた「ターンオーバー」という言葉と、祖母が笑顔で教えてくれた「びっくり水」を思い出します。
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