テニス上達メモ178.“雑情報”があなたのプレーを壊す──シャラポワやサンプラスに学ぶ「遮断の技術」
▶嘘をつくと勝てなくなる
テニスを上手くプレーするには、「絶対勝ちたい」「負けたら嫌だ」という「勝敗」や、あるいは「体をしっかりひねろう」「手首を固定しよう」という「フォーム」などの思考的な影響を遮断することが大事。
これは、いつもお伝えしているとおりです。
遮断しておかないことには意識が分散し、ボールへの集中を自ら妨げてしまうからですね。
そういう意味ではもちろん、嘘をついたりするのも危険。
「バレたらどうしよう」と心配になって、心の雑音がうるさくなります(関連記事「『バレたらどうしよう』という苦しみ」) 。
▶ニック・キリオス、衝撃の一言
一方で忘れがちなのが、物理的な影響を遮断する必要性です。
物理的な影響というのは、実際に見聞きするたぐいの余計な(プレーに関係のない)情報、これらを極力遮断するという試み。
たとえば対戦相手の何気ない「今日は調子が良さそうだね」あるいは「悪そうだね」という一言。
こういう一言を真に受けてしまうと、気になってそれが引き金となり、調子を乱すきっかけになることが、特にゲームのようなプレッシャーのかかるシーンではよくありますね(『ウイニング・アグリー』は、これを逆手に取っているわけで……)(関連記事「対戦相手の『フォアの調子』を崩す方法」)。
ニック・キリオスがスタン・ワウリンカに向かって放った一言も、いいか悪いかは別として、それを意図した陽動作戦だったのは言うまでもありません(関連記事「本当にテニスが上手くなりたければ『人間性を高める』よりも……」)。
▶集中持続力を伸ばす
もっと広義で言えば、騒音などもそう。
自分では気にしないつもりでも、バックグラウンドが騒がしいと、無意識のうちに影響を受けて集中しづらくなりますよね。
ですから観客が騒がしいと、ウインブルドンでは「Quiet please, thank you」、全仏オープンでは「Silence, s’il vous plaît」といって、アンパイアが静粛を促します(関連記事「伊達公子さんの『ホントにうるさかった』」)。
こういう、物理的な影響を極力遮断するように努めると、集中力に持続性が出てきます。
ですから坐禅の初級段階では、心身に集中するために、静かな環境で行うのが望ましいとされます。
視覚情報も遮るために閉眼(あるいは半眼)しますが、テニスの場合はそうするとボールが見えないので、残念ながら採用できませんけれども。
▶「カクテルパーティー効果」をテニスに活かす
具体的には、どうすればいいか?
人の脳は幸い、耳に入ってくる音(振動)は、物理的に耳をふさぐなどしないとコントロールできませんけれども、聴き分ける取捨選択は可能です。
「カクテルパーティー効果」は、たくさんの人がそれぞれに雑談している喧噪の中でも、自分が興味のある人の会話、自分の名前などを、意図的に注意を払って聴き取ることができる能力のこと(カクテルパーティ効果。参考:ウィキペディア)。
ですから騒音をなくしたいのならば、たとえばプレー中はボールの音だけに注意を向けると、物理的雑音を簡単に遮断でき、対象に集中しやすくなります(※1ボールをクッキリ見る方法)。
▶視線が乱れると心も乱れる
もちろん視覚的にも同様のことが言えます。
ポイントとポイントの合間に、スタンドを見たり対戦相手を見たりキョロキョロすると、さまざまな物理的視覚情報が私たちの心を揺れ動かしにくるでしょう。
いろいろ見ると、落ち着かなくなるということ。
たとえば散らかったデスクでは、いろんな物が視界に入ってきて、集中しにくくなりますよね。
見ようとしなくも、目に映る情報が潜在的に影響を及ぼします。
一方、スッキリと片付いたデスクはこの逆。
全神経を集中すべき対象に向けられ、精神エネルギーを浪費せずに済みます。
▶0.5秒の判断で、数百万円!?
一瞬の判断が求められるプロトレーダー(特に短期・デイトレーダー)のデスクは、集中できるように非常にシンプルかつ機能的に整えられていることが多いそうです。
テニスと同様にトレードでは、遅れや迷いが命取り。
0.5秒の判断で数十万円〜数百万円の損益が決まるため、ノイズ(雑音や視覚的なゴチャゴチャ)は徹底的に排除されます(関連記事「書評第5弾『ゾーン — 「勝つ」相場心理学入門』----副題:ゾーンに入って全部勝つ!」)。
▶雑情報に対して「手ぶら」でいるのは危険!
ですから集中するには、物理的に影響を受けてしまいそうな聴覚・視覚情報には耳目をくれず、集中すべき対象物(テニスのプレー中であればボール)に、視聴覚を向け続けます(プレー中は、たとえばポーチに出られるんじゃないかと気になり、対戦相手に目をくれてしまいがちなので特に注意する)。
ポイントとポイントの間のアウトオブプレーであれば、ストリングの交点に視線をフィックスする伝統的なテクニックもアリでしょう。
ピート・サンプラスによる有名なルーティンのひとつ。
「雑念を消す」「余計な感情を遮断する」「今この瞬間に戻る」ための儀式だったと考えられています。
「そんなことしなくても、私は影響なんて受けない!」などと、侮ることなかれ。
サンプラスでさえそういった工夫に頼ったのですから、愛好家が手ぶらでいるのは、無防備すぎるかもしれません。
▶「孤高の人」だったマリア・シャラポワ
物理的影響を遮断する技術。
技術ですから、心を鍛える上級トレーニングよりもお手軽です。
技術であり、習慣にするプレーヤーもいます。
元ナンバーワンプレーヤーであり、今は全仏オープンの大会ディレクターを務めるアメリー・モーレスモは、自身が尊敬するヤニック・ノアの教えを守り、周囲の雑音を遮断するために普段は外出も控え気味にしたと言います。
また同様に、キャリアグランドスラム達成者であるマリア・シャラポワは自伝『Unstoppable』の中で、ロッカールームでは他の選手とあまり関わらず、対戦相手とも親しくする必要性を感じていなかったと明かしています(Maria Sharapova, Unstoppable: My Life So Far, 2017年)。https://amzn.to/44GQok4
▶メンタル中級以上におすすめ
そういう外部からの物理的影響を遮断する習慣も、人によっては有効でしょう。
ただし「人によっては」とあえて断り書きするのは、自己肯定感が低いと人をスルーすることを気まずく感じたりして、余計に集中しにくくなる場合もあるため(関連記事「ノールックに必要な『自己肯定感』by宮本武蔵」)。
ですから、いわゆる「派閥」に属して群れたがったりせず一匹狼でいることを、(シャラポワのように)怖れない、ある程度自立したメンタル中級以上向けの話と言えるかもしれません。
▶「体臭」すら物議を醸した?
そういえば、チェンジエンドの際にアンパイアへ向かって、相手選手のことを「臭い」といった女子選手がいましたね。https://news.tennis365.net/news/today/202504/152318.html
https://news.tennis365.net/news/today/202504/152318.html
そんなことを言うのは、いちゃもんかどうかのモラルの是非はさておき、物理的影響を受けて集中しにくくなった実例。
ただしこの場合はその後、「侮辱したのはマズかったッ」と思う思考的影響に苛まれるでしょうね。
先述した「嘘をつくのが危険」なのと、同様の理由による。
ですから人のプライドを傷つけるような発言は、自分に返ってくる自業自得なので気をつけたいものです(※2嗅覚情報を逆手に取る)。
▶※1について・ボールをクッキリ見る方法
やってみれば、すぐに分かります。
何かひとつの音に集中すると、その音だけ強調されて聴こえ、ほかの音は背景化しますよね。
集中すれば“際立つ”のだから、視覚情報(ボール)だって大きく見えたり、目にくっきり映ったりする可能性があるのです。
▶※2について・嗅覚情報を逆手に取る
逆手に取れば、嗅覚情報は直接的に大脳辺縁系へ届く性質のため、ボールへの集中にも役立てられる可能性もあることを付け加えておきます(関連記事「ジョコビッチ、『匂い』を嗅ぐ」)。https://www.instagram.com/p/CDwgjChnRHk/
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即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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