核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)は日本存続のカギの一つ
我が国は海外資源に多く依存している。しかし、電力については自給率向上の余地が大きく、核融合エネルギーは有望な分野の一つ。核融合エネルギーの燃料は海水中に豊富に含まれている重水素と三重水素であり、海に囲まれた日本にとって大きなメリット。技術的ブレークスルーを考慮すると、核融合エネルギー推進自体に大いに意義がある。
海外資源に多くを依存している日本
ホルムズ海峡封鎖で改めて多くの人が再認識したように、我が国の日常生活は海外資源に多く依存している。共産中国によるレア・アース輸出制限問題時にも言われたことであるが、国内で十分な量を確保できない資源の調達先多様化は喫緊かつ永遠の課題である。調達先多様化と並んで、代替物への転換、可能であれば自給率向上も求められる。
現時点では、ホルムズ海峡封鎖に関してはナフサ不足に注目が集まっているが、冷房需要などが高まる夏場の電力への影響も懸念されている。「二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-」(2023年3月6日)で描写したように、我が国生き残りの重要な鍵の一つはエネルギーの自給率向上である。エネルギーの中でも、電力については自給率向上の余地が相対的に大きいと考えられる。前述稿では水力発電の可能性について記述したが、本稿では我が国の生き残り策の一つとして核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)について概観する。
フュージョンエネルギーとは
※1
フュージョンエネルギー(核融合エネルギー)は、太陽をはじめとする宇宙の星々が生み出すエネルギーの源であり、「地上に太陽をつくる」研究とも言われる。図1左図が核融合のイメージである。
「資源が海水中に豊富にある」、「二酸化炭素を排出しない」といった特徴があり、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものと期待されている。図1右図の核融合反応の燃料である重水素と三重水素は海水中に豊富に含まれており、海に囲まれた日本にとっては輸入に頼らなくて良くなるという大きなメリットがある。ただし、現時点では三重水素を製造・供給する専門的な機関は国内に存在しないので、国内で製造する技術の確立が今後の課題である。
※1:本節の大半は、文部科学省ウエブサイト「核融合を理解する10のキーワード」を参考に記述している。
図1:フュージョンエネルギーのイメージ(左図:核融合反応、右図:豊富な資源)

核融合反応は、燃料や電源を切ればすぐに停止するという性質がある、従って、核分裂によりエネルギーを取り出している現行の原子力発電炉とは異なり、事故で爆発したり放射能により人が住めなくなるといった心配はない。
核融合反応は、1億度超に燃料を加熱してプラズマという状態にする必要があり、プラズマをどのような容器に閉じ込めるかが問題となる(図2左図)。その容器として、トカマクやヘリカルといった超伝導コイルで形成した磁場を使う「磁場閉じ込め」と、爆縮という現象を使うレーザー方式等の「慣性閉じ込め」という方法が考えられている。
核融合反応を実現するためには、プラズマの研究に加え、プラズマを1億度超に加熱する装置、磁場を閉じ込める超伝導コイルや大出力レーザー、そのための特殊な電源設備、安全対策のための各種技術やフュージョンエネルギーを電気などに変換する技術も開発する必要がある(図2右図)。従って、フュージョンエネルギーを実現する研究を進めることは、多くの波及効果が期待できる。
図2:核融合炉のイメージ(左図:核融合炉、右図:総合理工学)

フュージョンエネルギー実現に向けた取り組み
(1)政府の動向
「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」※2では、「フュージョンエネルギーの早期実現」という項目で、「フュージョンエネルギーの早期実現に向け、ITER計画の推進や世界最大の超伝導トカマク装置(JT-60SA)の2026 年度中のプラズマ加熱運転に向けた整備を進める。フュージョンエネルギー・イノベーション戦略に基づき、2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指し、スタートアップ等における様々な炉型による研究開発を支援するとともに、スタートアップへの供用も可能な施設・設備の整備を通じ、研究開発を促進する。」と記している。
なお、ITER計画は「世界7極(日、欧、米、露、中、韓、印)の国際協力に基づき、核融合実験炉ITER(国際熱核融合実験炉)の建設・運転を通じて、フュージョンエネルギーの科学的・技術的実現性の確立を目指す国際プロジェクト」である。超伝導トカマク装置(JT-60SA)は「日欧協力によるBA(Broader Approach)活動(幅広いアプローチ活動)の中で、原型炉に向けたITER計画の補完及び支援、人材育成等を目的として、茨城県那珂市に建設された世界最大の超伝導トカマク型核融合実験装置」である。
国家戦略としての「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」は、内閣に設置された統合イノベーション戦略推進会議にて2023年4月に策定され、2025年6月4日に改定されている。従来の政府⽅針では2050年頃に発電実証を目指していたが、改定版では世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指すことになっている。なお、文部科学省のウエブサイト「核融合研究」では(2026年5月26日アクセス)、いつ時点での情報を反映しているのかは不明だが、「21世紀中葉までに実用化の目処」としている。
※2:令和7年11月21日閣議決定、以下「総合経済対策」、本文及び資料は内閣府ウエブサイト「経済対策等」に掲載
(2)民間の動向
各国政府の慎重さと比較すると、民間はより早くフュージョンエネルギーの実用化を打ち出している。
米国のCFS(Commonwealth Fusion Systems)社が、フュージョンエネルギー商業発電所を⽶バージニア州のリッチモンド近郊に建設すると発表し、2030年代初頭に400メガワットの安定した安定したフュージョンエネルギーを州の電⼒網に供給する予定としている(CFSウエブサイト「CFS will build its first ARC fusion power plant in Virginia」(2024年12月)より)。
英国のTokamak Energy社は、米国Type One Energy社、米国AECOM社とUK Infinity Fusion Consortiumを設立し、2034年の商業運転開始を目指している米国テネシー渓谷開発公社(TVA)のブルラン発電所のフュージョンエネルギー発電プロジェクトの経験等を活用するとしている(Tokamak Energyウエブサイト「UK Infinity Fusion Consortium to accelerate development of UK commercial fusion power plant」(2026年5月)より)。
日本のHelical Fusion社は、「2030年代に、世界で初めて『通年稼働』と『正味発電』を実現。実用的な発電装置として社会に受け容れられるための三要件を達成する」としている(Helical Fusionウエブサイト「ヘリックス計画」より)。なお、「正味発電」は、外部に十分電気を出せることである。さらに、「実用化までの道のりを『最終実証段階(Helix HARUKA)』と『商用段階(Helix KANATA)』の二つに分けて推進」し、「技術的な課題を機動的に解消する、小型の統合実証装置」であるHelix HARUKAを2030年前後、「『実用発電』に求められる三要件『正味発電』『定常性』『保守性』の3つを確立する発電プラント」である大型の発電初号機Helix KANATAを2030年代に稼働させる予定である。
以上は主な事例であるが、他にも様々な動きが加速している。
フュージョンエネルギー推進自体に大きな意義
公的機関と民間とを比較すると、民間の方がフュージョンエネルギーの早期実用化を打ち上げている傾向があるように見える。フュージョンエネルギーは世界的なエネルギー革命をもたらす可能性がある。2030年代に実用化にこぎつけられるのであれば、エネルギーに絡んだ様々な紛争を未然に防ぐことが可能になり、地球温暖化対策等も大いに進展するであろう。
実用化が早いことは望ましいことであるが、技術的課題などの難航により実用化が見込みより遅れたとしても、フュージョンエネルギー推進自体に大いに意義があると考える。フュージョンエネルギーの実用化のためには、幅広い研究開発要素が求められるので、そうした研究開発からフュージョンエネルギー以外の分野に適用できるような技術も生まれてくるであろう。
20260527 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「海洋国家日本の復権に向けた造船業への期待と課題」(2026年5月14日)
