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海洋国家日本の復権に向けた造船業への期待と課題

共産中国の海洋進出への野望への対抗策の一つとして、日本造船業の再活性化に期待がかかる。日本は成長戦略の重点分野の一つとして造船業を位置づけ、2025年末に「造船業再生ロードマップ」を策定、海洋国家日本の復権に動き出している。米国は日本の協力による造船業再建を掲げている。国際情勢変化も日本造船業再活性化の追い風である。


「造船業再生ロードマップ」策定

中華人民共和国(以下、共産中国)の海洋進出への野望は、「海峡を巡る米中激突-米国奪還、中国後退-」(2026年4月14日)で触れたように、「チョーク・ポイント」争奪戦という観点では世界的な米国優位に阻まれている。しかし、チョーク・ポイントを通過する船舶の建造量という観点では、共産中国が2010年以降は新造船建造量1位である状況が続いている(図1。「海洋国家日本の復権に向けた造船新機軸」(2024年9月20日)「(2)依然、世界で主要な地位を占める日本海運」の図2も参照)。
 
図1:新造船建造量

出所:国土交通省、内閣府「造船業再生ロードマップ」「基礎情報・関連施策」(令和7年12月26日公表)より抜粋

新造船建造量3位である日本は、民主シーパワー諸国の国際秩序の理念と言える「①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、②経済的繁栄の追求、③平和と安定の確保」を持続するためにも、造船業の再活性化を実現することが望まれる※1。なお、新造船建造量2位である韓国は現時点では民主シーパワー諸国側に留まっているが、歴史的経緯、地政学的立地、政策的不安定、等々の多くの要因から、中露を軸とする独裁ランドパワー諸国側に屈服してしまうリスクは拭いきれない。
「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」では※2、「国家安全保障を支える日本の造船業を再生するための取組を、『造船業再生ロードマップ』を年内に策定して強力に推進」と明記された(「高市総合経済対策への期待-戦略17分野は的確-」(2025年12月11日)も参照)。総合経済対策を踏まえ、国土交通省と内閣府が関係省庁と連携しつつ、2035年における船舶建造能力の目標やその実現に必要な取組等を盛り込んだ「造船業再生ロードマップ」を策定し、2025年12月26日に公表されている※3。
 
※1:先進民主主義諸国の多くが賛同しているFOIP(自由で開かれたインド太平洋)構想の理念(経済産業省ウエブサイト「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」より)
※2:令和7年11月21日閣議決定、以下「総合経済対策」、本文及び資料は内閣府ウエブサイト「経済対策等」に掲載
※3:国土交通省ウエブサイト「造船ワーキンググループ」「造船業再生ロードマップの策定(令和7年12月26日公表)」掲載

「造船業再生ロードマップ」の要点

(1)日本船主の需要を満たせてない日本造船業

「造船業再生ロードマップ」は、現在約900万総トンである年間建造量を、2035年に「1,800万総トン」に引き上げるという目標を掲げている。「日本の船は日本で造り日本で持つ」(建造量1,800万総トン(日本船主の船舶需要予測))、「海事産業の中核で国と地方を支える」、「世界を牽引する確たる地位の確保」(次世代船舶建造技術で世界を主導、国際社会における我が国造船業の役割の確立)を「造船業の再生」として提唱している。なお、造船業は、「国内生産比率が約8割、地域生産比率9割以上であるのに加え、ほぼ全ての部品を国内調達しており、地域の経済・雇用を支える産業」である。
「各分野における課題と対応の方向性」における課題として、①船舶建造体制の強靭化、②造船人材の確保・育成に向けた教育体制等の整備、③脱炭素化等を通じたゲームチェンジ、④安定的な需要の確保、⑤同志国・グローバルサウスとの連携、を列挙し、それぞれに対応の方向性が示されている。
図2に明らかなように、我が国の新造船建造量は日本船主の発注需要を満たせておらず、共産中国への依存度が高まりつつあるのが現状である。このような状況では、チョーク・ポイントの優位性を同盟国・同志国が確保していても、航行の自由、自由貿易等を維持していくには心許無い。まずは自国船主の需要を満たすだけの建造力を実現し、さらには米国をはじめとする同盟国・同志国と協力して民主シーパワー諸国の船主需要を確実に満たしていける体制を構築することが望まれる。
 
図2:日本船主発注船建造量等 

注:GT(Gross Ton)、総トン数
出所:国土交通省、内閣府「造船業再生ロードマップ」「基礎情報・関連施策」(令和7年12月26日公表)より抜粋

(2)建造能力増強に向けた企業規模拡大

「造船業再生ロードマップ」では、「船舶建造能力を増強するためには、特定の箇所のみでなく、複数年度にわたって、作業ライン全体を整備することが必要。」「中国・韓国と比べ、1つの造船所当たりの規模が小さく、手動・人海戦術を要する工程において自動化等が進んでいない部分が多い。」と指摘している。この指摘は的を射ており、鉄鋼や半導体分野で中韓に後れを取ることになった我が国産業の負けパターンである。
対応の方向性の一つとして、「造船業再生ロードマップ」では「他分野と連携した技術開発の早期社会実装や、船種・大きさ等の需要も踏まえた戦略的な企業間・海事産業群内での垂直・水平連携を促進し、強靱性を補強。」を挙げている。そうした観点では、造船企業のさらなる再編統合が重要となろう。図3は我が国造船業トップの今治造船が、2位のJMU(ジャパン マリンユナイテッド)を子会社化した事を前提としている。図3作成時点では2025年6月に子会社化同意が公表された段階であったが、今年(2026年)1月には60%の出資を実現し、子会社化している。
「造船業再生ロードマップ」は人材確保面も含め、我が国造船業再活性化の方策を提示しているので、さらに深く知りたい方は関連資料も含め直接アクセスして欲しい。
 
図3:造船企業の建造量等

注:GT(Gross Ton)、総トン数
出所:国土交通省、内閣府「造船業再生ロードマップ」「基礎情報・関連施策」(令和7年12月26日公表)より抜粋

国際環境は日本造船業に追い風


2025年10月に日米造船協力に関する覚書(MOC)の署名が実施された。覚書に示された【協力分野】は、①造船協力、海事産業発展等に関する作業部会の設置、②日米両国の建造能力拡大、③米国海事産業基盤への投資の促進(投資機会の特定)、④市場経済のための船舶需要明確化、である。
さらに「特に経済安全保障上重要な船舶について」、①米国及び日本造船人材育成のための教育・研修の強化、②技術革新(先進建造技術(AI、ロボット等)の開発及び採用、先進的な船舶の設計及び機能の開発)が挙げられている※4。
また、国際海事機関(International Maritime Organization; IMO)におけるカーボンニュートラル規制、国際海事機関における自動運航船規制などの次世代船に関連する技術は、「海洋国家日本の復権に向けた造船新機軸」(2024年9月20日)で描写したように日本が先行しており、さらに技術等に磨きをかけて新造船建造量拡大につながることが期待できる。
なお、新造船建造量拡大については、技術者・技能者の「造船人材の確保・育成」が欠かせず、「造船業再生ロードマップ」において対応の方向性は示されてはいる。しかしながら、我が国は農業などをはじめ国家存続にかかわるあらゆる重要分野で人手・人材が不足している。そうしたことを踏まえると、高市政権には総合経済対策実現を支える根本として、今こそ本格的な少子化対策に取り組んで貰いたい(「『公的お見合い制度』と『学費無料』が少子化対策の第一歩」(2023年1月31日)も参照)。
 
※4:国土交通省、内閣府「造船業再生ロードマップ」「基礎情報・関連施策」(令和7年12月26日公表)より


20260514 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
海峡を巡る米中激突-米国奪還、中国後退-」(2026年4月14日)


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