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高市総合経済対策への期待-戦略17分野は的確-

日本成長戦略会議で戦略17分野が提示され、それらも含めた真水21.3兆円の総合経済対策が閣議決定された。今の日本経済に必要なのは増税と公共投資削減による緊縮財政ではなく、積極財政による経済成長である。戦略17分野はいずれも我が国が持続可能な経済成長を続けるために重要、かつ厳しい国際環境下で独立維持する基盤となる。


積極財政こそ今の日本に必須


「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」が11月21日に閣議決定された(本文及び資料は内閣府ウエブサイト「経済対策等」に掲載)。11月10日開催の日本成長戦略会議で提示された戦略17分野を含む重点施策も反映されている(戦略17分野については後述)。
未だに財務省の洗脳支配下にある人々は、高市早苗政権による「責任ある積極財政」について批判的なようだ。批判の眼目は「責任ある」ものとなってないという体裁を取りつつ、実は「積極財政」そのものに反対し、百年一日の如く「均衡財政」を指向している論調が多い。
しかし、筆者が「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)、「公共投資を積極化した場合の日本経済」(2025年9月29)等で論じてきたように、「積極財政」こそ今の日本にとって必須と考えており、真水21.3兆円という規模が適切かは置いておき、今般閣議決定された「『強い経済』を実現する総合経済対策」は我が意を得たりと考えている。さらに言えば、「責任ある」の部分は外してしまっても構わないとまで考えている。「積極財政」により、日本経済が成長し、防衛力が向上し、国土強靱化が進展すれば、税収増加はもちろん、海外からの日本への投資も増加し、官僚や政治屋が私腹を肥やさなければ財政収支は自然とプラス方向に向かっていく。
ただし、中長期的には少子化問題の根本的解決が重要であるが、本稿では深入りしない。「『公的お見合い制度』と『学費無料』が少子化対策の第一歩」(2023年1月31日)で解決策の一端を示しているので、参照されたい。

「強い経済」実現こそ次世代への責任


高市首相は、「日本がいま行うべきことは、行き過ぎた緊縮財政により国力を衰退させることではなく、積極財政により国力を強くすることでございます。IMF(国際通貨基金)が指摘しているように、成長を損なうような拙速な財政再建は、かえって財政の持続可能性を損なうということを踏まえる必要がございます。成長なくして財政の持続可能性は維持できません。次の世代のためにも成長する経済により、企業収益の改善と賃金上昇に伴う個人所得の増加という経済の好循環による税収増を通じて、財政の持続可能性を実現しなくてはなりません。強い経済を構築し、成長率を高めていくことと相まって、政府債務残高の対GDP(国内総生産)比を引き下げ、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保してまいります。」と述べている(首相官邸ウエブサイト「総合経済対策等についての会見」より)。
上記の高市首相の発言にほぼ全面的に賛同するが、特に「次の世代のためにも成長する経済により、(…中略…)、財政の持続可能性を実現しなくてはなりません。」の部分が重要である。財務省をはじめとする緊縮財政派は、次世代に借金を負わせないために増税と公共投資削減を進めるべきという理屈を振りかざすが、増税は景気を冷やし、公共投資削減は我が国の社会生活及び経済活動基盤を脆弱にし、結果としてさらに借金を増やすことに大きく貢献している。増税が景気を冷やすことについては「税収と景気(2)-消費税導入、税率引上げ-」(2024年1月19日)など、公共投資削減が経済活動等の基盤を脆弱にすることにつては「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)などで描写した。
なお、前述した発言の前に、高市首相は「ワイズスペンディングの考え方を徹底」と述べているが、この考え方も重要である。財政出動拡大≒バラマキ政策、と短絡する有権者も多く、実際、過去の政治においてはそうした側面も少なからず存在したが、今度こそしっかりした経済成長と経済の底力強化につながる財政出動となると期待している。幸い、「『強い経済』を実現する総合経済対策」はそうした内容になっている。官僚や政治屋、あるいは政商的企業経営者が政策実行の段階で歪めたりしないよう監視することも重要であろう。ワイズスペンディングについては、「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)の最終節などもご参照。

戦略17分野の概観

(1)戦略17分野は的確

「『強い経済』を実現する総合経済対策」(以下、本文では「総合経済対策」)について、論点は様々にあるが、本稿では以下の戦略17分野に絞って概観する。
 
図1:「強い日本経済実現」に向けた具体的施策の第2の柱

出所:内閣府「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」概要(令和7年11月21日)

日本成長戦略会議で提示された戦略17分野は、①AI・半導体、②造船、③量子、④合成生物学・バイオ、⑤航空・宇宙、⑥デジタル・サイバーセキュリティ、⑦コンテンツ、⑧フードテック、⑨資源・エネルギー安全保障・GX、⑩防災・国土強靱化、⑪創薬・先端医療、⑫フュージョンエネルギー、⑬マテリアル(重要鉱物・部素材)、⑭港湾ロジスティックス、⑮防衛産業、⑯情報通信、⑰海洋、である。「総合経済対策」の「第2の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」(図1)に含まれるものが大半であるが、「第3の柱:防衛力と外交力の強化」(図2)とも関係している。いずれも我が国が持続可能な経済成長を続けるために重要な分野である。また、中露北朝鮮等の権威主義諸国が隣接するという厳しい国際環境下にある我が国が、独立を維持する基盤となる分野でもある。
なお、第1の柱は「生活の安全保障・物価高への対応」であるが、本稿の主旨からはやや外れるため割愛している。
 
図2:「強い日本経済実現」に向けた具体的施策の第3の柱

出所:内閣府「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」概要(令和7年11月21日)

次節以降で、「総合経済対策」及び日本成長戦略会議「総合経済対策に盛り込むべき重点施策」(令和7年11月10日、以下、本文では「重点施策」)に基づいて、戦略17分野について概説する。次節以降では、拙稿タイトル(リンクあり)以外の「」内は、特に断りのない限り「総合経済対策」あるいは「重点施策」からの引用である。
なお、日本成長戦略会議は、議長:内閣総理大臣、副議長:内閣官房長官、日本成長戦略担当大臣、構成員:内閣府特命担当大臣(経済安全保障)、財務大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、防衛大臣その他内閣総理大臣が指名する国務大臣及び内閣総理大臣が指名する有識者、からなる会議で日本成長戦略本部の下に設置された。日本成長戦略本部は、本部長:内閣総理大臣、副本部長:内閣官房長官、日本成長戦略担当大臣、本部員:他の全ての国務大臣、であり、2025年11月4日の閣議決定で設置された。

(2)AI・半導体

人類が次元進化しない限り、今後の人類社会のあらゆる側面でAI・半導体が重要であることは説明するまでもないであろう。
「AI for Scienceの戦略方針を2025年度内に策定」など様々な施策が並んでいるが、「AIと日本の高度なロボティクス技術を融合した世界最先端のAIロボティクス」が、我が国の強みを活かす方向性として特に重要と考える。「人手不足の解消、生産性向上やDXを実現」することが可能となり、移民問題などの解消にも貢献し、少子化の負の影響を緩和することにもつながるであろう。なお、少し重点が異なるが、「ドローン、AIは組み合わせることにより新たな地平を拓く」(2023年5月12日)も参照されたい。
「AIの競争力をハード面で支えるのが半導体とデータセンター」であるのは間違いなく、「半導体などの産業拠点整備等に必要な道路や工業用水等の関連インフラや、データセンターの立地等に必要な電力や通信等の周辺インフラの整備を推進」するのも適切な方針である。この点については、「半導体関連投資は世界規模の戦略的サプライチェーン再構築の一環」(2024年3月21日、後半は有料)も参照されたい。

(3)造船

「国家安全保障を支える日本の造船業を再生するための取組を、『造船業再生ロードマップ』を年内に策定して強力に推進」するとしており、「ゼロエミッション船建造支援等」が含まれるが、ゼロエミッション船については我が国が先行している分野でもある。その点については、「海洋国家日本の復権に向けた造船新機軸」(2024年9月20日)をご参照。

(4)量子

「量子コンピュータ、量子暗号通信、量子センシングの研究開発を加速」「国産量子コンピュータの開発、量子技術のユースケースの創出、社会実装及び人材育成を加速」とあり、専門的な開発は専門家に任せるとして、非専門家としてはユースケース(use case)の創出等に期待したい。結局、そのシステムで何ができるのかは、予算獲得面でも技術普及面でも重要である。

(5)合成生物学・バイオ

「バイオ技術を活用した再生医療等製品の製造に必要な自動培養装置等の設備導入や人材育成を促進」「合成生物学やデータ科学等の先端技術を活用し、土壌に広く分布している肥料成分の有効活用、少ない肥料でも作物が収穫できる省肥料化、未利用資源を活用した肥料生産等における革新的な技術開発」とある。
「再生医療等製品の製造」は期待が大きい分野であり、国際的な開発競争も盛んであろうが、筆者個人は違和感があるのでここでは深入りしない。「土壌に広く分布している肥料成分の有効活用」は大いに進めて欲しいが、「少ない肥料でも作物が収穫できる省肥料化」「未利用資源を活用した肥料生産」については、食の安全性に十分配慮して欲しいところである。

(6)航空・宇宙

「次世代航空機や低燃費エンジン開発のための生産技術開発やサプライチェーンの強化」「無人航空機の生産基盤を構築」は今後の日本の生き残りに向けて大変重要である。さらに加えるなら、これらの操縦者の育成も視野に入れるのが望ましい。
「準天頂衛星システム」「低軌道衛星コンステレーション」「次期気象衛星」「情報収集衛星」等は、安全保障、危機管理、自律性確保など様々な側面で、他国に経済支配されないための重要な基盤となる。そのためにも「宇宙航空研究開発機構(JAXA)の技術基盤強化に向けた取組」を民間との協業を深めつつ進めるべきであろう。

(7)デジタル・サイバーセキュリティ

「官民の対策・連携強化を図り、サイバーセキュリティを支える人的・技術的基盤の整備の強化」は特に重要である。特定部分を強化しても脆弱な部分があれば、そこからシステム全体に悪影響が広がるリスクがあるのがネットワーク社会である。しかしながら、スタンドアローンの世界に回帰する選択肢はほぼないであろう。また、懸案事態に対処できる人材育成は喫緊の課題である。
「インターネット上の偽・誤情報の流通・拡散に対応すべく、対策技術の開発・実証及び社会実装を推進」については、安全保障上の観点からも十分に取り組む必要がある。真偽は定かではないが、中露北朝鮮等の権威主義諸国が偽・誤情報を拡散して、民主主義諸国の選挙に影響を及ぼそうとしているとのネット情報や報道も見られる。サイバー空間においてもランドパワー諸国対シーパワー諸国の暗闘が続いている。

(8)コンテンツ

日本の『遊び心』再考-ソフト・パワーの積極活用-」(2023年4月12日)で書いたように、コンテンツ産業は我が国の強力な武器である。
「国際流通機能を強化するとともに、海外で戦える大規模で高品質なコンテンツの製作支援」「次世代のデジタル配信プラットフォームの構築に向けたコンソーシアムの創出、翻訳等の人材育成、クリエイターへの適切な対価還元など、更なる海外発信に向けた環境整備」「持続的に魅力ある作品を生めるよう、スタートアップ・エコシステムの構築、就業環境の改善、融資環境の整備に取り組むとともに、海賊版対策の国際執行や正規版流通促進」はいずれも求められる施策であろう。 
特に「クリエイターへの適切な対価還元」「就業環境の改善」「融資環境の整備」は、コンテンツ制作者の持続性を高めるために取り組んで欲しい。その際、財界上層部の収奪構造の改善が必須であり、彼等の抜本的意識改革を望む。
「国際流通機能を強化」「海賊版対策の国際執行や正規版流通促進」も政府が率先して取り組むことが求められる施策であろう。一方、「海外で戦える大規模で高品質なコンテンツの製作支援」は言葉としては分かるが、政府などの公的組織による選別があるようだとコンテンツは死ぬ。コンテンツの中身については、あくまで作者等のクリエイター、読者や視聴者等の受け手、次いで編集者やプロデューサー等の制作関係者が中心であるべきで、公的組織が余計な介入をすると結果は惨憺たるものになる危険性が大きい。成人指定コンテンツの流通についてはある程度の規制は必要と考えるが、コンテンツの内容や受け手の情報などについての口出しには断固反対する。我が国の豊富かつ広範で質の高いコンテンツは、膨大な二次創作などの裾野の広がりが支えている側面があり、それらを破壊してはいけない。
なお、「次世代のデジタル配信プラットフォームの構築」については、やや論点はズレるが「少年コミック誌から考えるデジタル化・オンライン化によるボーダレス化加速」(2025年10月23日)などもご参照。

(9)フードテック

二つの自給率向上が生き残りの鍵(1)-食料とエネルギー-」(2023年2月10日)で書いたように我が国の食料自給率は危機的な状況にあり、農林水産業の再建は生き残りの鍵である。
「総合経済対策」で明記している「テクノロジーを駆使した完全閉鎖型植物工場、陸上養殖施設等への投資を促進」は重要ではあるが、現時点あるいは近い将来では食料生産の根幹に据えるレベルとはならないであろう。
「重点施策」ではフードテックの項目に「農地の大区画化、共同利用施設の再編・集約化、スマート農業技術・新品種の開発・導入、輸出産地の育成など、農業構造転換を集中的に推進」と書かれているが、「総合経済対策」では、「経済安全保障の強化」等の項目と並ぶ形で「食料安全保障の確立」が項目建てされている。「5年間の農業構造転換集中対策」として、「農地の集積・集約化や、ドローンやAI、ロボット等を活用したスマート農業技術の開発・導入の加速化による生産性向上を図るため、農地の大区画化等の整備を推進」等と書かれており、食料生産の根幹を維持・活性化する施策の肝となる。「海外依存度の高い品目の生産拡大、生産資材の国内代替転換等」とも書かれており、積極果敢に取り組んでもらいたい。これらについては、「二つの自給率向上が生き残りの鍵(3) -農業の企業組織化・大規模化-」(2023年2月22日)を参照されたい。
「流通構造の合理化・透明性強化、安定供給等の確保」として、「米の流通構造の合理化及び透明化を含め、合理的な価格形成の実現等を通じた食料・生産資材の安定的なサプライチェーンの確保や不測時に備えた食料供給体制の構築」と書かれている。流通構造の合理化等は推進していくべき施策である。しかし、「食料安全保障は主食の国内供給の確保が基本 -コメ不足は構造的背景-」(2024年9月5日)で書いたように、昨今のコメ不足、価格高騰は亡国の減反政策を続けていることが主因である。減反政策を完全廃止しない一方で、コメの価格は市場で決まる等と嘯いている鈴木憲和・農林水産相には方針を改めてもらいたい。それができないなら辞職するべきである。我が国の食料安全保障の深刻さを踏まえれば、今や農協と農林水産省の既得権を支えるだけの余地はない。
「総合経済対策」には「農林水産物・食品の輸出拡大」との項目もある。現時点でも「成長産業としての農林水産業の輸出入 -輸出編-」(2023年9月26日)に書いたように、我が国農業は輸出競争力がそれなりにあるが、大規模化等による農業構造転換を進めれば、さらに競争力を高めることが可能となる。また、前述のコメ不足の問題も解消できる。コメの価格が下がって困るというのであれば、積極的に輸出すれば良い。数量効果で収益は改善するであろう。

(10)資源・エネルギー安全保障・GX

エネルギーについても「二つの自給率向上が生き残りの鍵(1)-食料とエネルギー-」(2023年2月10日)で書いたように我が国のエネルギー自給率はかなり低く、自由貿易体制が機能しなくなった場合は現状のままでは死活問題となる。
「重点施策」では「資源・エネルギー安全保障・GX」という項目建てとなっているが、「総合経済対策」では「経済安全保障の強化」等の項目と並ぶ形で「エネルギー・資源安全保障の強化」が項目建てされている。「原子力の活用と安全確保(原発再稼働・原子力防災等)」「エネルギー利用の合理化・効率化」「国内外における資源開発の推進」等の下位項目が並んでいる。筆者としては、「自律型無人探査機(AUV)と周辺技術の利用実証、南鳥島周辺海域でのレアアース生産に向けた研究開発等を加速化」に期待したい。
「GXの推進等」として、「電動車の購入促進」「ペロブスカイト太陽電池及び浮体式洋上風力の国産技術の開発や製造基盤の確立」等とあり、これらを推進すること自体には異議はないが、エネルギー施策の根幹とするには至らない領域であろう。「自給率の向上にも寄与する脱炭素電源を活用した投資を促進」については、水力発電の再評価と活用を進めるのが望ましい。水力発電については「二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-」(2023年3月6日)で書いたが、当該稿で提示した「地産地消の分散型電源」についても検討・実現を図るべきである。

(11)防災・国土強靱化

「総合経済対策」では「防災・減災・国土強靱化の推進」として、「経済安全保障の強化」等の項目と並ぶ形で項目建てされている。
公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)で書いたように、社会経済活動の基盤となる公共インフラの劣化は日本経済の基礎体力の弱体化につながる。「インフラ老朽化対策を加速」「気候変動に対応する流域治水の推進」「交通ネットワーク・ライフラインの強化」「上下水道の基盤強化」等は人々の生活に直結する課題である。なお、「交通ネットワーク・ライフラインの強化」については、「人口減少下における持続可能な公共交通へ」(2023年3月15日)、「リニア、新幹線は変革の基盤」(2023年10月27日)、「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)等もご参照。
なお、「重点施策」の戦略17分野には含まれていないが、「総合経済対策」の「第2の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」で明記されており、「防災・減災・国土強靱化の推進」に含まれている項目である「副首都機能の整備」は特に積極的に取り組んで欲しい。首都のバックアップ体制構築は、我が国が生き残るための死活問題とも言える。「リスク分散と新時代への離陸に向け首都移転を」(2023年12月14日)で首都移転等について論じているので、参照されたい。

(12)創薬・先端医療

「継続的に創薬スタートアップから革新的新薬を生み出す創薬基盤・インフラの強化の支援」「研究開発を加速化」「国際水準の治験・臨床試験実施推進により、優れた基礎研究の成果を革新的医薬品として早期の社会実装」等とあり、欧米を中心とした有力企業がひしめく創薬・先端医療などの分野で日本が健康医療安全保障を確保するために重要と思われる。

(13)フュージョンエネルギー

「2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指し、スタートアップ等における様々な炉型による研究開発を支援」とあり、そう遠くない将来での実用化が期待される。
フュージョンエネルギーは核融合エネルギーの事であり、実用化すれば我が国のエネルギー自給率向上に大いに貢献するであろう。「二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-」(2023年3月6日)でも少し書いたが、フュージョンエネルギーの原料は海水中に豊富にあり、海に囲まれた我が国は優位性を持つと言って良いであろう。

(14)マテリアル(重要鉱物・部素材)

「総合経済対策」では「重要鉱物の安定供給及びマテリアル革新」という項目建てで、「レアアース等重要鉱物の鉱山開発・製錬事業への出資・助成支援による供給源多角化、国家備蓄の強化を推進」と書いている。一方、「重点施策」では、「南鳥島周辺海域でのレアアース生産の開発実証を加速」と書いてあり、「総合経済対策」では前述した「エネルギー・資源安全保障の強化」という項目において、同様の事が書かれている。
いずれにしても供給源多角化、国家備蓄の強化は大いに推進するとして、我が国の排他的経済水域内での重要鉱物の生産を積極的に進めることが望ましい。今まではコスト面などで採算に合わなかったような案件でも、第三次世界大戦の可能性も否定し得ない国際環境下では十分にコスト回収できる見込みがある。

(15)港湾ロジスティックス

「総合経済対策」では、「サイバーポートを活用した港湾関連手続の電子化や『ヒトを支援するAIターミナル』の取組を推進」と簡潔に記している。
間違ったことは書いていないが、「海洋国家日本を支える港湾機能の強化」(2025年5月30日)で書いたように、日本の貿易量における海上輸送の割合は圧倒的であり、海運は日本列島の住民の生活維持に欠かせない。日本の貿易量に占める海上輸送の割合は2024年時点の重量ベースで99.5%である(数値は公益財団法人 日本海事広報協会「日本の海運 SHIPPING NOW 2025-2026」より)。現状の国内需要量を前提とするならば、海運が機能しないと日本列島の住民の大半は最低限の生活維持もままならなくなるのであり、海と陸との結節点が港湾である。
「港湾ロジスティックス」を戦略17分野として取り上げたこと自体は大いに評価するが、もう少し耳目を集めるような位置づけをしても良いと考える。

(16)防衛産業

防衛産業については、第3の柱である「防衛力と外交力の強化」において、「防衛力整備の推進及び自衛隊員の処遇改善」という項目で提示されている。「デュアルユースに係る開発・生産の強化に資する事業環境の改善」「米国、英国、NATO、EU等の同盟国・同志国との防衛産業サプライチェーンにおける協力の推進」などは積極的に進めて頂きたい。
なお、防衛力強化の必要性については「防衛費増額は喫緊の課題、求められる地政学のセンス」(2023年1月23日)、「米中激突の行方-概説-」(2024年2月8日)、「自由貿易を基調とする国際経済秩序は終焉へ?」(2025年7月10日)など、防衛力強化の資金調達については「防衛国債による防衛費確保」(2024年5月17日)、防衛力強化に伴うインフラ整備や地方活性化などについては「防衛費増額で地方創生との一石二鳥を狙う」(2024年10月4日)を参照されたい。

(17)情報通信

「我が国主導で光電融合技術をはじめとするオール光ネットワーク技術を含む先端技術を開発」「海底ケーブルの敷設役務など、重要な物資の供給に不可欠な役務への支援を追加」「陸揚局を含めた海底ケーブルやデータセンターについて地方分散を含めた防護策」はいずれも重要であり、かつ経済安全保障を含めた安全保障的な色彩が濃い内容となっている。

(18)海洋

海洋開発については、「自律型無人探査機(AUV)の開発と利用実証支援」「北極域研究船『みらいⅡ』の建造」「船舶(「よこすか」)・探査船(「しんかい6500」)等の整備及び開発」、等の具体的な建造や開発計画が挙げられている。また、前述したレアアース生産に向けた研究開発にも触れられている。

まとめ

以上、「『強い経済』を実現する総合経済対策」における戦略17分野について概観した。
「責任ある積極財政」について批判的な論者は「責任ある」の部分を財政面からとらえているケースが多く、また政府側もそのように説明する傾向があるようだ。しかし、「積極財政」の使途という観点で見れば、戦略17分野は日本経済が成長軌道に回帰し、防衛力強化や国土強靱化に資するための、まさに「責任ある」投資と言えるのではないだろうか。
ただし、現状では計画を提示した段階であり、実践が伴ってこそ意味がある。今後の高市政権の実行力に大いに期待している。


20251211 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
内需の活性化、国籍多様化こそ観光業の持続性が高まる」(2025年11月26日)

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