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AI投資が目指すものは何か-シンギュラリティをどう捉えるか-

生成AIの有望性が認知されて以降、AI関連投資が増加している。特に半導体、データセンター関連投資は大規模なものとなっている。現在進行中のAI関連投資はバブル化する懸念もあるが、投資の成果が社会経済に貢献する方向性であるならば、積極的に推進するべきである。判断基準は、AIが人類にとって望ましいものになるかであろう。


AI関連投資はバブルの気配

生成AI(人工知能)の有望性が認知されて以降の今回のAIブームは、大手IT企業や政府を巻き込んだ大規模投資に発展している。AI関連、特に半導体、データセンター関連投資は大規模なものとなり、様々な投資計画も報道されている。例えば、ソフトバンクグループ、OpenAI、Oracle、MGXが初期出資者であるStargateは、「OpenAIのために新たなAIインフラストラクチャを米国内で構築するため、今後4年間で5,000億ドルを投資することを計画している新会社です。このうち、1,000億ドルの投資を直ちに開始していく予定です。」と大々的に公表し(2025年1月22日、ソフトバンクグループ株式会社、OpenAI「Stargate Projectについて」より)、米国政府も歓迎している。
 
図1:世界の生成AI市場規模(売上高)の推移及び予測

図1内の*6: https://www.statista.com/forecasts/1449838/generative-ai-market-size-worldwide
出所:総務省「情報通信白書 令和7年版」第Ⅱ部第9節「1 市場概況

我が国も2025年11月21日に閣議決定された「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」(本文及び資料は内閣府ウエブサイト「経済対策等」に掲載)でAI・半導体を戦略17分野の一つとして取り上げている(「高市総合経済対策への期待-戦略17分野は的確-」(2025年12月11日)参照)。
これだけ大規模な投資をしてリターンとして回収できるのか、バブルではないのか、などの懸念も生じている。おそらくAI関連投資主体の全てが十分な利益を回収するのは難しいであろう。しかしながら、今回のAI関連投資の方向性が次代の社会経済基盤となり得る方向に合致しているのであれば、バブルであったとしても社会全体としてはプラスに評価して良いであろう。
2000年前後のいわゆるITバブルによって、インターネット用の光ファイバー網などのインフラ投資が爆発的に伸びた事例と同様の事が考えられる。当時のITスタートアップ企業や大手通信会社などは倒産したり痛手を被ったりしたが、一部のビックテック企業は生き残り、その後の関連業界を牽引している。
つまりは、今回のAIブームが目指しているものが社会経済に貢献するのか、そもそもAI投資の進展により実現し得るAIによって何が可能になり、AIと人間の関係がどのようになると推測されるのか、が問われる。
 
図2:世界のAI市場規模(売上高)の推移及び予測

図2内の*2:https://www.statista.com/forecasts/1474143/global-ai-market-size
出所:総務省「情報通信白書 令和7年版」第Ⅱ部第9節「1 市場概況」

AIの将来像

(1)AIで何ができるようになりそうか

今回のブームの火付け役とも言うべき生成AIは、2022年にChatGPTが公開されて以降、Gemini、Copilot、DeepSeekなど数多くのモデル・サービスが登場し、様々な場面で利用されている。現時点では文章作成支援、オリジナリティのない画像生成、音声やチャットによる問い合わせ対応等が、日常生活で目に付く使い方であろうか。個人的には、まだまだ信頼できるレベルに達していないように感じているが、既に事業や論文で活用している事例は増加しているようである。
業界外の人間にもわかりやすい形として、チェスや将棋での対戦を通じて研磨されてきたAIの能力は、数多くのデータから最適解を導き出す行為の蓄積が基本と言える。生成AIの場合は、ディープラーニングなどの手法でネット上等に無数に存在する文章や画像データを効率良く収集・分析・蓄積し、少なくとも素人の人間が取り組むよりは早く的確に解を算出する。AIで先行している企業は、データの収集・蓄積などで優位を持っており、さらにその優位を広げようとしている。
こうした性質上、収集したデータに問題がある場合は最適解どころか最悪解を導き出す懸念は拭いきれない。筆者の経験からすると、マンガ・アニメなどの分野の解説についてはまだまだ誤りが多いようである。さらに言えば、悪意を持って誤ったデータを拡散させて、生成AI利用者に損害をもたらすことを目論む勢力も考え得る。ただし、その点については、誤った情報等を判別するAI等も開発されつつあるようで、技術上はいずれ解決する問題なのかもしれない。
ただし、これらだけでは便利にはなるものの、冒頭にあげた大型投資に見合う価値があるとは思えない。膨大なデータ蓄積、それらを踏まえた超高速演算やデータ解析により、人間では不可能な予測や隠れた法則の発見等が期待される。さらに様々な機械作動や高度なロボティクスと結びついて、人間が出来なかった課題に自律的に対応・解決することが望まれる。その中には、慢性的人手不足分野や危険分野での人間の代替も含まれるであろう(「ドローン、AIは組み合わせることにより新たな地平を拓く」(2023年5月12日)参照、ドローンとの関係をメインにAIの可能性について記述)。

(2)AIは人間を超えるのか

AI活用の否定派がよく挙げる懸念として、AIが仕事を奪うといった考え方がある。しかしながら、AIをはじめ先端技術は仕事のやり方を変えていくであろうが、仕事を奪うわけではない。
それよりも現実に起こりそうなのは、マンガや映画等でもよく題材になるAIの暴走あるいは究極の進化の結果生じ得るAIと人類の闘争である。この場合、AIが人間からは制御不能になる一方で、人間の能力を超えていることが前提となろう。
ただし、演算速度については最初期のコンピューターが既に人間の能力を超えていたと言えなくもない。データ容量の拡張が可能な状況なら、記憶容量についてもAIはとっくに人間を超えている。別領域の話になるが、建設機械は人間の腕力を大幅に越えており、航空機は人間が不可能な飛行を実現している。つまり、何をもってAIが人間を超えたと見做すのか、というよりはAIが人間のどの部分を超えると脅威あるいは画期的なのかが問われる。
AIが人間を超えたことを示す用語として、シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉がよく使われる。米国の未来学者であるレイ・カーツワイル氏によって提唱された「自律的なAI(人工知能)が自己フィードバックで改善を繰り返し、人間の知能を超える瞬間が訪れる」との考え方がメジャーであろう。その結果、人間の理解や予測を超えた技術的な変革が起こる状態が実現すると考えられている。
しかしながら、「自律的なAI(人工知能)が自己フィードバックで改善を繰り返し、」の部分はイメージできるが、「人間の知能を超える」というのは何をもって超えたとするのかが不明である。そもそも「人間の知能」とは何かということになり、その問題を古来探求してきた哲学においても全ての人を納得させる解は出せてないのではないだろうか。
そう考えると、「AIが人間の理屈や予測を超えた論理に基づき人間の制御から離れて自律的に行動する状態」を「人間の知能を超える」状態と捉えるのが、より実用的である。AIが人間の手を離れた別生物になる、SFチックな表現を好む人からすれば、人智を超えた神になる状態と言えようか。
このようにシンギュラリティを捉えた場合、神ならざる身として100%シンギュラリティが生じないと断言はできないが、おそらくシンギュラリティは発生しないと推測している。一見、シンギュラリティに見える現象が起きる可能性は大いにあるが、それはAIが自律的に起こすのではなく、どこかの誰かが大昔にインプットした指令を実現しようとAIが奮闘した結果であろう。
竹宮恵子『地球へ…』(1977~1980年連載)というマンガ(アニメ化もされている)では、「グランドマザー」というスーパーコンピューターに人類は完全に管理されているという設定となっており、超能力を備えたミュウという種族(既存人類との違いは超能力の有無のみ)がその支配を覆すという物語である。「グランドマザー」を倒した後に判明したのは、「グランドマザー」は自分に与えられた初期指令を忠実に実行した結果、人類の完全管理を遂行していたということであった。その過程で、遺伝子操作によって完全管理に好都合となる人物も生み出している…。

(3)AI関連投資の当面のメインターゲット

昨今のAI関連投資ブームは、当面は生成AI等の実用性向上、AIロボティクスなどの進化と将来的な自律的運用、等々のシンギュラリティより手前の領域がメインターゲットと推測される。ただし、シンギュラリティが実現するならば自社技術でと目論んでいる人々もいるであろうし、予測不能と考えられているシンギュラリティの結果を恐れて実現阻止を図る人々もいるかもしれない。逆説的であるが、シンギュラリティ実現阻止のためには、シンギュラリティを実現し得る技術を手にしておくことが必要となろう。
なお、現時点ではAIロボティックスの発展は、ドラえもんや鉄腕アトム、ポンコツではあるが友人にはなれるR・田中一郎(ゆうきまさみ『究極超人あ~る』の主人公であるアンドロイド)などの全領域対応型ロボットの実現はあまり志向しておらず、工場や工事現場、あるいは病院や介護などの専門領域内での汎用ロボットを目指していると推測される。

シンギュラリティ実現の場合のAIと人間の関係

シンギュラリティが実現した場合については、人類にとって望ましいパターンと望ましくないパターンを想定しておく必要があろう。
備えあれば患いなしということで、まず望ましくないパターンであるが、前述したようにAIの暴走あるいは究極の進化の結果生じ得るAIと人類の闘争であろう。ただし、これはシンギュラリティが実現しなくても誰かがその手の指令をしていれば起こり得るのも前述の通りである。暴走の場合、AIに関連するすべてのものを破壊しつくすか、人類が全滅するかというパターンが第一に思い浮かぶ。一方、AIの究極の進化による場合は、人類がAIへの抵抗を諦めて大人しく支配されるパターンも考え得るであろう。シンギュラリティが実現しているのであれば、AIは食料、エネルギー、環境問題などの観点から見て地球が許容できる範囲内で、人類の数や生活水準を制御するであろう。計算結果によっては、人類滅亡を図るかもしれないが。
望ましいパターンは、エネルギーや食料生産も含めた様々な生活に必須の業務がAI制御による様々なシステムによって遂行され、最早人々は生きるための仕事はしなくても良くなる。ポップカルチャーなどの娯楽分野についてもAIはある程度のレベルのものは提供できるであろうが、この点についてはAIが生み出す娯楽よりも、趣味に没頭した人々が生み出す作品などを多くの人々が嗜好すると予想する。いずれにしても、多くの人々は消費あるいは浪費するだけの存在と堕し、社会的動物としての生存能力を失うかもしれない。
こう考えると、いずれも未来は人類にとってあまり明るくなさそうな気がしてくる。しかし、人類が存続する限り、技術の発達・普及が止まることはないだろう。ただし、現在の国際情勢を見る限り、壊滅的な世界大戦の発生などにより技術の発達・普及が後退する可能性も想定し得る。
従って、上記のような未来パターンを想定しつつ、別の解を見つけるしかないであろうし、人類はそうやって何とか生き延びてきたのである。シンギュラリティによるAIの発展の結果、知恵ある人類がAIでは自発的には展開しえない領域で生きるための労働に使っていた時間を注ぎ込み、強力かつ生産的に活動する未来は楽観的過ぎるであろうか。
なお、士郎正宗『攻殻機動隊』シリーズのように、AIやネット接続機能を人体に組み込むことも検討されており、そうした実験もすでに行われているとも聞く。この場合、引き続きシンギュラリティという用語が用いられるかもしれないが、本稿で書いてきた話とは全く別次元の事象が発生するであろう。別の機会があれば、論じてみたいと考えている。


20260218 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
米国は孤立主義に回帰するのか―世界島と米大陸の地政学、日本の対応―」(2026年1月28日)





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