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米国は孤立主義に回帰するのか―世界島と米大陸の地政学、日本の対応―

トランプ米大統領によるベネズエラ攻撃などの一連の行動は、米国が孤立主義に回帰しているように見える。しかし、米国の世界主導を確固たるものにするための布石と読むこともできる。また、米国の国家意志に基づいていると考えられる。地政学的に新局面に入りつつある現代、日本は民主シーパワー連合の強化を一段と図るのが望ましい。


従来とは異なる反応


新年早々の1月3日(現地時間)、トランプ米大統領の命令下、米軍がベネズエラを攻撃し、ベネズエラの現役大統領であるマドゥロウ氏を夫人と共に逮捕した。マドゥロウ氏が麻薬密輸組織を仕切っている容疑が建前であるが、その後の動向からは石油利権を目的とした軍事行動との見方も多い。
グレナダ侵攻とオースチン軍司令官拘束(1983年)、パナマ侵攻とノリエガ将軍拘束(1989~1990年)など、米国が中南米諸国に軍事介入し指導者を拘束することは初めてではない。また中南米諸国において現地の反政府勢力を陰に陽に米国が支援することは日常茶飯事である。
それらの米国の他国への介入行動についての批判もまた日常茶飯事であるが、今回のベネズエラ攻撃に関する各国の批判はこれまでと様相が異なるように思われる。ロシアのウクライナ侵略、中華人民共和国(以下、共産中国)による台湾侵略準備、イランや北朝鮮によるロシア支援等の独裁ランドパワー諸国の行動に対して、民主シーパワー諸国の結束力を示すべきタイミングでの米国の単独主義的行動はいかにもタイミングが悪い。さらに、トランプ米大統領によるデンマーク自治領のグリーンランド併合に向けた活動、どこまで本気かは不明であるがカナダ併合の意思表明は、軍事費増加圧力や関税問題等で悪化している民主シーパワー諸国間の軋轢を分裂へと向かわせかねない。
米国自身の行動が、従来の国際政治の枠組みから根本的に変化しつつあることが懸念されている。
なお、本稿で多用するランドパワー、シーパワー、世界島などの地政学の用語については、「防衛費増額は喫緊の課題、求められる地政学のセンス」(2023年1月23日)の「地政学の用語解説」を参照願いたい。

世界島と米大陸の伝統的関係の復活

(1)孤立主義に回帰か

自由貿易を基調とする国際経済秩序は終焉へ?」(2025年7月10日)で、自由貿易を基調とする現行秩序終焉の可能性について述べ、南北アメリカ大陸(以下、米大陸あるいは南北米大陸)は孤立主義へ回帰するかもしれないと示唆した。トランプ米大統領の言動はその方向と強く合致しているように見えるが、トランプ氏自身の単独の発想ではなくその背景には米国の意志とでもいうべき根強い支持が存在すると考えられ、トランプ米大統領後も孤立主義への回帰に見える活動は継続するかもしれない。
2013年には当時のオバマ米大統領が「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と宣言したが、孤立主義への回帰を示唆したと捉えることもできる。おそらく中露は米国が世界島への関与を薄めていく宣言と判断したのではないだろうか。オバマ元米大統領の宣言後、共産中国は南シナ海の埋め立て及び軍事拠点化を本格的に始動し、ロシアはクリミア半島併合を強行した。
 
図1:地政学的に見た世界地図の近未来イメージ-ランドパワー連合、シーパワー連合、米大陸孤立主義-

注:独裁ランドパワー連合、民主シーパワー連合、ともに現時点で明確な連合となっているわけではなく、筆者による近未来展望である。
出所:地政学に関する各種の書籍の記述及び各種報道をもとに筆者作成

(2)世界島と米大陸の関係

米国は世界島の一部である欧州から逃れてきた人々が建国したため、いわゆる旧大陸に対する孤立主義の傾向を元々持っていた。1823年のモンロー宣言は、旧大陸に対する新大陸の孤立主義を公にしたものと捉えられる。ただし、当時の欧州列強と比較するとまだまだ国力で見劣りしていた米国が、南北米大陸から欧州列強を排除する政治的意志を表明したとも言える。
一方、米国は東側海岸から北米大陸を西へ西へと進出していったが、1890年代には西側フロンティアは消滅したと言われる。しかし、米国の西進の傾向は北米大陸西端を超えて太平洋に向かい、特にシナ大陸への関心を深めることとなった。当時、東アジアで登龍のごとく台頭しつつあった大日本帝国が米国のシナ大陸への関心を阻む形となり、お互いの意思疎通の齟齬もあり、双方にとって不必要であった太平洋戦争へと突入することとなった。
しかしながら、1922年のソ連成立に象徴されるように、破壊的な共産主義が世界に拡散しつつあった。米国の政治学者・地政学者であるスパイクマンは世界島に浸透しつつある共産主義の危険性を逸早く察知し、1941年の日本による真珠湾攻撃(=太平洋戦争開戦)の数週間後には、太平洋戦争終結後には対ソ戦を念頭に日本と同盟することを主張している。なお、スパイクマンの死後の1944年に彼の秘書によって刊行された『平和の地政学』(原題:“The Geography of the Peace”)には「世界島による米大陸包囲」の概念図が掲載されている。こうした共産主義に包囲されるという恐怖が、世界の警察官として米国が振舞うようになった契機の一つと考えられる。
 
図2:世界島による米大陸包囲

出所:地政学に関する各種の書籍の記述をもとに筆者作成

実際、第二次世界大戦終結後はソ連周辺国をはじめとして、世界島での共産主義のドミノが発生しており、米国自身が自国の裏庭と考える中南米にも共産主義ドミノが波及してきた。冷戦期の半ば頃までは共産主義陣営の方が優位と考えられており、自由主義陣営の勝利が確信されるようになったのは1981年にレーガン元米大統領が就任して以降の事であろう。

(3)世界島からの脅威の消滅

冷戦終結とソ連の消滅により、共産中国の台頭及びプーチン露大統領によるロシア再興までの間は、米国一強の時代となった。米国の存在の脅威となるような大国は存在しなかったが、冷戦を継続する過程で世界中に拡散した米国の利権を脅かす勢力が、世界各地で米国及び同盟国の障害となっていた。そうした米国及び同盟国の敵性勢力に対処するために、米国は引き続き世界の警察官として振舞うこととなった。
しかし、世界の警察官を担うにはそれ相応のコストがかかる。米国の存在そのものに脅威が及ぶ事態ではコスト度外視でも対処する必要があったが、米国の存在自体には相対的に平和な環境では、世界の警察官を担うことによって得られる利権とコストが比較されることになる。その観点とは別に、米国の足元ともいえる中南米諸国の動向が米国を不安定化させている。こうした状況変化が元来の米大陸孤立主義の傾向と相まって、トランプ米大統領版モンロー主義としてのドンロー主義が打ち出された要因の一つと考えられる。
ロバート・D・カプラン『地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図』(訳:櫻井祐子、朝日新聞出版社、2014年。2024年に新書版が出ている)では、民主党政権に近いシンクタンクの新アメリカ安全保障センター主催で2009年にワシントンで開催された会議について触れられている(第15章)。この会議で、「米国が中東などに深くかかわっている間に自国の南部国境という膝元で国家的な大失敗が展開しており、それに対処する方が米国にとって死活問題なのではないか」との問題提起がなされている。
当時の米大統領は民主党のオバマ氏であり、民主党に近いシンクタンク主催の会議で提起された問題だが、この問題に積極的に取り組んでいるのが共和党のトランプ現米大統領である。つまり、今年初めのベネズエラ攻撃に象徴される米国の米大陸孤立主義への回帰とみられる行動は、トランプ米大統領の個人的な思い込みによる行動ではなく、今後暫く継続する米国の国家意志に基盤を持つと考えるべきではないだろうか。

世界平和実現に向けた動きになるか


前掲『地政学の逆襲』では、「西半球のアメリカを脅かすほどの大国を東半球に出現させないためには、西半球の諸国の結束を高めるのが一番だ。」「アメリカはユーラシアとのバランスをとる大国となり、北米諸国を結びつける大国とならなくてはならない。そしてどちらか片方より、両方をめざす方が簡単だ。」(388ページ)としている。要は、米国が足元の米大陸を固めることが、世界平和実現につながると結論付けている。
今年初めの米国によるベネズエラ攻撃は、ベネズエラの石油を大量輸入している共産中国への牽制であるという報道、中露が提供した防空システムが即座に無力化され中露は衝撃を受けているとの報道が散見される。いずれにしても、中露が自国の影響力を中南米諸国で増大させようとする動きは継続的に存在し、トランプ米大統領の南北米大陸への関心はそうした動きを牽制する結果となっている。
トランプ米大統領の行動が、前掲『地政学の逆襲』で触れた2009年にワシントンで開催された会議に関係しているような米国の安全保障専門家達の見識とどの程度関係しているかは外部からは窺い知れないが、単なる米大陸孤立主義への回帰と結論付けるのは早計のように思う。グリーンランドやカナダの併合が米大陸の結束を固める効果があるのかは甚だ疑問であるが、単なる野心ではなく、トランプ米大統領としては世界平和への展望に基づいているつもりなのかもしれない。

日本の対応と有望産業


前掲『地政学の逆襲』には、「現代のアメリカに属国はないが、同盟国や立場を同じくする国はあり、これら諸国にアメリカの役割を肩代わりさせていかなくてはならない。具体的には、積極的な外交努力を通じてはたらきかけるとともに、予備軍の増強を図って慎重に利用し、有事対応能力を取り戻す必要がある。」(371ページ)と書かれている。トランプ政権は日本、韓国、NATO諸国などに軍事費増加を要請し続けているが、前掲書の文脈とほぼ一致し、米国の国家意志に基づく要請と考え得る。
我が国はこれを奇貨として防衛力をはじめとする安全保障能力を着々と増加させ、米国が米大陸孤立主義に傾倒したとしても、共産中国やロシア、北朝鮮などの独裁ランドパワー諸国と対峙できる体制を整えるべきである。その際、民主シーパワー諸国との結束力を一層高めておくことが肝要である。「自由貿易を基調とする国際経済秩序は終焉へ?」(2025年7月10日)の末尾に書いた事の繰り返しになるが、独裁ランドパワー連合を形成すると予想される諸国家と米国は、根源的に力の信奉者であり、武力無き者の言を真の意味で聞くことは無いであろう。
なお、この方針で日本の体制整備を進めていくのであれば、防衛産業のみならず、造船業、AIを中心とした情報通信産業や半導体関連産業、細かく見ればドローン関連産業などが有望と言える。日本の持久力維持の観点から農林水産業、エネルギー産業は絶対欠かせない有望産業である。また、民主シーパワー諸国の結束力を高める観点からは造船業のみならず海運業が果たす役割が大きくなるであろう。これらの有望産業のいくつかについては、noteのマガジン「持続可能な投資へ」に掲載しているので、関心ある方はアクセスしてみて欲しい。


20260128 執筆 主席研究員 中里幸聖


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インバウンド客の宿泊数、大都市圏以外ではうるま・読谷・北谷、富士五湖・大月、小樽・ニセコなどが人気」(2025年12月29日)

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