生産、在庫から見た石油製品の状況
ホルムズ海峡封鎖による石油製品不足が懸念されている。オールドメディアは人々の不安を煽る報道を得意としているが、統計に基づいて状況を検証する。現時点での鉱工業指数最新値は4月なので、石油製品不足懸念を払拭するデータとはなっていないが、壊滅的状況というわけでもない。政府の対応が事実ならば、当面の心配はないと考える。
原油関連製品不足の鉱工業指数から見た検証
ナフサや石油等の原油関連製品の不足懸念について、政府は総量の確保はできており流通の目詰まり解消に努めている旨説明していたが、日本のオールドメディアの殆どは国民の不安を煽るような報道を続けてきた。令和のコメ不足、共産中国による日本への渡航自粛呼びかけ、等の時もそうであったが、近年の我が国のオールドメディアは人々の不安を煽るような側面のみ報道し、客観性に欠ける姿勢が目立つように思う。
本稿では、ナフサ等の原油関連製品は本当に不足しているのかについて、経済産業省「鉱工業指数」を使って簡単な検証を試みる。なお、鉱工業指数は付加価値額生産(以下、本文では「生産」)、出荷、在庫、在庫率の項目があり、在庫率=在庫÷出荷、である。また、本稿執筆時点では4月が最新値であり、政府が総量確保を盛んに説明していた5月の状況の検証は今後の統計公表が待たれる。
鉱工業指数からみた原油関連製品の状況
(1)本稿での対象品目
原油関連製品という表現をすると、エチレン、ベンゼンなどの基礎化学品、プラスチック、塗料原料・溶剤などの石油誘導品などをイメージする場合もあると考えられる。それらを全てカバーすると話が拡散するので、本稿ではいわゆる石油製品について記述する。
「鉱工業指数」の品目別の石油製品は、今話題になっているナフサの他にガソリン、ジェット燃料油、灯油、軽油、重油、アスファルト、液化石油ガス、コークスが掲載されている。これらのうち本稿では人々の日常生活に密着に関連する、乗用車燃料等であるガソリン、基礎化学品の原料となるナフサ、石油ストーブ等で使われる灯油、トラック燃料等である軽油、船や火力発電所などの燃料である重油を対象とする。
(2)ナフサ
最も騒がれていたナフサについて、近年の鉱工業指数の原指数、前年同月比、在庫循環図を示したのが図1である。なお、在庫循環図については、本稿末尾の「【参考】在庫循環図の見方」を参照されたい。
ナフサの直近の原指数は、生産は2026年2月以降、出荷は1月以降、在庫は3月以降に低下局面になり、在庫率は4月には上昇している。原指数の前年同月比は、生産は2026年4月、出荷は2月以降、在庫は1月以降にマイナスに転じている。在庫率は1月にマイナスに転じたが、2月以降はプラスとなり4月には前年同月比で大幅にプラスとなっている。在庫循環図では、2026年4月には「意図せざる在庫減局面」から「在庫調整局面」に移行したと見ることができる。
ナフサについては、昨年末から今年にかけて需要が回復基調にあり生産も後追いで増加していたものの、4月には生産減を余儀なくされ在庫も減少している。政府の説明通りナフサの総量が確保できているのであれば今後のナフサの供給については問題ないはずだが、2026年4月時点の統計からは楽観視はできず、5月以降の統計で動向を確認する必要があろう。
図1:ナフサの鉱工業指数(上左:原指数、上右:前年同月比、下:在庫循環図)


(3)ガソリン
自動車を頻繁に使う人はガソリンの動向が気になるであろう。自動車を運転しない人にとっても、輸送コストなどを通じて影響を受ける。ガソリンは価格上昇により以前から多くの人の関心事項となっていたが、ホルムズ海峡封鎖はガソリン不足等の懸念も高めた。
ガソリンの直近の原指数は、生産は2026年2月以降、出荷は4月に低下となったが、在庫、在庫率共に4月は上昇した。原指数の前年同月比は、生産は2026年3月以降、出荷は4月にマイナスに転じたが、在庫、在庫率共に2月にプラスに転じ、以降はプラスで推移している。在庫循環図は通常の反時計回りの動きとなっており、2026年4月には「在庫積み上がり局面」から「在庫調整局面」に移行している。
ガソリンについては、ホルムズ海峡封鎖以前から価格上昇に対する様々な施策が実施されたため、結果として通常の在庫循環サイクルで推移していると考えられる。
図2:ガソリンの鉱工業指数(上左:原指数、上右:前年同月比、下:在庫循環図)


(4)灯油
米国・イスラエルによるイラン攻撃が始まったのは2月末でまだ寒い時期であったが、ホルムズ海峡封鎖による原油関連製品輸入への影響が出るにはタイムラグが生じる。灯油需要が増加する寒い季節は本稿執筆時点からはだいぶ先の話となるので、それまでに対策が打てれば大きな問題とはならないであろう。
灯油の直近の原指数は、生産と出荷は2026年2月以降に低下局面となったが、在庫、在庫率共に4月は上昇した。原指数の前年同月比は、生産は2026年3月にマイナスに転じたが4月にはプラスとなった。出荷は2月にマイナスに転じ、以降はマイナスで推移している。在庫、在庫率共に、前年同月比は1月にマイナスに転じたが、2月にはプラス、3月、4月は再びマイナスとなっている。
灯油の在庫循環図は、直近4月には「意図せざる在庫減局面」に位置している。2月は「在庫積み増し局面」にあった。3月は生産が前年同月比マイナスであるが4月はプラスであり、生産側の予想以上に需要が急増した事がうかがわれる。灯油の需要は気温変化に大きく影響を受けると推測され、灯油消費量が相対的に多い地域の寒さなどが不規則な動きに表れていると考えられる。
図3:灯油の鉱工業指数(上左:原指数、上右:前年同月比、下:在庫循環図)


(5)軽油
軽油はトラックの他、重機や農機などで主に利用され、乗用車、船舶、鉄道などの一部でも軽油を燃料としているものがある。そのため、軽油の変動は輸送コストや生産コストなどに影響する。
軽油の直近の原指数は、生産と出荷は2026年1月以降に低下局面に入った。在庫は2025年12月から低下局面にあったが2026年4月には上昇した。在庫率は3月に大きく低下したが、4月は上昇している。原指数の前年同月比は、2026年2月には全ての指数がプラスであったが、3月には在庫と在庫率がマイナスに転じ、4月には全ての指数がマイナスとなった。
在庫循環図は、2026年2月には「在庫積み増し局面」に位置していたが、3月には「意図せざる在庫減局面」に移行し、4月はさらに生産、在庫共に減少している。
ナフサ同様に軽油についても2026年4月時点の統計からは楽観視はできず、5月以降の統計で動向を確認する必要があろう。
図4:軽油の鉱工業指数(上左:原指数、上右:前年同月比、下:在庫循環図)


(6)重油
船や火力発電所、産業用ボイラーなどの燃料として使われる重油は、家計が直接消費することは少ないが、輸送コスト、発電コスト、各産業の生産コストなどを通じて家計にも影響する。夏場に向けて冷房需要が増加するので、重油の不足は家計にも弊害をもたらすと懸念される。
重油の直近の原指数は、生産、出荷、在庫共に2026年4月には低下し、在庫率のみが上昇した。原指数の前年同月比は、生産、在庫は2026年4月に、出荷は3月からマイナスに転じている。4月の在庫率の前年同月比はプラスマイナスゼロであるが、3月のプラスからは大幅な低下となった。在庫循環図は、2025年12月はイレギュラーな動きとなっているが、全般的には通常の在庫循環サイクルである反時計回りの動きとなっており、2026年4月は「在庫積み上がり局面」から「在庫調整局面」に移行している。
重油については、通常の在庫循環サイクルにあり、今後は原料の原油の供給制約が生じるのかを注視する必要があろう。
図5:重油の鉱工業指数(上左:原指数、上右:前年同月比、下:在庫循環図)


終わりに
世界はデフレの時代からインフレの時代に移っている(「デフレの時代からインフレの時代へ」(2023年2月3日)参照)。ロシアのウクライナ侵攻から顕著になり、アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃は更にインフレを加速する要素となっている。価格上昇に加えて、重要物資の不足も懸念せざるを得ないのが、現在の国際情勢である。
鉱工業指数の直近の動向を見る限り、ナフサや軽油など産業用途の側面がより強い原油関連製品ほど、ホルムズ海峡封鎖の影響が顕著であるように思われる。
ナフサや石油等の原油関連製品の不足懸念について、日本のオールドメディアの殆どは執拗に高市早苗政権のせいにするような印象操作を行なっているが、高市政権が原因を作ったわけでは欠片も無い。直接のきっかけは、2月28日から始まった米国とイスラエルによる本格的なイラン攻撃である。原油資源の中東地域への過度の依存を解消し、調達先の多様化を図ることの重要性は以前から言われていたが、取り組みが進んでいなかったのは高市政権の責任ではあるまい。
あるいは、憲法9条を改正し大軍拡をして、シーレーン防衛を日本独力で完遂できるようにすれば、ホルムズ海峡封鎖等問題にもならない。しかしオールドメディアはシーレーン防衛の為の戦力保持及び憲法9条改正には大反対である。論理破綻していると言わざるを得ない。
政府は、ホルムズ海峡を通らない中東産の調達ルートのほか、米国、中南米、中央アジアなど中東以外の地域からの調達を拡大することによって、原油の代替調達は100%達成できる見通しが立ったとしている。政府の言を信じるか否かは各人が判断することであるが、オールドメディアの偏向報道のみを鵜呑みにして悲観的になるだけでは建設的ではないであろう。
「二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-」(2023年3月6日)で提唱したようにエネルギーや食料の自給率向上に努めると同時に、重要物資の調達先多様化を推進するよう、政府や関係業界に働き掛けること、そうした世論を形成していく事が前向きな態度である。同時に個々人では省エネを進め、資源の無駄遣いを極力減らすよう努めることも、我が国社会経済の持続性向上に資するであろう。
【参考】在庫循環図の見方
在庫循環図は、在庫と生産の増加率(前年比)を縦軸と横軸にして、両者の関係から在庫循環の進展と需給動向や景気循環局面を推測するものである。参考図1の45度線、135度線が局面を測る分岐点と捉える。通常は反時計回りで推移するが、経済情勢や政策介入などにより不規則な動きとなる事がある。
過去の景気循環と照らし合わせると、図の「在庫積み増し局面」と「在庫積み上がり局面」の境が景気の山、「在庫調整局面」と「意図せざる在庫減局面」の境が景気の谷を示す場合が多い。ただし、これはマクロ経済全体での生産、在庫の関係である。本稿の対象である個別品目の場合は、個別品目の需給動向などを反映したものであり、マクロ経済全体の景気の山谷とは必ずしも一致しない。
参考図1:経済産業省の在庫循環図の例

なお、GDPなどのマクロ統計を扱う内閣府では、縦軸を出荷の前年同期比、横軸を生産の前年同期末比とした在庫循環図を用いている。縦横の関係が逆となっているので、通常は時計回りで推移する。
参考図2:内閣府の在庫循環図(概念図)

20260622 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)は日本存続のカギの一つ」(2026年5月27日)
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