少子化解消は、企業にとっても有効な投資案件であり、全日本人の豊かな暮らしの基盤を形成する
我が国で少子化対策が掲げられてから30年以上経つが、全く効果が出ていない。持続的な経済成長の基盤は人口である。長期的に人口減少が見込まれる地域では、企業活動は活性化しない。少子化解消は、企業にとって将来の収益に繋がる有効な投資案件である。将来に亘る社会経済活性化のため、今度こそ本気で少子化解消に取組んで欲しい。
30年経っても効果が出ていない政府の少子化対策
我が国では、1990年のいわゆる「1.57ショック」で、厳しい少子化の現状が社会的に強く認識されるようになったと言われているが、その認識は多くの人に共有されていたのであろうか。今でも十分には共有されていないのではないだろうか。
1994年に最初の総合的な少子化対策となる「エンゼルプラン」が策定されたが、30年以上を経た現時点でも、全くと言ってよいほど効果が表れていないのは何故か。あるいは、こうした対策をやらなかったよりはマシというのが現状だろうか。
いずれにしても、出生数という数値だけに着目すれば、我が国の政府による少子化対策はほとんど効果を上げていないと言わざるを得ない。
図1:合計特殊出生率と出生数

出所:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」、厚生労働省「人口動態統計」より筆者作成
持続的な経済成長の基盤は人口
(1)国内総生産=消費+投資
Y=C+I(国内総生産=消費+投資)。最もシンプルに一国の経済を表した式である。つまり、消費の増加(減少)と投資の増加(減少)の結果が生産の増加(減少)である。そんなことは言われなくても分かっているという読者が大半であろうが、その割には需要不足が我が国の「失われた30年」の決定的要因であることを指摘しないどころか隠蔽するような言論が多いように思う。
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)等の「持続可能な投資へ」掲載稿の多くでたびたび指摘してきたが、財務省を中心とした勢力による増税と公共投資削減の緊縮財政路線は、消費と投資を減らす愚策である。本節冒頭の式からすれば、当然に生産も減ることになり、経済はマイナス成長となる。従って、緊縮財政路線を破棄し、積極財政路線に転換すべきことを提唱してきた。幸い、現行の高市早苗政権は「責任ある積極財政」を掲げており、ぜひとも実現に邁進して欲しい。
ただし、消費や投資が持続的に増加していくためには、より根本的な課題がある。それが人口問題であり、我が国の場合は少子化対策である。なお、話を単純化するため、消費は家計消費、投資は企業による設備投資と政府による公共投資とする。
(2)消費の長期低迷は人口減少が根本問題
C(消費)=C/P(一人当たり消費)×P(人口)、であるから一人当たり消費が増える(減る)か人口が増える(減る)ならば、消費が増える(減る)。しかし、我が国は少子化により人口増加のペースが徐々に鈍り、21世紀に入ってからは高齢化に伴う死亡者の増加等も重なり人口は減少局面に入っている。一人当たり消費が増えたとしても、それ以上に人口が減少すれば国全体としての消費は減少する。我が国の消費の長期低迷は、根本的には人口問題がある。
さらに、財務省を中心とした勢力による増税などの緊縮財政路線は一人当たり消費を抑制する方向に作用するので、一人当たり消費も減少圧力がかかり続けていたと言える。
図2の家計最終消費支出は、近年の名目値は2020年を底に増加基調となっているが、実質値は横這いに近い。2020年から2021年にかけての家計最終消費支出の名目値の増加はコロナ禍による落ち込みからの反動であり、2022年以降の名目値の増加はロシアによるウクライナ侵攻に象徴されるインフレ時代への転換の影響によるものと考えられる。
2019年以前の家計最終消費支出については緩やかな増加基調ではあるものの、他国に比べればほとんど増加していないと見ても良い程度である。消費については載せていないが、GDPの主要国比較については、「財政均衡至上主義では財政バランスは回復しない」(2023年4月21日)、「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)等に図を掲載しているので、ご参照願いたい。例えば米国のGDPは、名目値は2024年には1995年の4倍弱、実質値でも2倍強となっている。
図2:消費と人口

(3)企業の設備投資は市場の将来性次第
企業の設備投資は、将来の収益を見込んで実施される。前述したように人口減少は消費減少要素であるから、人口減少国よりも人口増加国に向けたビジネスに注力するのは企業としては自然な姿ではある。さらに冷戦終了後は、世界市場が均一化の方向に向かうと考えられた一方で、自国での生産を実施する企業を優遇する施策を実施する国も多かった。一方、我が国では1990年前後の日米構造協議や日米包括経済協議などに象徴されるように、自国市場の他国企業への解放を促進するような施策が実施された。
そのため、長期的に人口減少が見込まれる我が国に拠点を置く企業は、海外進出を積極化させた。なお、生産や輸送における様々な革新や変動の影響も大きいと考えるが、話が拡散するので本稿では立ち入らない。
本来、企業とは地元の人々の生活を豊かにするために組織されたものであり、人々を豊かにした成果として収益を得るものである。しかし、貨幣経済が人々の生活を支配して以降、金銭的収益獲得が至上命題となってしまっている企業がほとんどとなってしまった。しかし、引き続き人々の生活を豊かにすることを第一目標としている企業は存在するし、金銭的収益重視の企業でもCSRやSDGsなどの社会貢献に関連する動きを経営に取り入れるようになっている。
しかしながら、少なくとも自社の存続が可能なだけの収益を上げる見込みがなければ、企業活動は継続できない。将来の収益を見込んで実施する設備投資は、先細りの地域では一民間企業には実施しにくいであろう。逆に見れば、将来有望な地域、有望というほどでなくても持続性がある地域には設備投資をする誘因がある。将来見通しの根源が人口動向であり、設備投資促進の面からも少子化対策が重要となる。あるいは、行政が当てにならないのであれば、企業が積極的に地域社会の活性化と少子化対策を、将来への投資として実施することが望ましい。
例えば、「ウーブン・シティなどの実証都市への期待」(2025年1月15日)で紹介したトヨタグループが中心となって実証試験を進めているウーブン・シティなどは、その可能性を秘めている。
図3:民間企業設備投資と企業の内部留保(ストック)

注2:民間企業設備投資は名目値。
出所:内閣府「国民経済計算」、財務省「法人企業統計調査」より筆者作成
(4)必要な公共投資実施は為政者の責任
人々が安心して現代的な日常生活を送るためには、上下水道、電気・ガス、道路、鉄道、港湾等の一定水準のインフラが整備されていることが重要である。また、経済活動を円滑に実施するためにもこうしたインフラは必須である。さらに、保安林、地滑り防止施設、ダム、堤防、護岸等の治山治水関連のインフラ整備は、国防や外交と並んで政治の最も重要な使命の一つである。
こうしたインフラの整備は、料金徴収可能なものは民間企業が実施することも可能ではあるが、基本的には徴税権を持つ行政が実施すべきものである。また、そうして整備されたインフラのものとで積極的な経済活動が実施され、人々の安定した生活が送られることで、税金も増加していく。当面の資金が不足しているなら、国債や地方債などで資金調達すれば良い。より良い将来に向けた投資なのである。
上記で挙げたようなインフラ整備は、人々の暮らしの安定と円滑な経済活動を実現するために、公共投資として実施すべき分野である。そうした公共投資の実施こそが為政者の責任であり、財務省を中心とした勢力による無分別な公共投資削減方針に唯々諾々と従っているような政治家は即刻辞任すべきである。
近年の地震や台風による自然災害による被害拡大は、自然災害の威力そのものが増加している側面が大きいが、必要なインフラ整備を怠ったことによる側面も無視しえない。復旧が遅れがちなのも同様である。また、過疎化の進展も政治や行政の無為無策の結果である側面も大きい。日本の沿岸地域や重要な山間地に、人が住みやすいように計画的なインフラ整備を実施して来なかったと言えよう(「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)、「防衛費増額で地方創生との一石二鳥を狙う」(2024年10月4日)等も参照)。逆に一部の人間の私利私欲に基づいて、国防や国民の生活向上の観点からは持続性のない地域でインフラ整備を継続した事例も見受けられる。
公共投資には様々な分野が含まれ、不要不急の施設整備が公共投資として実施されたりもしてきたために、公共投資が無駄や悪であるという印象が広まってしまっている。そうした印象操作にはマスメディアの多くが加担しており、必要な公共投資まで削減する結果を招いた。彼等の日本国の将来に対する罪は重い。
「骨太の方針」に少子化対策明記
7月21日に閣議決定された今年の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針」は、「『責任ある積極財政』元年 〜日本の挑戦を起動する!〜」を副題とし、「少子化対策と日本の未来を担うこども・若者のための政策の推進」という項目が入っている。
本稿冒頭に記したように、我が国の少子化対策は一向に成果を上げておらず、実効性が得られるのかは疑わしい。しかしながら、「失われた30年」の時の緊縮財政路線とは異なり、少なくとも建前上は「責任ある積極財政」を掲げており、政府の姿勢は転換していると考えたい。ただし、今までの的外れな少子化対策を見る限りでは、少子化対策を具体的に立案する人達が現実の育児を経験していないのではないかとの疑念が晴れない。今回はぜひとも育児で苦労している人達の意見を存分に吸い上げ、具体的政策に活かすべきである。また社会全体に育児が他人事ではなく、国家存続の一大事である我が事として捉えるような雰囲気づくりも重要である。
政府の少子化対策として、保育所整備、出産費用関連支援等はこれまでも取り上げられてきた。今回の「骨太の方針」には、「産後ケアを始めとした母子保健政策を含む妊娠から子育てまでの切れ目のない支援、不妊症等への支援」「保育料負担軽減を始め、幼児教育・保育の支援について、人材や財源の確保の課題を踏まえつつ検討し、取組」等々の毎度お馴染みの内容が並んでいる。
これまでも結婚対象年齢の若者の就業支援や収入増加策等が重要だという意見も多く出てきた。今回の「骨太の方針」では、「仕事と家庭の両立支援のため、質の高いベビーシッター・家事支援サービスの利用促進」「企業等の活力も活かした放課後の居場所や病児保育などの充実」「子育て世帯向けの住宅供給の促進」等と書かれている。
「企業の支援と成長の好循環を創出するため、『こどもとともに成長する企業構想』を推進」については、本稿タイトルである「少子化解消は、企業にとっても有効な投資案件であり、全日本人の豊かな暮らしの基盤を形成する」に通じるものであり、評価はしたい。「『強い経済』の実現により子育て世代の所得を増やす」「審議会委員への登用等、若者が参画した政策実施を推し進める」も、これまでの成果の出ない少子化対策への反省を盛り込んだものとして評価したい。
これらはいずれも大事なことであり、今後とも対応していくのが望ましい。しかし、政府の審議会等の公の場ではあまり語られてないように見えるが重要な課題である結婚や教育の問題については、「『公的お見合い制度』と『学費無料』が少子化対策の第一歩」(2023年1月31日)で述べたので、ご参照願いたい。さらに育児環境の問題として、東京一極集中をはじめとする大都市集中と過疎化の問題がある。その点については、「リスク分散と新時代への離陸に向け首都移転を」(2023年12月14日)等もご参照願いたい。
いずれにしても、少子化対策は総合的な施策を必要とする一大国家プロジェクトであり、我が国の将来にわたる持続性向上、社会経済活性化の基盤となり国家盛衰の鍵となる重要案件である。そうした覚悟で関係各位には臨んで欲しい。
20260723 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「レーザー砲、レールガン、弾薬、抑止力としての飛び道具の矢玉」(2026年7月15日)
