高市政権の国家予算抜本改革への挑戦-予算編成歳時記の呪縛からの解放-
今回の衆院解散総選挙については多くの批判があったが、我が国が活力を取り戻すためにはこのタイミングで実施することが必要であった。高市首相完勝により、権威主義諸国家に対する民主主義諸国家の団結、「責任ある積極財政」への転換による経済成長回帰、の基盤を確保した。予算編成歳時記の改革が、政権の政策実現の一里塚である。
衆院解散総選挙は民主主義国家として完全な正当性を持つ
(1)高市首相の完勝
2026年2月8日投開票の衆議院総選挙は、自由民主党(以下、自民党)の歴史的な圧勝に終わった。戦後、衆議院で2/3を超える議席を単独政党で占めるのは初だそうである。ただし、自民党が勝利したというよりは、高市早苗首相が圧倒的に国民に支持されたというのが、多くのまともな日本人の感覚であろう。
今回の衆議院解散について高市首相は、「高市早苗が首相でよいのかどうか」を前面に掲げて、国民の信を問うた。高市首相は国民の信任を得たことになるが、どの部分を信任したかは人それぞれであろう。しかしながら、高市首相は政策の大転換を掲げて信を問うたのであり、その根幹は「責任ある積極財政」である。また、法と自由を重視する民主主義国家としての外交・国防姿勢である。
台湾有事に関する質疑をキッカケとした中華人民共和国(以下、共産中国)からの不当かつ無礼な圧力増加に象徴される権威主義国家の言動に対し、我が国は毅然と立ち向かわなければならない。「自由」、「開放性」、「多様性」、「包摂性」、「法の支配」の尊重などの「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific:FOIP)」の中核理念を共有する民主主義諸国家とともに平和と繁栄を築く努力をするのか、持続性のない経済的利得のために人権弾圧を先導し経済ルールをいくらでも捻じ曲げる共産中国などの権威主義諸国家に屈するのかの選択でもあった。
高市人気にあやかって当選した自民党のリベラル派、媚中派、反高市派、緊縮財政派はそのことを努々忘れてはいけない。政策実現手法に関する議論は尽くされるべきであるが、高市内閣の外交や財政の基本的方向性を否定する場合は、有権者の判断を蔑ろにすることになる。ましてや高市首相の人格否定のような発言をするのは以ての外であろう。そうしたいのであるならば、議員バッジを外して無所属あるいは野党から改めて出馬すべきである。
(2)選挙権は民主主義の根幹、総選挙はどのタイミングでも正当
近年、衆議院解散総選挙については、不思議なことに常に批判が付き纏う。今回は、予算編成が遅延して国民生活に悪影響が出る、厳寒の時期の投票実施は迷惑ではないか、前の衆議院選から1年3ヶ月しか経っていない、等々である。また公的な部分の選挙関連費用に対する批判も耳にするようになった。
しかし、国政選挙は、国民が選挙権を行使する場であり民主主義の根幹である。選挙を否定することは民主主義を否定することである。また、民主主義はコストがかかる。独裁政治であれば政治権力者選出に関わる国民が負担する直接コストは激安であるが、その方が良いのだろうか。
参議院選挙は7月に実施されることが多く、近年では酷暑の時期に実施することへの批判を聞くこともある。春と秋が消滅しつつある現代において、季節を気にしていたら何ができるのか。十分に機能しているとは言い難いかもしれないが、期日前投票制度は季節要因を緩和する機能を果たしている。
総選挙実施前の高市首相は、自民党総裁選という選挙は経たものの、国民全体の審判を受けたわけではなかった。政策の大転換を企図するのであれば、国民全体の信を問うのは民主主義として至極当然である。また、そうして信任を得たなら大胆な政策転換を実施する根拠となる。信任が得られなかったら政策転換を断念するのが民主主義の真っ当な在り方であろう。
その点、旧民主党政権は最悪であった。国民を蔑ろにしていた。消費税を上げないことをマニフェストに掲げて政権交代を果たしたのに、鳩山由紀夫元首相の辞任を受けて衆議院選挙を経ずに就任した菅直人元首相は消費税増税を強行しようとした。さらに野田佳彦元首相は消費税引き上げ関連法案を通してから衆議院解散総選挙を実施した。国民をバカ扱いしているに等しい所業である。政権に就いてみたらマニフェスト実施は現実的に困難であったので方針転換するというのは恥ずかしいことではない。しかし、大きな方針転換をするのであれば、もう一度国民の信を問うのが民主主義である。野田元首相の場合は消費税引き上げ関連法案をマニフェストに全面的に掲げて総選挙を実施し、再度多数派を取れた場合は消費税引き上げ関連法案を粛々と採決するべきであった。
不思議なことに現代の我が国では一度通した法律を撤回することは非常に困難となっている。野田元首相の騙し討ちとしか言いようのないやり方での消費税引き上げ関連法律により、安倍晋三元首相は消費税増税を実施せざるを得なくなり、せっかくのアベノミクスが十分な効果を発揮しきれない結果となってしまった。我が国の暗黒の35年の要因の一つである(「税収と景気(2)-消費税導入、税率引上げ-」(2024年1月19日)等を参照)。
政策転換を反映しにくい予算編成歳時記
(1)国家予算抜本改革宣言
高市首相は衆議院選挙に勝利した直後に自民党幹部を招集し、新年度予算の年度内成立を諦めないよう指示したとされる。
総選挙後の特別国会召集を受けた記者会見では、「国の予算の作り方を根本から改めます。」「『複数年度予算』や『長期にわたる基金』による政策支援を可能といたします。」「さらに、毎年、補正予算が組まれることを前提とした予算編成と決別し、必要な予算は可能な限り当初予算で措置をいたします。」「令和8年度予算はその第一歩ですが、予算編成方針を改め、今年の夏の9年度予算の概算要求から本格的に取り組み、約2年の時間を要する大改革です。必ずやり遂げます。」と高市首相は決意表明している(「高市内閣総理大臣記者会見 令和8年2月18日」より)。]
(2)予算編成歳時記が政策変更を妨げる
財務省ウエブサイト「予算」のページでは、毎年度の予算編成・審議過程に関する資料と日程が確認できる。図は2008年度以降の予算編成等の実際の日程を基に、大まかな過程と日程について纏めたものである。細かい違いはあっても2008年度より前の予算編成・審議過程も似たようなスケジュールとなっている。
図:予算編成歳時記-補正予算が1回だけの年度のおおよその日程イメージ-

注2:2008年度予算以降では、第2次補正予算が組まれたのは7回。うち第3次補正予算が組まれたのが3回。うち第4次補正予算が組まれたのは東日本大震災対応となった2011年度の1回。
注3:2008年度予算以降では、暫定予算が組まれたのは、東日本大震災対応と重なった2012年度、民主党から自民党に政権交代の影響があった2013年度、消費税率8%から10%への引き上げ延期を問うた総選挙の影響があった2015年度の3回。
出所:財務省ウエブサイト「予算」より筆者作成
一見して分かるように、予算編成は歳時記のようなプロセスを毎年毎年約1年かけて繰り返している。前年踏襲型で当初予算を組み、年度途中に補正予算を重ねるという運用である。このような運用では、年度途中で大きな政策変更をしようとしても当初予算には間に合わず、予算の一部を構成するに過ぎない補正予算で対応することになる。従って、政権の意志を反映するはずの国家の資源配分の全体像はほとんど変えられない。代わりに官僚機構が長年積み上げてきた資源配分の全体像がおおむね持続することになる。
(3)本質的な予算編成権を政権に取り戻す大改革
高市首相は「必要な予算は可能な限り当初予算で措置」として、このような予算編成歳時記の現状を変える挑戦を明言した。「令和8年度予算はその第一歩」「今年の夏の9年度予算の概算要求から本格的に取り組み、約2年の時間を要する大改革」との認識は的確である。そのためにも衆議院解散総選挙に打って出て、国民の支持を得ることが絶対必要であったのだ。いわば予算編成権を官僚から政権に取り戻すための大改革遂行を企図しているのである。
もちろん、予算作成に関連する専門領域は引き続き官僚が担うことになる。しかし、この大改革が実現するのであれば、長年理想に掲げられつつ未だに実現していない、政治による政策優先順位の決定を身のあるものとすることができる。「高市総合経済対策への期待-戦略17分野は的確-」(2025年12月11日)で挙げた様々な施策実現のためにも、この大改革が成功することを期待したい。それが日本国民及び自由と繁栄を愛する諸国民が幸せに近づく道の一つだと考えている。
20260227 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「AI投資が目指すものは何か-シンギュラリティをどう捉えるか-」(2026年2月18日)
