カオスなバスでサラエボへ〜ボスニアヘルツェゴビナ🇧🇦| 40女のヨーロッパ乗り鉄旅 | #21-3
【Day74: ザグレブ→サラエボ】
クロアチアの首都からお隣ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボへ。国境を越える長距離バスはなかなかのカオス。
🚊96日間の旅エッセイ。前回のお話はこちら↓
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##不安いっぱいの強行ルート
朝6時、まだ薄暗いうちに部屋を発ちバスターミナルへ向かう。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボまで8時間という長いバス旅がはじまるということで、私は少し緊張していた。

早朝6時、ほんのり朝焼けの道をゆく
この国はユーレイルパスの対象国ながら国境を越えて走る列車が全て運休しているようでバスで出入りするしかなく、残り少ない日程の中で行くかどうかかなり悩んだのだが、今行かなければこの先家族や友達と「サラエボ行こうよ!」とはならないだろうなーと思い、思い切って強行スケジュールを敢行することにしたのだ。
しかもこの国は私のSIMカードのローミング対象外国なので、スマホに頼り切って旅している私には不安が大きいのだった。
私が乗るバスは思いがけないほど大きな2階建てバスで、乗客もそれなりに多くて2人掛け席のどちらかは全て埋まっているという状況。

埋もれそう…
やたらとはじめから深くリクライニングされたフカフカ座席に埋もれながら、しばし霧が立ちこめるザグレブ郊外の高速道路をひた走る。

##国境越えもひと苦労
出発から2時間ほど経過した頃、高速道路の先に国境がやってきたらしくバスはパスポートコントロールのゲートらしきエリアに入っていく。
クロアチア国境側は乗り込んできた係員が全員分のパスポートを預かっていき、スタンプを押して帰って来るというシンプルなもので、あっさりと終了した模様。

その一方でボスニア・ヘルツェゴビナの入国は車両が行列していてなかなか前に進まない。
やっと我々のバスの番になったと思ったら、全員一度パスポートを持って降車させられ一列に並んでスタンプを押してもらうのを待つ必要がある。
ここではじめて同乗者の様子を観察してみると、観光客らしき人は見当たらずアジア人など当然私一人、ほとんどが現地の労働者らしき男性で女性比率も極めて低い。
私の後ろに立つ若い男はくたびれたジャンパーを着た細身の男性で、青い目がやたらとうつろに見えて近寄るのがちょっと怖いような雰囲気がある。
入国審査は実に時間がかかるもので、一体何にひっかかっているのか、というほど長く時間がかかる人からさっさと終わる人まで様々。
無事に通過できるのかドキドキしながらようやく関門に到着した際には、あっさり車型のスタンプを押してもらい通過することができた。

クロアチア国境まで2時間ほど、その後パスポートコントロールに要した時間は2時間以上となかなかのんびりした世界だったが、なんとか予定どおりバスで国境をこえることに成功した。
##緑豊かなのどかさに驚く
国境を越えると高速道路は無くなり一般道をひた走るのだが、緑が美しい森を抜けると両脇に新しそうな家々が並び立つ住宅街に突き当たる。

この住宅たちが実に幸せを絵に描いたような素敵な住居群で、道路に面した広い庭は、奥に建つ家屋の倍ほどの広さがあり、青々とした芝生に占拠されている。

ところが車窓に貼り付いて外を観察していると、そんな家々が建ち並ぶ道路沿いの所々に墓標のような石碑が見られ、銅板に若者の顔が刻まれているところを見るとどうやら先の紛争で亡くなった人を偲んで建てられたもののように見える。
ボスニア・ヘルツェゴビナなんて言うと私の年頃では1990年代の紛争の記憶が新しく、ちょうど受験生の頃だったこともあり時事ネタとしてテレビのニュースをよく見ていたのだが、車窓から見える家々はなんとも幸せそうな緑に囲まれた広々とした家ばかりでそのギャップに驚かされてしまう。
##休憩タイムでほぐれる人たち
そんな道をしばらく走り続けるとバスはドライブインのような場所で停車し、乗客も次々に降りてタバコなど吸い始めるのが見える。

トイレ休憩か何かだろうか?
アナウンスがあったかどうかもよく分からないまま、それでも小さな喫茶店があるだけのドライブインで置いて行かれることは無さそうなので、私も他の乗客につられて外に出ることにした。
乗客は喫茶店でお茶をしたり何か食べたりしてくつろぎはじめたのだが、この国の通貨を全く持ち合わせていない私は飲み物ひとつ買うわけにもいかず、店舗の中のお手洗いを借りたあとは手持ち無沙汰で外をぶらぶらするほかやることがなくなる。
すると同じように手持ち無沙汰な男性と目が合い、流暢な英語で話しかけてきた彼は同じく数少ない旅行者であることが分かった。
「休憩って何時までか分かる?」
「いやー、アナウンスもなにも無かったですよね」
などと話しながら、地元民だらけのバスにひょっこり乗り合わせたもの同士、どこから来てどこへ行くのかお互いの旅の共有をする。
メキシコから来た旅好きの彼はSNSで旅の様子を発信しているとのことだが、インターネットがつながらないこの場所ではフォローもできなくて、取り急ぎアカウントの写真を撮らせてもらう。
世間話をしているとそろそろ出発時間のようで乗客たちがノロノロと喫茶店から出てくる。若い男性グループの一人が爽やかな笑顔で
「チャイナ?」と聞いてくるので、反射的に
「ジャパン!」と答える。
なんだって?という反応の友達と、日本人だって!、と解説する男子。
グループ全員が理解できたようでニコニコと手を振って同じバスに乗り込んでいった。
##まさかのお裾分け
休憩時間を終えて走り出したバスでは、真後ろの席に座るうつろな青い目の若い男が知り合いらしき男性とおしゃべりをしながら買ってきた包みをゴソゴソしている。

するといきなり後ろからトントンと叩かれたのでビクッとして後ろを振り向くと、うつろな目のままニコリともせずに手にしたケバブを差し出してくる。
どうやらお裾分けしてくれるようで、自分が食べる前にパンをちぎるよう促しているようだが、何だか分からない食べ物をいただくのは正直抵抗がある。
目の前に差し出されているので仕方なく御礼を言ってパンとお肉部分を少しちぎると、もっと取れ!というように勧めてくるので、「No, thank you!」とやんわりお断りしたのだが、私が遠慮していると思ったのか、自分の分をちぎって残り大部分を包みごと渡してくれた。
あらまぁ、もらっちゃった。
私が何も買わずにいるのを可哀想に思ったのだろうか、ありがたく脂っこいケバブをいただき食べてみるとなかなか食欲をそそる味わい。
「美味しい!」
と笑顔で伝えると初めて顔をほころばせた彼は、そのあとも一生懸命何やら話かけてくる。
言葉が全く分からないのでもどかしいのだが、どうやら自分は次の停車場の出身らしく、今からそこへ帰るんだということを言っているようだった。
一見怖い印象を持った男性が、外国人である私に興味津々でコミュニケーションを取ろうとしてくれたことが可愛く思えて嬉しくなってしまう。
しばらくカーブが続く山道を走り続けたバスはどんどん高度を上げていき、行く手には山間部に広がる美しい町が見えてきた。

後ろの男性が再びトントンと叩いてきて、あれが僕の故郷だよ!と言わんばかりに指を指す。
たっぷりの緑に囲まれたオレンジ屋根の建物が建ち並ぶ町はお世辞抜きに美しくて、「Beautiful!」と言って写真を撮っていると彼もとても満足そうだった。

##悲しい記憶の片鱗
次の停車場では半分ほどの乗客が降り、後ろの彼ともお別れ。
またもや休憩時間のようで、外に出て山の澄んだ空気を楽しんでいると、最初の休憩で声を掛けてきた若者が私にコーラを差し出してくる。
彼もまた英語はしゃべれないようだが、結構なイケメンなのに恥ずかしそうにどうぞどうぞとジェスチャーする様子が可愛くてありがたくいただくことにした。

バスの乗客はかなり減って後方に座る私の周りはほとんど誰もおらず、静かに外の景色を楽しむことができるようになる。

美しい自然に溢れている国なのだ
山間の集落がポツリポツリと現れるのどかな風景が続くが、その中にやたらと新しそうな白い墓標がびっしりと建てられた墓地があちらこちらに見えるのだ。

日本の山間部でもお墓がチラホラと見えるのでそれと同じなのかもしれないが、先入観のせいか妙に新しい墓地が多く感じられ、胸が痛む。
日本の神社やお寺と同じように、各集落にはモスクの尖塔が見えるのでこのあたりはイスラム系住民が多く住んでいるようだ。

あちらこちらにモスクの尖塔が見える

##遠足のバスのような車内
外の景色を凝視していると、いきなり前方からさっきコーラをくれた若者がやってきて、今度は私にスナック菓子をくれる。
「ありがとう」と御礼を言って受け取るとまたもや恥ずかしげにそそくさと前に戻っていったのだが、前方の皆さんが大いに湧いている。

あの人達、他人同士じゃないんだっけ?
人数が減ったサラエボ組はいつの間にかめちゃくちゃ仲良くなっていて、修学旅行のバスのように若者もおじさんも一緒になって大騒ぎしている。
うるさいなぁと思っていると、何やら私をネタにしているようでおじさんたちが身を起こして私のほうを振り返っている。
すると先ほどの男子が友達に英語を教えてもらっているらしく、「びゅーてぃふる?ビューティフル!」と何度も練習したかと思うと、またもやこちらにやってきて
「Beautiful!」と言ってのける。
はぁ、そりゃどうも。と曖昧に返事するとまたもや戻っていって、今度は「あーゆー、まりっど、まりっど?」と何度も練習している。来るな来るなと思っていると、やっぱりこっちにやってきて
「Are you married?」と聞いてくる。
Yes!と簡潔に答えると、報告を受けた前方メンバーは大騒ぎ。
ひとりでこんなバスに乗っているアジア人女性はよっぽど珍しいのか、完全におもちゃにされてる。
さすがに長旅すぎてみんな娯楽に飢えているのだろう、その後も何度かこちらにやってきてあれこれ質問をしてきたり、追加のお菓子をいただいたりしたが、そのうち飽きたのか来なくなった。
##二時間遅れの到着
それにしても到着予定時刻の14時半をとうに過ぎているのにまだまだバスは山間部を走っているのが気になる。
ただでさえ短いサラエボ滞在時間が短縮されることにやきもきしながら外を見ていると、16時を過ぎた頃、向かう先に大きな都市の姿が見えてきた。

2時間遅れ10時間のバス旅にすっかりお疲れの皆さん、伸びをしながらも嬉しそうにバスを降り、例の若者たちも笑顔で手を振ってそれぞれの家路に向かっていった。

ボロい鉄道駅と先進的なビルのコントラストに驚き
🚊次回、ドキドキのサラエボ街歩き。発展した街と戦禍の名残のギャップに驚きの連続。
📘この投稿は「40女のヨーロッパ乗り鉄旅」の一編です。全編はこちら↓
