構造思考OS|Vol.7 思考の技術 ―5つのステップの実践
前回のnoteでは、「思考と現実のズレ」、そして 思考を設計するための4つの観点(目的・変数・行動・観測)と、それを扱う4つの思考操作(分析・統合・抽象化・具体化) をもとに構成された、“思考を構造化する5つのステップ(目的・変数・仮説/定義・行動・観測)”という技術を紹介しました。
ただ、内容がやや抽象的になっていたため、**実際にどう使えばいいのか?**という具体的なイメージが湧きにくかったかもしれません。
そこで今回は、この思考技術を 実務や日常でどう使うのか? という視点から、1つの具体例をもとに、5つのステップそれぞれを順に解説していきます。
思考を構造化する5つのステップ(再掲)
1. 目的設定
2. 分析と変数の特定
3. 仮説設定 or 目的の要件定義
4. 行動の設計(具体化)と実行
5. 観測と評価
パート1|ステップ1:目的設定
「写真をうまく撮りたい」と思ったことのある人は多いと思います。
構図やタイミングがずれて、思ったように残せない。せっかく撮ったはずなのに、あとから見返してがっかりする。
そんな経験が、一度はあるのではないでしょうか。今回のテーマは、「写真をうまく撮るにはどうすればよいか?」です。
そしてここでは、その中でも 「子どもの写真をうまく撮りたい」 という目的に焦点を絞って考えていきます。
目的を「子どもの写真をうまく撮りたい」としましたが、このまま次のステップに進むわけではありません。
まず最初に行うべきは、この目的そのものを問い直すことです。なぜなら、「うまく撮りたい」と思う背景には、いくつもの動機や欲求が入り混じっているからです。
たとえば――
SNSで“いいね”をもらいたいのか、
あとで見返して癒されたいのか、
育児をがんばる自分を誰かに認めてほしいのか。
こうした内面の違いによって、「うまく撮る」の意味も、求める工夫も大きく変わってきます。
そしてここが重要です。
「うまく撮ること」自体が、じつは上位の目的を達成するための小目的=手段になっていることがあります。
もし「思い出をきれいに残したい」が本当の目的なのであれば、
自分が撮る必要はなく、家族にお願いしたり、フォトサービスを使うという手段も成り立ちます。
つまり、最初に見えていた“目的”が、上位目的の変数のひとつに過ぎない場合があるのです。
これはビジネスでも同じです。
他部署から、上司から渡された「目的」が、じつは手段に過ぎなかった――
そんなケースは少なくありません。目的の再確認を怠ると、本来達成したかったゴールからズレたまま進んでしまいます。
だからこそ、最初に必要なのは「この目的は本当に妥当か?」という問い直しです。
今回の例でも、動機を掘り下げていく中で、
「あとから見返して癒されたい」
という感情が背景にあると見えてきました。
ここでは仮に、それを上位の目的=本質的な目的と定め、それを実現するための小目的として、**「子どもの写真をうまく撮る」**という設定を採用することにします。
また、このパートでは、目的の因果構造を掘り下げるという意味で、思考操作としては分析を用いています。
今回は、「うまく撮る」という目的の背後にある複数の因果的な動機を分けて捉え直すことで、本質的な目的を明確にし、それに沿った小目的として「子どもの写真をうまく撮る」を再設定しました。
パート2|分析と変数の特定:「うまく撮る」とは何か?
ここでは、「子どもの写真をうまく撮る」という目的を、工程(時系列)と構成要素の両面から分けて考えていきます。
これは、物事を複数の観点で捉え、構造や因果を明らかにしていく「分析」という思考操作です。
工程から考える
まずは、「うまく撮る」という行為を時間の流れに沿って整理してみましょう。
時系列で捉えると、具体的なイメージが浮かびやすく、あとで要素を抽出しやすくなります。
1. カメラ(スマホ)を選ぶ/買う(手段選定)
2. いつ・どこで撮るかを決める(シーン設定)
3. どのように撮るかを決める(構図・技術・演出)
4. 撮った後どうするか(選別・編集)
5. どう残すか(保存・共有・アルバム)
6. どのタイミングで見返すか(使用場面)
構成要素から考える
次に、「うまく撮る」という目的を、**どんな観点で評価しているのか?**という視点から整理してみましょう。
ここで扱うのは、撮影・編集・閲覧といった各場面で、**「うまく撮れた/撮れなかった」と感じる際の判断基準(変数)**です。
注目するポイントや分け方は人によって異なりますが、大まかには以下のような観点に整理できるのではないかと思います。
技術的要素
構図、ピント、明るさ、被写界深度、画質、カメラの設定、レンズの選定など
感情的要素(主観的印象)
自然な表情、その人らしさ、場の空気感、思い出との結びつきなど
環境的要素
背景の抜け、光の入り方、服装や小物、被写体の動きやポーズなど
編集・整理的要素
色味補正、トリミング、フィルター、アルバム構成、保存方法、見返しやすさなど
分析した要素をもとに、さらに重要だと思う観点を深掘りしてみましょう。
たとえば「構図」であれば、さまざまなパターンがあり、どれを自分が「うまく撮れた」と感じるのかを認識しておく必要があります。
また、感情的な部分や直感的な“良さ”が言葉にしづらい場合は、以下のような工夫が役立ちます。
自分が「うまく撮れた」と感じた写真をピックアップして、そこに共通する特徴を抽出・抽象化してみる
写真に関する技術や構図の型を学び、自分がそれを「良い」と感じるかどうかを当てはめてみる
こうした視点の導入によって、うまく撮るという基準が少しずつ輪郭を持ちはじめます。
このようにして、「子どもの写真をうまく撮る」という目的を構成する要素を分析し、どのような観点(変数)が関係しているのかを特定していくのです。
パート3|仮説の設定 または 目的の要件定義
ここからは、ステップ3「仮説の設定 または 目的の要件定義」に進みます。
このステップでは、洗い出した要素をつかって
1)重要だと思われる変数の抽出と変数が本当に正しいのか、変数の仮説設定をおこなう
2)「どうなっていれば成功なのか?」という、洗い出した要素をもとに目的の要件定義を行う
のどちらかまたはその両方を行います。
どちらを行うのか?と考える際に重要なのが、損失の大きさと可逆性という2つの観点です。
損失の大きさ:失敗したときに、その結果を自分がどれだけ許容できるか
可逆性:あとから修正したり、やり直したりすることがどれだけしやすいか
この2つの観点で問題が小さければ、最初から目的の要件定義を含めて進めてしまって構いません。
一方で、損失が大きかったり、修正が難しい(不可逆な)場合には、仮説を設定して、変数の検証プロセスを進めたほうがよいです。
今回の事例は、損失も小さく、やり直すことも簡単ですので、要件定義と仮説設定の両方の視点から考えていきます。
ではここから、実際に要素を使って考えてみましょう。
ステップ2で洗い出した変数には、たとえば次のようなものがありました:
構図や明るさ(技術的要素)
(子どもの)自然な表情やその子らしさ(感情的要素)
光の入り方や背景の抜け(環境的要素)
こうした要素のなかから、思考操作「統合」を使いながら、「目的を満たすために本当に重要な変数はどれか?」を見極めます。
これが変数に対する仮説設定です。
たとえば──
「あとから見返して癒やされる写真」になるには、「その子らしい自然な表情」が写っていることが重要だと仮定してみます。
>仮説:子どもの自然な表情が写っていると、あとから見返したときに癒やされるのではないか?
これが正しいかどうかはまだわかりませんが、ひとまずこのように「変数が目的にどう影響していそうか?」という形で、仮説を置いておきます。
次に、選び出した変数から目的の要件定義を行います。
つまり、「あとから見返して癒やされる子どもの写真をうまく撮りたい」とは、どんな状態のことか?を定めておく作業です。
たとえば、以下のように定義しておくと、判断や改善がしやすくなります。
目的の要件定義:あとから見返して癒やされる子どもの写真をうまく撮るとは、
・子どもの自然な表情が写っている
・その子らしさ(動きやクセ)が感じられる
・場の空気感や、あとから見て思い出せるような雰囲気が写っている
このようにして、統合という思考操作を使い、複数の要素の関係性を整理しながら目的とのつながりを再構成していくことで、目的を満たすべき条件が明確になります。
その結果、このあとステップ4で試す内容や、検証すべきポイントがはっきりしてきます。
また、今回のステップ3では、仮説の設定と要件定義の両方を行いましたが、仮説設定だけの場合は、その仮説検証のみをステップ4で取り扱うことになります。
たとえば、商品コンセプトの仮説を立てて、それがユーザーに受け入れられるかどうかを試すコンセプトテストのようなケースが、これにあたります。
補足|現実の思考はもっと柔軟に行き来する
ここまで、ステップ1〜ステップ3までを見てきましたが、実際の場面では、これらを順番どおりに一方通行で進めることは少なく、多くの場合で前のステップに戻ったり、複数のステップを同時に進めたりすることが普通です。
たとえば、「変数が目的にどのような影響を与えていそうか?」という仮説を立てたあとで、過去のデータを再分析してみると、当初の仮説が不十分だったことに気づくことがあります。すると、仮説そのものを修正したり、新たな変数を加え直す必要が出てきます。このように、仮説→分析→再仮説といった“行き来”は、思考の現場ではごく自然に起こるものです。
あくまで、思考の流れを整理して捉えやすくするために「ステップ」として分けているだけであり、現実ではもっと柔軟に組み合わさって使われるという点を、念頭に置いてもらえればと思います。
パート4|ステップ4:行動の設計(具体化)と実行
ステップ3では、「あとから見返して癒やされる子どもの写真をうまく撮る」という目的に対して、
満たすべき条件(要件)や、重要と思われる変数(仮説)を明らかにしました。
このステップ4では、それらを実際の行動に落とし込んでいきます。
たとえば、ステップ3で設定した要件は、以下のようなものでした:
子どもの自然な表情が写っている
その子らしさ(動きやクセ)が感じられる
場の空気感や、あとから見て思い出せるような雰囲気が写っている
では、これらを**どうすれば実現できるか?**を考えていきます。
このときに重要なのが、「具体情報を付加しながら、現実に近づけていく」ことです。
たとえば「子どもの自然な表情を引き出す」ためには、その子がなにかに熱中している姿や、楽しくて思わず笑っている状態が必要かもしれません。
そのためには、**「どんな環境なら、その表情が引き出されるのか?」**を具体的に考える必要があります。
たとえばその子が動物好きなら──
「動物と触れ合える場所に行く」という行動が浮かびます。
でも、ここで終わってはいけません。
本当に行動に移せるようにするには、さらに具体的にする必要があります。
動物とは何か?犬なのか、鳥なのか?
触れるのか、見るだけなのか?
近所のふれあい動物園か、それとも友人宅の犬か?
このようにして、仮説で挙げた変数(たとえば「動物とのふれあい」)に対し、統合によって具体情報を加えながら、現実で動かせる粒度まで思考を進めていきます。
そして最終的に、思考操作として「具体化」を使い、自分が選べる外延=実行可能な選択肢を見極めることで、
「どんな施策が現実に取れるか?」が明確になっていきます。
ここでの「具体化」とは、単に詳細化することではなく、“自分が選べる外延”まで思考を進める操作です。
たとえば「動物が好き」という情報に対して、「どんな動物か?」「どこで会えるか?」「触れるのか?」といった条件を統合によって加え、
その中から自分の状況で実行可能な選択肢を見極めて選ぶ、というのが具体化の実行フェーズです。
つまり、統合で情報を集め・構成し、具体化で選択肢を確定させる──この2つの操作の連携が重要になります。
そして、実際に選んで実行に移します。
あとは、やるだけですので、行動に移すことに集中しましょう。
ただし、不具合はつきものです。やってみないとわからないことも多く、施策は“やりながら修正する”ものとして捉えてください。
完璧な準備よりも、「まず動いて、改善していけるか」が大切です。
行動の設計(具体化)と実行の際の重要な視点
このプロセスで、特に大切になる視点が3つあります。
1. あなたが「できそう」と思えるかどうか
── 行動として選んだ内容が、実行可能であるかどうか。つまり、「自分がやれそうだ」と思えるかどうかが非常に重要です。
どれだけ理想的なアイデアでも、「ムリそう」「めんどくさそう」と感じてしまえば、行動に移されることはありません。最初の一歩として、自分の中で抵抗感がない選択肢を選ぶことが、継続と改善の土台になります。
2. 限られたリソースや制約のなかで、今あるものから考えること
── 行動を具体化する際には、「本当はこうしたいけど、現実的にムリ」といったジレンマがつきものです。
そうしたときこそ、理想から逆算するだけでなく、「今できる手段」からも考えることが非常に重要です。
たとえば遠出が難しいなら、近所の公園や自宅で自然な表情を引き出す方法を探す。
高価なカメラがなくても、スマホの設定を工夫することで、構図や光を活かせる方法を探す。つまり、「今使えるもの」「自分にできること」から考え、コントロールできる範囲で目的に近づく戦略をつくることが求められます。
これは、現実を動かす上で非常に効果的な視点です。
3. 観測と評価ができるかどうか
── 最終的に「うまく撮れた」と言えるかどうかを判断するには、**なにを観測し、どう評価するか?**を事前に考えておく必要があります。
今回のように「写真」という形がある場合は見返すことで確認できますが、たとえば「その子らしさが出ているか?」といった主観的な要素もある場合には、「どんな要素が写っていたらOKとするか?」を事前に考えておくよいでしょう。
このように、理想からだけでなく、「今あるもの」「今できること」「実際に観測できるか」をもとに構成することで、目的に対して実行可能で、継続的に検証と改善ができる“動かせる構造”になります。
パート5|ステップ5:観測と評価
最後に、**実際に取った行動が、目的や仮説に対してどうだったのか?**を観測・評価します。
今回の例では、すでに写真を撮っているので、観測自体は完了しています。ここで行うのは「評価」です。
評価方法はさまざまですが、今回は自分自身が評価者になるため、「自分がどう感じたか」が重要な基準となります。ただし、主観評価はどうしてもブレが大きくなりがちです。
そのため、次のような工夫が有効です:
過去の写真(例:お気に入りの5枚)と、今回の写真5枚を並べて比較し、どちらの方が目的に近いかを判断する
そしてその結果を言語化してみる
こうした比較と振り返りを通して、「仮説は妥当だったか?」「目的は達成できたか?」を検証して、起こった結果の原因や妥当性を考えていきます。
評価から見えること:目的は変わることもある
評価を進めていくと、「目的そのもの」が変化していることに気づくかもしれません。
たとえば──
写真そのものはうまく撮れたけれど、心から満足していない
子どもが喜んでくれたことが嬉しくて、「うまく撮る」ことより**“その瞬間を大切にする”**プロセスの方が大事に思えてきた
このように、ステップを実践していく中で、当初の目的ではなく、もっと深い目的や、本当に大切にしたいことが浮かび上がることがあります。
そんな、偶然性すら取り込めること。
それもこのプロセスの特徴の1つです。
ステップを回すことで、「構造」が見えてくる
評価を終えたら、もう一度ステップ1に戻ってみてください。
同じ目的のもとで、別の変数を試すのもいい
あるいは、目的そのものを見直して再設定するのもいい
こうして、目的→変数→仮説/定義→行動→観測のサイクルを繰り返すことで、
自分にとって大切なことや、それを実現するための構造(=設計図)が、少しずつ見え、現実に形づくられていきます。
この「見える化」と「現実化」こそが、構造思考OSにおけるステップ5の役割です。
パート6|まとめ:思考を現実に活かすための技術
ここまで紹介してきた「構造思考OS」は、単に考えを整理するための方法ではありません。
それは、思考を“現実に活かす”ための技術です。
何かに悩んだり、うまくいかないと感じたとき。
ただ考え続けるだけではなく、「何を満たしたいのか?」という目的から出発し、変数を見極め、構造を組み立て、現実で動かせるレベルまで落とし込む。
そして、実際に行動し、観測し、評価する。
この一連のプロセスを支えているのが、「分析」「統合」「抽象化」「具体化」の4つの操作です。
思考を、“うまく考えるため”だけで終わらせず、現実で行動することを前提に考える。
そのための構造が、ここにはあります。
ときには、行動するなかで目的自体が書き換わることもあるかもしれません。
あるいは、理想だけでなく、手持ちのリソースや環境の制約から逆算して考えざるをえないこともあります。
それすら受け止めながら、構造を柔軟に動かしていく。
そうやって、自分なりの“動ける構造”をつくっていく技術。
それが、「構造思考OS」です。
とはいえ、どんな場面でも使えるわけではありません。
次回は、「構造思考OSが使えない場面」とその背景をみながら、これまで紹介してきた本思考技術のまとめを行い、この構造思考OSの解説を、締めくくりたいと思います。
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