ニューサムに見る民主党の嘘④マムダーニ旋風
カリフォルニア州知事ニューサムのインタビュー解説、全5回。第三回はこちら。
マムダーニから話を逸らしたいニューサムの返答
レイサン:
NYC市長選、社会主義候補ゾーラン・マムダーニの躍進。彼は経済ポピュリズム政策を重視し、生活費高騰問題(affordability)を中心に選挙戦展開し大成功を収めています。しかし民主党既成勢力(establishment)は彼を(彼が民主党候補であるにも関わらず)支持せず、有権者の希望に寄り添っていません。皆保険(single payer universal healthcare)であれ、他の案件であれ、有権者は左派的な政策を希望しているのに党はそれを実現する事を頑なに拒んでいます。何故ですか。
ニューサム:
ちょっと、マムダーニから話題をずらしてお話したいです。誠実にお答えするために今考えていますね、、。理想を実現するときの方法論の話かと思います。貴方が「民主党既成勢力(establishment)」と言うそれはつまり、、、。
レイサン:
もっと明確に言います。決まった企業ドナー基板から献金を受けている民主党政治家の事です。
ニューサム:
あ、そうですね、はい。なるほど。それはちょっと違う話な気もします。まず私は知事として思想を実現する義務があります。議会とも協力しないといけません。そこではある程度の制約が生じます。政府高官として司法局から、世論からも制約を受けます。それが現実なのです。
人々がオバマを「なぜXXができなかった」と批判する時私は彼の立場が良く分かります。現実には大きなハードルがあるのです。選挙中に信条やゴールを語るのは簡単です。しかし当選した後には現実が待っています。そこには取引があります。妥協があります。妥協という言葉は響きが悪いですが、主義や信条を保ったまま方法論を妥協しなければならない現実があります。
例えば、私個人は皆保険(single payer=公的皆保険)はいずれ実現されるべき(inevitable)ものと考えています。現状医療システムに持続性がないのは明らかです。一般庶民への負担が大きすぎる。私はそのビジョンを持っているからこそ既存病状・移民ステータス・支払い能力を問わない皆保険を作りました。私はそこまで実現しました。(*この州皆保険は結局大幅な予算カットを彼が出し、話が違うじゃないか、と大ブーイングが起きている、ってのを夏に読んだばかりだが、、)
しかしそれでも「single payer皆保険じゃない。ニューサムは嘘つきだ。」と言われます。全国一の皆保険を提供したのに。オバマも同じです。米国皆保険に関して、米国近代一の前進を実現した。
ドナー基盤の話は答えづらい
ウェア:
ニューサム氏がかなり返答に困っているのがよく分かります。どうにか論点をずらそうと必死ですね。
共和党と民主党の政治献金ドナー基盤のベン図を描けば、それはほぼ一つの円に重なります。AIPAC(イスラエルロビー)、レイシオン・ロックヒードマーティン・ボーイング・ジェネラルダイナミック・ノースロップグラマンの5大軍需企業(防衛支出の60%を占める)などが中心にあります。ニューサム氏は、企業が民主党を所有している事実に関しての質問に答えられません。何故なら彼ら民主党政治家が有権者でなく企業のために働いている事実を明らかにする事ができないからです。
この矛盾が企業忖度民主党政治家達を居心地悪い立場に追い込みます。"Who funds you runs you"。ニューサム氏がお粗末な論旨でクルクルと私たちをケムに巻き隠しておかないといけないのは、民主党は寡占企業の子会社である、という事実です。ウルフ教授が言及されたように、彼らは我々の税金を決まった50の企業に横流しするためにあります。誰かがカーテンの裏を覗こうとすると、オズの魔法使いのように「カーテンの裏の人は気にしないで!」と注意を逸らさないとなりません。
カーテンの裏には、民主党共和党両党が寡占企業に所有されているという根本的な問題があります。そこから我々の注意を逸らすために文化闘争(culture war。移民、セクマイ、女権、差別用語、など、一見経済とは関係ない社会文化問題で保守とリベラルが論争する事)を行う。両党の目的は同じく、私達の人権・公民権・富を一滴残らず収奪し企業ドナー達に差し出す事です。
便利な言葉。「制約constraints」
ウルフ:
「制約」ってよく政治家達が言いますよね。我々一般人は自分の仕事の評価時に余り使わない言葉です。本当なら有権者の貴方達のために素晴らしいことを1から10までやってあげたいと思っているんですよ、でも「制約」があるからできないんです、と政治家が言う時に使います。現実的な貴方達なら分かるでしょう、と。馬鹿馬鹿しく、使い古されたレトリックです。インタビュー冒頭でニューサム氏はカリフォルニア住宅問題は「何十年も続いている」と何度も言います。これは「いや、俺だけ責められても。ずっとこうだし。だから俺が施してやった少しの進歩で満足しろよ。」と言っているのです。なぜ少しだけかって?「制約があるからだよ!」
何十年も続いていたなら、制約があったのはニューサム氏だけでは無く、全ての政治家に制約がある、と言うことです。政治家の仕事とはそれ自体が、「制約を超えて」何かを実現することです。制約があることは職種に織り込み済みです。政治家として制約を回避する、制約を無効にする。。もっと平素に言えば「自分をサポートする庶民・世論を動員し、制約を乗り越える」。それが政治家の仕事です。
オバマ政権時に私はホワイトハウスで彼に意見した団体の一人でした。彼は私達に
「勿論貴方達の言うことは素晴らしいし私も実現したいと思っています。しかし一般世論のサポートがなければ。」
と言いました。
それを受けて私たちは「ハイ分かりました」と、ウォール・ストリート占拠活動を実行しました。(*一般ニュースでことごとく矮小化されたが)大きな社会現象になりました。全国300の都市部に派生した大衆運動。オバマが要求した一般世論サポートです。彼はどうしましたか。それを潰したんです。組織的にこの運動を解体したんです。あれで「制約」は除去できたはずなのに。
二枚舌なんです。一方で「制約がー」と言い一方でその制約を覆す運動を徹底的に潰していく。彼らは(有権者の)友人では無い。友人であったことなど過去に一度も無い。
ウェア:
マルコムXの言う通りですね。彼はこう言いました。「リベラルは狐だ。歯を見せずニッコリ笑って近づいてくるが、実は貴方を食おうとしている。保守は狼だ。歯を剥き出しにしてくる。黒人に対する彼らの意向は明らかだ。」マルコムXが白人リベラルが一番危険だと言う理由は、あからさまな敵より、友人のフリをする隠れた敵の方が危険だからです。民主党議員です。「労働者のために」「有色人種のために」と演じます。
先日SEIU(国際サービス従業員労働組合)での知事候補ディベートで、ケイティー・ポーターと同席しましたが、結果は私が大きなリードで得票数を上回りました。私は「経営側と現場側両方を代表する事など不可能です。代議士はどちらか選ばなければなりません。企業経営層から献金を受け取りながら労働者のために働くことはできない」と言ったんです。
マムダーニNYC市長候補
ウルフ:(マムダーニに話を移して)それにしても、マムダーニ支持者には本当に驚かされます。私はマンハッタン在住ですが、一般人のマムダーニに関しての対話を聞くと、私達が長年言って来たことを彼らが今理解していることが分かります。
「ニューサムのような政治家は囚われている。」
と言うんです。
「囚われている。社会を操る一握りの者達と、私たちの間で。」
と言うんですよ!彼らが「私たち(us)」と言うのを聞くたび、私は心躍る気持ちです。
ウェア:
Class Consciousness(階級意識)ですね。
(*左派のイデオロギーを理解するには階級意識が必要。世の人間は資本家と労働者、拮抗する二階級しか無い、という見解を階級意識、と言う。世の中の殆どの人は労働者だ。)
ウルフ:
(民主党のマムダーニ取り込みについて)マムダーニを個人的に知っている訳では無いので、彼の本心は分かりませんが、、、、。彼の父親は知っていますよ。マフムード・マムダーニ。とても聡明な方です。世界的に著名なコロンビア大教授。私は英領東アフリカの経済史を研究していましたが、その頃読んだ文献の中で抜きん出て優れていたのが彼の著書でした。
なんにせよ、ゾーラン・マムダーニの登場を受けて、大衆の中に気づきが生まれているように見えます。彼らがニューサムやクオモが「囚われている」と形容する(支配層と民衆の)狭間の中で、マムダーニは確実に勝利しています。彼の勝利は大衆の階級意識に関して大変な進歩をもたらすことになるでしょう。さすれば、左派の論旨の聴衆が激増します。
ブリアナ:
(*社会主義政策を全面に出し、イスラエルの占領・アパルトヘイトや、NYPDの差別的法施行に関して毅然と批判の立場を明らかに示していたマンダーニは夏の予備選で民主党候補の席を奪取した後スーパースターとなった。その後様々な圧力がかかったことは想像できる。オバマからの電話を受けたと報道されたし、左派的立場を軟化する不穏な言動を繰り返している。バーニーやAOCが結局民主党の意向に絡め取られてしまった傷心を負う米国左派はマンダーニを応援しながらも、民主党既成勢力の恐ろしさを見張っている、という状態。)
教授のポジティブな感覚は十分理解します。人は私を悲観的過ぎると批判しますが、どうしても手放しで喜べない心配があります。バーニーが40年間かけて築いてきた左派のスペースをマムダーニは受け継ぎ拡大しました。しかも、イスラエルーパレスチナと言うとても分断性の高い案件に置いて確固たる信念を貫いた事で、イスラエル国外最大数のユダヤ人を擁するNYCで支持を得ました。
しかし彼の求心力は同時に「それを悪用されるのではないか」と言う心配を生みます。バーニーが40年間使ってきた左派のレトリックや用語がクオモやニューサムに悪用されているように。Abundanceムーブメントも急進派・左派の言葉を悪用して、新自由主義をリブランドしてそのスペースに入り込んできます。ニューサム同様マムダーニも高度な雄弁家です。ニューサムはその能力を悪しきことに使っています。マムダーニが市長になるために、民主党に忖度をし同じことを始めない保証は無いです。
民主党既成勢力に忖度しても彼の得にはならないのに(民主党は脅すだけで取引はしない。忖度するだけ無駄。過去の民主党の態度がそれを証明している)。
ウルフ:
貴女の言うこととてもよく分かります。確かにマムダーニ自身の行く先は分かりません。それでも私がポジティブに感じるのは以下の理由です。私が見ているのは、大衆です。NYCの一般人を見ていると、彼らがマムダーニを支持しているのは彼がムスリムだからでも、彼が社会主義者だからでも無いんです。彼らは、もう、クオモ、アダムスの様な政治家に飽き飽きしているのです。それは何かというと、「資本主義」です。人々は資本主義に愛想を尽かしているんです。
ちょっと前まで「資本主義」は「疑問すら持たない当たり前のもの」だった。今それは「ほとんどの人が批判的に見るもの」に変わりました。10日前のトランプ大統領のマムダーニ批判発言を見ましたか?「彼は社会主義者ですら無い。共産主義者だ!」と言ったんです。左派を罵るのに、「社会主義」だけでは足りなくなってしまった。その社会の空気をトランプも理解しているんです。
米国資本主義が生み出している社会問題は全く解決されず悪化しています。トランプの関税も全く効果がありません。人々はどう思うでしょうか。
ウェア:
私もゾーランの父親のマムダーニ氏と面識があります。ゾーランは父親から革命的マルクス主義・反帝国主義の思想を確実に受け継いでいるはずです。ムスリムコミュニティーを通じて彼と共通の友人も多数いますが彼らは皆、ゾーランは人として素晴らしいと言います。なので彼個人の誠実さには私は疑いを持っていません。ただ、民主党候補としての選挙となると、考えられる結果は3種類しか無いです。
-民主党を壊す
-民主党に壊される
-民主党を去る
民主党は社会主義を抱擁できる場所では無い。資本主義政党の中で社会主義は機能しない。UCリバーサイドの同僚ロドリゲス教授の言葉を借りれば、「米国民主党は人類史上最も効率的な対反抗(現状維持)勢力」。なので、ブリアナの懐疑心は非常に共感できます。
一方ウルフ教授のポジティブな見方も分かります。20年間ブラックムスリム反資本主義者として教員をしていますが、反資本主義の生徒は20年前当時は大体10%くらいでしたね。現在は60%の学生が反資本主義です。
ウォルター・ロドニーは社会主義は民衆が社会主義的機構による生活の向上を体感することで実現すると言いました。ゾーラン・マムダーニも資本主義下の危機的状況に置いて、人々の生活苦を真摯に語ります。それが人気を産んでいる訳ですが、私も注意深く見守っています。民主党は改革できません。民主党に差し出すリソースは全てこちらに攻撃する糧とされます。彼らを支持すると言うことは虐殺的・帝国主義的・資本主義的・白人至上主義的政党の支持です。ですから私は絶対に民主党からは出馬できません。彼らの力はゾーランやバーニーより巨大です。バーニーも諦めて取り込まれた(「自分はラルフ・ネーダーにはなりたくない」)。
高卒の鍵屋の息子として、DCの貧困地域で育った私には民主党の巨大な力の源(*差別や格差社会の底辺の苦しみが上層の力になっている、という意味)が良く見えます。それはゾーランの様な(ある程度エリートの)出自の人には見定められないものなのかもしれません。400年来の奴隷の先祖が「戦え」と後押ししてくれなければ私も戦意を維持できないかも知れません。オバマの問題もそこでした。彼や彼の周りのブルジョワ出自の者達には人種意識・階級意識が薄い。帝国主義・資本主義・白人至上主義は説得を試みるものでは無く、打破すべきものだと言う事実を彼らは理解できない。それは戦わなければならないものなんです。参加してはならない。
ブリアナ:
(*前回の大統領選から民主党は右傾化を進めている。保守に寄り添い、中道保守票を取り込みたい意図だったが完全に失敗している。その過程で多くの左派票を民主党は失った。先日右派のアジテーター活動家、チャーリー・カークが公衆の場で暗殺された事件を受けて、多くの民主党論客が彼の生前のとんでもない差別発言を看過しまるで彼が素晴らしい政治活動家だったかのようなコメントを発していた。それに大きく反論したのはこぞって黒人左派論客達だった。)
あの状況を見ても左派とは言え白人には人種意識というものが欠けていると実感しました。ニューサムの「私は誰かが成功して富を得ることを批判しない」という発言も階級意識の欠如から来るものですね。シアトル市議のカシャマ・サワントは「全てのビリオネアは政策の不備の結果だ。」と言いました。極端な富の集中は、私の生活の悪化に直結している。それを看過することはできないのだ、と。
妥協が必要な場所もあります。しかしここだけは絶対に譲れない、どちらか立場を決めて戦わないとならない、というエリアは確実にありますね。「妥協をしなければ選挙に勝てない」とは良く言われます。しかしトランプはどうでしょう?彼はあまり妥協をしている様には見えません。でも勝ちました。私がマンダーニに苛立ちを覚えるのはそこでもあります。ここで彼が民主党に妥協するのは長期的に根本的に悪手と考えるからです。
(続く)
