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AIを使うほど売上が減る。老舗IT企業を襲うイノベーションのジレンマ

生成AIを使えば、IT企業の生産性は上がる。だが、人月で売上を作る会社では、その生産性向上がそのまま売上減少につながりかねない。AIを使うほど強くなるはずの会社が、AIを使うほど既存の収益モデルを壊していく。

コード生成、テスト、調査、設計補助、ドキュメント作成まで、これまで人が時間をかけていた工程は急速に圧縮されている。普通に考えれば、IT企業にとって朗報である。

しかし、人月で売上を作ってきた企業にとっては、少し話が違う。AIを使えば使うほど、売上の根拠だった「工数」が消えていくからである。私はここに、AI時代のIT企業が抱える最大級のジレンマがあると思っている。


生産性向上が、そのまま経営改善にならない

仮に、これまで100人月必要だった開発が、AIによって30人月で終わるようになったとする。技術部門から見れば大成功である。開発速度は上がり、納期も短くなり、品質確認にも時間を使える。

ところが、100人月を売っていた企業から見ればどうだろう。従来と同じ人月単価のままなら、単純計算では売上機会が70%消える。つまり、技術的に正しいことをすると、経営的には自分の売上を壊す。

ここが厄介である。AI導入に反対しているわけではない。むしろ積極的に導入していても、既存ビジネスモデルとの衝突が起きる。
AIコード生成で、選ばれないSIが始まっている

「AIを使う」と「AI前提で経営する」は違う

多くの既存IT企業も、すでに生成AIを使い始めている。コードを書かせる。議事録を作る。テストを支援させる。設計書を生成する。これらは重要だが、それだけでは既存事業の効率化にすぎない。

AI前提の企業は、もっと手前から考える。そもそも、この工程は必要なのか。この人数は必要なのか。この見積方法でよいのか。人月で売る必要があるのか。

既存企業が「100人月をどう90人月にするか」と考えている間に、新興企業は「なぜ100人月なのか」から疑う。この差は大きい。

新興AI企業には、守る売上がない

新興企業の強さは、最新AIを使っていることだけではない。壊す既存事業がないことである。最初から少人数で組織を作り、AIコーディングを前提にし、営業や管理業務も自動化できる。固定費を小さくし、短い開発サイクルで市場に出すこともできる。

一方、老舗IT企業には既存顧客がいる。人員がいる。売上目標がある。評価制度がある。契約形態がある。これらはすべて強みである。しかし、変革時には同時に制約にもなる。

老舗IT企業の敵は、新興企業ではない

ここまで考えると、単純な「老舗IT企業 vs 新興AI企業」という対立ではないことが分かる。本当に問われているのは、会社の年齢ではない。自分の成功モデルを、自分で壊せるかどうかである。

老舗IT企業でも、人月から成果型へ移り、少人数+AIを前提に組織と価格を作り直せれば強い。顧客基盤もある。業界知識もある。信用もある。そこにAI前提の生産性が加われば、新興企業より圧倒的に有利になる可能性すらある。

逆に、既存モデルを守ることを優先すれば、その強みが変化を遅らせる。これはクリステンセンが論じた破壊的イノベーションと完全に同じではない。しかし、既存顧客と既存収益を守る合理的な判断が、新しい構造への移行を遅らせるという点では、非常によく似ている。

私はこれを、AI時代のイノベーションのジレンマと捉えている。

AI導入の本丸は、ツールではなく経営モデル

これから多くのIT企業がAIを導入する。だが、勝敗を分けるのはAIの利用率ではないと思う。AIによって工数が半分になったとき、価格体系を変えられるか。必要人数が減ったとき、組織を変えられるか。納品型から継続改善型へ移れるか。人月ではなく成果に値段を付けられるか。

ここまで踏み込んで初めて、AI前提の企業になる。そして、これはCIOや開発部門だけの仕事ではない。経営者の仕事である。
SIerの仕事は、コードの外側へ静かに移っていく

最大の競争相手は、過去の成功である

AI時代、IT企業の競争相手は増える。新興AI企業、顧客企業の内製化、ノーコード、ローコード、AIエージェント。とくに大きいのは、顧客企業自身がAIを使って「これまで外注していた仕事」を内製化し始めることである。

AI前提で開発できる企業が増えれば、受託開発会社は新興企業と競争するだけでは済まない。顧客そのものが競争相手になる可能性がある。

ChatGPT Workを使って推測した。受託開発の半分は蒸発する。

しかし、老舗IT企業にとって最も厄介な相手は、外にいるとは限らない。自社をこれまで成長させてきた成功モデルそのものかもしれない。

人を増やせば売上が増える。工数が多いほど請求額が増える。大きな組織ほど大きな案件を取れる。その常識が、AIによって逆回転し始めている。

これから価値になるのは、何人投入したかではない。どれだけ少ない資源で、どれだけ大きな成果を出したかである。

AIを使うほど売上が減る会社になるのか。それとも、AIを使うほど利益と顧客価値が増える会社になるのか。

AI時代に淘汰されるのは、古い会社ではない。古い成功モデルを捨てられない会社である。

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