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【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ⑩

こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。

▼ プロローグはこちら。

▼ スピンオフ さわこ編 前回の第⑨話はこちら。

▼▼▼ 今回は、以下の記事の直後か直前のお話となりますので、ご参照くださいませ。


さわこ ・ エピソードⅥ ‐ 黒猫の帰還 - (後編②)


体育館の入り口の近く、ステージから一番遠い場所から2年A組の劇を観終えた富良子不良雄ふらおふらこ校長は、その舞台の完成度の高さ、練度、演出、音響のどれをとっても一級品である事に、嫉妬を覚えていた。
組んだ腕に力が入る。

・・・素晴らしい舞台だった、高校生でここまで高めてきたか・・・
・・・奇抜な脚本もさることながら、その奇抜さを感じさせない迫真の演技・・・よく練習してきたな、2年A組!

・・・さすが油木先生の指導、クラスが一つにまとまっていた。
・・・そう、完成度がどうというよりも、劇に打ち込む姿勢と熱意が伝わってくるような、一所懸命の青春がそこにあった、それがこの感動を産んでいるのだっ!

もはや遠い昔に忘れていた、あの感覚が蘇ってきそうだ。
もうあの道は捨て去ったというのに・・・。

ワナワナと震える手の震えを隠すようにギュッと拳に力を入れる。

だが、惜しいぞ2年A組!
この劇には決定的に欠けている要素があるぅっ!

くわッと目を見開いて、既に誰も居なくなったステージをにらみつける。
そこに2年A組のタップダンスの残影が見える。

油木先生、あのエンドレス斬られ役は流石だったっ!!!!!
高校生の劇であのレベルまで昇華された笑いを演出できるクラスはそうはないだろう!!!!!!!!
あの本気の殺陣があったからこその笑いぃぃぃぃぃっ!
そこは脱帽だ、完敗だっ!・・・それは認めるぅぅぅぅぅぅぅ!

だがしかーーーーーーーーしっ!
詰めが甘いぞ2年A組ぃ!!!!

あそこまで行きついたのだ!
あの境地まで辿り着いたのに・・・なぜにモノマネの要素が入らなかったのだっ!!!

・・・それが校長先生は悔しいぞっ!
惜しいっ!惜しい・・・!

富良子不良雄ふらおふらこ校長の両目から大粒の涙が零れ落ちる。
その流れる涙に気が付いて我に返る校長・・・。

・・・あぁ、すまない2年A組のみんな・・・
・・・校長先生は、嫉妬してしまってついつい多くを望んでしまったよ・・・

富良子不良雄ふらおふらこ校長は、とある子供向けアニメに登場するカツ丼を模したキャラクターと釜飯を模したキャラクターのモノマネを口ずさみながら体育館を後にした。

その姿を、宇利爽と黒猫が不思議そうに眺めていた。
爽が黒猫に話しかける。

『 ウーリー? かまかまどんどんかまどんどん~・・・って何? 』

ウーリーは、顔を洗った後に大きなあくびをして、校長の後ろ姿を見送っていた。



オレの名前は宇利盛男うりもりお
ここ田梨木たりき高校に通う17才。
成績もスポーツもパッとしない。
特にこれと言って得意なこともない。
目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。

そんなオレは今、学校の保健室のベッドに横になって真っ白な天井を見上げている。

何故かって?

練習に練習を重ねたクラス劇の主役、セリフの立ち振る舞いも完璧だった。
最初こそ衣装を着るのに抵抗はあったが、あの頭巾とスカートを履いているとウキウキした気分になっていった。
特に体を回してスカートをヒラヒラさせるのがスキだった。

そんな劇の本番になって食べ過ぎと緊張のあまりお腹を下してしまったのだ。

いや、だって今日の仕上がりを最高のモノにしたかったから、いつもよりもカロリーを取らないとダメだとおもったし、オリバーソースを過剰摂取した方が身体のキレも良くなると思ったんだ。関西人だし。
それに、千代子がオレだけの為に作ってくれた焼きそばを残す訳にもいかない。なんせオレが買ってきたキャベツを千代子が調理してくれた訳だから、オレと千代子の初めての共同作業ってわけだ・・・。
・・・っは!もしやこれは、結婚式の暗示!!!

いやまてまて、さすがにまだ劇もバンドもデビューしてない、まだまだジュニアなオレだ。千代子、まだ気が早いゼ。

まぁそんなわけで、ちょっと食べ過ぎた事と、主役という重圧にオレの胃腸が悲鳴を上げちまったワケよ。

・・・くそぅ、強がってみても痛みが治まらない・・・。
茶保先生がくれた薬を飲んだから、ちょっとはマシになってきているのが唯一の救いだ・・・。

さっきは、みんなが心配してきてくれて、クラス劇も中止になりそうだったけど、そこは垣野先生が代役を買って出てくれてなんとかいったけど・・・、今頃劇が始まってるだろうなぁ・・・。大丈夫かなぁ。

その時、カーテンが開いて茶保先生が片手にミックスジュースを持って来てくれた。いつの間にか白衣から赤い着物に着替えていたようだ。
着物の茶保先生も綺麗だなぁ・・・なんて思いながら、それが笑点の山田くんのモノマネでウケ狙いだった事にも気が付かないくらい、オレの調子は悪かった。

『 喉乾いたら、これでも飲みや。いっぺんに飲んだらアカンで、少しずつやで。 』

ほほ笑みながら丸椅子を引き寄せて枕元に座ってくれるが、オレの鋭いツッコミがなかった事に失念もしていたらしい。後で聞いた。

『 今日まで頑張って練習してきたのに、悔しいよなぁ・・・ 』

誰に言う訳でもないような、呟く感じで話始めた茶保先生。
オレに気を使ってくれている事がよくわかる。

とても優しいトーンで話てくれる。

『 まぁ、積み上げた努力は無駄にはならんで、それだけは確かや。 』

『 ・・・でも、もう本番は無いし・・・ 』

『 そんな事とは違うんや、もっと人間として得たモノがあるっちゅーことや。 』『 人ってのは、そういう経験を繰り返して大人になるんや。 』

『 ・・・でも、こんな経験したくなかったっス・・・ 』

『 アホやなぁ、そんな経験、したくでも出来へんねんで。 』
『 まぁ、アンタがいっちょ前に大人になったらわかるわ。 』

そう言って立ち上がった茶保先生が、カーテンを閉めながらこう言った。

『 おおのさん、印象変わったな。何かあったんか? 』

言われている意味が解らなかったが、たしかにおおのさんは以前と比べると印象が違ってきたような気がする。

さっきも、おにぎりを持って来てくれたり、オレを元気づけるために手を振ってくれたりした。

そういえば昨日は、おおのさんのおばあちゃんに、婿殿!・・・なんて言われて困ったけど、あれはいったい何だったんだろう・・・。

確か道端に倒れていたおばあちゃんを助けたけど、すっかり忘れてしまっていたし、まさかおおのさんのおばあちゃんとは知らなかったし、昨日も後で事情を説明されるまでは気が付かなかったくらいだ。

あの時のおおのさんの慌てっぷりは珍しかったなぁ、顔真っ赤にして・・・。

そうして思い出すと自然とほほ笑んでいた。

『 なんやゴリラ、思い出し笑いかいな、ヤラシイなっ! 』

そう言って茶保先生は、笑いながらカーテンを閉めた。

『 誰がご・・・リラヤネン・・・ 』
ちょうどおおのさんの印象的な眼鏡以外が真っ赤な顔を思い出していたので、ツッコミも尻すぼみになってしまった。

ちょっと怖い印象があったけど、意外と可愛いのかな・・・。

ガラガラガラ!
大きな音を立てて保健室のドアが開く。

「宇利〜大丈夫かぁ?」
「宇利くん、大丈夫?」
クラス全員が宇利盛男のいる保健室に集まった。



クラスメイトの背中越しに、少しだけ宇利くんの様子が見える。
さっきよりも顔色も良くて、ちょっと微笑んでいた様子だったのでおおのさわこは少し安心していた。

・・・よかった、思ったより元気で。

『あぁ。薬がだんだん効いてきたみたいでだいぶ落ち着いてきたわ。』
『それよりどないやった?』
クラスメイトが心配してくれているので、それに応えている宇利くんの声も元気そうだった。

『無事乗り切ったよ〜』
『俺めっちゃ笑い取れたでぇ』
『なんかいつもよりやりやすかったわ』

『なんや、俺いない方が良かったんか?』
『そんなことないよー』
『ないよねー』
『いや、棒読みやねん』

なんだかいつもの様子になってきたので、さわこは本当に安心した。

『垣野先生、僕の代わりにありがとうございます』
『え?は?あなたのためにやったわけじゃないわよ』
『あ、もちろんですぅ。クラスのために、ありがとうございますぅ』
『は?クラスのため?それも違うわね』
『え?そうなんですか?ほな、なんでやってくださったんですか?』
『え?それ、答えなきゃダメ?』
『いや、ダメってことはないですけど…』
『いいじゃないの。無事終わったんだし』
『あぁ。まぁ、そうですけどぉ…』
『それよりあなたは明日のバンドには出られるように早く治さないとね』『あ、そうですねぇ。明日は絶対出たいので直しますぅ』
『まぁ、いざとなったら私、ギターなら出来るわよ』
『え?もしかしてまた俺の代わりに出ようとしてます?』
『まさか…』
垣野先生はニヤッと笑った。

あんなに舞台で暴れまわった垣野先生は、少し頬を赤くしているくらいで息切れもせず、汗一つかかずに平静そのものだった。

さわこは、そんな垣野先生の後ろ姿に、憧憬の眼差しを送っていた。

『垣野先生〜』
油木先生の元気な声で、さわこは我に返った。
入り口の近くに立っていたさわこの隣を、油木先生が通って入っていく。
少しお酒の匂いがさわこの鼻をくすぐる。
不思議と嫌な感じではなく、いい匂いに感じるさわこだった。

『めっちゃ良かったよぉ〜』
ちょっと甘えたような笑い声の油木先生。

『そう?』
髪をかき上げる仕草と流し目で応える垣野先生。

『垣野先生、楽しかった〜?』
『楽しかったってもんじゃないわよ』
『そうなの?』
『カ・イ・カ・ン💖』
垣野先生が油木先生に華麗なウィンクをしながら微笑む。

『ギャハハ。いいねぇ。次は私も生徒と一緒に何かやるわ〜。』
『私も快感を味わってみる〜!』
なんだか今日の油木先生は、先生というより女子高生みたいだな・・・なんて思うさわこだった。

『今日はもうやり切った感が強いわね。茶保先生、一杯くださる?』
『私も飲む〜』
『しゃーないなぁ』
赤い着物の茶保先生が、口では渋々を演じながら迷いのない動きで奥にある冷蔵庫から、ミックスジュースをコップに注ぎ、二人に渡した。

なんだミックスジュースかよ・・・
安堵と共にクラスメイトの小声のツッコミが聞こえてくるようだった。

その時、垣野先生が茶保先生の赤い着物に気が付いた。
『茶保くん、例のもの、持ってきて。じゃないのよ!』

『ほんまはメイドの格好したかったんやけど、こっちの方がウケるかと思って』
と、ようやっとツッコミもらえたわ、とホッとした茶保先生が少し恥ずかしそうに言った。

『ギャハハハ』
このやり取りがツボにはまった油木先生は、女子高生のようにしばらく笑い転げていた。

ミックスジュースを少し飲んだ垣野先生が声を上げる。
なんだかさっきよりも頬が赤くなっている感じがする。

『整いました〜』
『ミックスジュースとかけまして〜』
突然謎かけが始まる。

『ミックスジュースとかけまして〜』
みんなで復唱した。

『宇利盛男の恋と解く〜』
ベッドに座っている宇利盛男を仁王立ちになって指さす垣野先生。

『宇利盛男の恋と解く〜』
クラスメイトが笑いながら元気に復唱する。

『え?なになに?怖いんやけど』
宇利盛男が小さな声で言った。

全員で
『その心は〜』

『しっかり振った方がいいでしょう』
垣野先生が宇利くんを指さしていた指を天井に向けて突き上げながら言い放った。

いつの間にか保健室の奥の席に座って扇子を持っていた油木先生が、机をピシッと叩いて
『上手い!座布団1枚!』
と言って、扇子で垣野先生をまっすぐに指す。

『座布団はいいから柿ピー持ってきて〜』
と垣野先生。

『いやいや、なんで振られる前提やねん。しかもしっかりってどういうことやねん』
まだまだ調子が良くないようで、宇利くんのツッコミがまだ弱弱しい。

『だってねぇ。しっかり振ってあげないと、勘違いして、2度3度と告白しちゃうかもしれないからねぇ』
と、垣野先生は意味ありげに茶保先生の方を見た。
茶保先生も意味ありげな笑顔を返している。

さわこには、ちょっとよくわからない話だったが、宇利くんがなんだか可哀そうな気がした。

『いや、純粋な男子高校生の恋心をもて遊ばんでくださいよぉ〜』
もう泣きそうな顔な宇利くんが力ない声で言うのだが、最後まで言い終わるのを待たずに茶保先生の声が宇利くんの声をかき消していく。

『じゃあ、特別にみんなにもミックスジュース、振る舞ったるわ』

赤い着物の茶保先生が、みんなにジュースを配ってくれた。

みんなの手元にジュースが行き届いたのを見届けた垣野先生が一言。
『みなさん、しっかり振ってくださいねぇ』

それを聞いた、さわこ以外の女子全員が
「宇利くん、ごめんなさい」
と声を揃えて言った。

え?え?
・・・さわこは紙コップに入ったミックスジュースを、どうやったらこぼれないで振れるのか考えこんでしまっていたので回りで何が起こったのかすぐに理解できなかった。

『ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ〜。なんで女子全員に振られなあかんのですか?』
宇利くんのツッコミに鋭さが戻って来た。

・・・宇利くん、私は振ってないよ・・・

『ジュース。ミックスジュースをよく振ってってことやから!』
油木先生が大笑いしながらお腹を抱えながら言っている。

『宇利、ごめんなさい』
男子まで声を揃えて言った。

『なんで男子にまで振られんねん』
完全にツッコミの精度が戻った宇利盛男であった。

みんな楽しそうだ。
劇も無事に終わった。
宇利くんも意外と元気そう。

ほっとしたさわこは、生徒が持っている紙コップと違って、先生たちが持っている紙コップには、それぞれ赤い印が付けられている事に気が付いた。

垣野先生の頬は、完全にピンク色に色づいていて、目元がぼんやり眠そうな流し目になっている。
心なしか、うっすら瞳を閉じて唇を前に突き出しているような仕草をしている。

不思議な仕草だなぁ・・・でも、とても魅力的に感じたさわこだったが、それは、垣野先生がミックスジュースが大好きだからだろう、と思っていたので特に変には思わなかったが、橋田壽賀美が、訝しそうにその様子を見ている事には気が付かなかった。



オレの名前は宇利盛男うりもりお
ここ田梨木たりき高校に通う17才。
成績もスポーツもパッとしない。
特にこれと言って得意なこともない。
目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。
なんと今日2回目の出番だ。

みんなが劇の本番を終えて激励にきてくれたんだ。

一緒に演劇の成功を喜んだ反面、悔しい気持ちでいっぱいだった。
その上、すごいイジられ方もして傷心だ。
でも、おかげでツッコミの感覚は戻って来た。

はぁ、でもやっぱりお腹の調子は良くない。
ううぅ・・・。

みんなが演劇の片付けで保健室を出ていった時、また最後までおおのさんが残ってくれていたけど、さっきみたいに手は振ってくれなかったな。

まぁ元気になってきたし、そこまで心配じゃなくなったのかな。
うーん・・・、できたらもうちょっと心配してくれててもいいんだけどな。
へへへ。

そんなことを思いながら、しばらく保健室のベットで再び横になっていた。


『宇利、だいぶ薬も効いてきたやろ〜』
カーテンを半分開けて、顔を覗かせた茶保先生。

『ミックスジュースを飲む自信はないけど、おかげさまでだいぶ落ち着いてきました』と答えるオレ。

さっきまではざわついていた保健室だったが、今は静まり返っていた。
いつの間にか赤い着物から白衣に着替えていた茶保先生。
茶保先生と俺の静かな2人の世界。

思えば、オレが好きな女の子に気持ちが高ぶったり、
フラれた時などは、いつもお世話になっている保健室。

普段は勇ましいほどのマシンガントークで
高らかに笑う茶保先生は、オレがひどく落ち込んでいる時は、
とても優しいトーンの声で話しかけてくれる。

茶保先生は、かなり俺のことで時間を割いてくれているような気がする。

『いつでもここに来ていいから』と笑顔で言ってくれる。

どうしてだろう。
今まで深く考えたこともなかった。

もしかして・・・。
・・・え?
なんだろう、この気持ち・・・。

『せ、先生、なんか変な感じなんですっ!』
思わず茶保先生を呼んでしまった。
頭で考えるというより、心が反応してしまった感覚。
抑えられない想いが沸き上がる、あの感覚。あの前兆。

『ん、どないしたんや?』
と優しい声でカーテンを開ける茶保先生。

カーテンを開けながら、いつも束ねている髪の毛を解いている。

女神様ですか?

あまりの神々しさに茶保先生の背中に純白の翼を見た。
気がした。
窓から降り注ぐ光の柱が茶保先生を包む。
気がした。

そんな茶保先生が、オレを見下ろしている。
長いまつげで伏し目がちにオレを見下ろしている。
これから髪を束ねるのか、両手で後ろ髪を束ねて口に髪留めを咥えていた。

こちらを見つめながらゆっくりと顔が近づいてくる。
今まで見たことのないような、大人の色気を感じてしまう。

そして茶保先生は、そのまま私のおでこにゆっくりと手を当てた。
片手が外れたので髪が少し垂れて片頬を覆う。

オレの心臓が激しく恋のリズムを刻んでいく。

『ん、熱でも上がってきたか?』
茶保先生が、オレのおでこに当てている手のひらの感覚に集中するように天井の辺りを見上げて手掌の感覚を研ぎ澄ます。

女神様に触れられて、オレの心の熱が驚くほど一気に高まった。
脳内で流れ出す、「抱きしめたい」のメロディ。

先生と生徒なんていう事は頭で考える余裕はなかった。
そう、これはもう神の領域。人知を超越してしまった恋!

もう、抗えなかった。我慢できなかった。
神々に祝福されたこの恋を、オレは成就させなければならないっ!

『やっとわかった!』
思わず声が出たオレ。

『えっ、何がよ?』
目を丸くして驚いた表情をする女神。
オレは、その目を丸くする仕草に弱い!
なんてことだ、神々はそこまでお見通しだったのか!

溢れるほどの想いがこぼれてしまう前に、
2人だけの夢を胸に歩いていこう。
誰よりも素敵な笑顔を探しに行こう!

『茶保先生!・・・オレ!茶保先生のこと・・・』
茶舗先生の瞳が一瞬で細くなり冷静で冷徹な光を宿す。
だが、オレにはもう何も見えていない。
そう、もうまさに天国へ昇るその瞬間の神々しい光で何もかも真っ白だ。
どこからか聞こえてくるフレーズ。
終わった恋の心の傷跡は・・・。
そう、そうだったんだ。
オレはこうして癒されるんだ・・・。

オレの声帯が次の言葉を紡ぐ。
『前から好きだっ‥

一瞬のうちに後ろ髪を髪留めでくくった茶保先生は、一度腰をかがめて重心を下げながら身体を回転させて右拳をオレの鳩尾に渾身の力で叩き込んできた。

ドスッ!!
一瞬で地上に堕とされたオレは、状況を理解できない。
目の前に保健室の床のタイルが見える。
息ができない。
いや、茶保先生が抱きかかえてくれている?
そんな気がした瞬間、フッと茶保先生の腕が離れて支えを失ったオレの上体が行き場を失ってふわっとする。
慌ててバランスを取ろうと上体をそらして顔を上げた瞬間、目の前に茶保先生の顔が見えた。
・・・こんな近くで、まさかキス?
なんて事を思った瞬間、顎に強い衝撃を受けて意識が飛んだ。
たぶん、身体も飛んだ。

ウグッ、ゴホッ‥
茶保先生の回転を加えたボディブローの後、追い打ちのアッパーがクリーンヒットした。

『 今の貴男アナタじゃ、まだまだアタシと肩を並べて歩けないわ 』
踵を返して自分の椅子に座り、一息ついてくるりと椅子を回してベッドの方に茶保先生が向きなおすのと同時に、意識が飛んだオレの身体は、ゆっくりとベッドの上に崩れ落ちていた。

それを見届けた茶保先生は、思い出したように保健室の外にも聞こえるくらいのいつもの関西弁で言い放った。

『 はいっ、しっかり振る〜! 』

綺麗に決まったな・・・と、満足そうな茶保先生は、いたずらな微笑みを浮かべて静かに眠る宇利盛男を見つめていた。



校庭を宇利爽と黒猫が歩いている。

文化祭1日目のゴミ拾いをしていた。

既に学生が掃除していたのだが、それでも拾い切れていないゴミを回収しているのだ。

『 そうちゃんそうちゃん、そんなに頑張らなくてもいいんだよ~。 』

校長の富良子不良雄ふらおふらこが、猫なで声で宇利爽の後をついて回っている。

校長先生は、宇利爽の事が大好きだったので、いつも爽が学校に来ると手料理を振る舞ったりおやつをあげたりしてもてなしていた。

一方で、爽は、そんな校長を面倒だと思っていたが、料理はおいしいし、ルマンドはくれるので、それについては悪くはなかった。

うん、どうせなら料理とお菓子だけ置いておいてくれたらいいのに。
そんな事を思う爽だったが、さすがに直接は言わなかった。

ワタシ、オトナだからね。

ウーリーも見つかってホッとしていたし、三毛田さんも家に帰れたみたいでよかった。

くのいちのさわこちゃんとも知り合いになれた。
いつか忍者の技を教えてもらうつもりだ。
ワタシの目はごまかせないんだから。

それに、さわこちゃんのおばあちゃんとも仲良くなった。
明日も文化祭に来ることを伝えると、おばあちゃんが今夜は一緒に寝ようと言ってくれたので、そのつもりだ。
ウーリーも一緒に連れて行っていいと言ってくれているが、さっきからずっと校長が後をついてくるのがウザかった。

早く帰らないと、ほら、もう暗くなっちゃうよ~・・・とか、
せんせいしんぱいだよぅ・・・とか、
こまっちゃうよ~・・・とか言いながらついてくる。

校庭をゴミを拾いながらぐるぐる考えていた爽は、良いことを思いついた。

一杯になったゴミ袋を、校長先生に差し出す。

これ、捨ててきて。

あ、そうちゃん?そうちゃん、そんなゴミ袋をぐるぐる回したら受け取れないよぅ・・・

校長先生が困った表情で差し出した腕を上下させて近づいてくる。

ほぃっ

爽が遠心力を使ってゴミ袋を遠くまで放り投げる。

ウーリーがゴミ袋を追いかけて走り出す。

校長先生も、あー!とか、わー!とか言いながら走り出した。

そして、既に爽の姿はそこにはなかった。


こうして、田梨木高校の文化祭『たりん祭』の一日目が終わっていった。






つづく

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今回は、以下の方に登場してもらいました。



▼ 宇利盛男役+黒猫役のうりもさん

▼ 橋田壽賀美役のららみぃたんさん

▼ 千代子役のチョコさん

▼ 油木肉子先生役のゆきママ@男の子4人育児さん

▼ 垣野先生役の書きのたね。ブルボンヌ。さん

▼ 茶保先生役のちゃぼはち@凸凹×不登校の想定外育児さん

▼ 富良子不良雄役の脱サラ料理家 ふらおさん

▼ 宇利爽役のsou.さん


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