【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ⑫
こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。
▼ プロローグはこちら。
▼ スピンオフ さわこ編 前回の第⑪話はこちら。
▼▼▼ 今回は、以下の記事の直後か直前のお話となりますので、ご参照くださいませ。
文化祭を終えて・・・
文化祭が終わり、なんだか昨日までの事が嘘のように徐々に普通の日常に戻っていっているような感じがする。
いつものように登校して、いつものように授業を受ける。
ふわふわした気持ちも、徐々に落ち着いていくようで、それが学校全体にも広がっていくようだ。
所々に文化祭の余韻を見つける事はできるものの、いろんなモノが普通に戻っていく。少し色づいたさわこも、うっかりすると無色透明に戻ってしまいそうな、そんな感じがした。
油木先生は、いつものようにホームルームで宇利くんをからかって、吉田くんは、いつものように、起立・礼・・・のボケをかまして阿久くんと喜んでいる。
古典の垣野先生は、相変わらず綺麗な字だし、保健室に行けば茶保先生の元気な関西弁が聞こえる。
さわこにとって、あんなに楽しい文化祭は初めてだったし、あんなにクラスメイトと一体感を感じた事はこれまでなかったので、そういう感覚がなくなっていくような、いつもの日常に戻っていくこの感じは、なんだか少し悲しかった。
そうはいっても、文化祭を経ていろいろ変わった事もある。
哲子ちゃんとは仲良くなったし、妹さんの友美ちゃんと三人でよく屋上で会うようにもなった。今度は、友美ちゃんが出るのど自慢大会のお手伝いをする事にしていてる。
千代子さんや利子さんとも仲良くなれた気がするし、小郷くんと吉田くんとは、もう草木の仲だ。
文化祭が終わってからは、おばあちゃんの事で社会福祉士の賀田さんが、ほとんど毎日来てくれて、困っている事はないかとか、おばあちゃんの事はどうか、とか聞いてくれる。
質問すると何でも的確に答えてくれるし、ちょっと分からないような素振りを見せると、わからないって言ってないのに、丁寧にわかるように説明してくれる。
いつもじっと私の目を見つめて優しく教えてくれる。
さわこは、いつの間にか賀田さんに会ってお喋りするのが楽しみになっていたし、気が付いたら賀田さんの姿を探すようになっていた。
賀田さんは、年上の好青年で、さわこに会いに来てくれる時に廊下が少しざわつくのですぐにわかる。
そんな人が、さわこに会いに来てくれている。
そう思うと、ドキドキした。
おばあちゃんの介護の事をきっかけに、介護の仕事にも興味が出るようになったさわこは、そういう介護の知識や技術について知りたくなっていたし、介護の事をもっと知りたいと思ったので、学校帰りに施設の見学とかもさせてもらっていた。
認知症でびっくりするような言動をする人もいれば、上手に対応しているプロの介護士さんたちもいる。
寝たきりの人の介助なども見ていて凄いと思った。
身体介護っていうらしい。
自分の身体も守りつつ、お年寄りに負担がかからないように自然な感じで動けるように、重心や身体の位置、麻痺の有無や本人の認知機能、その時何が本人に出来て何ができないのか判断して、必要な声掛けや方法で本人が一人では出来ない事をお手伝いするらしい。
聴いているだけで難しいけれど、賀田さんは実際の動きや介助を見学させてくれたり体験させてくれたりして、一つ一つ教えてくれた。
何度も同じ失敗をしても、次はこうしてみようか、今度はここを意識してみよう、という感じで何度でも同じ事を教えてくれる。
おばあちゃんの足腰が弱ってきた時に、こういう事が出来ていればいいだろうな、と思って始めた事だったけれど、今はもう賀田さんに色んな事を教えてもらう事が目的になっているような気もしてきた。
施設での見学や実習の時は、ご本人に失礼にならないように賀田さんが小声でさわこの耳元でいろいろ説明してくれるのだが、びっくりするくらい顔が近づくのでさわこはドキドキしてしまって顔が真っ赤になってしまう。
自分でもわかるのですごく恥ずかしいのだけれど、賀田さんが教えてくれる内容は本当に勉強になるので一言も漏らさないように聞いている。
それに、賀田さんはいい匂いがするので、いつもこっそり深呼吸してる。
ぜったいの秘密だ。
そんな事を思い出していたさわこだった。
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大門寺ナナコは、貝差彩子を探して歩いていた。
学園のマドンナを、男子生徒たちが羨望の眼差しで見送っている。
ナナコは、考え事をしていると周りの事があまり見えなくなるので、時々廊下の壁におでこをぶつけていた。
文化祭で主役になれなかった彼の事を一番よく知っているのは、やはりどうかんがえても貝差彩子だ。
彼女の事だから、おそらく何か企てているに違いないのだが、それを確認せずにはいられないナナコだった。
そんな折、目の前で難しそうに天井や壁や床を眺めている、多さんのおばあちゃんを発見した。
なんだろう、どうしたことだろう、おかしいおかしい・・・とつぶやいているようだ。
『 てるこさん、どうかされましたか? 』
研修で学んだ、しっかりと視界に入って、目線を合わせて、ゆっくりを話しかける、をやってみた。
『 あらあら、あなた別嬪さんだねぇ、どうやら道に迷ってしまったようでね・・・、実は、お手洗いを探しているんだけれども・・・ 』
『 あ、それならこちらですわ、一緒に行きましょう。 』
そっと手を差し出すと、手を握ってくれたので、ゆっくりとおばあちゃんの歩くスピードに合わせてトイレに向かった。
『 お嬢ちゃんも何か考え事をしていたのかい? 』
どこで見ていたのか、いま気が付いたのか、ナナコは少しびっくりしたが、歩きながらこう答えた。
『 そうなんです、お友達の彩子さんを探していたんです。 』
『 さいこ・・・さいこさいこ・・・さいこちゃん? 』
『 あぁ!婿殿のお友達のさいこちゃんかいな! 』
どうやら合点がいったらしいおばあちゃんが手をたたく。
『 そのさいこちゃんなら、さっき校長室に向かってたヨ 』
『 そういや、メガネをかけた男の子も一緒だったねぇ 』
トイレの前までおばあちゃんを案内したナナコは、校長室へ向う事にした。
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その彩子ちゃんは、校長室の校長先生の豪華な椅子に深々と腰を下ろして、目の前でタブレット端末を操作している吉田吉夫に声をかけていた。
『 Mr.Y、どうだねプランの進捗は・・・ 』
低めのトーンで何かの役になりきっている。
『 S、だいたいのプランは仕上がりましたが、まだ完璧ではありません。なにかいいきっかけがあればいいのですが・・・ 』
Mr.Yと呼ばれた吉田吉夫が、メガネをくいっとあげながら報告した。
『 あの・・・もしもし?・・・ここは校長し 』
富良子不良雄校長の声を遮って、Sの低い声が響く。
『 やはり文化祭の間に決行すべきだったか・・・ 』
机に両肘を乗せて顔の前で腕を組み両親指で眉間を支える仕草をするS。
『 ここはもうすこし二人の情報を集めた方が・・・ 』
プランの成功を確実にするためには、まだ情報が少ない事、時期尚早であることを伝えるMr.Yだったが、Sは焦っていた。
そもそもSは、猪突猛進型で思い立ったら突っ走ってしまう性格なので、本当はよくここまで我慢したともいえる。
『 なんの話かよくわからないけど、そういうのは会議し 』
富良子不良雄校長の声を遮って、Sの低い声が響く。
『 Sir.F、事態は深刻なのだよ。一人の少年の人生を左右する問題なのだ。悠長な事は言ってられんのだよ。 』
校長の机に肘をついたままの姿勢で言い放つS。
『 サー?・・・えふ?? 』
自分にもコードネームがあてられて満更でもない校長もといSir.Fであった。
しばしの静寂。
Mr.Yのタブレット端末の音が静かに響いている。
Sir.Fが、それっぽい事を言おうと口を開いた瞬間、校長室のドアがノックされた。
コンコンコン・・・。
『 ど、どうぞ・・・ 』
Sir.Fが来訪者に入室を許可した。
ゆっくりと扉が開き、大門寺ナナコがゆっくりと静かな歩みで入ってくる。
この芝居がかった状況をいち早く察知したナナコは、どんな状況にも対応できるよう心の中で身構えた。
『 よく来てくれた、Miss.D 』
奥の机に両肘をついて顔を隠すように座っている貝差彩子が言った。
・・・Miss.D?・・・コードネーム?
・・・だとすると。
『 探したわ、S。Mr.Yも来ていたのね。』
とりえあず校長先生がどういう扱いか分からなかったので安全策として触れないでおいた。
校長の椅子からゆっくりと立ち上がり、Sが数冊のファイルを片手に歩み寄ってくる。
ファイルとMr.Yのタブレット端末の内容を見せられ、Miss.Dは驚きを隠せないでいた。
そして、自分なりのプランも提示すると、Mr.Yが眼鏡を光らせてこう言っった。
『 AIの予測では、ほぼプラン通りに運びますが、もう一人のターゲットであるBの反応が未知数です。現時点で情報不足です。』
ゆっくりと校長室の扉が閉じてゆき、中の様子はもう伺い知れない。
のちに、田梨木秘密探偵部。
TARIKI Secret Detective Service の頭文字をとって、T-SDS と呼ばれるようになる秘密機関の結成の瞬間だったが、この秘密機関が活動するまでには、まだもう少しの時間と、あと2人のメンバーの合流を待たなくてはならなかった。
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週末、さわこは駅前で賀田さんを待っていた。
学校はお休みだけれど、いつもおばあちゃんの様子を見に行くついでに買い物をしてから向かう事にしているのだが、今日は賀田さんもお休みだったらしくて、一緒に買い物に付き合ってくれる事になっていた。
『 おまたせ~、あ、今日の髪型いいね。 』
賀田さんが手を振りながら近づいてくる。
髪型を褒めてもらって、さわこは嬉しかった。
いつものおさげ髪ではなく、今日は後ろでひと結びにしている。
他愛のない話をしながら、必要なものや買う事にしていたものを買っていく。賀田さんは、本と文房具を買いたいそうで、一緒についていって、難しそうな本を難しそうな顔をして眺めたり手に取ったりしている賀田さんを観察した。
仕事で使うスケジュール帳とボールペンを新調するようで、試し書き用の紙にスラスラと文字を書いて、どれがいいか悩んでいた。
雑貨屋さんの横を通った時に、賀田さんが『ちょっと待ってて』といって雑貨屋さんに入っていった。
すぐに出てきた賀田さんが、雑貨屋さんで白いシュシュを買ってきて、これきっと似合うよ、と言って手渡してくれた。
あんまりに恥ずかしかったので、こ・・・こんどつけつけます・・・と言って買ってもらったシュシュはすぐにカバンの中に入れてしまった。
顔が熱くなりすぎて頭がくらくらして眼鏡が曇った。
その後の事は、なんだかよく覚えていないけれど、二人で喫茶店でお茶を飲んだりしてから学校に向かって、おばあちゃんと会って、賀田さんは用事を済ませて先に帰っていった。
さわこは、おばあちゃんと一緒に夕食を作って、まだ学校に泊まり込んでくれている校長先生を呼んで、みんなで晩御飯にした。
校長先生は、絶品・爆速チーズオムレツを作って来てくれた。
「ふわっ」と柔らかい食感と、チーズの「とろり」とした口当りが本当においしくって感動していたら、簡単にできるんだよ、と言って作り方を教えてくれた。
来週の週末は、哲子ちゃんや友美ちゃんと衣装とか着物を見に行ったりする予定だ。
のど自慢大会は12月1日。
あと3週間で本番だ・・・。
さわこが出場するわけでもないのに、なぜか緊張してしまう。
友美ちゃんの晴れ舞台、みんなで応援できたらいいな。
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週明け、月曜日の朝。
いつも通りの日常が始まるはずだった。
朝からちょっとした異変はあった。
ホームルームが始まる始業のベルが鳴ったのに、
宇利くんがまだ来ていなかった。
彼は、無遅刻無欠席を目標にしていた。
さわこもクラスのみんなも知っていたので、少しクラスがざわッとした。
何だか心配になったさわこが、廊下の様子を見ようかと立ち上がりかけたその時、教室の後ろの引き戸がゆっくりと音もなく開き始めた。
ゆっくりとゆっくりと、音を立てないように少しずつ開いてゆく。
さわこは、じっとその様子を見ていた。
教室は、少しざわついて、みんなが小声で、ウリとかゴリラとかまたフラれたとか言っている。
人一人が通れそうなくらいに引き戸が開いた瞬間、ぬっとゴリラが顔を出した。
あ、ごめん、宇利くんだ。
じっと見つめていたさわこに気づいた宇利くんが、人差し指を立ててシーっという仕草をして、そろそろと入ってくる。
さわこは、声を出さないで口パクで宇利くんに伝える。
・・・マダ、センセイ、キテナイヨ・・・
それが通じたのか、ちょっと目を白黒させた宇利くんが首を伸ばして、教室の前の方を見た。
宇利くんって結構首が長いんだ・・・
まだ先生が来ていない事を確認した宇利くんは、さわこに軽く敬礼をしながら下手なウィンクをして、口パクで・・・サンキュ・・・と言って、教室のドアを閉めて何食わぬ顔で自分の席に向かって行った。
なんだか有名人みたい。
・・・そっか、バンドデビューもしたもんね。
かっこよかったな、ミスチェリのみんな。
遠い存在になってしまった宇利盛男の事を見送りながら、さわこは無意識に片方のおさげ髪を束ねている白いシュシュに手をやっていた。
教室の直前まで走ってきていたのを、入ってくる際に息を殺して我慢していたのだろう、少し息を荒くして、そしてちょっぴりしんどそうにお腹をさすりながらも、出席確認の時には何食わぬ顔をして、いつものように席におさまっていた宇利盛男であった。
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オレの名前は宇利盛男。
ここ田梨高校に通う17才。
成績もスポーツもパッとしない。
特にこれと言って得意なこともない。
目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。
といっても、さっきは危なかった。
チャイム鳴っちゃったもんな。
油木先生が来る前で良かった。
まぁ、ギリギリセーフ、っちゅーことにしとこ。
その油木先生が入ってきて、既にホームルームが始まっているのだが、文化祭が終わってから、ずっと悶々としてきた。
そう、ミスチェリの方は文句なしの大成功だった。
17年の人生史上初めてと言っていいほどの黄色い声援を浴び、アンコールまで披露した。機材を撤収していたら、片付けにやってきた千代子に、「サインちょうだい!」とも言われた。その後冗談がどうのこうの言っていたような気もするが覚えていないし、その後もなぜか気が付いたらキンキンの地面に顔をうずめていた。なんでだろう。
いや、そんな事はもうどうでもよくて。
いや、どうでもよくないが、まずはおいておこう。こっちに。
そんな、大満足と言っていい終わり方をしたのに。
ふと、考えてしまうのだ。
「あの時、俺が舞台あそこに立っていたら‥」
「あの時、俺が腹さえ痛くなっていなかったら‥」
「あの時、俺が無理していけるって言ってたら‥」
今、見えてる景色は、もっと違ったんじゃないか。
そこから先俺が向かっていくのは、もっともっと高い場所だったんじゃないのか。
練習中、皆あんなに楽しそうだった。
保健室に来てくれた時だって、吉田も阿久も保志田も、彩子も波都子も圭子も千代子も壽賀美も風歌も哲子もナナコもさわ子もあの子もどの子も、皆あんなに心配して、残念そうな顔してたやんか。
いやでも、ひょっとしたら、俺なんかおらんでも、
いやいやそんなはずが‥あるわけな、
いや、あるかも、だとしたら
俺‥
どうしてもそんな想いがグルグルする。
この気持ちをどうしたらいいんだろう。
このままでいいのだろか・・・。
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私の名前は貝差彩子。
田梨木高校に通う17才。
偏差値低いくせに、イキって「何が悪いの?!」って開き直ってる。
最近、宇利の様子がおかしい。
いや、まえから普通じゃなかったから、おかしい、というのもおかしいんだけど、どうかんがえてもおかしい。理由は知らん。
いやいや、だいだいはわかっとるねん。
お前わかりやすいからな。
ほれあんとき、ゴリラが学校におったあん時。
多さんのおばあちゃんと会ってから、アンタ様子がおかしいで。
婿殿って、何の時代劇や!って思ったけど、アレ、そうやんな。
アンタたち、親同士が決めた許嫁やったんやろ。
わかってんねん。
そういうの、なんとかくウチとヨメンと似た感じやん?全然違うけど。
そんで何があったか知らんけど、ほんまは好き同士やのに離れ離れになったんやろ?
きっとあれやで、あの様子だったら多さんはまだ気が付いてないんやで、ちっさい頃の許嫁やもんな、そりゃ覚えてないわ。こんなゴリラみたいになってもうたら。
せやけどおばあちゃんはちゃう、わかったんやお前の事。
さすがおばあちゃんやで、年季がちゃうわ。
それで悩んでんねん。
宇利。男見せなあかん時とちゃうか?
ホームルームも終わったので、彩子はズンズンと宇利盛男の元へ歩んでいった。
プランA。
第一段階。
ここまでは順調や。
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僕の名前は、吉田吉夫。
田梨木高校に通う17才。
2年A組の級長だ。真面目に見えるが成績は良くない。
お笑い研究で忙しいが、最近はバンド活動でモテモテだ。
ある日突然、彩子さんに呼び出されて今回の計画を聞かされた。
実は、宇利盛男と多さわこさんが小さい頃に生き別れた許嫁だったらしい。
どうやら、多さんは、その事をすっかり忘れてしまっているようだけど、宇利は気持ちを隠していたらしい。
なんとなくだけど、無差別ツッコミや、告白テロの説明もつきそうな気もしないでもない。
確かに、多さんのおばあちゃんが、宇利の事を婿殿!と呼んでいるのを聞いた。
そう思うと、あの時の宇利の様子とさわこさんの様子にも合点がいく。
この事実を知っているのは、貝差彩子と僕、吉田吉夫、そしてさっきこの真相を明かされた大門寺ナナコだ。
ナナコさんは、すごく驚いていたが、そういう優しいところ、宇利くんにはあるよね、と言っていた。
ちょっと何を言っているのかよくわからなかったが、話を合わせて頷いていた。
ナナコさんは、実は宇利が劇本番で体調を崩して主役を演じられなかった事に心を痛めていたようで、なんとか再演の機会がつくれないか、と相談に来たのだ。
AIに計画を診断させた所、劇の再演の方は、ほぼ間違いなく予定通りになりそうだったが、さわこさんとの関係については、やはり情報が不足しすぎていて不透明な回答だった。
彩子は実行を急いでいたが、どうしても引っかかる事がある。
この話が本当に真実かどうか、という根幹の部分の信頼性だ。
彩子の話ぶりだと、断定的で言い切っているので事実のように聞こえるが、話の節々に、思う。とか、違いない。とか、はずだ。とかが入っていて、客観的事実ではない可能性が拭いきれない。
これについて、AIにも相談してみると、事実である可能性はかなり低い、と出た。
そういう危うさがあったので、もう少し事実関係を精査してからの実行を提案したのだが、待てない性格の彩子がこれ以上待てるはずもなく、劇の再演の計画も重なっての決行となった。
宇利はともかく、さわこさんが困らないようにしなければならかなったので、この話については、このメンバーのみの絶対秘密にする、という事にした。
既に彩子が宇利に話しかけており、計画がスタートした。
もう引き返せない。
不測の事態が起こった場合は、大門寺ナナコが収めてくれる事になっている。とりえあず、最悪のケースには至らないだろう。
計画を見守りながら、必要なフォローができるように準備しておこう。
黒縁メガネを拭きながら、教室の時計を確認する。
油木先生が戻るまでの数分が勝負だ。
そして、先生が入ってくるタイミングによって、いろいろと更に状況が変わる。
全てはタイミングだ。
準備は完璧じゃないが、なるようになる・・・。
いや、なるようにするしかない。
背中に宇利と彩子のやり取りの気配を感じながら、大きく深呼吸をする吉田吉夫であった。
つづく
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今回は、以下の方に登場してもらいました。
▼ 宇利盛男役のうりもさん
▼ 千代子役のチョコさん
▼ 油木肉子先生役のゆきママ@男の子4人育児さん
▼ 垣野先生役の書きのたね。ブルボンヌ。さん
▼ 茶保先生役のちゃぼはち@凸凹×不登校の想定外育児さん
▼ 吉田吉夫役のよしよしさん
▼ 貝差彩子役の彩夏さん
▼ 小郷オーエン役の習慣応援家 shogoさん
▼ 千葉ヨメン役のばちょめんさん
▼ 小室哲子役のT Kさん
▼ 大門寺ナナコ役のだいなさん
▼ 冨永利子役のkikiさん
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