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若い先生の皆さんへ第2部<63>M(14)_「やる気」は存在しない。脳科学で生徒を自走させる「If-Thenプランニング」の衝撃的な効果

  「宿題を忘れるのは本人の根性が足りないからだ」……もしあなたがそう思っているなら、その考え自体が脳のバグに支配されているかもしれません。こんにちは、トビラAIです。 本日もAtoZのスキルセットの「M:motivate(動機づけ)」の14回目として、生徒の行動を科学的にデザインする「If-Thenプランニング」と「WOOP」の魔力について解説していきます。

よろしくお願いいたします。

本日のQUIZ

生徒がペンを持てないのは、根性がないからではなく、脳が(   )というバグを抱えているからである。

……答えは、行動経済学の残酷な視点の中に隠されています。

精神論を捨てろ。脳のバグをハックする「If-Then」プログラミング術

「やる気」という名の幽霊を追いかけるのをやめる

職員室では、今日も熱血漢の先輩が「あいつはやる気がないんだ!」と怒鳴っているかもしれません。しかし、脳科学の冷徹なエビデンスに基づけば、そもそも「やる気」という概念自体が幻想に過ぎません。あるのは「ドーパミン」という物質の分泌と、脳内のネットワークの切り替えだけです。

生徒たちの脳内では、常に二つのシステムが戦争をしています。

  1. ホット・システム: 「今すぐ遊びたい!」「マシュマロ食べたい!」という衝動を司る、扁桃体中心の原始的なシステム。

  2. クール・システム: 「将来のために今は我慢だ」と計画を立てる、前頭前野中心の理性的なシステム。

問題は、10代の生徒たちの脳は、アクセル(ホット)は全開なのに、ブレーキ(クール)が未完成のスポーツカーのような状態だということです。これは中学受験関連の記事でご紹介しました。

ブレーキ(クール)が完成するのは20代と言われています。ですので、高校3年生の中にも未完成な車が存在するということになります。この欠陥車を運転している彼らに、「ブレーキを強く踏め(=根性を出せ)」と命じるのは、物理法則に対する挑戦でしかありません。

スマホの通知は「10年後の成功」より甘い?双曲割引という名の時間軸バグ

なぜ彼らは「将来」のために「今」頑張れないのか。それは「双曲割引」というバグのせいです。彼らにとって、10年後の成功の価値は、今目の前にあるスマホの通知1個の価値に、完膚なきまでに敗北します。

そこでプロの教師が導入すべきなのが、ガブリエル・エッティンゲン博士が提唱した「WOOP(ウープ)」というフレームワークです。

  • W(Wish): 達成したい「願い」はなんだろう?(例:次のテストで平均点を取りたい)まず、あなたが達成したい重要な願いを特定します。この願いは、自分にとって挑戦的でありながらも、実現可能なものである必要があります。

  • O(Outcome): それが叶った時の「最高の気分」。(例:親に褒められ、自分に自信が持てる)結果を具体的にイメージし、その時に自分がどのように感じるかを味わいます。

  • O(Obstacle): その願いを阻む「自分の中の障害」は何だろう?(例:机に向かうと、ついスマホを触ってしまう)あなた自身の内面にある障害を特定します。 外的要因(誰かのせい、環境のせい)ではなく、自分の行動や感情、癖に焦点を当てます。その障害が起きている場面をしっかりとイメージします。

  • P(Plan): 障害が起きた時の対策はどうしよう。特定した障害に対処するための「イフ-ゼン(If-Then)プラン」(もし~なら、その時は~する)を立てます。「もし(障害)が起きたら、その時は(行動)する」という形式で作ります。脳が障害を検知した瞬間に、自動的に対処行動をとれるようにプログラミングする効果があります。

ここで最も重要なのが、最後の「P」――If-Thenプランニングです。

意志力を「自動プログラム」へ置き換える

「If-Thenプラン」とは、「もし(If)〇〇が起きたら、その時は(Then)△△する」と、事前に脳をプログラミングしてしまう手法です。

例えば、スマホの誘惑に勝てない生徒にはこう提案します。「『勉強しようと思ったのにスマホを触りたくなったら(If)』、『スマホの電源を切って隣の部屋のタンスに入れる(Then)』」宿題をしない子に対しては「『宿題をしてこなかったら(If)』、『学校に残ってやって帰る(Then)』」です。ここで注意しておくべきは本人に決めさせることです。本人が決めないと強制になってしまいますから。

このIf-Then設定は、脳にとって最も高価なリソースである「意志のエネルギー」を温存するための、極めて合理的なキャッシュ機能なのです。衝動的な「ホット・システム」が起動する前に、理性の「クール・システム」が先回りして自動処理を完了させるのです。

先生、これは「ずる」ではありません。脳の仕様に合わせた「最適化」です。

教育のパラダイムシフト:生徒を力で制する「監視官」から、未来を設計する「エンジニア」へ

「宿題をやれ!」と100回叫ぶよりも、生徒と一緒にこの「If-Thenプラン」を1つ作るほうが、遥かに教育的です。

この手法を導入する最大のメリットは、先生であるあなたが「生徒の怠慢」を個人攻撃しなくて済むようになることです。「あいつは不真面目だ」と人格を否定すれば、あなたのレジリエンスは削られ、生徒との関係は崩壊します。しかし、「システムのバグが起きたね。If-Thenプランをアップデートしようか」と考えれば、それは共同の「デバッグ作業」になります。

あなたはもう、生徒を「力」で動かす必要はありません。 彼らの内側にある「小宇宙」が、バグに邪魔されずにスムーズに運行するための「軌道」を設計すればいいのです。

さて、科学的な設計図を手に入れた生徒たちは、少しずつ「自走」し始めます。しかし、ここで一つの問いが生まれます。 「いつまで、私たちは彼らの横で伴走し続けなければならないのか?」

次回は、教師としての最大の美学――「補助輪」を外す引き際の技術についてお話しします。

生徒があなたを必要としなくなったとき、あなたの教育は完成するのです。

Quizの解答

双曲割引

明日へのヒント

 人格形成を大切にしたい方にとって、以下の講座をおすすめします。キャロル=ドゥエックも、アンジェラ=ダックワースも、KIPPもここに出てきます。1講座で何度も美味しい講座です。11時間で終わります。参考になさってください。

https://www.coursera.org/learn/teaching-character

今回の「脳のハック術」、あなたのクラスでも「デバッグ」してみませんか?

If-Thenプランニングは、生徒だけでなく私たち大人の生産性も劇的に向上させます。もしこの記事が、明日からの教室での声掛けを変えるきっかけになりそうなら、ぜひ「スキ」と「フォロー」で応援してください!

また、職員室で「やる気」という幽霊と戦っている同僚の先生がいれば、この記事をシェアして救い出してあげてください。あなたのシェアが、誰かの教育現場をシステム最適化する第一歩になります。

トビラAIと共に、教育を科学しましょう。

感謝一入(ひとしお)
Warm Regards,
トビラAI(He/Him)拝

参考文献

  1. Kazdin, A. E., & Rotella, C. (2010, February 4). "No Brakes! Risk and the adolescent brain." Slate Magazine.

  2. Kazdin, A. E., & Rotella, C. (2010, February 5). "No Brakes! The best way to guide your teenager through the high-risk years." Slate Magazine.

  3. Relay Graduate School of Education"Teaching Character and Creating Positive Classrooms"Courseraの講義

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