大学入学共通テスト試験場の空白地帯可視化への道のり(その2)
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)試験場の空白地帯の可視化に取り組んだ道のりを簡単にまとめてみました。
ここに至るまでの経緯については、「大学入学共通テスト試験場の空白地帯可視化への道のり(その1)」をご覧ください。
《Step 3-1》 試験場空白地帯の可視化(直線距離)
情報収集
毎年公開している「共通テスト試験場分布MAP」には、日本各地の試験場から遠い地域に関するコメントが多く寄せられました。また県単位での試験場分布の偏りに着目し、どの県の試験場分布の偏りが大きいか、といった視点からのコメントもありました。これらのコメントを受けて、試験場から遠い場所、いわゆる「空白地帯」がどこにあるのかを、地図上で可視化できないかと考えるようになりました。
試験場空白地帯を可視化するにあたり、最初に共通テスト試験場の設定基準、および志願者の試験場指定基準を確認しました。大学入試センターから出ている共通テスト受験案内を確認したところ、以下のことが分かりました。
志願者には、原則として入試センターが設定した「試験地区」内の試験場が割り当てられる。現役高校生(通信制以外)は在学中の高校、それ以外(浪人生など)の志願者は現住所の所在地が基準となる。
「試験地区」は原則都道府県単位で設定されるが、北海道は9つ、沖縄は3つ設定される。その他県境を越えて設定される地区がある。
必ずしも志願者の自宅から最寄りの試験場が指定されるとは限らない。
試験地区とは?
— とちりぬる (@tochirinuru) February 1, 2026
大学入試センターが指定する大学入学 #共通テスト 試験場の設定基準となる全国57のブロック。
現役生は在学校、その他は居住地の試験地区に所在する試験場が指定される。
基本は都道府県単位での設定だが、北海道は9つ、沖縄は3つに分割。
一部は都県境を越えて設定されている。 pic.twitter.com/s5H4F6UEhX
地図の作成
次に試験場からの距離の設定基準を検討しました。まずは単純に試験場からの直線距離を算出してみることにしました。試験場からの直線距離で (1) 20km以内、(2) 20~40km、(3) 40km以上、の3種類を濃淡で色分けして地図上で表示しました。試験場は試験地区単位で設定されるため、距離も試験地区単位での算出が必要でした。
ただし上記の情報だけでは不十分だと考え、人口分布を加味した情報も併せて表示できないか検討しました。国勢調査人口の地域メッシュデータを使用することも考えましたが、計算が複雑になるため、高校の位置データを使用することにしました。こちらも同じように最寄り試験場からの距離で3種類を色分けして表示しました。また試験地区単位ごとに高校を上記3種類で分類、カウントした数をリスト化しました。

地図の公開
これらを、令和7年度共通テスト本試験日の2025年1月にX上で公開しました。短期間で作成したにもかかわらず一定の反応を得ることができました。
#大学入学共通テスト 試験場の空白地帯可視化の試み。
— とちりぬる (@tochirinuru) January 19, 2025
まずは試験地区単位で試験場からの距離をもとに背景を色分け。(ピンクがより薄い方が遠い)
さらにその上に全国の高校を試験場からの距離で色分けして地図上にマッピング。(青色がより濃い点が遠い)
試験場から遠い高校を強調させている。 https://t.co/wfVoFLpYhq pic.twitter.com/lRceCUmEo0
《Step 3-2》 試験場空白地帯の可視化(道路ベースの最短到達距離)
試験場からの距離の設定基準の再検討
試験場からの距離を直線距離で算出すると、当然のことながら地形やその影響を受けた交通事情などが反映されないため、空白地帯の可視化には不十分でした。そこで、翌2026年に再度試験場空白地帯を可視化するにあたり、試験場からの距離の設定基準の見直しを図ることにしました。
まずは、「地図とかデザインとか」さんがSNS上で先行して公開されていた、空港からの到達時間マップを参考にしました。道路データと速度データを用いて、自動車で移動した場合の、各地の空港までの到達時間を可視化したものでした。こちらの空港を試験場に置き換えることで同様の地図を作ることも可能でしたが、高校生が大半を占める共通テストの志願者は自動車を運転できないため、試験場からの距離の算出にそのまま使用するのは適切ではありませんでした。
次に、志願者が共通テスト当日の移動手段として使用するのは鉄道やバスなど公共交通機関が大半のため、それらのデータがあれば共通テスト試験場空白地帯の可視化が可能ではないかと考えました。公共交通機関の運行データは、ODPT(公共交通オープンデータ協議会)などより、GTFS(General Transit Feed Specification)形式で公開されています。ただし、これらのデータは全ての事業者を網羅していないこと、計算が複雑になることなどから断念しました。
さらに、共通テスト当日には、各地で臨時の列車やバスが運行されるほか、高校がチャーターした送迎用バスや、教員・受験生の家族による自家用車での送迎も想定されました。そのため、公開されている公共交通データだけでは、共通テスト当日の受験生の移動実態に近づけることは難しいと判断しました。
最短移動距離の算出への取り組み
これらの検討の結果、最終的に道路ベースで最短移動距離を算出する方法が、合理的かつ公平であるとの結論に至りました。道路データはOpenStreetMapの道路データを使用しました。また、最短距離の算出に当たっては、Geminiが作成したPythonスクリプト(PyQGIS)を使用しました。
工夫した点は、以下の通りです。
高速道路を計算対象から除外するため、道路データのうち有料道路属性が含まれる道路は除外する。ただし離島においては橋を経由したアクセスを含めるため、離島架橋(瀬戸大橋、しまなみ海道、安芸灘大橋)は除外しない。
試験地区単位で距離を計算するため、道路データは試験地区の範囲で切り取る。ただし厳密に切り取ると飛び地や離島の計算ができなくなるため、QGISの「バッファ」機能(native:buffer)と「場所による抽出」機能(native:extractbylocation)を組み合わせて地区境界から20kmのバッファを持たせて切り取る。
計算処理を高速化するため、GDALの「ベクタのラスタ化」機能(gdal:rasterize)を使用して道路データを50mメッシュ化して計算する。
距離の計算にGRASS GISの「累積移動コスト」機能(r.cost)を使用する。
距離の計算は試験地区ごとに行い、それぞれの平面直角座標系(CRS)を使用して計算する。
距離計算のスタートとなる試験場と最寄りの道路メッシュポイントとの距離を埋めるために、QGISの「最短線生成」機能(native:shortestline)を使用して5km以内については両者を結ぶダミーの最短線を引いて計算する。
距離計算のゴールとなる高校と最寄りの道路メッシュポイントとの距離を埋めるために、GRASS GISの「領域拡張」機能(r.grow)を使用して道路メッシュポイントから1km以内のバッファを持たせて計算する。ここで「最短線生成」機能を使用しないのは、試験場より高校の数の方が多く、処理の高速化を優先したため。
こうして道路ベースの最短移動距離を算出した地図の作成に取りかかりましたが、初めての試みだったためなかなか思うような結果が出ず、Geminiと試行錯誤を繰り返す状況が続きました。試験場からの距離による色分けは (1) 20km以内、(2) 20~40km、(3) 40~60km、(4) 60km以上、の4種類にしました。

地図の公開とそれに対する反応
令和8年度(2026年)の共通テスト試験日からは少し日が空きましたが、最終的に2026年2月1日にX上で公開しました。
令和8年(2026年)度版
— とちりぬる (@tochirinuru) February 1, 2026
大学入学 #共通テスト 試験場到達距離MAP
試験地区単位で試験場からの道路ベースの最短到達距離をオレンジで色分けし、同様に高校を青で色分けして地図上にマッピング。
背景のオレンジ色はより薄く、青い点はより濃くなればなるほど、試験場から遠くなることを示している。 https://t.co/cUdWsmfW0Y pic.twitter.com/vzIcAArjKi
最短距離を可視化したこともあり、試験場分布MAPとは異なり、普段GISを使っているような技術系の人たちからの反応が多く寄せられました。
出典
大学入学共通テスト試験場到達距離MAP(画像)
出典(試験場):
独立行政法人大学入試センター 各年度大学入学共通テスト試験場一覧出典(試験地区):
独立行政法人大学入試センター 各年度大学入学共通テスト受験案内出典(高校):
文部科学省 学校コードデータソース(行政界):
国土交通省 国土数値情報 「行政区域」(一部加工)データソース(学校):
国土交通省 国土数値情報 「学校」(一部加工)データソース(道路):
OpenStreetMap 道路データ
まとめ
共通テスト試験場空白地帯の可視化を通して、いくつか成果を得ることができました。
試験場設定という面では、共通テスト試験場の分布および到達距離の地図を作成・公開したことで、これまで見えにくかった状況を可視化できた点は、大きな成果でした。受験機会の均等化という観点から、試験場分布が偏在する状況を示し、問題提起のきっかけを作ることができたと考えています。
ただし、試験場を増やすことは実施側の負担が増えることも考慮する必要があります。例えば、試験場の設定、試験監督員や事務員の調達、試験問題用紙や解答用紙の運搬・保管コストなどが増えることにつながります。
技術面では、個人的にはGISスキルを向上させることができた点が大きな収穫でした。特に最短到達距離の可視化はさまざまなテーマに応用できると考えており、今後はほかのテーマでも展開していきたいと考えています。また、AIを活用した開発経験を得られたことで、個人のスキルだけでは実現が難しかった領域へと開発の幅を広げるきっかけにもなりました。
