第2話|現実の世界に、足がすくむ
▶︎ 第0話|揺れながら、進む
この連載のはじまり。
迷いながら選んできた人生の背景について書いています。
「これで良かったんだろうか」
働き始めてしばらく経った頃から
私の中には、小さな違和感が芽生えていた。
好きな世界に足を踏み入れたはずなのに、
心はどこか落ち着かない。
それでも私は、
その正体を確かめるように、
毎日、同じ場所へ通い続けていた。
まだ、その足が
どこで止まることになるのかも知らずに。
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好きな世界に足を置いた日
デザイン科を卒業したあと、
私は小さな町の家具工場で働くことになった。
大好きなインテリア。
やっとその世界に足を踏み入れられた気がして、
ようやく第一歩を踏み出せたような気がして、
最初は胸が弾んだ。
「ここで経験を積めば、
いつか家具デザイナーという道にもつながるかもしれない」
そんな期待も、あった。
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静かに積もっていった限界の気配
けれど、現実は思っていた以上に厳しかった。
同じ作業が、延々と続く日々。
止むことのない、大きな機械音。
そう、ここは“工場”であって、
“工房”ではないのだ。
同じように家具を作る環境でも、
そこには思っていた以上に大きな隔たりがある。
そのことを、日々の作業の中で思い知らされた。
少しの気の緩みが、大きな事故につながる。
その不安が、常に身体にまとわりついていた。
電動の木工具で大量の木材を扱う緊張感に、
私は最後まで慣れることができなかった。
ものづくりは好きなのに。
作業そのものが嫌いなわけでも、ないのに。
それでも、どうしても怖さが拭えなかった。
尊敬していた職人さんたちの中には、
過去の事故で大怪我を負い、
身体の一部に欠損を抱えている人もいた。
その姿を見ながら、
私は少しずつ思うようになった。
「この業界で、私は長く働けるのだろうか」
それは焦りでも、挫折でもなかった。
もっと根本的な何か。
じわじわと広がっていく、“限界”の気配だった。
「このまま続けたら、
どこかで自分が壊れてしまうかもしれない」
そう思ったとき、
退職という選択肢が、
諦めとともにはっきりと形になった。
夢を降りたあとに残った、空白
半ば逃げ出すように仕事を辞めたあと、
初めは一からやり直すつもりでデザイナー職の経験が積めるショップや工房を調べ、転職活動をしていた。
けれどどうしても、場所を変えた新たな挑戦に
踏み出すことは出来なかった。
また、同じような状況が来たら?
また、同じ理由で逃げてしまうのではないか?
それが怖かった。
憧れを夢にすることに向かう心が、
折れてしまったのだ。
追いかけていた夢や目的を失った私は、
ぽっかりと居場所をなくしたように感じていた。
この先、私は何をすればいいのだろう。
やりたいことも、将来の展望も見えないまま、
時間だけが過ぎていく。
その焦りと不安の中で、私はただ立ち尽くしていた。
アルバイトをしながら、
実家の家業の事務を手伝うだけの毎日。
「このままでいいのだろうか」
そんな思いが、頭から離れなかった。
けれど、その中で、
ひとつだけ気づいたことがある。
実家の事務仕事が、
思いのほか楽しいと感じていることに。
最初は、
慣れないパソコン作業に苦戦する父を手伝うことで、母の負担が少しでも減ればいい
それくらいの軽い気持ちで引き受けた仕事だった。
けれど、書類を整理し、
事務作業をサポートする時間は、
不思議と心地よかった。
あんなに苦手だった父を相手にしていたはずなのに。
今振り返ると、
あの時間は、
その後の私につながるものだった。
⸻
あの頃の私は、
夢を追いかけて失敗した自分を、
どこかで「未熟だった」と片づけようとしていた。
それでも、
何も残らなかったわけではない。
作ることから一度離れ、
支えること、整えることに、
静かに惹かれ始めていた。
そのおぼろげな感覚を手に、
私はもう一度
仕事の現実へ戻っていくことになる。
ひとつ前のお話はこちら
▶︎ 第1話|名前のつかない「好き」を集める
―― 原点のような「好き」についての話。
