command: silent 08 未読
何年も連絡を取っていなかった相手がいる。
妹、ということになる。
血の繋がり方を説明すると少し長くなるから省くけど、
同じ屋根の下にいた時期がある、というくらいの関係だった。
いた時期がある、というだけで、
一緒に育ったとは、たぶんお互い思っていない。
家がばらけて、そのまま離れた。
連絡先も知らなかった。
それが何かの拍子に繋がった。
たまたまだった。
どちらかが探したわけでもない。
LINEを交換した。
交換しただけで、何も送らなかった。
向こうからも来なかった。
しばらくして、妹の誕生日が来た。
おめでとう、とだけ送った。
スタンプをひとつ添えた。
それが、お互いの最初のメッセージだった。
二ヶ月経った。
既読はついていない。
トーク画面を開くと、
自分が送ったスタンプだけが、 ぽつんと浮かんでいる。
風船みたいだと思った。
誰もいない部屋で、天井に張りついたまま降りてこない風船。
怒ってはいない。
「なんで読まないんだよ」とも思わない。
「嫌われてるのかな」とも、あまり思わない。
ただ、少しだけほっとしてる。
……これでいい、と思った。
返事が来て、何か始まるより、
このまま未読で止まっている方が、たぶん正しい。
距離をとっていた時間の方が長いのに、
スタンプひとつで何かが動くはずがない。
動かなくていい。
あの家から持ち出せたものは、最初から少なかった。
一緒に暮らした記憶も、
共有できる思い出も、
「兄」と呼ばれた回数も、
数えるほどしかない。
だからこの未読も、きっと正しい距離なんだと思う。
ときどきトーク画面を開く。
消しはしない。
追加で何か送りもしない。
スタンプがひとつ、まだ浮かんでいる。
それだけ確認して、閉じる。
今日はそれだけの話。
