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アワビ入りカレーと、東京行き【島小②#41】/離島の小学校編Season2 41

2004年2月も終わろうとしていました。
島の6年生たちを東京へ連れて行く準備が進んでいた頃、学校では最後の野外炊さんが行われていました。
海辺に響く笑い声を聞きながら、私は少しずつ「卒業後の学校」のことも考え始めていました。


1.東京へ向かう準備

2月とは思えない暖かさでした。

最高気温は23℃を超えたらしく、南から吹く風も強く、昼の便で島へ戻る船は波に揺れていました。
しかも波の向きがいつもと違います。海を見慣れているはずなのに、「今日はなんだか変だな」と感じるほどでした。

その週末は、とにかく慌ただしく過ぎていきました。

前日の午後には研究会があり、夜は懇親会です。
そして翌日は昼の便で島へ戻らなければなりません。
せっかく本土へ帰っても、家族とゆっくり過ごせる時間はほとんどありませんでした。

さらにどうしても必要な用事もありました。
旅行代理店に行くことでした。
子どもたちを連れて東京へ行くための航空券と宿泊券を受け取る必要がありました。

当時、6年生が取り組んでいた総合的な学習の実践がコンクールで評価され、東京で行われる表彰式へ参加することになっていたのです。
島の子どもたちにとって、飛行機に乗って東京へ行くというだけでも大きな出来事でした。

そんなわずかな時間の中でも家族と少し作戦会議をしました。

土曜日の始発便の飛行機に乗るため、金曜日の3便で子どもたちを本土側へ連れてくる予定になっていました。
昨年度は、それぞれ親戚の家などへ泊まってもらったのですが、今年は保護者の方から「朝が早すぎて心配です」という声が出ていました。

結局、1人は親戚宅に泊まることになっていたものの、残る2人をどうするかが問題になりました。

最初は、自宅近くのホテルに泊まってもらう方向で考えていました。
けれど、いざ現実的に考えると、小学生だけで泊まらせるのはやはり気になります。
かといって、こちらも小さな子どもを抱えた家庭です。

どうしたものかと家族で相談した結果、
「それなら、うちに泊めればいいんじゃない?」
という話になりました。

我が子たちも、急に大騒ぎです。
まるで友達が遊びに来るような感覚だったのでしょう。

とはいえ、食事や風呂はなかなか大変です。
そこで思いついたのが、近くにできた大きな温泉施設でした。
銭湯をそのまま大きくしたような場所で、食事もできます。

そこへ連れて行けば、あとは家で寝るだけなら何とかなるかもしれません。
そんな段取りを考えながら、
「明日、子どもたちにも話してみよう」
と思っていました。

2.海辺のカレーライス

数日後、学校では「6年生を送る会」が開かれました。

そのあとの恒例行事が、全校での野外炊さんです。

学校の近くの浜辺まで移動し、飯盒でご飯を炊き、みんなでカレーライスを作ります。
ただ、過去2年は天候に恵まれませんでした。
風が強く、結局は家庭科室での調理実習になっていたのです。

ところが、その年は違いました。

朝から空は穏やかで、無事に海辺で実施できそうです。

先発隊として、ご飯係の子どもたちと校長先生、それに私で浜へ向かいました。
家庭科室で米を洗って準備した飯盒を並べ、風向きを見ながら場所を決めて火を起こします。

実は前年の夏、私は、自分の子どもと参加した地域の教育キャンプで飯盒炊さんを経験していました。
そのとき覚えた火加減や段取りが、思いのほか役に立ちました。

一方、カレー班は養護教諭の先生と一緒に、学校で野菜を切ったり準備をしたあと、少し遅れて浜へやってきました。

やがて、大鍋のカレーが煮え始める頃には、飯盒のご飯も炊き上がりました。

外で食べるカレーは、なぜあんなにおいしいのでしょう。

子どもたちは何度もおかわりをしていました。

しかも、その日のカレーには特別な具が入っていました。

緑色のものが見えます。

何だろうと思ったら、アワビです。

子どもが持ってきてくれたらしく、いつの間にか具材として鍋に入っていました。
島の海辺ならではの、なんとも贅沢なカレーライスです。

食後の自由時間になると、子どもたちは岩場へ散っていきました。
岩についた海苔をはがす子、火の残ったかまどへサツマイモを入れて焼き芋を始める子。

海辺には、6年生たちの笑い声がずっと響いていました。

午後になると、風向きが変わりました。

北西から季節風が吹き込み始め、海の空気が一気に冷えていきます。

「これが午前中だったら、今年も無理だったな」

そんなことを思いながら、片付けの終わった浜辺を見ていました。

3.来年度の学校をどうするか

野外炊さんが終わったあとの放課後は、職員会議でした。

議題のひとつは卒業式練習について。
そして、もうひとつが、あるテレビ局から持ち込まれた企画でした。

「島で子犬を育ててみませんか」

そんな話でした。

突然の提案に、職員室では賛否両論が出ました。

島の子どもたちにとって、動物と関わる経験はきっと楽しいものになるでしょう。
一方で、命を預かる以上、簡単な話ではありません。
世話をどうするのか、長期休業中はどうするのか、保護者の理解は得られるのか。次々に意見が出てきます。

結局、
「まずは子どもたちの意思を確認しよう」
ということになりました。

もし本当にやりたいという声が出れば、そのあとで保護者へ協力をお願いする。
そんな方向で話はまとまりました。

私は、どちらかといえば賛成でした。

6年生3人が卒業すると、翌年度の学校は4人になります。
しかも新入生はいません。

静かになるだろうな、と感じていました。

だからこそ、もし実現すれば、学校に新しい空気が生まれるかもしれない。そんな期待も少しありました。

もっとも、その企画は後に見送られることになります。

子どもの中に動物アレルギーがあることが分かり、最終的には断念せざるを得ませんでした。

残念ではありましたが、子どもたちの健康には代えられません。

そんなふうに、卒業へ向かう日々の中で、学校は少しずつ次の春の準備を始めていました。


ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回に続く・・・👇

前回の話👇

◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)👇👇

約25年前の2002年、船が生活のすべてを左右する離島の小学校に赴任しました。
予定通りにいかないことが当たり前の中で、学校と暮らしが地続きの毎日を過ごしていました。

そんな環境の中でも、子どもたちに自信をもたせたいと考え、総合的な学習の時間に取り組んでいました。
▶ 離島の小学校編Season1〜教室とくらしの物語 マガジン

このシリーズでは、当時の日記をもとに、島での仕事の大変さと、その中にあるささやかな温かさを綴っていきます。
2年目、Season2(2年目)3学期(2004年)のお話です。
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。

離島の小学校編Season2👇👇👇


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