青い絵と音楽が,島を動かした。【島小#18】/離島の小学校編 18
カウベルの音が消えた朝、海は少し白んでいました。
昨日まであんなににぎやかだった音楽室も、今日は空っぽ。
音楽会を終えた子どもたちは、もう船の上。
残された校舎に響くのは、波の音と、心の中の「カン、カン」だけです。
前回のお話👇
離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。 今から約20年以上前の2002年(平成14年)11月頃のお話です。
※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。
赴任したのはこんな島です。👇👇
【目次挿入】
1.島ごと音楽会へ。
朝五時起き。
「もう夜じゃないか」という空の下、子どもたちは眠そうに港に集まりました。
先生たちも似たような顔。
全員で船に乗り込み、波を切って出発です。
そういえば、以前の勤務校の市でも音楽会がありました。
会場は立派なホールで、私は行ったことがありませんでした。
合唱部が学校代表として出場していたので、その子たちが抜けた分、私は教室で残りの子たちと授業をしていたのです。
そのときは「音楽会=校外行事のひとつ」という印象でした。
でも、今回はちがいます。
島の子どもたちは、全員出演。
職員も、全員出演。
「全校児童と職員全員による演奏です」という場内アナウンスが流れ、 客席からちょっとしたどよめき。
たしかに職員全員ですが・・・五人です。
私は赤い半袖Tシャツに、黄色いバンダナをねじってはちまきに。
見た目は元気ですが、袖の中は鳥肌です。
1曲目「島唄」、2曲目「風になりたい」。
入るタイミングはばっちり、間奏もぴったり。
ただ、最後の「自由にあわせる部分」でやや迷走。
まあ、終わってしまえば「よかったね」で済むのが音楽会のありがたさです。
帰りは昼の船。
子どもたちは一旦家に帰り昼食。
朝五時起きのせいか、午後の授業は全体的にスロー運転。
黒板の字も少し眠たげでした。
2.留守番先生と、静かな給食。
今日は、朝からやけに静かです。
1・2年生は島外へ校外学習。
校長先生は今週不在、教頭先生は2便の船で出張。
保健の先生は中学校勤務。
ということで──お昼前には、教室担当が私ひとりになりました。
給食の時間、調理員さんが笑いながら言いました。
「今日は、ずいぶん静かですねえ」
配膳を手伝ってくれた子が「先生、今日は何人分ですか」と聞くので、 「八人」と答えると、「へえ、少なっ!」と素直な反応。
といっても,いつもの半分なんですけどね。

この日は、もし何かあったときに備えて、コードレス電話を教室へ持っていきました。
子どもたちが「先生、それ持って授業するん?」と面白がる。
「そうそう、電話が鳴ったら、授業も鳴りやむかもね」と冗談を言うと、 笑いがこぼれて、少し緊張がほぐれました。
でもまあ,確かにかかってきた電話で授業中断もありました。
静かな校舎に、給食のにおいと子どもの笑い声がゆるやかに流れていく。
普段よりも人数は少ないけれど、不思議と学校らしい一日でした。
3.十五分前の奇跡。
今日の休み時間に、一本の電話がかかってきました。
市の図工部会からで、「今、作品展の審査をしているのですが・・・」という声。
何だろうかと思いました。
今、市町村で児童の図画・書写などの作品展が開かれています。
先日、子どもが描き上げた絵を、教頭先生が出張の折に持っていってくださいました。
その作品が、なんと特選に選ばれたという知らせでした。
「県のほうにも出したいので、題名を教えてください」と言われ、 慌てて作品ファイルを開き、電話口で答えながら、 あの日のことを思い出していました。
その子は、描くたびに「これ変かな」と聞いてきて、 そのたびに私は「いいと思うよ」と返していました。
けれど実際には、海の色を何度も塗り重ねさせて、 青だけでなく、緑、水色、それに少しの赤や黄色も混ぜて、 「海にはいろんな色が混じってるんだよ」と伝えたのでした。
締め切り前日、完成したのは教頭先生の乗る連絡船が出る十五分前。
ギリギリまで塗り込みました。
まだ絵の具が乾ききらない画用紙を抱えて、港まで全力で走りました。
あのときの慌ただしさが、今は懐かしい思い出です。
本来なら、図工主任として審査や展示に立ち会うはずでしたが、 出張が重なり、今回は欠席せざるを得ませんでした。
だからこそ、電話越しにその知らせを聞いたとき、 その「いいと思うよ」が本当に“いい”と認められたようで、 胸の奥がじんと熱くなりました。
静かな島の学校に響いた一本の電話が、 教室に明るい風を運んできた・・・そんな午後でした。
4.金管と焼きそばの午後。
その後、島外から金管楽器のバンドがやってきて、ちょっとしたミニコンサートが開かれました。
中学生の文化祭の日です。
この演奏をお願いしたのは、もう一人の小学校の先生が本土の管弦楽サークルに所属していて、そのつながりで実現したものです。
トランペットやホルンの音が体育館いっぱいに広がり、子どもたちの目がきらりと輝きました。
島では生の演奏を聴く機会が少なく、音が届くたびに「すごい…!」と小さな声がもれていました。
いつもの体育館が、少しだけ都会になったような気がしました。

続いて、人権劇のビデオ上映。
本当は中学生がステージで演じる予定でしたが、文化祭の運営で忙しく、今年は録画での発表となりました。
スクリーン越しでも、セリフの一言ひとことに力がこもっていて、 子どもたちは食い入るように画面を見つめていました。
その他の中学生の発表や展示に,「来年は自分たちもするのか」と緊張の面持ちで見ていた6年生の姿が印象的でした。
こうして午前の部は終了です。
午後からは、一転してにぎやかな模擬店タイム。
中学生と先生方が手作りしたカレー、焼きそば、おでん、うどん……。
あらかじめ前売り券を買っていたので、小学校の給食は今日はお休みです。
子どもたちは昼休みの時間を使って、それぞれが狙いの店へ一直線。
どの店も「いらっしゃい!」の声が響き、町の人たちも加わってお祭りのような雰囲気になりました。
金管の余韻と、焼きそばの香り。 静けさとにぎやかさが交互に訪れる── これもまた、島の文化のかたちなのだと思います。
5.音と色でつづる、島の一日。
音楽会の赤いシャツ、留守番の日の静けさ、 そして、電話越しに届いた特選の知らせ。
島の学校の十一月は、どこを切り取っても小さなドラマに満ちていました。
にぎやかに過ぎた一日も、静かに働く午後も、 どちらもこの島の「学校らしさ」なのだと思います。
離島の小学校編マガジンはこちら👇👇
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。